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「KDDI SUMMIT 2024」開催初日のモビリティ関連情報をまとめて紹介

2024年9月3日 開催

「KDDI SUMMIT 2024」でオープニング基調講演を行なったKDDI株式会社 代表取締役社長 CEO 髙橋誠氏(左)とOpenAI Japan合同会社 代表執行役社長 長﨑忠雄氏(右)

 KDDIはグループ最大級のビジネスイベント「KDDI SUMMIT 2024」を開催した。9月3日~4日に東京都港区の虎ノ門ヒルズフォーラムに展開したメインステージ、サブステージで同社の事業に関連するさまざまな講演やセッションが行なわれ、それぞれオンラインでもライブ配信するハイブリッド形式で実施。配信内容はアーカイブ動画として後日配信される予定となっている。

 2日間に渡ってメインステージ、サブステージの2か所で通信技術に関連するさまざまな講演が行なわれ、さらに展示エリアでは「AI・セキュリティ」「メタバース・XR」「ネットワーク」「モビリティ」「災害対策」「ロジスティクス」「未来人材」「オープンイノベーション」といったテーマ別にKDDIが取り組んでいる次世代技術について製品展示や解説パネルによってアピールした。

 本稿では開催初日である9月3日の内容から、モビリティに関係のある情報をまとめて紹介する。

展示エリアの入口に設置されたKDDI SUMMIT 2024の展示コンセプト。左上に「つながろう。創ろう。未来のために。」という開催テーマが書かれている

KDDI 髙橋誠社長とOpenAI Japan 長﨑忠雄社長による基調講演

KDDI株式会社 代表取締役社長 CEO 髙橋誠氏

 イベントの冒頭に行なわれたオープニング基調講演では、まずKDDI 代表取締役社長 CEO 髙橋誠氏が登壇。

 髙橋社長は、昨今の日本のメディアでは後ろ向きな「ネガティビティバイアス」が散見され、経済コメンテーターのヘイミシュ・マクレイ氏が昨年出版した著書「2050年の世界」でも、「日本は高齢化で先頭を走っている」「経済のほとんどの分野で最先端から遠ざかっている」という見方が示されているが、一方で同書では「穏やかで秩序ある社会を作り、日本が世界に教えられることは本当にたくさんある」「日本人が自信を持って、自分たちが成し遂げたことを讃えられるようになるほど、よりよい世界を築く力になる」と日本の価値を表現。これを受けて髙橋社長は、高齢化や人材不足など課題も多いが、外国人観光客が押し寄せているのは為替の関係だけではなく、すばらしい国だと価値を認めているからではないかと語った。

 日本の課題となっている環境変化を「チャンスが来ている」と捉え、人口減少による人手不足についてはAIの活用による人的作業代行で業務の効率化や生産性向上を図り、AIを使いこなすクリエイティブな人材を育成することで新しい価値を創造していく。通信の活発化と処理データの増大による消費電力の増加については、クラウドベースのデータ処理からデバイスごとの処理と組み合わせるエッジコンピューティングとAI活用で消費電力の問題に正面から向き合いつつ、さまざまな工夫を日本人特有の強みとして盛り込んでいく。

 また、人口が減る一方でIoTデバイスの接続数はこれからも右肩上がりに増えていくことが予想されており、AIの活用で通信を行なう機器も増えてビジネスが広がるチャンスになるとした。このように環境の変化をいち早く捉え、チャンスに変えて日本人らしい付加価値を与えていくことが非常に重要で、世界に先駆ける最新事例としてグローバルスタンダードを取り込むことがこれからの時代に大切になっていくと説明した。

ヘイミシュ・マクレイ氏の著書「2050年の世界」で紹介されている「日本の価値」
人手不足にAI活用で対応
エッジコンピューティングとAI活用で省電力化
IoTとAIを組み合わせて付加価値を高めていく

 中期経営計画として取り組んでいる「サテライトグロース戦略」について改めて説明し、戦略の中心である太陽と位置付ける5Gネットワークの「Sub6領域」の取り組みが順調に進んでおり、2024年中の提供開始を予定する新たな衛星通信サービス「Starlink」(スターリンク)と合わせて「通信についてはキッチリ一番を取っていきたい」と意気込みを語った。

