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横浜ゴムがSUPER GTに挑む理由を聞く、「技術開発の場」とは?
2024年8月1日 08:05
2024年のSUPER GTはタイヤが関わる大きなルール変更が実施された
日本最高峰のツーリングカーレースであるSUPER GTは、自動車メーカーやレーシングチームの戦いと同時に、タイヤメーカーが性能を競い合う場でもあり、レースごとにタイヤは進化し続けている。
そんなSUPER GTでは、現在「SUPER GT Green Project 2030」という環境対策を掲げ、サステナブルな時代に向けてタイヤの使用本数を減らすことを目的とした「タイヤの持ち込みセット数削減」を推進しているのだ。
これによりタイヤメーカーがサーキットに持ち込めるタイヤ本数は、競技車1台あたり「ドライタイヤが4セット(1セット=4本)」「ウェットタイヤが5セット」までに制限され、決勝レースの走行距離が300kmを超える場合は、大会ごとの走行距離に応じて持ち込みセット数が変更される。
なお、2023年度から当該シーズンの前戦までで優勝できていないタイヤメーカーは、ドライタイヤの持ち込みセット数が1セット追加できるほか、2024年は予選の進め方も改定があり、ドライバーを変えての2回の予選(Q1、Q2)が行なわれるのは変わらないが、今シーズンはQ1とQ2、そして決勝スタートは同じタイヤを使用しなければいけないルールになり、各チームの戦略がさらに重要になった。
Car Watchでは毎年、SUPER GTに参戦するタイヤメーカーにインタビューすることで、そのシーズンにおけるタイヤがどんな方向性のものかを紹介しているが、予選フォーマットの変更や持ち込みセット数削減などタイヤについての見どころが多い今シーズンだけに、各メーカーの担当者からどんな話が聞けるのか楽しみである。
横浜ゴムの2024年シーズン参戦状況
GT500クラスは2チーム、GT300クラスでは15チームにタイヤを供給する横浜ゴム。第2戦富士スピードウェイではGT300クラスで88号車 JLOC Lamborghini GT3が優勝、2位もヨコハマユーザーの56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rが入った。そして取材時の第3戦鈴鹿サーキット。ここでは2023年、ヨコハマユーザーであるGT500クラスの19号車 WedsSport ADVAN GR Supraが優勝していたので、今回も期待されたが結果は12位。もう1台の24号車 リアライズコーポレーション ADVAN Zが9位。GT300では6号車 UNI-ROBO BLUEGRASS FERRARIが3位に入った。
GT300クラスのタイヤ供給マシン
4号車 グッドスマイル 初音ミク AMG(谷口信輝/片岡龍也組)
5号車 マッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号(藤波清斗/塩津佑介組)
6号車 UNI-ROBO BLUEGRASS FERRARI(片山義章/ロベルト・メリ・ムンタン組)
9号車 PACIFIC ぶいすぽっ NAC AMG(阪口良平/冨林勇佑/藤原優汰組)
18号車 UPGARAGE NSX GT3(小林崇志/小出峻/三井優介組)
22号車 アールキューズ AMG GT3(和田久/城内政樹/加納政樹/小山美姫組)
25号車 HOPPY Schatz GR Supra GT(菅波冬悟/松井孝允/佐藤公哉組)
30号車 apr GR86 GT(永井宏明/小林利徠斗/織戸学組)
48号車 脱毛ケーズフロンティアGO&FUN猫猫GT-R(井田太陽/柴田優作/眞田拓海組)
50号車 ANEST IWATA Racing RC F GT3(イゴール・オオムラ・フラガ/古谷悠河組)
56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R(佐々木大樹/ジョアオ・パオロ・デ オリベイラ組)
62号車 HELM MOTORSPORTS GT-R(平手晃平/平木湧也/平木玲次組)
87号車 METALIVE S Lamborghini GT3(松浦孝亮/坂口夏月組)
88号車 JLOC Lamborghini GT3(小暮卓史/元嶋佑弥組)
360号車 RUNUP RIVAUX GT-R(大滝拓也/青木孝行/荒川麟/田中篤組)
タイヤ製品開発本部 MST開発部 斉藤英司氏と白石貴之氏に聞く
──2023年シーズンの総括をお聞かせください。
斉藤氏:点数を付けるとGT500に関しては65点、GT300は70点かなと思っています。GT500はここ鈴鹿サーキットで19号車が優勝しました。GT500での優勝は7年ぶりということで社内の盛り上がりも大きいものでした。また、われわれ現場の担当に対してもモチベーションアップとなり非常によかったと思っています。
ただ、そのあとの19号車はサクセスウエイトを積んだ影響から厳しい戦いになってしまいましたが、そこをサポートできるようなタイヤを提供できなかった部分で悔いが残ります。24号車に関しては多くのレースのなかで見せ場をたくさん作っていただいたのですが、結果的に表彰台の獲得がなかった状態です。前年は表彰台を2度獲得していただけに残念な結果となってしまいました。
GT300に関してはシリーズチャンピオンを取れなかったのですが、 シーズン中では優勝を4回しています。また、これまでは18号車や56号車の活躍に頼る部分が多かったところ、ほかの車両も優勝しました。全般的にGT3車両の速さを押し上げられたと思っています。
──2024年シーズンは予選の方法などが変わったが、その影響や対応は?
