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日産、自動運転車両(自動運転SAEレベル2相当)を用いたオンデマンド配車サービスの実証実験説明会

2021年9月9日 発表

日産自動車株式会社 常務執行役員の土井三浩氏が自動運転車両を用いたオンデマンド配車サービスの実証実験についてのプレゼンを実施

 日産自動車は9月9日、横浜みなとみらいおよび中華街エリアにおいて実施する、自動運転SAEレベル2相当の自動運転車両を用いたオンデマンド配車サービスの実証実験についての説明会をオンラインで開催した。実証実験に参加する一般モニター約200名を7月19日からインターネットで募集していたが、応募はすでに締め切られている。実証実験は9月21日~10月30日の期間に行なわれる。

 今回の実証実験は「eNV200」ベースの自動運転車両(4台)を用い、交通サービス「Easy Ride(イージーライド)」とAI(人工知能)を活用したNTTドコモが提供するオンデマンド交通システム「AI運行バス」を組み合わせて実施。進化した日産の自動運転車両と今回新たに自動運転車両の配車に対応したNTTドコモの「AI運行バス」を組み合わせることで、将来の完全自動運転による交通サービスをイメージさせる最新技術やサービスを実際に体験してもらい、その実用性を検証することを目的としている。

 説明会ではこの実証実験および自動運転車両について、日産自動車 常務執行役員の土井三浩氏がプレゼンテーションを行なった。

 土井氏は「これから先の日常を考えたとき、環境にやさしく、維持していくこともやさしいみんなの移動手段が必要だと思う」との考えを示しつつ、現状首都圏と地方で“移動”についての課題が異なるとし、首都圏では自動車の維持コストや流入による渋滞、東京圏でも店舗まで500m以上あってかつ自動車利用が困難な人が多くいることなどを紹介。一方の地方では公共交通の維持が困難な状況にあること、高齢化、給油所の減少といった首都圏とは異なる課題があることを指摘する。

首都圏が持つ移動の課題
地方が持つ移動の課題
物流の移動課題

 こうした課題をクリアするソリューションの1つに自動運転が挙げられるが、土井氏は「自動運転はパワフルなソリューションであると思っているが、残念ながらこれですべてが解決するとは思っていません。自動運転がくるのは今日、明日の話ではないので、今からできることを色々やっている」とし、その一例として「ノート」や「リーフ」などをオンラインで24時間いつでも予約可能なカーシェアリングサービス「e-シェアモビ」を紹介。

 このe-シェアモビは、首都圏での課題に対する日産の1つの解となるが、地方についてはJR北海道の鉄道路線の変化を一例として挙げ、1987年から2021年の34年間で7路線・804kmが廃止になっているという現状を紹介するとともに、「免許返納の話も都度都度議論になりますが、地方の皆さんというのは1人あたりの保有台数も多いですし、高齢ドライバーも多い。実際の生活を考えると、やはりクルマが必要というなかで生活をされている。地方の移動の課題というのは簡単に言うと儲からないということです。このネガティブを今日お話しする自動運転だけで解決できるわけもなく、実際にはいわゆるMaaS(Mobility as a Service=移動のサービス化)の仕組みとか、これから先はEV(電気自動車)がこういったモビリティを担うと考えると、例えばEVも新品のピカピカを使うだけではなくリユースのEV、リユースのバッテリなどを使って初期コストを下げる。それからEVがグリッドにつながるという特性を生かして電気のやり取りの中で収益を上げるとか、人だけを運ぶだけではビジネスが成立しないのであればモノと一緒に運ぶという貨客混載のような新しいビジネススキームを使う。そして最後にドライバーレスと言われる自動運転がきて収益を改善するという、いくつもの手を打ってどこまでブレークイーブンもしくは黒字のところまでこういったビジネスを押し上げられるかということがチャレンジになります」と説明する。

e-シェアモビについて
人口の減少が顕著な地域では公共交通が縮小
あらゆる可能性から持続可能な移動を考える

 こうした課題に対しての日産の回答の1つが今回の実証実験の内容となる。日産の自動運転車両を用いた交通サービス「Easy Ride」は、「もっと自由な移動を」をコンセプトとし、誰でも好きな場所から行きたい場所へ自由に移動できるサービスを目指して開発しているもの。実証実験自体は2018年、2019年に続いて今回で3回目となり、今回はNTTドコモのAIを活用したオンデマンド交通システム「AI運行バス」を組み合わせて共同で実証実験を行なう。