 3月に資本業務提携を行なって連結子会社となったAI企業「ELYZA」については、オープンモデルを採用しながら高品質な日本語のLLM(大規模言語モデル)を持ち、専門知識や専門用語の理解も可能な業界特化モデルとしてもチューニングを行なっている部分がバリューになっていると説明。

 KDDIでは社内DXの一環として実業務にAIチャットサービスを利用しているほか、LINEアカウントの「auサポート」のチャットボットでも生成AIを活用しているが、新たな取り組みとして関連会社のアルティウスリンク、KDDI、ELYZAの3社で「コンタクトセンター業務特化型LLMアプリケーション」を「Altius ONE for Support」の標準機能として同日から提供を開始している。

5G Sub6の基地局やエリアも順調に拡大
「空が見えれば、どこでもつながる」をテーマに提供開始に向けて取り組んでいる「Starlink」
高品質な日本語のLLM(大規模言語モデル)を持ち、業界特化モデルとしてもAIをチューニングしているELYZAのAIをコンタクトセンター業務に活用

 2月にKDDI、ローソン、三菱商事の3社で締結した資本業務提携の新しい取り組みについて、9月中旬に3社で記者会見を実施すると前置きしつつ、この取り組みで「LAWSON TOWN」という新たなテーマを掲げていることを紹介。

「もっとお客さまと身近な会社になりたい」という髙橋社長の願いを反映したLAWSON TOWNでは、ローソンの店舗をセンターに位置付けてさまざまな取り組みを行ない、具体的にはリテールテック(小売業でのIT導入)による省人化、次世代モビリティを使った買い物難民救済、災害時のStarlink活用、カーボンニュートラルに向けた再生可能エネルギー活用などをターゲットに設定している。

 施策の1つとして、ローソンの店舗を含む全国1000か所にドローンステーションを設置。これにより、事件が発生してから全国のどこでも10分以内にドローンで現場に駆けつけることが可能になるという。このようなドローン活用はすでにニューヨーク市警察で2023年からスタートしており、ラスベガスでも展開が拡大する予定とのこと。このようなドローンの治安維持活用をLAWSON TOWNでも予定している。

「LAWSON TOWN」ではリテールテック(小売業でのIT導入)による省人化などを行ない、住人の困りごとを解消していく
ローソンの店舗を含む全国1000か所にドローンステーションを設置する計画

 なお、KDDIグループのKDDIスマートドローンでは、KDDIが5月に資本業務提携を結んだ米Skydioの「Skydio X10」を業務に活用。Skydio X10では操縦を行なうドローン本体とプロポの無線通信に従来の2.4GHz帯に加え、KDDIのセルラー通信を利用する開発を進めている。通常の2.4GHz帯による通信だけの場合、ドローンとプロポの距離が離れすぎたり障害物があったりして電波が途絶すると操縦不能になるが、セルラー通信の併用によって冗長性が高まるほか、KDDIのセルラー網の電波を受信できる場所であればプロポから遠く離れた遠隔地でも操縦可能となる。

 ドローンとプロポの双方にセルラー通信用のSIMカードを差し込むことになるが、飛行するドローンは万が一にも航空機の飛行に影響を与えないことが電波法で求められるため、専用チューニングを行なった特別なSIMカードを用意しているという。すでに東京のオフィスから遠く離れた場所にあるデータセンターの屋上にある太陽光パネルをチェックするテストも行なわれ、製品化も近付いてきているとのことだ。

セルラー通信に対応する遠隔操縦ドローンのデモ機
プロポにもSIMカードを差し込み、セルラー回線で操縦を行なう
「Skydio X10」より少しコンパクトな「Skydio X2」と格納・充電用の「Skydio Dock」。ドローンの遠隔運用が実現すれば保管と充電の手段が必要となるため、イメージを掴んでもらうために展示したとのこと

 SDV(ソフトウェア ディファインド ビークル)を実現する大きな要素となるコネクティッド技術は、現在では世界83の国と地域で展開しており、各地域のパートナーとも協力して契約回線数は2024年3月時点で2600万回線を超えている。

