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東芝、車載用半導体の戦略説明会 電動車の拡大に対応してパワー半導体の生産能力増強

2025年3月10日 開催
東芝デバイス&ストレージ株式会社 半導体事業部パワーデバイス技師⻑の高下正勝氏

 東芝は3月10日、車載用半導体への取り組みについて説明会を開催。東芝デバイス&ストレージ 半導体事業部パワーデバイス技師⻑の高下正勝氏が、車両の電動化により拡大していく車載モーター市場に対してパワー半導体とモーター制御IC、車載通信ICでソリューション提案を行なっていくとの戦略が説明された。

 説明会の中で電動車両に使われるパワー半導体について、高下氏は「EVの航続距離や充電時間の課題は、パワー半導体の性能改善で解決することができる。たとえば、次世代のSiCトレンチMOSにより、消費電力や装置の小型化が可能になり、走行距離が改善する」と述べるとともに「市場伸長が期待できるパワー半導体は、東芝の技術の強みが発揮できる領域であり、成長事業と位置づけ、積極的な研究開発投資および設備投資を行なっていく。ここで培った技術やノウハウ、生産能力を、幅広い基盤事業に展開し、拡大強化を行なうことで得られた利益をさらにパワー半導体に投資できる。基盤事業と連動した持続的な成長を実現する」と話した。

 また、「車載向けソリューションでは、パワー半導体、モータードライバー、車内通信IC、デジタルアイソレーター、フォトカプラーなどに注力し、インバーターやモーター制御などにおいて、省電力化や高効率化に貢献していく」などと語った。

電動車両に使われるパワー半導体

 パワー半導体は、高速でスイッチングし、高電圧および大電流を制御し、電力を変換する半導体だ。人間の身体にたとえると心臓や筋肉にあたり、走行距離の延伸や蓄電池搭載の自由度の増加などに貢献できる。東芝ではパワー半導体を通じて、電力の高効率化や省エネに貢献。パワー半導体を使いこなすアプリケーション領域でノウハウを蓄積してきた強みと、日本で初めてパワー半導体を300mmウエハーで生産する能力などを生かす考えだ。

パワー半導体についての説明

「東芝は60年以上に渡り、パワー半導体に関する技術基盤を構築し、磨き上げることでアプリケーション力、品質力および製造力、製品開発力を高めてきた。トップレベルの性能を実現し、車載インバーターでは3億個の実績、車載アナログICでは30億個の実績がある」と自信をみせる。

パワー半導体の生産拠点/能力増強計画

 東芝では、石川県の加賀東芝エレクトロニクスにおいて、パワー半導体では国内初となる300mmラインを構築し、新製造棟に設置した第2ラインが、2025年2月から量産稼働を開始したところだ。第2ラインの第2期がフル稼働すると、2021年度比で3.5倍の生産が可能になるという。さらに兵庫県の姫路半導体工場では、2025年3月に新棟が竣工。2025年6月から車載用後工程の能力を2倍に増強することになる。また、タイの東芝セミコンダクタ・タイでは、パワー半導体の後工程の生産を開始しており、今後、車載用製品の生産も開始する予定だ。

「日本の自動車向け顧客だけでなく、グローバルのトップメーカーとのビジネスも拡大していきたい。車両の電動化によって拡大していく車載モーター市場に対して、パワー半導体とモーター制御IC、車載通信ICによって、ソリューション提案を行ない、カーボンニュートラルな社会を実現し、変革期の自動車業界に新たな価値を創造していく」と述べた。

 自動車業界は、CASE(Connected、Automated、Shared & Service、Electric)と呼ばれるトレンドにより、大きな変革期を迎えている。

 東芝では、とくにElectricの領域における電動化およびE/E(Electrical/Electronic)アーキテクチャの進化に注目し、xEVにおける走行駆動の電動化と、機器の電動化にフォーカスするという。

「電動化に伴い、車1台あたりで37.6個のモーターが使用されているが、2030年にはこれが57.0個にまで増加すると予測されている。主機モーターだけでなく、補機モーターが増えていくことになり、電動化の進化において、モーターが重要な役割を果たす」と位置づける。

 走行駆動の電動化では、モーターを回して車輪を駆動させるトラクションインバーターが主力製品の1つとなる。400V~800Vの高電圧リチウムイオンバッテリを使用し、数100Aの電力を扱うことができるパワー半導体を活用。IGBTやSiC MOSFETにより、モーターを駆動させているという。

 また、機器の電動化では安全性や快適性、利便性を追求するために使用する車載モーターなどがあり、小容量、低耐圧のパワー半導体を使用。パワーMOSFETやモーター制御IC として利用されている。

