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日産、2027年度に自動運転の「乗り合いシャトル」として事業化する自動運転モビリティサービス説明会 自動運転開発車両の「リーフ」公開
2024年2月29日 06:00
- 2024年2月28日 開催
日産自動車は2月28日、2027年度をめどに自動運転モビリティサービスを日本国内で事業化するためのロードマップを発表。この実現に向けた取り組みについて紹介する記者説明会を開催した。
神奈川県横浜市にある日産グローバル本社で行なわれた説明会では、日産自動車 常務執行役員 総合研究所 所長 土井三浩氏が登壇。日産がこれまで行なってきた取り組みや、自動運転モビリティサービスを事業化するために必要となる要素などについて解説した。
最終形はレベル4自動運転のオンデマンド「乗り合いシャトル」を目指す
日本国内では2022年1月~2023年8月の期間に延べ8667kmのバス路線が廃止になり、平均年齢が58.3歳(2023年9月時点)と高齢化しているタクシー運転手も、2019年3月と2023年3月の比較で人数が20%減少。この問題はこれからますます深刻化していくと考えられている。
この問題の対策として、日産では車両を生産するだけにとどまらず、サービスまで含めた全体設計を行なって次世代のモビリティサービスを創出するため、都市型MaaSである「Easy Ride」を神奈川県横浜市で、地方型MaaSである「なみえスマートモビリティ」を福島県浪江町で展開し、実証実験を積み重ねてきた。
「Easy Ride」ではスマートフォンのアプリを活用したオンデマンド配車サービスに加え、横浜市や規制当局との連携により、一般車両も混走する都市環境における自動運転の実証実験を段階的に実施。「なみえスマートモビリティ」は東日本大震災後の原発事故による避難指示で大幅に縮小した地域交通の代替策となっており、高齢者でも使いやすく親しみやすいUI設計などを検証している。
同日発表された自動運転モビリティサービスの事業化に向けたロードマップでは、直近の2024年度については、ミニバン「セレナ」のe-POWER車をベースとした自動運転の実証車両を開発・生産して準備を整えつつ、できあがった実証車両に日産のスタッフが乗り込んで事前調査を実施。2025年~2026年の「フェーズ1」では、セレナの実証車両を横浜みなとみらい地区、桜木町、関内といった横浜エリアを自動運転で走らせる、20台規模の実証実験を行なう。この段階までは、自動運転中でも運転席にセーフティドライバーを同乗させる「自動運転 レベル2」相当での運用となる。
有償サービスの段階に進めて事業化がスタートする2027年度~2028年度の「フェーズ2」には、横浜に加えて地方都市を含めた3~4市町村にサービスを拡大。自動運転のレベルについては車両の技術進化、安全基準の状況に合わせて段階的に引き上げていきたいとしている。「フェーズ2」でサービスを運用する地域を拡大することで日本における自動運転の受容性を高めていき、2029年からの「フェーズ3」で自動運転モビリティサービスを定着させて、サービスの運用をつうじて「まちの価値向上」につなげたいと土井氏は語った。
また、このロードマップ発表に合わせ、経済産業省、国土交通省が主導するレベル4自動運転の社会実装に向けたコミッティ「レベル4モビリティ・アクセラレーション・コミッティ」とも連携。コミッティで「サービス提供に関する地域自治体、ステークホルダーとの調整」「サービスのためのインフラ整備」「自動運転車両・システムの試験・認可方法」「事業モデルに関する許認可等の調整」などについて、3月以降に議論を開始する予定であることも紹介された。
2024年度からスタートする実証実験を経て目指す最終形としては、走行条件では一般道で一般車と制限速度なども同じ条件で混走。初期は歩車分離でセンターラインがあり、信号機のある交差点を通過するルートを昼間に走るといった状況に限定して、そこから技術的な進歩を確認しつつ、走行する地域や時間帯を拡大していく。システム面ではセーフティドライバーを不要とした無人のレベル4自動運転で、遠隔管制と運行管理によるサポートを実施する。サービスケースは乗降場所を固定しつつ、通行するルートをフリーとしたオンデマンドの「乗り合いシャトル」を想定して開発を進めていくという。
利用料金についてはステークホルダーとの調整も必要な部分で現状未定ながら、「バス以上タクシー未満」というイメージで進めており、将来的にはサブスクリプションをサービスモデルに組み込むことも考えているとのことだ。
始めたら絶対に止めない持続可能なサービスを目指す
