ニュース
トヨタとKDDIが業界標準APIを利用した「常時接続アプリケーション(試作)」をモバイル展示会MWC25で公開
2025年3月12日 13:02
- 2025年3月3日~3月6日(現地時間) 開催
世界最大のワイヤレス通信関連展示会となる「MWC25」が、3月3日~3月6日(現地時間)にスペイン王国バルセロナにあるFira Gran Viaにて開催された。その中でトヨタ自動車、KDDI、エリクソンは、業界標準APIに基づいて作られた「QoD(Quality on Demand:要求に応じて通信速度の固定機能)」を実現したアプリケーションのデモを行なった。
また、KDDIは自社ブースで自動運転ソフトウエアを開発するティアフォーと協業して作成した「自動運転移動コンビニ」のコンセプトカーを展示した。
業界標準のAPIを利用したトヨタ自動車がQoDアプリケーションのPoCを作成、KDDI、エリクソンとデモ
自動車のインターネット常時接続は当たり前の機能になりつつある。ミッドレンジからハイエンドの新車には、当たり前のようにIVI(In-Vehicle Infotainment)が搭載され、LTEや5Gといったセルラー回線(携帯電話の技術を利用した通信回線)が搭載されて常時インターネットに接続する仕組みが採用されている。
そのため、セルラー通信時業者(通信キャリア)にとっては、そうした車載セルラー回線の事業を拡張することが重要になってきているし、自動車メーカーにとってはそのセルラー回線を利用して、ユーザーに訴求するようなアプリケーション(活用方法)を提供していくかが重要になりつつある。
これまで通信業界では、アプリケーションが通信と垂直統合されており、通信キャリアがそれを一括して提供するだけで、自動車メーカーのような通信を活用する事業者が自分で必要なアプリケーションを提供するのが難しかったことが課題だった。
というのも、これまで通信事業者はクラウドと呼ばれるインターネットの先にあるサーバーなども含めて一括で提供しており、その中に他社のサービスなどを組み込むのが難しかったからだ。しかし、自動車メーカーにとっては、そうしたアプリケーションは優れたユーザー体験を提供するために自社で開発することが必須になっており、通信とアプリケーションをより柔軟に利用できる仕組みが求められてきた。
そこで、3年前のMWC22でLinux Foundationから提案されたのが、「CAMARA」と呼ばれるオープンソース(特定の企業が特許などを主張しないオープンな開発方式)のAPIだ。API(Application Programming Interface)とは、プログラムが別のプログラムを呼び出す時に、標準的な手順を定めたモノとなる。非常に大まかに言えば、話す言葉が違ったりするとやりとりができないので、同じ言語で話しましょうとか決めておく、そんなイメージに捉えておくといいだろう。
そのCAMARAは、通信キャリアの業界団体となるGSMAにより「Open Gateway initiative」という取り組みで標準化されており、これに準拠したプログラムを作成すると、自動車メーカーは1つのプログラムを作成するだけで、複数の通信キャリアのセルラー回線でそのプログラムを活用できる。例えば、今回の例で言えば、日本通信キャリアであるKDDIが提供するセルラー回線で動作しているが、将来的にはそれが欧州や米国の通信キャリアなどでも少しの手直し程度で利用できるということだ。
今回トヨタはKDDIとエリクソンと共同で、そのOpen Gateway initiativeに対応したQoDのアプリケーションのPoC(Proof of Concept、開発した技術が実際に動作するかを確認する試作)を作成し、MWC 25のエリクソンブースで展示。
デモでは、レクサス「LM」の後部座席に2つのモニターを設置し、Microsoft Teams(Microsoftのビデオ会議ソフトウエア)を利用して電話会議を行なう様子が公開された。1つはQoDなし、もう1つがQoDありというデモ内容で、QoDありの側ではコマ落ちせずに動画が再生する様子を確認できた。もちろんできることはQoDだけでなく、将来的には自動運転への応用やルート検索などさまざまなユースケースへの応用が期待できる。
今後こうした標準APIに採用したソフトウエアを開発しておけば、自動車メーカーは容易に市場ごとに異なる通信キャリアに切り替えたりなどが容易になると考えられるし、ユーザーに新たな体験を提案するまでの時間を短縮したりとメリットは大きいと考えられ、今回のPoCはそうした環境を実現する第一歩になると考えられる。
KDDIはレベル5自動運転を活用した「移動式コンビニ」のコンセプトカーを展示
KDDIは昨年のMWC24から自社ブースを出展しており、KDDIが通信キャリアとしてだけでなく、IT事業者として海外展開しようと考えているサービスや製品などを展示している。
今回KDDIは同社ブースにて、日本の自動運転ソフトウエア企業ティアフォー(TIER IV)との協業で作成した、レベル5の自動運転を活用した移動式コンビニのコンセプトデモを行なった。なお、KDDIとティアフォーは2018年に業務資本提携契約を結んでおり、KDDIはティアフォーの株主でもあり、それが今回の協業につながっていると考えられる。
KDDIは2024年2月に三菱商事の子会社でコンビニ事業を展開しているローソンに出資を行ない、KDDIと三菱商事それぞれが50%の株式を持つことを発表している。つまり、実質的にローソンはKDDIの子会社になったことになる。そうした小売り事業への進出と、KDDIは近年、通信事業以外にも事業展開をしており、今回のデモもそうしたKDDIの事業拡大戦略の一環と言える。
デモではユーザーのスマートフォンなどを利用して、店内にある商品のQRコードを読み込むだけで決済できる様子などが公開された。そうした仕組みを採用することで、近い将来に少子高齢化が進展することでバスやタクシーなどの運転手不足などで運行が難しくなるような過疎地などに、自動運転で商品ごと移動できるコンビニが高齢者の自宅などに直接出向き、商品を買ってもらう、そうしたユースケースを想定しているとKDDIは説明した。
KDDI ビジネス事業本部 モビリティビジネス本部 副本部長 相澤忠之氏は、「4月に高輪に移転を予定している新本社の敷地内ではこうしたモビリティの実証実験も行なっていきたい」と述べ、子会社化したローソンや今回のティアフォーとの協業デモなども含めてさまざまな実証実験などで、通信とモビリティの融合に関してさまざまな取り組みを実行していくと説明した。