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トヨタ、モビリティ・カンパニーの鍵を握る「モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)」

2018年の「CES」プレスカンファレンスから始まった大地殻変動

2018年の「CES」プレスカンファレンス。トヨタ自動車株式会社 豊田章男社長がサプライズで登場。「モビリティ・カンパニーへと変革することを決意しました」と語った

 2018年1月3日(現地時間)、約1年ちょっと前となるがトヨタ自動車の豊田章男社長が「CES 2018」でプレスカンファレンスを実施。「モビリティ・カンパニーへと変革することを決意しました」と高らかに語った。

 豊田章男社長がCESのトヨタのプレスカンファレンスに登場したのは、この2018年が初めて。しかも、事前に予告などなくサプライズの登壇だった。記者は最前列に座っており、その近くにはトヨタ自動車 副社長でありコネクティッドカンパニー Presidentも兼任する友山茂樹氏がToyota Research Institute CEOのギル・プラット(Gill A. Pratt)氏とともに着席していたことからプラット氏と友山氏の2人がプレゼンを担当すると読んでいただけに、完全に虚を突かれた豊田章男社長の登場だった。

トヨタ「CES 2018」プレスカンファレンス
プレスカンファレンス開始前の最前列に着席していたトヨタ自動車株式会社 副社長 友山茂樹氏(左)、TCNA(Toyota Connected North America, Inc.) ザック・ヒックス(Zack Hicks) CEO(中央)、TRI(Toyota Research Institute, Inc.)のギル・プラット(Gill A. Pratt) CEO(右)

 そして、今でもいろいろニュースの際に取り上げられるモビリティ・カンパニーへの変革宣言。最先端のテクノロジが多数発表されるCESらしい発表だけに、会場では大きな拍手をもって迎えられた。

 それだけに記者は、この発言はCES向けのリップサービスが多分に含まれていると思っていた。トヨタほどの大企業(2018年3月期の売上高29兆3795億円、営業利益2兆3998億円、純利益2兆4939億円)が、現在築いているビジネスモデルをそう簡単に転換できるとは思えなかったからだ。しかしながら、その後のトヨタの転換スピードの速さはご存じのとおり。月額定額サービス「KINTO」の発表、カーシェアサービス「TOYOTA SHARE」の先行実験開始(東京都中野区)などさまざまなモビリティサービスを立ち上げ、車種統合によるディーラー改革を開始している。

 そのトヨタがモビリティサービスカンパニーになるにあたって築き上げているのが2016年10月31日に発表した「MSPF(モビリティサービス・プラットフォーム)」になる。当初このMSPFはトヨタのシェアリングサービス向けのデータ基盤と思われていたが、その後、トヨタが発表する新世代サービスはすべてこのMSPFが基礎となっている。例えば先日のTRI-ADの自動運転関連技術発表時もMSPFを基盤としたデータリンクが行なわれると説明され、2018年10月のソフトバンクとの新会社「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)株式会社」設立発表時には、ソフトバンクの「IoTプラットフォーム」を連携させると宣言。ソフトバンクはIoTプロセッサの世界標準となっているArmの親会社でもあり、どのレベルまで提携が深まっていくのかは興味深いところだ。

TRI-AD説明会(2019年1月)のときのMSPF図。このプラットフォームをトヨタはしっかり作り上げようとしている

 いずれにしろ、トヨタは自動車やMaaSなどによる人やものの移動をMSPFに集約させていこうとしている。MaaSというと、どうしても形がある「eパレット」のような移動シャトルに注目が集まりがちだが、トヨタは本当に大切なものはデータであり、そこから生み出すサービスであるとハッキリ認識しているわけだ。

 トヨタのMaaSである「Autono-MaaS」事業の開始は2020年代半ばまでとしており、これからMSPFを核としたさまざまなサービスが具体化していくだろう。トヨタは遠くを見据えて会社を変革しており、その本格的なスタートが2018年の1月だったことになる。2018年1月のCESプレスカンファレンス後に行なわれた、友山副社長の共同インタビューを全掲載しておく。1年たって変化した部分もあるだろうが、発表直後のものだけにトヨタの思いが強く入っている。

自動運転を行なう「eパレット」という箱に注目が集まりがちだが、大切なのはそれらが生み出すデータとサービス。eパレット アライアンスはMSPFを利用し、新たなモビリティ社会を生み出していく

2018年1月のトヨタプレスカンファレンス後、共同インタビューに応じるトヨタ自動車株式会社 副社長 友山茂樹氏。共同インタビューの質疑応答全文を掲載する

──(eパレット コンセプトを発表しましたが)今後は世界的に商用車が増えると見ているのですか?

