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DeNA、AI搭載のドラレコで交通事故を削減する新サービス「ドライブ チャート」。発表会ではデモも実施

実証実験では最大48%の事故削減効果も

2019年6月4日 サービス開始

「DRIVE CHART(ドライブ チャート)」発表会では、株式会社ディー・エヌ・エー 常務執行役員 オートモーティブ事業本部長 中島宏氏(左中央)に加え、京王自動車株式会社 常務取締役 運輸事業本部長 石井正己氏(左)、一般社団法人神奈川県タクシー協会 会長 伊藤宏氏(右中央)、横浜市 経済局 成長戦略推進部長 立石建氏(右)といった、サービス開発の実証実験に協力した企業などの担当者も参加した

 DeNA(ディー・エヌ・エー)は6月4日、AI(人工知能)とIoT(Internet of Things)を活用する商用車向けの交通事故削減支援サービス「DRIVE CHART(ドライブ チャート)」の提供を開始。同日に都内で記者発表会を開催した。

 ドライブ チャートでは、JVCケンウッドと共同開発したドライブレコーダーをベースとする専用車載器の2つのカメラを使い、車両前方と車内のドライバーをカメラで同時に撮影。この映像をAIによって画像認識し、車載器が持つ加速度センサーやGPSなどの情報と組み合わせることで、運転中に潜在化している危険性をAIが検知して可視化するサービスとなる。

DeNA「DRIVE CHART」紹介ムービー(1分30秒)

トラックで48%の事故削減効果

株式会社ディー・エヌ・エー 常務執行役員 オートモーティブ事業本部長 中島宏氏

 発表会では最初に、ディー・エヌ・エー 常務執行役員 オートモーティブ事業本部長の中島宏氏が登壇し、サービス概要などを紹介した。

 中島本部長は交通社会の持つ「交通事故」「渋滞」「高齢化」「運転時間」といった4つの課題の解消に、DeNAでは自分たちが持つAIやIoTといった得意技術で取り組んでおり、新たにスタートさせたドライブ チャートは交通事故の低減に資すると紹介。

 日本国内で1年間に発生する交通事故は47万件(2017年)で、このうち商用車による事故は3万3000件であるという。先進的な安全技術が普及してクルマの安全が高まったことから重症死亡事故は減少傾向を続けているが、一方で事故率自体は横ばい状態となっており、事故が起きて大けがを追ったり命を落としたりする人は減っていても、「事故ゼロ社会」の実現に向けて取り組むべき課題がまだたくさんあると解説した。

交通社会の4つの課題
クルマの進化で重症死亡事故は減少傾向
走行距離あたりの事故発生率は横ばい状態
高齢者による事故は増加傾向にある

 交通事故は「クルマ」「人」「交通環境」の3要素から発生していると中島本部長は解説。クルマの部分では経年劣化や故障、性能の低さが原因となり、人の部分ではスピードの出し過ぎや過信、脇見、居眠りなどが原因になっている。交通環境の部分では、降雨などの天候悪化や道路の陥没、標識類の見えにくさなどを原因とした。

 この3要素でも、実際に起きた事故の原因では9割以上が人為的なミスに起因しており、この問題解決の方法として、「クルマの安全レベルを高める」「ドライバーの安全運転レベルを高める」「道路環境を改善する」という3点を示し、DeNAとしてはAIやIoTの活用で「人」「交通環境」の改善に注力しているという。

交通事故が発生する「クルマ」「人」「交通環境」の3要素のうち、クルマの進化で事故の発生が大きく低減。DeNAでは残る人と交通環境の面に注力して取り組んでいく

 人の改善に向けたサービスとして開発したドライブ チャートでは、人の行動を変えることで交通事故を減らしていくため、サービス名の「CHART」には「チェンジ ヒューマン アクション(トゥ)リデュース トラフィックアクシデント」の頭文字を組み合わせて使用。また、CHARTという英語が「海図」という意味を持つこともネーミングの理由の1つであり、サービスが安全の道しるべになり、交通事故削減に取り組んでいくという意気込みが込められていると中島本部長は語った。

 交通事故の発生データでは、「追突」「出会い頭」「右左折」で全体の7割以上になるが、商用車では業種によって大きく比率が変化することを取り上げ、タクシーでは「後退時」「出会い頭」が、トラックでは「追突」が比率として増えるという。このため、サービス提供先の業態もしっかりと勘案して事故対策を進めることが重要であると分析した。

 実際の対策では、発生した事故や“ヒヤリハット”といった「顕在化した危険事象」だけに注目しても有効な対策を打ち出すことができないと中島本部長は述べ、「一時不停止」「車間距離不足」「脇見」「居眠り」といった事故を誘発する「潜在的な要因」をリスク要因としてどれだけ検出していけるかがポイントになると解説。

 このために、ドライブ チャートではAIによって運転中の潜在的なリスク要因を徹底的に抽出。ドライバーごとの習慣的な危険運転シーンをピックアップし、映像を使ったコーチングなどをつうじて事故削減を目指す新しいサービスとして、これまで約2年間にわたって開発してきたという。

 開発ではトラックで物流を行なう日立物流、タクシー業務を運営する京王自動車などが協力して実証実験を実施。実際に営業するトラック500台、タクシー100台が参加した実証実験において、トラックで48%、タクシーで25%の事故削減効果が記録されており、これは衝突回避自動ブレーキに匹敵する非常に高い効果であると中島本部長はアピールした