 また、E/Eアーキテクチャの進化への対応に関しては、サポートする機能に基づいてECUごとに管理するフラット構造という従来の仕組みから、機能ごとに統合して、管理するドメインアーキテクチャへと移行。さらに2027年以降は、ECUが設置されている場所に基づいて管理するゾーンアーキテクチャへと進化する流れを捉えた製品化を進めるという。ゾーンアーキテクチャに移行すると、ハードウェアとソフトウェアを一体開発していたこれまでの手法から、ハードウェアとソフトウェアを分離独立開発する手法へと変化。ソフトウェアを置き換えるだけで機能向上ができるようになるほか、セントラルECUとゾーンECUを車内通信で結ぶ必要性が生まれ、それに最適なCXPI通信が注目を集めると見られており、東芝はこれらの領域に取り組んでいくという。

 高下氏は「E/Eアーキテクチャの進化によって、パワー半導体やモーター制御ICなどの需要が拡大するとともに、それに向けた技術革新が重要な要素になる」と語った。

 車載用トラクションインバーターは、市場規模が大きい一方で、カスタム要求が強い市場であり、東芝では、小容量や低コストが求められる場合にはSi IGBT、大容量が求められる場合にはSiC MOSFETで対応し、顧客の要望に応えているという。SiC MOSFETについては、2024年11月に第5世代技術によるベアダイ製品「X5M007E120」を開発し、サンプル出荷を開始したという。また、IGBTとダイオードを一体化したRC-IGBTによる小型化、低コスト化にも取り組んでおり、すでに10%の性能改善も実現できているという。

 さらに、トラクションインバーター向けアクティブゲート制御絶縁型ゲートドライバーを開発。SiC MOSFETを効率よく制御することで、トラクションインバーターシステムの高効率化に貢献できるという。

「パワー半導体はIGBTからSiCトレンチMOSへの移行が促進され、優れた材料物性を生かして、xEVの小型化、軽量化、走行距離の延長に貢献できる。東芝では、3.3kVの鉄道向けSiC MOSモジュールを生産しており、これによって培った高電圧および大電流に耐える欠陥制御技術、デバイス構造、テスト技術をベースに、1.2kVまでの車載向け高品質高信頼デバイスを製品化できる。トレンチ構造の導入により、高性能化が図れ、電力損失をさらに低減できる」とした。

車載モーター用途に求められる半導体技術トレンドに対応

車載モーター用途に求められる半導体技術トレンドに対応、パワー半導体における「低耐圧MOSFET」、モーター制御ICの「SmartMCD」、車載通信規格である「CXPI」に注力

 モーターアプリケーションの取り組みについても説明した。ここでは、パワー半導体における「低耐圧MOSFET」、モーター制御ICの「SmartMCD」、車載通信規格である「CXPI」をあげた。

 1つめの「低耐圧MOSFET」では、低いオン抵抗と高速スイッチング性能を低耐圧、高耐圧の双方で達成するなど、世界トップクラスの高性能を実現としている強みを生かすとともに、約500製品という幅広いラインアップ、低ノイズ特性や高温動作保証による使いやすさ、高効率動作による省エネ性能の実現を訴求する。

「車1台あたりのECUが、2030年には48セットと約1.4倍に増加するのに伴い、ECUに使用される低耐圧MOSFETは1台あたり267個と、2020年の約1.6倍に増加すると予測されている。東芝では、車載向けに40Vデバイスに加えて、80Vデバイスも強化する。40Vでは30%の抵抗を削減、80Vでは60%低減した製品を2026年度には投入する」という。

 2つめの「SmartMCD」は、車載用モーターシステムの小型化、低コスト化、高性能化に貢献する技術と位置づけており、ゲートドライバーと周辺部品であるMCU、電源、通信インタフェースを1チップ化して、実装面積を約50%削減。モーターに特化した東芝独自のベクトル制御用ハードウェア「ベクトルエンジン」と、安価なCPUのセットによって、様々なモーター制御にも対応。評価ボードやモーター評価ソフトウェアを提供し、市場の要望に応えながら高度なモーター制御技術を実現するという。

 3つめの「CXPI」については、日本自動車技術会で規定を策定された車載通信プロトコル規格であるCXPIに準拠したICの開発に取り組んでいる。CXPIは、車内ネットワークの末端で増え続ける1対1接続での機器間ワイヤーハーネスの削減や、多重化を実現できるというメリットがある。低遅延が求められるステアリングスイッチのような用途、挟み込み防止のためにエッジ側で処理する必要があるサンルーフなどの用途に対応するという。

 なお、東芝では、パワー半導体の提供に加えて、顧客の設計サポート力を強化する取り組みを開始。自社で活用しているシミュレーション技術などの開発環境、AIを活用した各種解析ツールなどを通じた設計支援、スイッチング電源回路ライブラリーやオンライン回路シミュレーターといったウェブコンテンツの提供により、パワー半導体やアナログICの性能を最大限に引き出し、顧客が使いこなせる環境を提案していく姿勢も強調した。

開発環境や設計支援、Webコンテンツといったサービスプラットフォームを提供して顧客の設計サポート力を強化する
まとめ
説明会資料