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今月登場する改良シビックについて開発責任者の明本禧洙氏と橋本洋平氏が対談 「一番最高のパーツを日本に集めて作ったのがRS」
2024年9月7日 17:59
- 2024年9月7日 実施
スーパー耐久の会場でスペシャルトークショーを実施
1972年の発売以来、世界で累計約2760万台を販売してきた「シビック」シリーズ。2021年に発売した11代目の現行シビックは、今秋にマイナーモデルチェンジが予告されていて、その改良モデルに関する情報はすでにWebサイトで公開している。
また、ホンダはこの改良モデルを、S耐(ENEOS スーパー耐久シリーズ2024 Empowered by BRIDGESTONE)の「第4戦 もてぎスーパー耐久 5Hours Race(9月7日開催)」と「第5戦 SUZUKA S耐(9月28~29日開催)」にて特別先行展示を実施。気になる人はぜひ足を運んでみてほしい。
さらに第4戦 もてぎスーパー耐久 5Hours Raceでは、改良シビック開発責任者の明本禧洙(よしあき)氏と、本誌インプレッションでおなじみのモータージャーナリスト橋本洋平氏によるスペシャルトークショーが実施された。
明本氏がホンダへ入社したのは「ワンダーシビック」が発売されていた時代。当時はバイクへのあこがれもあったが、「やはり自分でエンジンを手掛けたいという気持ちの方が強かった。ちょうどキャブレターから電子制御の燃料噴射に変わったタイミングでした」と入社当時の思い出を語った。
そして、シビック、インテグラの初代VTECエンジンや、レジェンド、プレリュード(VTEC)のエンジン性能開発を担当。S2000ではエンジンプロジェクトリーダーを務め、2000年からレースエンジン開発に携わり、2005年にF1エンジン研究開発責任者に就任。新型「ヴェゼル」のパワートレーン開発責任者も務め、e:HEVの開発など、さまざまなエンジンを手掛けている。
エンジンプロジェクトリーダーとして開発にあたったS2000について明本氏は、「時代を重ねる中で仕事の幅もずいぶん広くなりましたけど、一番辛かったのがS2000のエンジンの開発でした。その理由は、S2000は“前人未到のピストンスピード”と言われるぐらい、当時のF1よりも速いピストンスピードのエンジンを開発するということで、とにかく未知のトラブルに毎日追いかけられていました」と当時を振り返った。
一方ジャーナリストの橋本氏は、「今回のトークショーに合わせて改良版のシビックRSに乗ってきたかったのですが、まだナンバーの付いた車両がないとのことで、シビックTYPE Rをお借りして乗ってきました。TYPE Rはとっても過激で、そのままサーキットも楽しめる1台なのですが、歴代のTYPE Rは街乗りがだいぶ厳しかった。でも今回650kmほどロングドライブをしてみたところ、現行のTYPE Rはだいぶ普段乗りもできるようになっていますね」と感想をコメント。
新型シビックに込めた思いと、進化したポイントとは?
