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KDDIとトヨタ、スマホを使ってクルマと自転車の交差点接近を双方に知らせる「Vehicle to Bike」など3種類の連携技術を解説

2024年2月20日 開催

KDDIが実施した「つながるモビリティ社会に向けた取り組み」説明会の登壇者

 KDDIは2月20日、トヨタ自動車と連携して進めている「つながるモビリティ社会に向けた取り組み」に関する説明会を開催した。

 KDDIとトヨタは以前から資本関係を持っており、カーナビを使ったトヨタのテレマティクス事業「G-BOOK」サービスなどで協業。2020年10月には提携関係をさらに強化することを目的とした新しい業務資本提携で合意して、通信とモビリティを融合させ、ユーザーに安全性と快適さを提供する取り組みを加速させている。

 取り組みでは「安全・安心なモビリティ社会の実現」「グリーンなモビリティ社会の実現」「モビリティ体験価値の拡張」というテーマを設定し、両社が持つ技術やノウハウ、データ資産などを持ち寄って研究開発を進めてきた。同日はこの成果として、「安全・安心なモビリティ社会の実現」のテーマにおける3種類の技術について明らかにされた。

「安全・安心なモビリティ社会の実現」「グリーンなモビリティ社会の実現」「モビリティ体験価値の拡張」という3つのテーマを取り組むべき課題に設定

クルマと自転車をつないで交通事故を抑制する「Vehicle to Bike」

KDDI株式会社 執行役員 経営戦略本部長 門脇誠氏

 発表会では最初に、KDDI 執行役員 経営戦略本部長 門脇誠氏が登壇。KDDIが掲げている中期経営戦略と20年以上にわたって取り組んでいるIoT技術の歴史などについて説明し、モビリティの領域ではクルマやドローン、物流、ロボティクスなどを通信の力で連携させてることで、社会課題を解決し、新しい体験価値を創造していきたいとの考えを示した。

通信の力でモビリティを連携させ、社会課題の解決と新体験の創出を目指す

 トヨタとKDDIは20年以上にわたりカーナビでデータ通信するテレマティクスサービスで連携。2022年からは「街、家、人、クルマのすべてがつながる社会を見据えた共同検討」をスタート。モビリティでは、「安全・安心」の分野で交通事故が過去から引き続き課題になっており、全体の40%を占める見通しのわるさに起因する事故を通信の力で解消していくことを目的に設定。また、新たな問題として車両の高度化、複雑化と通信でつながるコネクティッドカー化でセキュリティが重要課題となっており、通信事業者として貢献することを目指しているという。

 気候変動対策として重要なCO2排出削減では、車両自体の環境性能向上に加えてコネクティッドカー化による通信量の増大を受け、データ処理における省エネルギー技術も求められるようになっている。さらにモビリティを単なる移動手段で終わらせないよう、移動中に加え、移動前後まで含めて車内でさまざまなサービスを提供して生活空間と車内をシームレスにつなぐ移動体験を提供。この背景でやはり通信が重要な役割を果たすことになる。

2022年から「街、家、人、クルマのすべてがつながる社会を見据えた共同検討」をスタート
「安全・安心」では交通事故の削減とセキュリティ強化が必要
通信の分野からもグリーン化に取り組んでいく
通信を使うことでモビリティに新たな価値を提供する

 こうしたテーマを解決していく具体策として、安全・安心の実現では、「交通デジタルツイン」を活用した交通事故の低減、「つながる みまもりセンター」による高セキュリティ化に着手。

 カーナビの自車位置データやスマートフォンによる人流把握、車載センサーの情報を使って交通デジタルツイン内で交通危険箇所を可視化することで、潜在的な危険エリアを客観的なデータで把握できるようにした「危険地点スコアリング」が開発された。また、車両と外界情報を連携させる「V2X」と「危険地点スコアリング」を連携させた技術の第1弾として、クルマと自転車の相互をつないで交通事故の危険を抑制する「Vehicle to Bike」も合わせて発表されている。

「つながる みまもりセンター」は交通デジタルツインを構成する車両情報、ネットワーク情報、クラウドサーバー情報を監視する役割を担い、走行する車両のトラブルや通信障害などに加え、コンピューターウイルス感染や外部からの侵入、攻撃を検出して対処するという。