具体的な技術の説明では、まず土井氏は「自動運転で一番大切なことは、どのようにして安全を確保するかということ」と述べ、安全を確保しながら自動運転を行なうために、ODD(Operational Design Domain)と呼ばれる運行設計領域を設け、その一帯でどのようなユースケースが存在するかについて検討。これらを車両の自動運転で処理するところ、センターの遠隔監視に委ねるところをタスクとして切り分け、割り当てていくことが大切な部分になると説明した。
自車の動作、周辺状況への対応などを行なうユースケースについては、メーカーによってはすべてAIに「どう動くことが最適解になるのか」を解かせるところもあるが、日産ではこの部分にAIは使っていないとのこと。その理由は「AI任せにすると『なぜその答えになったのか』が特定不能になって説明できなくなってしまうから」ということで、日産の自動運転ではユースケースをしっかりと設計して、万が一の事故発生時にも理由をしっかりと解き明かせるようにしている。
また、運転中は状況ごとにさまざまな事象が発生するため、細かく見ていけばユースケースは無数に存在するように感じられてしまうが、自車の対応を軸足として絞り込んでいくことが可能で、横浜で実証実験を行なう場合のユースケースは約2000になっているという。このユースケースは別の地域で運用する場合にも応用可能で、地域ごとの事情があれば追加して対応できることもユースケースを利用するメリットになっている。
自車の挙動を決めるために重要なもう1つの要素が外界のリアルタイム情報を検出するセンサー類。日産の自動運転開発車両では、ルーフ上に設置されたセンサーセットを中心にLiDAR6個、レーダー10個、カメラ14個を設置。3種類あるセンサーのうち色を判別できるのはカメラだけで、遠距離の物体検出はLiDARの得意分野となっており、センサーを組み合わせて利用することで広範囲を高精細に認識できるようにしている。また、いずれかのセンサーに不具合が出たり、天候などの悪化で本来の性能が発揮しにくくなったりした場合に別のセンサーが情報検出を肩代わりして冗長性を発揮するため、多数のセンサーを設置している。
こうした技術を組み合わせて実現するレベル4自動運転は、センサー類のハードウェアが得た情報を使い、ソフトウェアが自車が事前に用意されたODD内にいるのかODDを外れた場所にいるのか判断。必要に応じた操作をソフトウェアの要求どおりに再現するハードウェアが完全に連携することで実現可能になる。このためにはハードウェア、ソフトウェア共に正常に機能しているかチェックする自己診断も重要で、トラブル発生時に必要な対処を行なえることも求められるという。
このほか日産の自動運転では、走行中に一般的なシーンから逸脱したシチュエーションに遭遇した場合、車両のソフトウェアは自分で判断せず、遠隔監視するセンターに支援をリクエスト。センターで車両データや周囲の映像などを確認して遠隔コマンドを送って対応するようにしている。
例としては道路工事によって車線が規制され、反対車線を走るシーン、道路脇にある店舗の駐車場に入る車両で渋滞ができているシーンが挙げられ、道路工事についてはユースケースにも動き方の指定が行なわれているものの、反対車線に入る前に支援リクエストを送って判断を仰ぐ。左側車線の渋滞では、それが左折するために止まっているのか、駐車場の順番待ちで停車しているのか車載ソフトウェアは判断できないため、遠隔監視からのコマンドによって車列の右側から追い越しを行なうといった対応になる。
トラブル対応としては、天候などの影響による性能低下と装置の故障の2つに分けて安全性を確保する設計を実施。濃霧などが発生して自動運転が継続できなくなった場合にはその場で急停止したりせず、車速を落としながら安全そうな場所を選んで自動停車。装置の故障時には別の故障が立て続けに発生する二重故障が起きる危険性も考慮して、残っている装置でいかに安全に停車させるか判断できるよう設計しているという。
最後に土井氏は「少し大げさな表現になりますが、かつて新幹線が日本の移動を作ったように、将来の日本の移動を支える技術は日本の技術でなければならないと思っています。交通という分野はある日突然止めることはできません。始めたら絶対に止めない持続可能なサービスを目指します。また、これは日産の技術だけではできません。いろいろなステークホルダーの皆さん、サプライヤーの皆さんと協力しながら進めていきたい」。
「日産はモビリティサービスのプロでもなんでもなく、むしろ経験がないといったほうがよいところです。そのあたりでも、これからいろいろとパートナーを探しながら、地域ごとに必要となる事業者さん、パートナーは変わると思いますので、いろいろな人と手を組みながら将来に向けてこういったサービスを作っていきたい。今日はその第一歩としてお話をさせていただきました」と語って説明会を締めくくった。