 最後に髙橋社長は「日本人はグローバルスタンダードをいち早く取り込んで、そこに日本人らしいバリューを載せていくことが得意だと思います。高齢化社会とよく言われますが、そんなネガティブなバイアスは払いのけて、日本人のよさを、AIを活用しながら付加価値を載せていく。それによってソーシャルにインパクトをもたらすことが、これからグローバルに対するわれわれの使命だと思っています」と締めくくった。

KDDIの回線を使うコネクティッドカーは2024年3月時点で2600万回線を超えた

AIを採り入れ日本の未来を切り拓く支援をしたいとOpenAI Japan 長﨑忠雄社長

OpenAI Japan合同会社 代表執行役社長 長﨑忠雄氏

 髙橋社長からバトンタッチされて登壇したOpenAI Japan 代表執行役社長 長﨑忠雄氏は、すでに自分たちが開発した生成AI「ChatGPT」はウイークリーアクティブユーザーが2億人を超え、史上最速で1億人、2億人のアクティブユーザーを達成したソフトウェアになるとアピール。これだけ使いやすい形でAIを利用できるソフトはおそらく歴史的に見てもこれまでなかっただろうと語った。

 また、米OpenAIの歴史とポートフォリオを説明し、最初のLLMである「GPT-1」から続くAIの旗艦モデルと、製品であるAPI(Application Programming Interface)やChatGPTを開発してきたことを紹介。OpenAIではAIモデルの開発に多大な情熱と時間を費やし、そこで生み出された最先端AIをAPIや各製品としてリリースしている。

米OpenAIの歴史
OpenAIのポートフォリオ

 顧客である企業がOpenAIのAIを利用する場合、主に3つのパターンがあるという。1つめは「社員にChatGPT Enterpriseを配布して働き方を変えていくパターン」、2つめは「手作業で行なっていた煩雑な作業を自動化するパターン」で、このパターンではChatGPT EnterpriseとOpenAI APIの2つのサービスが活用される。3つめは「自分たちのサービスや製品にOpenAI APIを組み込んで新たな製品造りを行なうパターン」になる。

 なお、一般向けのChatGPTと比較して、企業向けとなるChatGPT Enterpriseは入力内容のデータを学習には利用せず、使う人や部署単位などでカスタマイズできる「GPTs」をノーコードで作成、利用できる点が異なるという。

一般向けのChatGPTと企業向けのChatGPT Enterpriseの稚貝
OpenAI APIを顧客企業の自社サービスに組み込んだ実例

 最後に長﨑社長はOpenAIのAI旗艦モデルのこれまでと今後について解説。2021年に登場した「GPT-3」から2年後の2023年に登場した「GPT-4」では性能が100倍近く性能が向上し、ただの言語モデルを超えてできることが飛躍的に向上。さらに現在のAI旗艦モデルである「GPT-4o」はマルチモーダルに進化して、テキスト以外にも音声や画像、動画などをリアルタイムで分析可能になっている。

 次世代になる“GPT-Next”もこれまでの流れから100倍の進化を果たすだろうと予想し、性能が指数関数的に成長していくところがこれまでのソフトウェアとAIが異なる点で、いち早くAIを採り入れ、AIと共にある世界を作っていくことが日本の未来を切り拓く鍵で、その支援していきたいとコメントしている。

AIは性能が指数関数的に成長していくところがこれまでのソフトウェアと異なる点

OpenAIは「AIを民主化できる」存在

髙橋社長と長﨑社長によるトークセッション

 オープニング基調講演の第2部として実施されたトークセッションは、4月に設立されてから半年も経過しておらず、まだ一般には知られていない部分も多いOpenAI Japanについて髙橋社長が長﨑社長に質問していくようなスタイルで進められた。

 長﨑社長は3月までAWSジャパンの社長として日本のクラウドサービスをけん引していた人物でもあるが、長﨑社長がAWSに入った2011年当時はまだクラウドという概念が世間で知られていなかった。しかし、「ITを民主化できる存在」としてビジネスイノベーションの大きな可能性を秘めていることを体感して、最終的には2兆円を超える投資が行なわれる巨大市場に成長することになったが、OpenAIと出会ったときも「AIを民主化できる」と似たような感覚を覚えて、日本でもAIを正しく理解し、正しく使って正しい成果を出す手伝いがしたいとの考えが転身のきっかけになったという。