斉藤氏:2024年のポイントとしては予選のフォーマット変更の部分ももちろん厳しいものではありますが、今年はわれわれがサーキットに持ち込めるセット数自体が減りました。そのため1台あたりの(タイヤの)走行距離が増えることになっています。富士スピードウェイや鈴鹿サーキットなど、タイヤに厳しいと言われるサーキットではタイヤのロングライフ化が課題と常に捉えていまして、そこの部分をなんとかしなければいけないと開発を継続しています。
また、GT500ではレギュレーションの変更により車高が変わりました。車高はコーナリング速度に影響があるので、高くなった分を補うだけのコーナリング性能の向上も同時に進めていくことになります。大きくはその2点の向上を目指して今年のタイヤ開発を行なっていきます。
──2024年シーズンのタイヤはどんなタイプなのでしょうか?
白石氏:タイヤのロングライフ化は以前から目標として掲げられているテーマです。とはいえタイヤを交換せずに2度の予選を走るフォーマットは経験がなかったので、実際にやってみるまでは分からない部分もありました。
でも、これまでも2周連続でタイムアタックをすることもあったので、その経験と照らし合わせたところ、思っていたほどタイヤのダメージは大きくないものでした。
それに他社さんが優れていると感じる部分や、差はあまりないなと感じる部分とか、そういった気づきもありました。具体的な作りに関してですが、例えばゴム。長く使うタイヤというと硬いゴムを使うイメージもありますが、われわれの感覚としては“硬いゴム”ではなくて“耐えられるゴム”と表現するような感じです。荷重がかかってゴムが動いて熱が発生しても去年のものよりもダメージを受ける度合いを少なくしています。
それと昨年のレースでは後半にリアのグリップが低下してペースが落ちてくることもあったので、安定したペースを刻めるような特性に仕上げることも冬のテストでやってきたことです。
──2024年シーズンの目標は?
白石氏:傾向から見ると鈴鹿サーキットや富士スピードウェイといったコースとは、なにか相性のよさのようなものを感じています。これはコースレイアウトとタイヤの相性というだけでなく、チームのセッティングの相性なども含めてのものです。とはいえ、そうした傾向があっても タイヤ作りの方向性としてはオールマイティーに戦っていけるものに仕上げていくことを目指しています。 どこかのサーキットが得意と言うものでなく、どこのコースであってもチャンスがあれば上位にいけるようなタイヤです。
──GT300用タイヤはどうですか?
斉藤氏:傾向から言うとGT3マシンとのマッチングはいいのですが、GT300規定車両がまだあまり上位になれていませんので、鋭意開発を進めています。GT300は参加している車両の種類が多くクルマの重量もさまざまです。そのためタイヤも多くの種類を用意しています。車種専用とまでは言いませんがそれに近いくらいの種類はあります。
なお、現在のGT300用のタイヤの構造はGT500用タイヤと近いものなっています。以前はGT500で使ったものをGT300に使用するというケースがありましたが、現在は開発の進め方を変えていて、逆にGT300やニュルブルクリンク24時間耐久レース用タイヤからの技術をGT500用タイヤに転用することもあります。それに乗用車タイヤ(ハイパフォーマンスのOEタイヤ)で使っている技術から気づくものを取り入れたりしています。
──SUPER GT用タイヤを作ることで横浜ゴムとしてなにが得られているのでしょうか?
白石氏:レース全般は当社でいうと技術開発の場でもあります。よりハイスピードなレースで使って安全で壊れないようなタイヤを作るということは品質のよいものを作ることにつながります。またその技術を作れるエンジニアが育つこと、その技術を盛り込んだ製品を生産できる工場を作ることなども技術開発の場という言葉に含まれます。そしてレースを通じて横浜ゴムを好きになっていただける人が増えたら、それはとてもうれしいことです。