 2018年、2019年に行なった際の実証実験での検証項目は以下の表のとおりだが、今回は「無人想定サービスの受容性の検証」「支払い意思額」「妥当な乗降密度」といった点についてリアルな声を利用者から聞きたいとしており、土井氏は「技術的にはこれまで運転席に座るセーフティドライバー、システムを監視するオペレーター、さらに車両の後ろを走る伴走車が必要というのがガイドラインだったのですが、今回はオペレーターと伴走車を排除することが可能なシステムを組んで行ないます」とアピール。

2018年、2019年、そして2021年の検証項目など

 このオペレーター排除により、これまでオペレーターが座っていたところを客席にすることができ、従来から席数は2から3に増加する。また、乗降地はこれまで15だったところ23に増加するといった点が利用者側のメリットとなる。乗降地の数が増えたことで、650以上の公道ルートを使うことになるという。

実証実験は2018年、2019年に続いて今回で3回目
交通サービス「Easy Ride」
2019年の実証実験について
2021年の実証実験の進化ポイント その1。過去の実証実験に基づいてユーザー体験、自動運転において進化

 また、自動運転車両のハードウェアについては「どこの自動運転の車両も同じで相当な数のセンサー群を積み(カメラ×14、レーダー×3、レーザースキャナ―×6、GPS/GNSS×1、IMU×1、車内監視用カメラ×2)、(車両が)360度見ながら運転するというのはもちろんですが、今回のアップデートの1つがオペレーターレスをやろうということ。コンピュータが熱などでダウンするというところ、それから消費電力が過大になるところを回避して信頼性の高いハードウェア設計をすることが必要です。それからEVで運行する場合、コンピュータが過大な電力を食うとそのまま航続距離につながっていくことになりますので、なるべく消費電力の少ない設計をするということを考えています。それからオペレーターがいないということは今までオペレーターがやっていたシステムを監視するという機能をロバストに設計する、ECUに組み込むということが必要ですので、その辺も含めて本当のエンジニアリングをした組込みのECUということでいわゆるディシジョンメイキングと言われる自動運転の部分を担っています」と土井氏は解説した。

 これらにより、路上駐車をしている車両をよけて走る、割り込み車両の動きをあらかじめ予測するといった市街地における交通環境に合わせて走行することが可能という。

2021年の実証実験の進化ポイント その2。NTTドコモとの共同実証
安全設計をあらかじめしっかり決めることが重要
自動運転車両は多数のセンサー群を搭載する。ECUも進化
リアルな世界の運転に必要な判断を自動運転車両が行なう
みなとみらいで出会うありがちなシーンも想定
2021年の実証実験の概要

 なお、自動運転車両の体験に向けた一連の動きとしては、NTTドコモの「AI運行バス」アプリを使って車両を乗降地に呼び、車両に乗り込んでシートベルトを装着後に「GO」ボタンを押すと自動的に走り出すとのことで、土井氏は「(万が一の際に対応する)セーフティドライバーは乗っていますが、それ以外は未来の無人のモビリティをそのまま体験いただけるようなしつらえにしています。将来のこういったものはなかなか想像しにくいのですが、実際に感じていただくことによってこういったサービスがありかなしか、というのをフィードバックいただけるのではないかと期待しています」とした。

2021年の実証実験におけるユーザージャーニー
「AI運行バス」アプリの予約画面イメージ

 最後に、土井氏は「横浜で実証実験を行ないますが、都会には便利な移動がたくさんあります。課題は地方です。なぜ地方なのかを考えると、日本のバラエティに富んだ文化というのは地方が作っているといっても過言ではない。東京、神奈川、大阪だけになったらそれは日本ではない。そう思うと、実際には都市圏に約半分の人口があるわけですが、逆に言うと残り半分は地方にいるわけです。それから東京に住んでいる人も必ずしも東京だけに住みたいかというと、実は長野県、広島県、静岡県、北海道に住みたいと思っている方がたくさんいるわけです。また、地方こそが課題が多いと今まで申し上げたわけでありまして、地方の人口も実際に減少しているのは懸案でありますし、そういった地方が高齢化して免許を持てない、運転されないお客さまが増えていく。そういったモビリティへのアクセスが難しくなる地方に対してどういう手を考えたらいいのかと思ったとき、自動運転が1つのソリューションだと思っていますがもっと広い目で考えていかなければならないと思っています。日本の文化を守るためにも真剣に地方を含めた未来の移動を考えていきたいと思っています」と述べてプレゼンテーションを締めくくった。

日本のバラエティに富んだ文化は地方が作っている