 また、クラウドサービスによってさまざまな企業が幅広いソフトウェアを活用できるようになり、同時にスタートアップ企業のすそ野を広げたが、AIも同様にソフトウェア利用を拡大し、これまでなかったようなスタートアップ企業が出現する契機になるとの予想を示した。

AIによってこれまでなかったようなスタートアップ企業が出現する契機になると長﨑社長

 スピード感の速さもAIの特徴であると長﨑社長は語り、PCやインターネットは登場してから一般の人が広く利用するようになるまで数十年かかったが、ChatGPTはわずか1年で1億人、2億人が利用するようになっていて、これほどのスピードはかつてないものだと強調している。

 もう1つ、AIは使い方に関するマニュアルがないことも特徴だと説明。その理由は、これまであったソフトウェアは決まった動き方をするものだが、AIはどのように動くか予測不可能で、従来と比較すればある程度は想像できるようになっているものの把握し切れてはおらず、このためOpenAIではアライメントやセーフティ面の開発に大きく時間を割いてから世に送り出すようにしているという。予測のしにくさは人間を相手にしたときのような感覚で、これに早く慣れることが社会実装に向けた1つのステップになると述べた。

 髙橋社長もOpenAIの本社に足を運んだときの感想を「20年前にGoogleさん、Facebookさんにおじゃましたときのような気分になった」と表現。すでに大企業に成長しているにもかかわらず、ベンチャー企業のような躍動感があってワクワクしたと語っている。

OpenAIは20年前のGoogleやFacebookのような雰囲気だと髙橋社長

すべてのモビリティを通信で支えてモビリティ社会を進化させる

KDDI株式会社 ビジネス事業本部 モビリティビジネス本部 副本部長 相澤忠之氏

 展示エリア内に設定されたサブステージでは、KDDI ビジネス事業本部 モビリティビジネス本部 副本部長 相澤忠之氏による講演「KDDIと共に進化するモビリティ社会~WAKONX Mobilityの挑戦と展望~」が行なわれた。

 相澤氏の講演では、KDDIが掲げている「KDDI VISION 2030」を実現するためのブランド「WAKONX」(ワコンクロス)で用意されている3種類のビジネスプラットフォームのうち、通信やAIの活用によって未来のモビリティビジョンに取り組む「WAKONX Mobility」について解説。

 クルマをインターネットに接続するコネクティッド技術では、国際電話の大手会社でもあるKDDIのインフラ、サービス網を活用することで、さまざまな国での通信をワンストップで統合管理できる部分を大きな価値として強調。髙橋社長の基調講演でも示されているように、世界83の国と地域で累計2800万回線(2024年6月時点)に通信を提供し、年内には3000万回線を超える勢いになっており、これはAUスマートフォンを上まわる台数になるという。

 日本以外の地域では、北米、中国、欧州、豪州、中東、インドなどでサービスを展開。実際の通信事業はそれぞれの国にある通信事業者が行なっているが、例えば日本で生産された車両に搭載されている通信機器が輸出された先で、現地で利用できるキャリアの通信回線に切り替えて設定の調整、管理を行なうオーケストレーションを単一のインターフェースで実現するグローバル通信プラットフォームをKDDIは提供している。

 KDDIでは2000年から車両の盗難監視という機能でIoTサービスの提供をスタート。通信容量の低いテレマティクスサービスからホームセキュリティにサービスが拡大していき、2014年に電力のスマートメーターがIoT化されたところから回線数が大きく拡大。2019年からクルマでのグローバル通信プラットフォーム提供開始がモメンタムになり、現在はIoT回線全体で5000万回線を超え、2030年には1億回線まで倍増させる計画となっている。

「WAKONX Mobility」は3つのレイヤーで構成される
世界83の国と地域で累計2800万回線(2024年6月時点)に通信を提供
自動車メーカーにワンストップでグローバルコネクティッドのオーケストレーション機能を提供している
2030年にはIoT機器の回線を1億回線まで倍増させる計画

 今後のモビリティ社会については、コネクティッドカーから始まったKDDIの取り組みはドローンの目視外飛行、物流倉庫の自動化による物流DXに拡大していき、本丸として自動運転を設定。また、自動運転はロボティクスとも連動し、社会課題の解決と新体験の創出を目指していく。