続いて、今回の新型シビックに込めた思いと、進化したポイントついにて聞かれた明本氏は、「今回のシビックはマイナーチェンジの位置づけですが、“RS”という新しいグレードを投入するなど、マイチェンらしからぬ変更をたくさん盛り込んでいます。コンセプトの“爽快シビック”はそのまま継承して、さらにその先へ行くという思いを込めて“爽快シビックEVO(エボリューション)”として作っています。おすすめポイントは、皆さんがとにかく乗って楽しく走れる進化したMT(マニュアルトランスミッション)を搭載したRSモデルと、力強くて静粛な先進のe:HEVを搭載したハイブリッドモデルです」と新型のポイントを紹介。
また、7月の初めにクローズドコース(修善寺のサイクルスポーツセンター)で、すでにRSに試乗したという橋本氏は、「走り始めから驚かされました。というのも、実はマイチェン前もMT車はあったんですが、ちょっとリズムを取りにくいというか、エンジンの回転が落ちるのがものすごく遅くて、シフトアップのタイミングが取りにくく、走っていて“あれっ?”って感じる場面があったんですが、それが一気に解消されていて、本当にリズミカルに走れる。そこが一番大きな違いと思います。エンジンスペックがガラッと変わったわけではないんですけれど、とってもリニアに動くようになっていました」と初乗りのインプレッションを披露した。
新型RSの進化のポイントは、シングルマス(従来はデュアルマス)の軽量フライホイール採用したことと、エンジン制御を煮詰めたことで、従来のMTモデルよりも、エンジン回転が50%速く下がり、30%速く上がるようになっている点。さらに、シビックTYPE Rに採用している、変速時に目標のギアに最適となるよう自動でエンジン回転数を制御し、スムーズな変速による車両挙動の安定化を実現する“レブマッチシステム”を搭載したこと。これにより誰でも楽しくプロドライバーのようなフィーリングで扱えるという。
この進化ポイントについて橋本氏は、「実はエンジン回転を落とすのって、排ガス的にはとても難しいことなんですよね? そこを詳しくお聞かせ願いたいです」と明本氏に質問。
明本氏は、「世の中の環境に対して排ガスの問題は非常に難しくなっています。自動車はアクセルペダルを戻しても、実は燃料はその前からすでに噴いていて、その燃料をしっかりと燃やし切らないと、生ガスの状態でマフラーから外に出てしまい、大気を汚してしまいます。そこで、アクセルをオフにしてもしっかり燃えるまでずっと燃やし続ける。それをなるべく早く予測する技術と制御を駆使して、しっかり綺麗に燃やしながらエンジン回転を下げるきっかけを早くする……ということをやっているのが今回のRSなんです」と回答。
続いて橋本氏は、「単純にアクセルペダルを離してるところにも、すごく技術が詰まっているんですね。環境への配慮を満たしつつ、しっかりレスポンスを与えたのが、本当にすごい。それとシャシーも変わっていて、ものすごくリニアに動くのがステアリングから伝わってきますが、しっかりまっすぐ走ってリニアに曲がるのって、とても難しいことだと思うんですけれど、ブッシュから何から一度やり直したんですよね?」と再び質問攻め。
明本氏は、「そうですね。これはシビックだからできる技だと思います。シビックは世界中で130か国に販売してるクルマで、それぞれの地域でいろんなモデル、いろんな好みに、あるいは道路環境に合わせたモデルがあります。そのモデルの一番最高のパーツを日本に集めて、今回作ったのがこのRSで、従来のMT車に対してロール剛性を11%高めて、非常にクルマの応答をよくしています。そのほかにもステアリングのシャフトの先端に付いているセンサーの剛性を60%上げていて、よりダイレクトに反応するようにしてあります」と回答。
回答を聞いた橋本氏は思わず、「マイチェンですよ? ちょっと色変えて、バッヂを変えて、はい出来あがりっていうのもある中、しかもRSは日本専用モデルなんですよ。正直もったいないっていうぐらいの性能ですよ」とコメント。
「RS」はロードセーリング? ロードスポーツ?