「交通デジタルツイン」と「つながる みまもりセンター」で安全・安心なモビリティ社会を目指す

 また、今回発表の技術は含まれていないものの、再生可能エネルギーの利用と電力使用量の抑制によるCO2削減では、「液浸コンテナ」でデータのエッジ処理を行なう「グリーンエッジ処理」による消費電力削減、即時処理の必要がないデータを再生可能エネルギーが利用できるサーバーに優先的に割り当てる「グリーン優先ルーティング」、モビリティ体験価値の拡張では、状況や顧客ごとの好みなどを反映したレジャーやアクティビティなどの提案、移動環境に合わせた通信環境を使い分け可能にする「マルチパス通信」などの技術開発を進めていると門脇氏は説明した。

「グリーンエッジ処理」で消費電力を削減し、「グリーン優先ルーティング」で再生可能エネルギーを有効活用
KDDIとトヨタのサービスを組み合わせて新たなモビリティ体験を創出する

潜在的な危険地点を見える化する「危険地点スコアリング」

KDDI株式会社 技術統括本部 技術戦略本部長 大谷朋広氏

 同日発表した3つの技術の具体的な内容は、KDDI 技術統括本部 技術戦略本部長 大谷朋広氏が解説を行なった。

 新たに発表した3技術は、トヨタと共同で社会実装に向けた進めている3つのテーマのうち、「安全・安心なモビリティ社会の実現」での取り組みとなっており、潜在的な危険地点を見える化する「危険地点スコアリング」、クルマと自転車の位置情報を活用した接近通知である「Vehicle to Bike」、個車単位での状況把握を可能とする「つながる みまもりセンター」となっている。

「危険地点スコアリング」「Vehicle to Bike」「つながる みまもりセンター」を開発

 まず、潜在的な危険地点を見える化する「危険地点スコアリング」では、KDDIとトヨタが保有する「人流データ」「車両データ」「オープンデータ」を、両社が培ってきたAI技術を持ち寄って新たに生み出した専用AIを使って分析。交通事故が発生するリスクに応じて「高」「中」「低」の3段階で色分けし、道路ごとの危険度をひと目で分かるようにする。

 また、それぞれの危険要因も確認可能としており、例えば「高齢の歩行者が多い」「自転車の交通量が多い」「急ブレーキが多発している」といった要因でリスクが「高」と判定されている箇所には、道路脇に一時停止の標識を追加したり、自転車通行帯を新設したりといった対策を講じることにより、交通事故の発生リスクを抑制できるというように、道路管理者が安全・安心な街づくりに利用できる仕組みとして、主に自治体や企業向けのソリューションとして、今春から提供を開始していく。KDDIは以前から動態分析ツール「KDDI Location Analyzer」を自治体や企業向けに広く提供しており、このスキームも使って「危険地点スコアリング」の利用を呼びかけていくとのことだ。

道路の危険度が3段階で色分けされ、ひと目で判別可能になる
2024年春から自治体や企業向けに提供開始

 リスクのスコアリング精度を高めるため、「人流データ」では歩行者の人数や属性、移動速度で判別する自転車利用など、「車両データ」では通行量や平均車速、急ブレーキの発生率といった多様なデータを組み合わせて分析に活用している。

 一方で、近年はAIの高度化が顕著になっているが、高度化に伴って「なぜそのような結果になったのか」が不明になるブラックボックス化の懸念もあることを受け、ここで利用されている専用AIでは敢えて処理レベルを抑え、分析結果を見てオペレーターが適宜チューニングできるようにしている点も特徴になっているという。

多様なデータを組み合わせてリスクのスコアリング精度を高めている
発表会場では新技術のデモ展示も実施
スコアリングが分かりやすいよう、利用データ別の表示も行なわれた。、KDDIの「人流データ」(上段)、トヨタの「車両データ」(中段)を組み合わせ、AIが「危険地点スコアリング」(下段)を生成している
スポットごとの要因分析も分かりやすく表示可能。標識設置などに加え、地域ごとのヒヤリハットマップ作成などにも役立ててほしいとのこと

クルマと自転車の位置情報を活用した接近通知「Vehicle to Bike」

スマホを活用して交差点などのリスクを低減する「Vehicle to Bike」

「Vehicle to Bike」は、スマホに搭載されているGPSで測位したリアルタイムの位置情報に加え、「危険地点スコアリング」や専用アプリ「V2B」を活用する新技術。

 クルマやバイク、自転車で移動するときにV2Bアプリを起動させておくと、走行中に「危険地点スコアリング」で高リスクと判定された交差点に接近して、双方の位置情報を収集したクラウドが「事故発生のリスクがある」と判定した場合、交差点に入る10秒~5秒前までの時点でそれぞれに音声と文字情報、アイコン表示のプッシュ通知で危険を知らせる。