 ドローンは現在、運用したい現地まで人が足を運んで近距離で操縦する必要があるが、セルラー回線に対応するスマートドローンが実現されれば目視外での飛行が可能になり、遠隔操作によってコスト低減を図って気軽に運用できるようになる。また、クルマの自動運転とスマートドローンが連携する実証実験も始まり、自動運転の車両がけん引するキャリアからスマートドローンが離着陸するが2023年9月に行なわれている。

 将来像としては、乗用車、商用車の自動運転からスマートドローンの実現が視野に入って来ており、そこからあらゆるモビリティに拡大。今後はロボットのコネクティッド化が大きな潮流としてやってくるとの予測を示し、配膳や警備、清掃といった領域から4足歩行、ヒューマノイド型に広がっていき、コネクティッドカーに限らずすべてのモビリティを通信で支えてモビリティ社会を進化させる構想を立てているという。

モビリティ社会での取り組みのアウトライン
セルラー通信に対応するスマートドローンで遠隔操縦を実現
クルマの自動運転とスマートドローンを組み合わせる実証実験も行なわれた
すべてのモビリティを通信で支えてモビリティ社会を進化させる構想
異なるメーカー製のロボットをクラウド管理で協調させるデモ。フロアを掃除する背が低いほうのロボットは常に動き続けているところに、奥で待機している配膳ロボットに飲料水のペットボトルを届けるよう指示を出す。この状況をクラウドに置かれたKDDIの「ロボットプラットフォーム」が管理して、2台のロボットが互いにじゃまをしないようなルートを定めて指示を送り、配膳ロボットはスムーズに手元までペットボトルを届けてくれた
2台のロボットの現在位置や向いている方向、走行状態などをロボットプラットフォームが認識していることを示すモニター表示
他社製のロボットをロボットプラットフォームで制御するために追加する通信機兼用のドングル。産業用ロボットで広く普及している「ROS」(Robot Operating System)で動くロボットであれば、このドングルを接続するだけでロボットプラットフォームで制御可能になる
接続にはUSB Type-Cケーブルを使う

 KDDIでは、自動運転やロボットといったモビリティは、安全面の考慮から閉域である工場や倉庫、オフィスなどの構内から普及が進んでいくと考えており、そこから道路などの構外に出てからが5GなどKDDIが取り扱う通信の力が生きてくると説明。スマートフォンも自宅やオフィスなどではWi-Fiに接続されているが、移動中にはセルラー通信を利用することになり、将来的にロボットの台数が人口を上まわるような時代が来たときに、構外での通信でしっかり支えていくことがWAKONX Mobilityの真価だと語り、通信事業者として培ってきた24時間・365日を安定して運用・監視していくノウハウを適用していくとアピールした。

自動運転やロボットといったモビリティは構内から普及して構外に出て行くと予想し、構外でのロボットの活動を5Gなどの通信で支えていく
通信事業で培ってきた24時間・365日の運用・監視ノウハウをモビリティに生かしていく

一般ドライバーが乗員輸送する「ドライバー登録プラットフォーム」

Community Mobility株式会社 代表取締役副社長 松浦年晃氏

 このほかモビリティ関連では、地域交通の課題解消に向けたAIと通信の活用について語り合うトークセッション「官民スクラムで挑む地域交通の課題解消~AIオンデマンド交通の可能性と未来~」がメインステージで実施された。

 トークセッションに先駆け、Community Mobility 代表取締役副社長 松浦年晃氏が日本における地域交通の課題やAIオンデマンド交通の可能性を拡大する同社の新サービスについて説明を行なった。

 これまでにもたびたび取り沙汰されているように、日本の地域交通は運転手の不足と利用者の減少といった問題が解消されず、バス路線がこの15年ほどで約2万km廃線となり、一般バス事業の事業者の99.6%が赤字状態。地方都市に住む人の主な移動手段が自家用車であるという人は、前期高齢者で70.2%、後期高齢者で56.3%となるなどあらゆる指標が危機的な状況を示しており、地域交通は大きな転換点に来ていると松浦副社長は指摘した。