ここでMCを務めるHondaスマイルの野村さんが、「RSという名称はホンダで脈々と継承されてきたネーミングで、「ロードセーリング」の略語だと聞いたのですが、今回のシビック“RS”は、どのような思いで開発してきたでしょうか?」と質問。
明本氏は、「シビックにRSが誕生したのが、今から50年前です。その当時のエンジン出力は60馬力とか50馬力とか非常に少なくて、高速道路を悠々と走るのもままならない時代でした。そこでセーリングのように悠々と走るクルマを作りたいという思いで、ロードセーリングと付けたのですが、50年も経つと軽自動車でも高速道路をしっかり走れるパフォーマンスを持っています。そろそろ、われわれとしては“セーリング”というよりは“走って楽しい”という普遍的なところをしっかり引き継いでいこうということでロードセーリングよりも“ロードスポーツ”というところをもっと強調していこうと言ってみんなで作ったのがシビックRSです」と思いを語った。
また、橋本氏もRSの解釈について、「RSにはいろんな思いが込められていると思いますが、また車種によってちょっと味が違ったりとか今までしてたんですよね。でも今回のRSは本当に“ロードスポーツだな”っていう感覚が強いです。シビックには“TYPE R”という大将がいて、それで650kmのロングドライブをしてきたのですが、いくらしなやかになったとはいえ、やっぱり過激なんですよね。だから街乗りしてると、どうしてもちょっと疲れたとか、腰が痛いとか、ハイパワー対応でクラッチが重いとか出てきちゃう。でもそれは、鈴鹿の最速タイムを狙って作ったクルマなので仕方ない。でも、RSってまだ公道では乗ってないので想像ですが、TYPE Rのような芯のあるリニアリティを持ちながらも、クラッチは軽く、シフトフィールも高トルク対応じゃないからスパッと楽に入る。エンジンレスポンスもリニアリティで、乗り心地はもう少し道に合わせてあるよっていう感じがするので、日本の道にぴったりな、ちょうどいいパワーのスポーツカーだなという感じがしてます」とイメージをコメント。
ホンダ車から離れているホンダファンや若者に乗ってほしい
乗ってもらいたいオーナー像について明本氏は、「昔ホンダのMT車に乗っていたけれど、今は違メーカーのクルマに乗っている方もたくさんいると思いますが、ぜひそういう方に改めてホンダが作ったシビックRSに乗ってほしいです。また、シビックは非常に若い方に人気があり、MTモデル購入者の50%~60%が若い方です。そこでRSは標準モデルよりも車高が5mmほど下がっていますし、全体的にブラック基調で引き締めたデザインになってますので、デートカーとしても乗っていただきたいです」とアピール。
橋本氏は、「ロングドライブする方と、やっぱりせっかく日本専用にわざわざMT車を作ってくれたんだから、若い人に乗ってほしいですね。一般公道でMT車のよさを楽しめる。サーキット向けのTYPE Rはパワーがありすぎて、とんでもないスピードになってしまうけど、ちょうど各ギアをきちんと使ってほどよいスピードで楽しめるっていうところはやっぱり日本を考えてるんだなっていう感じがしますよね」と同じく若者にこそ乗ってほしいと述べた。
ホンダのスポーツモデルの未来とは?
最後のホンダのスポーツモデルの未来像を聞かれた明本氏は、「ホンダは非常におもしろい会社で、特にボトムアップの会社だと言われてます。現場の声をしっかり聞いて、トップダウンで物事が決まらないのがホンダのいいところです。そんな中で、やはり1人ひとりが持ってるあこがれがだんだん夢となり、その夢を自分で作りたいというところが、結局このスポーツモデルの原点になっていると思います。電動化やいろんなパワートレーンなど移り変わりの激しい時代ですが、その普遍的な夢を追いかける、自分の手でつかむのは変わらないので、永遠にホンダはスポーツモデルを出し続けるというのはお約束できると思います」と会場のホンダファンを沸かして締めくくった。
また、ジャーナリスト兼ドライバーとしてホンダのスポーツモデルの今後にかける期待を問われた橋本氏は、「昔からシビックは、燃費スペシャルからTYPE Rまでものすごく幅広い。どの時代でも幅広いラインアップをしつつ、どのモデルも走りを忘れてないんですよね。あと環境についても忘れていない。そういうものをきちんとやりながら、常に時代の要件をクリアしながら、いつまでも気持ちいいものを作ってってほしいですね。先日スーパー耐久の24時間レースにHRCのTYPE Rで走らせてもらったのですが、あれも次世代のカーボンニュートラル燃料で、少しでも速く、少しでも環境によくっていう活動をやってる。いろんな方向に挑戦して、これからも走りをキープしていこうという姿勢がとても感じられるので、それをぜひ続けていただきたいなと思ってます」と期待を込めた。
明本氏も、「今すでにHRCでも環境へ配慮する取り組みを進めていますし、ホンダとしてはそれはやらなきゃいけないことだと思ってるので、しっかり進めていきたいと思います」と決意を述べ、トークショーを締めくくった。