友山氏:ライドシェアとか、カーシェアの領域ではコマーシャルビークル(商用車)が増えていくといった感触はありますが、それが何パーセントであるかといった具体的な数字については、とくに今はありません。

──国別ではいかがですか?

友山氏:とくに先進国では、オートノマスと(商用車が)くっついたようなプラットフォームが進んでいく。実際にもう進んでいますので。先進国のほうがそのような傾向は強いと思います。

──今回のアライアンスの意図について教えてください。

友山氏:われわれ自身の設計では、彼らのニーズを取り込むのに限界があります。開発の初段階から彼らがどういう使い方を将来したいのかということを一緒に考えることによって、eパレットのあり方とか。規格化されるクルマなので、ニーズを取り込むことができます。その課程で2020年代の前半に、それぞれのアライアンスパートナーと実証のサービスをすることができる、というところが非常に大きなメリットだと考えています。彼ら(アライアンスパートナー)にとってもメリットだと思っています。

──これから実証が始まるということですが、どこまで使われていくと考えていますか?

友山氏:まずは2020年の東京オリンピックでプロトタイプが出てきます。2020年代の前半でいろいろな実証テストがされていく中で、彼ら(アライアンスパートナー)のビジネスモデルとして、コストはどれくらいに押さえるべきかとか、オペレーションコストはどのくらいでなければいけないかとか。そういったことがかなり明確になってくると思います。その中で、生産規模とか普及のボリュームなどを検証していきたいと思っています。

 今、何台必要であるとかを答えるのは非常に難しいと思います。

──eパレットを使うとき、消費者のデータはどこまでトヨタと共有されるのですか?

友山氏:そういったことを含めてeパレットアライアンスの中で検討します。もちろん車両のデータに関しては、モビリティサービスプラット-フォームの中で、利用の範囲において、彼ら(アライアンスパートナー)はすべて収集できることになります。また、いくつかのインターフェースに関してもモビリティサービスプラット-フォームを介して、車両のインターフェースを操作できることが可能になります。

 われわれが彼ら(アライアンスパートナー)の消費データが欲しいかどうかというのは、開発の段階とか、改善の段階において、もし必要であればeパレットアライアンスの中で取り決めをしていくことになります。今の契約の中では、データは(アライアンスパートナーは)使っていいよと。われわれが(消費者の)データを使うことは今の段階ではありません。

──今回の構想について詳しく教えてください。

友山氏:クルマというのが作って売るビジネスから、使ってもらうビジネスへと変わっていく。クルマは当然メンテナンスをしなければ行けないし、クルマにはリースとか保険とか金融ビジネスもくっついてきています。そういったものが、クルマとの接点とか顧客との接点をトヨタが失うことによって、バリューチェーン自体がわれわれのビジネスの中から欠落していく可能性は十分あると思っています。

 eパレットもそうですが、モビリティサービスプラットフォームというのがクルマとの接点を確実に。言い方は気をつける必要があると思うのですが、トヨタが保証する形になります。そこにおいて、クルマのセキュリティも守るし、お客さまの個人情報も守っていく。かつ同時にクルマというのはだんだんソフトウェアのカタマリになっていますので、クルマの機能を維持するためにはソフトウェアを更新していく必要があります。Windowsみたいに。それも非常にセキュアな段階で更新をしていくというこが可能になることによって、クルマとの接点、顧客との接点を確保して、バリューチェーンもある程度確保していきたい。ということが構想の中にあります。

──今回の取り組みによって、顧客との接点をトヨタが奪われることになりませんか?