運転手の不足と利用者の減少といった問題から日本の地域交通は大きな転換点に来ている

 問題点として「非効率な運行」と「ドライバーの高齢化と不足」を挙げ、この解消に向けてAIやオンデマンドテクノロジーといった新技術の活用、「日本版ライドシェア」や「自家用有償旅客運送」といった制度で1種免許ドライバーの地域交通参加といった流れが進んできていると説明。Community Mobilityも2022年1月にKDDIと高速バス運行を手がけるWILLERの2社によって、オンデマンドテクノロジーによって移動課題の解決にチャレンジする会社として設立されたことを紹介した。

 Community Mobilityが手がけるスマホアプリを使った乗り合い型移動サービスである「mobi」は、地域ごとにサービスを行なう事業者向けのAIオンデマンドシステムであり、これまでに30のエリアでサービス展開。費用対効果などの問題から減便、廃線されるバス路線の受け皿としても利用され、「非効率な運行」という問題の解消に寄与している。

「非効率な運行」と「ドライバーの高齢化と不足」という地域課題の問題点
Community Mobilityの「mobi」は「非効率な運行」を解消するAIオンデマンドシステム
30のエリアでmobiのサービスを展開
つくば市で実証実験が行なわれた「つくタクモビ」の実例

 一方の「ドライバーの高齢化と不足」については、4月にタクシー会社が運行主体となって一般ドライバーが自家用車などで乗客を輸送する「日本版ライドシェア」がスタートしているが、Community Mobilityも自治体やNPO法人などが運行主体になって一般ドライバーによる乗員輸送を行なうための「ドライバー登録プラットフォーム」をこの会場で発表。

「自家用有償旅客運送(道路運送法78条2号)」を背景に行なうこのサービスでは、2種免許ではない1種免許保有のドライバーに登録してもらい、アプリの評価機能などで管理を実施。ドライバー不足を認識しつつも募集や採用、管理が困難で、運行管理や利用者拡大などのハードルが高いと考えている自治体やNPO法人の問題を解消する新たなソリューションになるという。

「ドライバー登録プラットフォーム」は「日本版ライドシェア」とは異なり、自治体やNPO法人などが運行主体になる
デジタル技術でドライバーの募集や育成をトータルサポート
「mobi」に続き、地域交通の課題を解決する新サービスとしてドライバー登録プラットフォームが登場した
つくば市 市長 五十嵐立青氏

 松浦副社長に続いて登壇した茨城県つくば市の行政トップである五十嵐立青市長は、つくば市の交通課題と取り組みについて説明。

 スーパーシティ型国家戦略特区に指定されているつくば市では、「AIオンデマンドシステム」「自動運転バス」「パーソナルモビリティ シェアリングサービス」「自動追従ロボット」「ハンズフリーチケッティング」「こどもMaaS」という6つの分野でモビリティの取り組みを推進。mobiのサービスを利用した「つくタクモビ」もこの短期的アプローチの1つで、このほかにも筑波大学の構内で自動運転バスの試験運用も中期的アプローチとして進めているという。

 つくば市は人口増加率が日本一になった25万人都市だが、そのつくば市でもドライバー不足は進んでおり、バスの利用者が増える一方で、バス運転手の待遇改善に向けた厚生労働省の施策を背景とする“バスの2024年問題”によりドライバーが不足状態になったことで、バスの便数は平日で13%~14%減、土曜・日曜では33%減と大幅減便を強いられている。

つくば市が取り組んでいる6種類のモビリティサービス
スマホアプリで配車を行なう「AIオンデマンドタクシー」や自動運転バスでも交通課題に対応

 このドライバー不足に対応するため、つくば市と茨城県、土浦市、下妻市、牛久市の1県4市共同で「ドライバーバンク」の構築に着手。1種免許のドライバーにも乗員輸送を経験してもらい、2種免許の取得も支援してドライバー不足の解消を目指す。このドライバーバンクにAIオンデマンド配車アプリを組み合わせ、効果的に配車を行なうことで移動の需要に応えていく。ドライバーバンクについては9月中に合同記者会見を行なって正式に発表するとのこと。

トークセッション「官民スクラムで挑む地域交通の課題解消」

トークセッションの様子

 Car Watchやトラベル Watchの元編集長である谷川潔氏がモデレーターを務めたトークセッションでは、すでに登壇した松浦副社長と五十嵐市長に加え、国土交通省の有識者会議でピアレビュー委員なども務めるモビリティジャーナリストの楠田悦子氏も参加して4人で進められた。

