日産と横浜市、協働で超小型モビリティ活用の実証実験をスタート
横浜エリアを舞台に日産の超小型電動車両の走りをチェック!

ニュー・モビリティ・コンセプトと並ぶ、日産自動車 ゼロエミッション事業本部の牧野英治部長(左)と、横浜市温暖化対策統括本部の中島徹也副本部長(右)

2012年11月15日開催



 日産自動車と横浜市は、2009年から協働で取り組んでいる「ヨコハマ モビリティ プロジェクトゼロ(YMPZ)」の一環として、11月19日から2013年1月31日まで超小型モビリティを活用する実証実験「EV FOR EVERYONE 横浜」を実施すると発表した。

 この開始に先立ち、11月15日に日産自動車グローバル本社でEV FOR EVERYONE 横浜のオープニングセレモニーと、実証実験で利用される日産の超小型モビリティ「ニュー・モビリティ・コンセプト」の報道機関向け試乗会が開催された。

 11月19日からスタートするEV FOR EVERYONE 横浜では、事前登録した人に日産の超小型モビリティ、ニュー・モビリティ・コンセプトを1日最大で3時間半まで無料貸し出しする。運営パートナーである日産カーレンタルソリューションが用意する専用サイト(https://nissan-rentacar.com/yokohama/)で会員登録と事前予約することで利用できる。

EV FOR EVERYONE 横浜の詳細を解説する日産自動車ゼロエミッション事業本部の柳下謙一氏専用サイトでは、利用登録のほか、参加条件や注意事項、貸し出しスケジュールの確認なども行える
ニュー・モビリティ・コンセプトの貸し出しは、日産グローバル本社ギャラリー、横浜赤レンガ倉庫1号館、山下町地下駐車場の3個所で実施される

横浜市温暖化対策統括本部の中島徹也副本部長

 オープニングセレモニーで登壇した横浜市温暖化対策統括本部の中島徹也副本部長は、「このニュー・モビリティ・コンセプトは私も昨年、元町と山手を運転しましたが、非常に楽しいクルマです。また、走る楽しさに加えて、スマートな交通手段として街の防犯活動や訪問看護といった社会的問題にも適応してくれます。横浜市が目指す“環境未来都市”は環境的価値、社会的価値、経済的価値を一挙に実現しようというソリューションです。そのために、このようなスマートな交通手段がさまざまな社会生活に使えるフィールドを積極的に提供していきたいと考えています」と、横浜市がプロジェクトに参加する意義を解説した。


日産自動車ゼロエミッション事業本部の牧野英治部長

 続いて登場した日産自動車ゼロエミッション事業本部の牧野英治部長は「弊社は2010年10月に開催されたAPEC横浜の会場で“新しいゼロエミッションモビリティの提案”としてニュー・モビリティ・コンセプトを発表しました。翌2011年の9月から横浜の山手・元町地区で日本初の公道実証を開始し、その後、青森県の奥入瀬、福岡県の朝倉市などでも実証実験を重ねています。これらの実績を踏まえ、今回はYMPZの取り組みの一環として、横浜市の中心エリアでより多くの市民のみなさんに体験していただこうという思いを込め、このEV FOR EVERYONE 横浜と名づけたプロジェクトを始めることになりました」とコメントし、今回の実証実験が開催された経緯を紹介した。


オープニングセレモニーの最後には、牧野部長と中島副本部長の2人がニュー・モビリティ・コンセプトに乗り、会場となった日産グローバル本社ギャラリーの一角を走るデモ走行が披露された

多方面で新しさを感じる走行感覚
 オープニングセレモニー後に実施されたニュー・モビリティ・コンセプトの試乗会では、日産グローバル本社のある横浜みなとみらい中央地区に設定された1周約10分ほどの試乗コースを、リーフに乗った同社スタッフの先導に3台前後が続いて走るという内容で行われた。

日産グローバル本社ギャラリー前の駐車スペースには多数のニュー・モビリティ・コンセプトが一堂に並べられた
リーフに率いられた先導走行で、一般販売前のニュー・モビリティ・コンセプトが横浜みなとみらい中央地区を走る

 ニュー・モビリティ・コンセプトは、車名にコンセプトとつけられているように、まだまだ試作車両という段階。今回の試乗で使われた車両は、昨年10月のスペックから全幅が1190mmから1230mmに変わっているが、これは明確な変更点があるということではなく、試行錯誤のなかで大きくなったと説明されるような不安定な状況だ。しかし、さすがに量産EVのリーフを持つ日産だけあって、単純な進む、止まるといった面だけをピックアップすれば極めてスムーズな挙動を見せる。シティコミューターという役割を与えられていることもあって、発進加速の初期段階では明確にゆるゆると走り出すよう設定されていると感じるものの、市街地レベルでの中間加速では軽快さも楽しめた。

小さなボディーで走行音もほとんど出ないため、見ていると実際以上の速さを感じさせる全長が短いので、横断歩道を歩行者が通過するまで待っていても後続車の邪魔にならないこともメリット小回りが効くので、走行前に「右左折で寄りすぎるとイン側の後輪をぶつけてしまうので余裕を持って曲がってください」と注意されるほど

 その半面、足まわり設定の硬さには、極限まで狭められた全幅と最高時速80km/hを両立させる難しさを感じさせられた。駐車スペースから歩道を通過して車道に出るまでの日常的な段差でも、ドスンと身体が揺すられる衝撃を感じ、試乗コース中に通過することになった減速帯では上下動に加えてホイールベースの短さによる細かなピッチングも出ていた。

 また、窓のない、車両によってはドア自体もないという設計だけに走行中はさまざまな音が耳に入ってくる。とくに気になったのは、減速時の回生発電で生じる高いモーター音で、どこかで警察車両がサイレンを鳴らしているのかと周囲を見回すような雰囲気。音の出所が分かっても、運転中はどうしても気になる種類の音で、今後の改善を求めたい部分だと感じた。

歩道と車道を分ける一般的な段差でも、ニュー・モビリティ・コンセプトは硬めの足まわりのため、強めの衝撃を感じる高級車では通過音が鳴るぐらいの減速帯だが、やはりニュー・モビリティ・コンセプトには少し大げさな挙動が出る障害物になる。先導するリーフが滑らかに走る姿とは対照的だ

 不思議なのは、これだけ小さな車両なのに、片側3車線の大通りで運転していても不安を感じさせないこと。試乗車がドア付きモデルだったこともあるが、やはりフロア下に重量物であるバッテリーを配したEVならではの安定感が効いていたように思える。前述のようにニュー・モビリティ・コンセプトは発展途上の試作車両。改良を期待する部分も多いが、逆にこの段階をチェックしておけば、将来的な日産の超小型電動車両の進化が体感できるというもの。また、新しく登場することが期待される超小型モビリティの未来像について考えるためにも、今回のEV FOR EVERYONE 横浜に参加して、ニュー・モビリティ・コンセプトをレンタル試乗する意義があると言えるだろう。

ニュー・モビリティ・コンセプト
シンプルにまとめられたインストルメントパネルATのセレクターのようなものはなく、Dを押して前進、Rを押して後退、両方を同時に押せばニュートラルになるスマートフォンを利用したカーナビを採用
ドア付き車両のシートドア無し車両のシートフロントシート後方にタンデム形式で設置される同乗者用シート
左ハンドル仕様の3点式シートベルトに加え、右肩を上下から固定するシートベルトも設置されている

(佐久間 秀)
2012年 11月 15日