友山氏:彼ら(アライアンスパートナー)が奪うつもりがあるかどうか分かりませんが。昔、30年くらい前のクルマを自分で所有しなければならない時代はよいと思うのですが、クルマを単純に利用するということになった場合、利用する1つのサービスの窓口として、彼らのもっているポータルサイトであるとか、SNSであるとかがなる可能性は十分になると思っています。

──こうしたサービス部門の売上げはどうしていきたいと思っていますか?

友山氏:それは料金ということですか? 社長のプレゼンテーションの中で「データはゴールド」という言い方をしていましたが、いろいろな価値を含んで次のビジネスにおける重要なポイントだと思っています。それが、いくらになるかということは、(この場では)勘弁していただきたいと思っています。

──(トヨタ全体の売上げの中で)2020年までに3割までいくとかいう試算も出ているようですが、そのようなことはありますか?

友山氏:それはどこのメーカーですか?

──調査会社とか……

友山氏:クルマのサービスにおいて、非常に重要な領域だと思っています。ソフトウェアというかクラウドサービスを提供していくのは重要な領域だと思っています。ただ、ではそれがいくらになるかとか、どのくらいの割合になるかというのは考え方によっても相当違います。たとえばeパレットは、モビリティサービスプラットフォームというクラウドサービスも提供しますが、走る価値も提供しています。これがクルマのリースなのか、ソフトウェアなのか、サービスなのかという考え方は非常に難しいと思います。それがいくらになるかは、今の段階では申し上げられません。

──将来的に(クルマは)保有からシェアになるという話もあったかと思いますが、乗用車は個人の保有を追求して、こうした産業向けのものはコモディティ的なところを追求しながらサービスで補っていくという、両輪の構成ですか?

友山氏:おっしゃるとおりです。社会のシステムというかエレメント、共有物としてのクルマのあり方、それから個人の所有のクルマのあり方、2つのあり方があります。その両方において適切な商品を、もしくはサービスを提供していきたいということであります。

──このクルマ(eパレット)が事故を起こした場合に、トヨタとアライアンスパートナー、どちらの責任になりますか?

友山氏:非常に難しい質問なのですが、自動運転で事故を起こした場合は、ユーザーの責任なのか、メーカーの責任なのかというのは、法整備を含めて検討されている段階です。そういった動向を注視していきたいと思っていますし、今回自動運転のキットが他社の自動運転が乗っていて、われわれが走るプラットフォームを提供していた場合、その自動運転がおかした事故の場合はどうなるのだ? ということを含めてeパレットアライアンスの中で、きちっと議論していきたいです。

──それは、パートナーが自分の(自動運転)ソフトウェアを使いたい場合は、使えるようになっているということですか?

友山氏:なっています。それが大きな特徴です。

──プラットフォームについて語られていますが、Googleなどはソフトウェアのプラットフォームを語っています。御社が語るプラットフォームとは?

友山氏:走るプラットフォームになります。自動運転に関するソフトウェアはトヨタが作る場合と、他社、ライドシェアカンパニーが作ったソフトウェアを載せる場合と2通りあります。オープンな環境です。われわれとしてはそこにインターフェースを設けて、規格化、標準化していろいろな事業者がソフトウェアを載せられるようにしていくことです。そのときに、搭載する自動運転のキットがおかしくて事故を起こしそうになった場合でも、クルマは止めますよと。と同時に、何がおかしかったかということは解析もしますので、ある程度責任の分担がハッキリしてくると思います。ただそれが、法規制上どうなのかというのはというのは別問題ですので、地域によっても異なりますので。それは今後動向を注視していかなければならないと考えています。

──かつてPCの世界では、IBMがMicrosoftにOSを発注して、MicrosoftのOSが主流となり、その結果ハードウェアを製造していたIBMはPC市場から撤退しました。トヨタがIBMのようになる可能性も考えられるのでは?