モビリティジャーナリスト 楠田悦子氏

 楠田氏は松浦副社長と五十嵐市長のプレゼンテーションで明かされたドライバーバンクの取り組みについて「これは非常に珍しいと思います。ライドシェアで問題になっているのは供給力不足で、人を採用できていない部分です。バス会社さん、タクシー会社さんが人材確保できていないところで、それを公共の地域ライドシェアの枠組みで人を募集する、採用力を高めていくという面は弱いところで、これは注目を集めると思います」とコメント。

「1つ気をつけたいのは、いろいろな業界で人手不足になっているので、1種免許だから集まるだろうと楽観しないこと。『課題がたくさんあって人手不足で困ってます』と言っても人は来ないでしょう。とても魅力のある、やりがいのある仕事ですよとアピールして、それはお給料の面、労働環境の面もあると思います。採用力、育成力、継続力、マネジメント力などが問われますし、地域の広域に人を配置するとか、いかに止めてしまわないかを仕組み作りで支えるかがポイントでしょう」。

「そういった力がバス会社さん、タクシー会社さんに欠けているから、そこを補おうとデジタルの力を借りよう、若い人の採用力に任せよう、自治体さんに手伝ってほしいという流れになっているので、このドライバーズバンクでもしっかり取り組めなければ同じ状況に陥ってしまうので、ぜひやり遂げてほしいなと思っています」と語った。

松浦副社長

 松浦副社長はドライバーズバンクについて「2点ほど気になっていて、まずドライバーズバンクでは一般のドライバーさんに動いてもらうことになるので、私たちも採用する段階でしっかりと安全面に気をつけなければならないと思います。われわれCommunity Mobilityとして本格的に対応しますという言葉の中には、ドライバーさんに安全運転してもらうための研修プログラムを作って、また、クルマには乗る人と運転する人の双方に評価するレーティングシステムを用意することで、みんなが安心して利用できる仕組み作りに取り組みたいと思います。乗る人、乗せる人の双方が気持ちよく過ごせるよう、接客の部分もプログラムとしてしっかり提供していきたいですね」

「そんなノウハウがどこにあるのかと言えば、テクノロジーの部分はKDDIですし、運行については高速バスに携わってきた、そしていろいろなことをやってきたWILLERがありますので、そこの力を借りてよりよい地域交通を作っていきたいと思っています」と意気込みを述べた。

 モデレーターの谷川氏から評価システムについて質問され、「そこが私たちが新しいシステムを提供していく責任だと思います。100%までやりきれているかという点はこれからも議論していかなければなりませんが、これまで2年にわたって(mobiで)30エリアでサービスを行なってきて、どんなところが問題になるか、どんな課題が出るか、そのあたりを先まわりしてどんなもの作りをすればいいのかは、お客さまの声、自治体さまの声、運行事業者さまの声といろいろな声をいただいておりますので、その点からもの作り、テクノロジーの観点から担保していくことが大事だと思います」と説明している。

五十嵐市長

 ドライバーズバンクの今後の動きについて五十嵐市長は「今月中に共同記者会見を開いて、10月からドライバー募集をいっせいに始めます。制度自体は来年の1月から実際の運用がスタートするということで、もうすぐに始まります」と解説。

 導入のきっかけについては「市民の意識調査をすると、不満の最上位は常に公共交通です。みんな自由に移動したいと思っているのに、仕組みが追いつかずできないんです。しかし、移動の自由が少しでも改善されていけば、市民の大きな課題解消につながるわけです。また広い地域ですが、クルマを持たなくても生活できそうだなという安心感を駅のすぐ近く以外の人にも持ってもらえれば、都市計画の面でもとても価値があると思います」。

「公共交通というものは、どこに幹線を走らせ、そこからどのように支線をつないでいくかになりますが、公共交通のバスでは埋められないエリアを地域内の自由な移動である程度完結させることができるようになれば、住む場所の選択肢が一気に広がるだろうと思います。一定の拠点までは乗り合いでシェアするような仕組みができあがって、そこからは幹線のバスを利用するといった発想で都市計画を考えていけると思います。移動性の確保というものは街にとっていろいろな角度からメリットをもたらしてくれますね」と語っている。

株式会社インプレス コンシューマメディア事業部 執行役員・事業部長 谷川潔氏