 既存のADAS(先進運転支援システム)同様、運転中の安全確認はドライバーや自転車乗員が第一に担う点に変わりはないが、見通しのわるい交差点に同じタイミングでアプローチするほかのクルマや自転車がいることを事前に通知することにより、通過速度を抑えて事故の発生や衝突時の被害を低減する効果が期待できるという。

 トヨタと名古屋大学による共同研究により、通知で適切なタイミングは「交差点進入の5~6秒前」とされたことを背景に通知タイミングが定められたほか、「危険地点スコアリング」を活用して通知対象に含める検索範囲を絞り込んで処理の軽量化を図り、交差点での衝突判定ロジックを高速化して通知が遅延しないシステムを構築。交差点の近くまで接近している交差点進入5秒未満になってからは、通知に気を取られて逆にリスクが高まることに配慮して、通知は行なわず、クルマのADAS機能に任せる仕組みとなっている。

余裕を持って減速してもらえるよう、交差点進入の5秒前までに通知を行なう
交差点に接近してからは通知に気を取られてしまわないよう、通知を行なわない設計となっている

 1年前の2023年2月1日~28日には東京都板橋区の公道で実証実験が行なわれ、交差点の進入速度が平均10.1km/h減速する効果があることを確認。接触事故を未然に防いだり、重篤事故に至る危険性が軽減されることが期待できると大谷氏はアピールしている。

 なお、実証実験の様子をまとめたムービーでは、自転車側はハンドルにスマホを固定するブラケットが取り付けられているが、これはムービーで機能をわかりやすく表現するための演出とのこと。実際の実証実験中は基本的にスマホをポケットなどに入れていたが、音とバイブレーションでしっかりと通知が分かったとのこと。これから一般向けにアプリ配布が行なわれるようになってからも、自転車に乗っているときは画面を注視せず、ディスプレイを消灯して利用してほしいとの注意喚起も行なわれた。

1か月に渡る実証実験で、交差点の進入速度が平均10.1km/h減速する効果があると確認された
「Vehicle to Bike」のデモ展示。画面の情報が分かりやすいよう、大型ディスプレイにミラーリング表示している
実際のスマホ画面。縦横どちらでも表示可能
V2Bアプリ。「移動タイプ」は手動切り替えで設定する
音声に加え、文字情報とアイコン表示のプッシュ通知で危険を知らせる
KDDI「Vehicle to Bike」実証実験のまとめムービー(3分58秒)

個車単位での状況把握が可能な「つながる みまもりセンター」

コネクティッドサービスを監視する「つながる みまもりセンター」

「つながる みまもりセンター」ではコネクティッドサービスでつながるネットワークをセンターで横断的に監視。個々の車両で発生しているトラブルのほか、KDDIのモバイルネットワーク、トヨタのサーバー情報などを把握して、ネットワークを通じた外部からの攻撃やマルウェアに感染した車両からの攻撃などを通信パターンの差異で検知。車両に問題が起きないよう未然にブロックしたり、影響の軽減、早期の正常化といった対応を行なう。

 また、複雑化するソフトウェアの異常検知、原因の特定では、車両、ネットワーク、サーバーを紐付けることで、連動するソフトウェアの挙動変化を通信区間でトレースしてサービスに影響を及ぼす異常を検知する。

通常とは異なる通信パターンから外部からの攻撃を検知
連動するソフトウェアの挙動変化でソフトウェアの異常検知、原因の特定を行なう
「つながる みまもりセンター」の技術デモ。障害発生時のパターンにより、影響するエリア、影響を受ける可能性がある車両の台数なども把握可能
トヨタ自動車株式会社 情報システム本部 情報通信企画部 部長 木津雅文氏

 また、発表会にゲスト参加したトヨタ自動車 情報システム本部 情報通信企画部 部長 木津雅文氏は「KDDIさまとトヨタは、コネクティッド領域における重要なパートナーとして、テレマティクスサービスの提供を皮切りに、20数年に渡りご一緒させていただいております。これまで培ってきた技術やノウハウ、そしてKDDIさまやトヨタが保有するアセットなどのサービスを活用することによってさまざまな社会課題の解決、皆さまの生活を豊かにするような新たな価値を生み出すことを両社で目指しております」。

「本日、KDDIさまから紹介していただいたように、『安全・安心』『グリーン』『モビリティ体験価値』という領域で2020年から取り組みを進め、成果が少しずつ創出されております。今後も『つながるモビリティ社会の実現』に向け、通信事業者さまならではの取り組みをトヨタを含めて継続させていただき、お客さまや広く社会に貢献するビジネスへと結実させていただきたいと考えております」とコメントしている。