CES 2018

【CES 2018】トヨタ 副社長 友山茂樹氏に、CES 2018で発表したMaaS専用次世代EV「eパレット コンセプト」について聞く

トヨタが仕掛ける、新しい物流プラットフォーム

トヨタはCES 2018で、MaaS専用次世代EV「eパレット コンセプト」とMSPF(モビリティサービスプラットフォーム)を発表。トヨタ自動車株式会社 豊田章男社長が登壇

 MaaS(Mobility as a Service)という言葉をご存じだろうか。昨年辺りから聞くようになった言葉で、元々の語源はSaaS(Software as a Service)から来たものになる。直訳は、どちらも“サービスとしての~”となるわけだが、SaaSはこれまでパッケージで売られていたソフトウェアがクラウド(インターネット越し)でのサービスになることを示しており、近年のIT業界では大きな波となっていたもの。

 今では多くの人が使っているGmailなどが代表的で、かつては箱で売られていたメールソフトがクラウドサービスとなり、ワープロソフト、表計算ソフトなどは元より、クラウドとなることによってデータの共有などが便利になり、多くのアプリケーションがクラウドサービスで提供されている。

 MaaSは、SaaSと同様にクラウドを使って何らかの移動体サービスを提供しようとするものなどを指していると思えばよいだろう。サービスによっては必ずしもクラウドの形態を取らないかもしれないが、Uberなどのシェアライドサービスは、スマートフォンアプリとクラウドサービスによって構成されておりMaaSの代表的なものになっている。

「CES 2018」では、そういったMaaSに関するものを多く見かけるが、その先頭を切ったのがトヨタ自動車。CES開幕前日の1月8日(現地時間)に豊田章男社長が登壇し、「移動、物流、物販など多目的に活用できるモビリティサービス(MaaS)専用次世代電気自動車(EV)、“e-Palette Concept(eパレット コンセプト)”」を発表し、eパレット コンセプトというクルマを見せることによって、MaaSを印象づけ、MaaSのコアであるMSPF(モビリティサービスプラットフォーム)の具現化への強い意思を示した。

MSPFのブロックダイヤグラム。トヨタの構想が分かる
eパレット アライアンスの初期メンバー。Amazon、DiDiなどクラウドサービスを代表する会社に並んで、マツダが入っているのがポイント。レンジエクステンダー用にロータリーエンジンを供給する

 プレスカンファレンスでは、発表後のQAセッションにトヨタ自動車 副社長 友山茂樹氏、TRI(Toyota Research Institute) CEO ギル・プラット氏らが指名され、各国のメディアはそれぞれに取材を行なう形になった。Car Watchは友山副社長の囲み取材に加わる形となり、新しいEVであるeパレット コンセプト、そしてMaaSであるモビリティサービスプラットフォームについて聞いた。

プレスカンファレンス終了後、QAセッションを担当したトヨタ自動車株式会社 副社長 友山茂樹氏(左)。同様に海外メディアのQAを担当した、TCNA(Toyota Connected North America, Inc.)のザック・ヒックス(Zack Hicks) CEO(中央)、TRI(Toyota Research Institute, Inc.)のギル・プラット(Gill A. Pratt) CEO(右)

友山氏:eパレットには複数のサイズがあり、オリンピックのパイプラインとなります。複数のサイズで、長距離のパイプライン、中距離のパイプライン、短距離のパイプラインとなり、アスリートや大会関係者を運ぶなどの用途に使われる。実際、2020年代の前半くらいで、いくつかのマーケットにおいてトライアルが始まる。そのトライアルの評価を得て商品化を考えていきたいと思っています。

──マーケットは、もう考えていますか? 中国とか?

友山氏:いわゆる今ライドシェアとか、カーシェアとか。今eコマースも含めて普及しているような国。もう一つは都市部でEV(電気自動車)が重要になっているマーケットとか。日本、欧州、北米、中国が重要なマーケットとなっています。アライアンスを見てもらえれば、マーケットが分かると思います。

──eパレットは、完全自動運転のクルマで、バッテリーEVで動くと理解してよいですか?