ドライブ チャートのCHARTは「チェンジ ヒューマン アクション(トゥ)リデュース トラフィックアクシデント」の頭文字を組み合わせたもの
商用車では事故内容も異なり、対策も合わせて考えることが重要と中島本部長は分析
「顕在化した危険事象」だけではなく、「潜在的な要因」をリスク要因として検出していくことが事故削減のポイントになる
AIが検出したリスク要因となる映像を使い、ドライバーにコーチングして安全性を高めていくサイクルで事故を削減
実証実験ではタクシーで25%、トラックで48%の事故削減効果を記録
事故の削減で経済的にも高い効果を得られるとしている

 ドライブ チャートで高い効果が得られる理由として、中島本部長は一般的なドライブレコーダーと比較して、ドライブ チャートでは急操作に加えて「車間距離不足」「低速速度超過」「一時不停止」「脇見」などの潜在的なリスク要因まで多彩に検出可能であり、DeNAが得意とするAI技術を搭載していることが高いリスク要因の検出につながっているという。

 ドライブ チャートで使っている専用車載器はJVCケンウッドと共同開発したもので、AIによる膨大な画像処理を行なうために高性能チップを搭載。一般的なドラレコでも採用している加速度センサーやGPSで得られる車両の挙動データに加え、「外向きカメラ」「内向きカメラ」で撮影した映像を「コンピュータビジョン」で瞬時に画像解析。外向きカメラの映像では車間距離や相対速度をリアルタイムに判別し、内向きカメラではドライバーの顔の向きや視線、まぶたの動きなどを解析するという。

 このほか、専用車載器はSIMスロットを備えており、記録した情報を4G LTE通信でクラウドに送信している。

AIを活用したコンピュータビジョンで多彩なリスク要因を検出できるのがドライブ チャートの特長
DeNA「ドライブ チャート」の「コンピュータビジョン」(8秒)
DeNA「ドライブ チャート」の外向きカメラ映像(10秒)
DeNA「ドライブ チャート」の内向きカメラ映像(10秒)
株式会社ディー・エヌ・エー オートモーティブ事業本部 スマートドライビング部 部長 川上裕幸氏

 プレゼンテーションではディー・エヌ・エー オートモーティブ事業本部 スマートドライビング部 部長の川上裕幸氏が解説を担当。実際にドライブ チャートの専用車載器を装着したデモカーで内向きカメラによるドライバーの顔の向きなどをAIが検出するデモも実施された。

デモカーに設置された専用車載器・内向きカメラの動作デモが披露された
インパネ上に固定されているのが内向きカメラ。フロントウィンドウの助手席上側に固定されているのが外向きカメラとなる
ドライバーがスマートフォンなどに視線を落とすと“特徴的な変化”が検出されるという
カメラ映像の中から、AIが「目」「鼻」「あご」を目印のランドマークとして検出。10万枚を超える画像をディープラーニングで学習させ、眼鏡やマスクなどを着用してもAIが人の顔を認識できるようにしているという
デモカーには日産自動車「NV350 キャラバン」が使用された
デモカーの車内
メーターフードの左側に内向きカメラを設置
カメラの外周部分に夜間撮影用の赤外線LEDを設定。このカメラもJVCケンウッド製
外向きカメラもJVCケンウッド製
白いケーブルはデモ映像の出力用で、通常は接続されないもの。内向きカメラとのデータ連動や電源供給は本体上部に接続されたケーブルで行なう。白いケーブルがつながっている部分にSIMスロットを用意

 中島本部長はドライブ チャートが持つもう1つの特長として、専用車載器が手に入れたデータがクラウドに送られ、クラウド側で位置情報なども合わせてAIがさらに解析を実施して、ユーザー個々の運転習慣をレポートとしてまとめる機能を備えていることを紹介した。

 従来的なドラレコでは装着直後にドライバーの緊張度が高まり、一時的に事故率が低下するものの、根本的な改善にはつながらず、事故率がリバウンドする傾向が見られているが、ドライブ チャートでは大小さまざまなリスク要因をAIが適宜抽出することから運転傾向について適切なコーチングが可能になるという。

 さらに将来的には、ドライブ チャートをレンタカーやシェアカー、個人所有の乗用車などまでサービス提供を拡大して交通事故の削減効果をより広く提供するほか、外向きカメラで撮影した映像をAIで処理できる能力を活用。補修が必要な道路などの情報、事故や渋滞のリアルタイム映像などを外部提供することも視野に入れ、自動運転に不可欠な高精度地図の作成に利用できるようにしたいと述べた。

 最後に中島本部長は、DeNAではモビリティが生み出すビッグデータとAI技術を活用し、人と街の安全・安心作りに取り組んでいくと述べ、プレゼンテーションを締めくくった。

AIが自動抽出した潜在リスクなどの情報はクラウドで管理され、PCやスマホでユーザーが閲覧できる
実際の映像を使ったコーチングで、高い教育効果を発揮するという
将来的には交通事故削減だけでなく、道路補修や交通情報などにデータ提供を行なう計画
ドライブ チャート専用車載器の製品展示。1台分セットの導入初期費用は5万円ほどとのこと
JVCケンウッド製の外向きカメラ。型番は「GC-DRT1」となっている
内向きカメラの電源供給は外向きカメラから行なわれる
潜在リスクなどの情報は動画などと合わせてPCやスマホで確認できる