友山氏:自動運転のソフトウェアというのは、だんだんサービスになっています。事業者のニーズによって自動運転ソフトウェアのあり方は変わっていきます。たとえばポイントtoポイントを走るだけのものから、細かな道路を走るものから、センサーのあり方から変わってきます。AGVのように誘導線を走るものまでいろいろなタイプのものがあります。

 それらをすべて自動車メーカーがフォローしていくのは非常に難しい。ただ、クルマは非常に複雑なコンポートネントですので、誰もが作れるものではありません。そこにきちっとしたインターフェースを設けて、彼らが彼らのニーズに応じた自動運転を行ないたい場合は、彼らに自動運転のソフトウェアを任せるという考え方です。

 ただ、われわれもそれ(eパレット、モビリティサービスプラットフォーム)を使って自動運転を行なう場合、もちろんわれわれの自動運転のキットが載るということです。それが例えば、IBMとMicrosoftのような形になるかというと、クルマはそんな単純なものではありません。スマートフォンではありません。“走る”プラットフォームだけでも相当の技術がいります。しかも、それを量産してあるクオリティを出そうと、かつ品質において責任を持つということにおいては、なかなかITベンチャーができる範囲が限られています。そこをわれわれがオープンに提供することによって、社会に貢献できるのではないかということが、今回の、eパレットを含んだモビリティサービスプラットフォームの考え方であります。

──オープンという話がありましたが、例えば鉄道事業者や、ほかの自動車メーカーなどがモビリティサービスプラットフォームを使うことは可能ですか?

友山氏:十分あります。他の自動車メーカーを含めてあります。鉄道で使えるかどうかはいろいろ検証しなければなりませんが、いろいろなモビリティ。プレゼンテーションの中で「トヨタはカーカンパニーではなく、モビリティカンパニーになる」と言ってますので、陸上を走るものについてはすべて対象にしていると言えると思います。

──2020年からeパレットは走るとしていますが、2020年はNTTドコモが5Gを始めると言っています。5G対応で走らせるということですか?

友山氏:どういう通信手段を使うかというのはありますが、2020年レベルのものを出そうとすると、すでに設計を確定していかなければなりません。5G自体の規格が実証レベルを含めてあまり確定していないので、なかなか採用するのは難しいと思います。今後の動向によって採用できるのであれば採用しますし、そこについては何とも申し上げられないです。4Gにするか、5Gにするかということは、選択の中だと考えていただければと思います。

──オリンピックで走らせるということですが、何をアピールするのですか?

友山氏:オリンピックについてはいろいろな関係があるので細かいことは申し上げられないのですが、今回紹介したMサイズのeパレットは、乗車人数として立ち乗りで20人くらいが乗れるものを限定されたエリアで複数台走らせる計画でいます。レベル4自動運転で走らせます。

──AIを使った自動運転というと、NVIDIAとか、御社も提携していますが。自動運転のハードウェアとか、範囲を教えてください。

友山氏:自動運転といいますと、ソフトウェアとハードウェアの部分があります。ハードウェアについては、高速で処理するGPUなりが必要になってくると。かつ、消費電力があまり大きいと、コンピュータを養っているのか、クルマを走らせているのかよく分からなくなってくるところがあります。半導体は非常に重要な技術ですね。今、NVIDIAとの提携をわれわれは発表していますが、それは将来どういう形があるかは、まさしく企業戦略そのものですので、ここでそれを公開するわけにはなかなかいかないです。

 いろいろな意味であらゆる選択肢を検討する必要があると思います。

──アライアンスにマツダの名前がありますが、マツダの役割は?

友山氏:EVのeパレットはパイプラインでいうと、長距離、中距離、近距離の中で近距離をイメージしています、今は。それが例えば、もう少し中距離までカバーするとか、中の事業者が非常に消費電力が大きい場合は、おそらくEVでは限界がでてくるのでレンジエクステンダー型のプラットフォームを設計しなければいけない。その場合に、彼ら(マツダ)が持っている小型のロータリーエンジンというのは、非常に可能性があるということです。その辺も含めたレンジエクステンダー型のプラットフォームの開発という形でマツダさんが入っています。

CES 2018で発表されたのは3サイズ予定されている中で、中くらいのeパレット。マツダの小型ロータリーエンジン搭載にも期待したい