友山氏:クルマは、自動運転にもなりますし、マニュアル運転にもなります。それから、プレゼンテーションにあったように、トヨタの自動運転キットだけでなく、例えばUberさんとか、滴滴(ディディ)さんが自動運転のキットを載せることも可能です。そのように制御インターフェースをオープンにしています。

──プラットフォームとしてのクルマをトヨタが提供していくということですか?

友山氏:そうです。

──プレゼンテーションでは、ガーディアンとショーファーという単語が出ましたが、それぞれの実現時期はいつごろですか?

友山氏:ショーファーモード、例えばレベル4の自動運転というのは、このeパレットの話ではないのですが、2020年には我々も出していきます。このeパレットは、2020年の東京オリンピックのときにショーファーモードで動くと思います。ただ、レベル4の自動運転ですので、人が監視人として乗っている形です。その後については、地域の法規制のあり方、レギュレーションに従ってやっていかなければなりません。それについて細かくは今の段階でいうことはできません。

──(自動運転の)速度ととしては、低速でやるのですか?

友山氏:その辺りについても、2020年の時にどういうレベルであって、その後どういうレベルになるか。今の段階でいうことができません。

──市民が乗るかどうかについては?

友山氏:それも含めてアライアンスの中で、適切なあり方を考えていきたいです。やはり、完全自動運転に関しては、法整備が十分でないので、eパレットもそういう(自動運転に関する)機能を拡張していくことになると思います。

──箱としてのクルマはいろいろな会社が出してくると思うのですが、トヨタらしさはどこに?

友山氏:制御インターフェースをオープンにするということにあります。例えば、他社が作った自動運転のキットが、右に行けというと右に行くような、そういった制御インターフェースをハードウェアとソフトウェアでオープンにしていく。しかしながら、ぶつかるような状態になった場合は、トヨタがきちっと止めますよと、もしくはガーディアンモードに入るよと(豊田章男社長が)言ってましたけれども。

──他社のソフトウェアが入っているのだけど、トヨタのソフトウェアが入っていると?

友山氏:最低限のソフトウェアが入っていると。セーフティ面については、(トヨタの)ソフトウェアが介入してくると。それが1つの特徴ですし、今回eパレットアライアンスを作りましたが、実際にそれを使うユーザーと開発の商談会で一緒に規格および設計をしていくのが大きな特徴になります。

──Amazonの名前が出ていましたが、これは具体的にどのようなビジ得ネスモデルを考えているのか?

友山氏:ビデオの中にありましたが、eコマースの配送に使うというイメージです。

──ビジネスの形態としては、トヨタがクルマを所有してアライアンスの企業が使うイメージなのか? アライアンスの企業が購入されるのか?

友山氏:いい質問ですね。これはいくつかのパターンがあると思うのですが、我々がeパレットを使ってもらって利用料をいただくビジネスモデルと、eパレット自体をリースもしくは売りきりで使っていただくといういくつかのパターンがあります。利用者のニーズに応えていきたいと思っています。

──eパレットのアライアンスの紹介にマツダのロゴがあったのですが、マツダの役割は?

友山氏:非常に多く電源を使うような場合においては、レンジエクステンダーを考えていく必要があります。そうした場合に、彼ら(マツダ)の持っている小型のロータリーエンジンが、1つの大きな可能性があると考えています。マツダとの提携については、EVのプラットフォームを一緒に開発していくということです。

──滴滴(ディディ)との取り組みがありますが、この滴滴が選ばれた理由は? 中国ではeコマースが発達していますが、その辺りはどう考えていますか?

友山氏:中国でライドシェアというと滴滴さんを抜いては考えられないので。滴滴さんとはeパレット以外にも、いくつかの連携をしていくと思います。例えば、ライドシェアのドライバー向けにトヨタのクルマを貸すとか。非常に近い段階で、連携も始まります。その延長上にeパレットを置いていただければ。

──Amazonとの提携の範囲は? アメリカ、日本含めて?

友山氏:アメリカでeコマースの配送をイメージしながら、Amazonさんから適切なニーズを設計に織り込んでいきたい。

──Amazonが直送するイメージか?

友山氏:それは我々が考えることではないので。Amazonさん考えることなので。彼らのニーズに合わせた設計をしていく形になります。

──目標の台数は?

友山氏:今の段階ではとくに目標的な台数はおいていないです。

──多くの自動車メーカーがコネクティビティのことについて発言を始めているが、ほかの自動車メーカーと比べてトヨタのユニークな特徴、あるいはほかのAmazonのようなITの会社と比べて自動車メーカーとしてトヨタが出せる特徴は?

友山氏:社長のプレゼンテーションの中に、モビリティサービスプラットフォームという言葉が出てきましたけど、基本的にはクルマと通信プラットフォーム、ビッグデータをためるデータセンター、それをオープンにアクセスするための権利を与えるAPIを1つのパッケージとしてモビリティサービスプラットフォームとして提供するということは、多分まだほかのところはやってないと思います。我々はそれをMSPFと言っていますが、MSPFを構築してMSPF上でゲットアラウンドのカーシェアとか、ハワイのライドシェア実証を始めています。そのMSPFのエレメントの1つがeパレットになります。

 MSPFというとクラウドだけなのですが、そこに走るプラットフォームも作るという構想になっています。

──eパレットを、CESという場所で発表したことに理由はありますか?

友山氏:eパレットの構想は、クルマ自体というよりも、むしろプラットフォームとしてのビジネスモデルとかアライアンスに力点があります。そういう意味では、オートショーではなく、CESで発表しました。

──今回の発表で、オープンという部分を語っていましたが、今からこの構想に加わりたいという場合、それは可能か?

友山氏:開かれています。決して1業種1社という訳ではありません。実際、Uberさんと滴滴さんというのは、グローバルのレベルで見るとある意味コンペティターですけど、一緒にやっていこうということです。いろいろなところと可能性があると思います。

──車両の製造については、トヨタでやるのか?

友山氏:トヨタグループの中でやります。2020年の東京オリンピックで複数台のeパレットが走りますが、それはトヨタの内製です。

──充電は非接触充電を想定しているか?

友山氏:そういったこともいろいろニーズに応じて、考えていきたいと思っています。

──バッテリーはリチウムイオンになるか?

友山氏:そういったことも時代進化に合わせて考えていきたいと思います。EVの場合と、レンジエクステンダー型の場合で、使うバッテリーとか違ってくると思います。

──eパレットは、今回展示されたコンセプトカーのものが搭乗するのか?

友山氏:これは、Mサイズになります。このほか、7mのLサイズ、4mのSサイズと、3つのパターンを考えています。いずれにしても、パワートレーン系や前後については規格化して、長さだけが変わると。ユニット構造に設計されています。

──プレゼンの映像で、Mサイズの中から小さいのが出てきたが?

友山氏:あれは、マイクロインパレットと呼んでいます。2030年代くらいには、あのようなことも考えていきたいと思っています。

──荷物を運ぶものですか?

友山氏:そうですね。パイプラインの場合、長距離、中距離、短距離、超短距離ですか。同じ規格のものを長さを変えて使っていくという構想です。

──今、おっしゃった4種類以外にも増えていく?

友山氏:そういったことも含めて、これからアライアンスの中で、2020年代の後半や2030年代にどういった使い方をしたいかということを詰めていきたいと思います。

──アライアンスのメンバーに、このプラットフォームがわたるのはいつごろになりますか?

友山氏:2020年代の前半に、アライアンサーと一緒に実証を始めるということになります。レベル4の自動運転です。

──2020年代前半に、3種類のeパレットが出てくるということですか?

友山氏:まずはMサイズということになります。このコンセプトモデルは8輪になっていますが、必要に応じて4輪になるのか、8輪になるのかということも含めて検討します。これはあくまでコンセプトモデルで、今後変わってくる可能性は十分あります。

編集部:谷川 潔