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マツダが発表した「ライトアセット戦略」とは? 電動化時代へ向けた企業全体で取り組む挑戦だった
2025年3月19日 12:51
- 2025年3月18日 実施
マツダは3月18日、電動化のマルチソリューションを具現化する「ライトアセット戦略」の発表に合わせて、都内で「マルチソリューション説明会」を実施した。登壇者は、代表取締役社長兼CEOの毛籠勝弘氏、取締役専務執行役員兼CTOの廣瀬一郎氏、常務執行役員で電動化推進担当の梅下隆一氏、常務執行役員で生産技術・グローバル品質・カーボンニュートラル・コスト革新担当の弘中武都氏の4名。
電動化トランジションのロードマップでは、2025年~2027年に「SKYACTIV-Z」とマツダ製ハイブリッドシステムを搭載する次期「CX-5」、MHEV(マイルドハイブリッド)を搭載するタイ生産の小型SUV、EV専用プラットフォームを採用するバッテリEV、長安汽車との合弁会社によるバッテリEV第2弾となるクロスオーバーSUVを導入することを明らかにした。
資産の負担を抑えながら活用し、競争力を高める「ライトアセット戦略」
まず代表取締役社長兼CEOの毛籠勝弘氏は、2022年に発表した2030年に向けた経営方針の進捗について、フェイズ1として設定していた2022年~2024年の期間は、ラージ商品群の発売、原価低減活動の強化やサプライチェーンの強靭化により成長投資の原資を獲得してきたこと。また、カーボンニュートラル時代と電動化時代に向けた準備として開発の強化を実施するなど、おおむね計画通りに進捗してきたと報告。
2025年~2027年はフェイズ2となり、経営効率の改善を前提としつつ、電池の調達やバッテリ技術の開発、後半でのバッテリEVの導入など、いよいよ電動化へ向けた本格的な移行期間を目標に掲げている。
しかし、自動車業界を取り巻く環境は、「インフレによる大幅なコスト増」「地域によって電動化への移行速度差が大きい」「各国の保護貿易政策の不透明さ」「戦争、政権交代などによる地政学リスクの高まり」など、複数の不確実性要素が折り重なっていることから、毛籠社長は、「資産の負担を抑えつつ活用を高めることで、競争力を高める“ライトアセット戦略”を推進しております」と説明。
このライトアセット戦略により、2022年11月に公表した「電池投資」については、トヨタ、デンソー、ブルーイーネクサスとの電動化技術開発の協業や、中国の自動車メーカー長安汽車(重慶長安汽車股份有限公司)の共同開発バッテリEVの投入などにより、全ての電池を自前で調達する想定に、さらにインフレ影響を加味した場合の7500億円から、およそ半減できる見通しという。併せて、2030年までの電動化投資は当初の1.5兆円がインフレの影響で2兆円規模になる見込みだったが、電池投資などの最適化により総額1.5兆円程度に抑制できるとしている。
進化するマツダの「ものづくり革新」
続いて廣瀬氏が「ものづくり革新」についての説明を実施。マツダは約30年前の1996年からデジタルを導入していて、データの一元化により商品企画~量産準備の期間を10年で50%短縮するなどノウハウを積み重ねてきた。そして2006年に「ものづくり革新」をスタート。開発の工数、生産のリソースをフル活用し、生産ラインを常に100%稼働させるため、開発と生産が一緒になって考える「一括企画」という手法を推進して、その結果さまざまな車種を1つのラインで生産できる「混流生産」を生み出した。
また、エンジンを制御するソフトウェアについても、エンジンを1種類にしぼることで、ソフトウェアを1つにまとめられ、適合開発期間も50%削減できたという。
今後は、その「ものづくり革新」をサプライチェーンまで広げた「ものづくり革新2.0」へと進化させ、電動化や知能化、ソフトウェア開発といった、多様性の幅がさらに広がった電動化時代へ対応していくとしている。
すでに防府工場では、工場内を自由に動きまわる「AGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)」を採用していて、パワートレーンの組み立てラインでは搭載位置の異なる車種でも、自動的にAGVが位置を調整して搭載でき、バッテリEV専用の電動ユニットであっても問題なく搭載できるという。
廣瀬氏によると、資産の負担を抑えながら活用し、競争力を高める「ライトアセット戦略」と、進化する「ものづくり革新2.0」との組み合わせは、強い相乗効果を発揮して開発生産性を3倍ほど伸ばせるとしている。
理想の燃焼効率を実現するエンジン「SKYACTIV-Z」
続けて廣瀬氏は、今でも理想の燃焼効率を目指してさらなる開発が続けられている内燃機関「SKYACTIV」シリーズの進化についても言及。2011年に登場したガソリンエンジンのSKYACTIV-G、2012年に登場したディーゼルエンジンのSKYACTIV-Dは、それぞれSKYACTIV-X(2019年)、e-SKYACTIV-D(2022年)へと進化を遂げている。
2027年には理想の燃焼効率を実現したエンジン「SKYACTIV-Z」を完成させ、マツダ独自のハイブリッドシステムと組み合わせて次期「CX-5」に搭載する予定となっている。このSKYACTIV-Zは、出力を下げることなく、欧州ユーロ7、米国LEV4、Tier4など厳しい排ガス規制に適合する電動化時代の基軸となるエンジンになるという。
バッテリEVモデルの導入戦略
続いて電動化推進担当の梅下氏が登壇。すでにフェイズ1ではバッテリEVが高いシェアを持つ中国にて、2006年からパートナーとなっている長安汽車との協業で「EZ-6」の発売を開始。フェイズ2では協業第2弾となるクロスオーバーSUVモデルの導入も決めている。2028年以降のフェイズ3では、第3弾、第4弾も検討しているという。
一方国内では、通常7階層ある部署を迅速な意思決定ができるように3階層まで集約した電動化専門部隊「e-MAZDA」を発足。AIを活用したモデルベース開発を行ない、バッテリEV専用プラットフォームの開発を急ぐとしている。ここにも「ものづくり革新2.0」が活用され、形状や性能、調達環境のほか、車両のサイズ、航続距離、充電時間、価格など、どのような電池タイプでも搭載できる高いフレキシビリティを持った独自のプラットフォームを目指す。
マルチソリューションを支える生産戦略
最後に、生産技術・グローバル品質・カーボンニュートラル・コスト革新担当の弘中武都氏は、「ものづくり革新を始める以前は、開発部門が車種ごとに構造設計を行ない、続いて生産部門が工程設計を行ない、さらに車種ごとに生産工程設備が異なり、新たな車種を導入するたびに新しい設備の投入が必要でした。これにより生産ラインは車種が限定され、またそのラインの中で全ての部品を組み付けるためとても工程数が多く、距離も長いラインでした」という。加えて、「車種が増えるたびに工程を追加し、ラインを増設するといった投資が必要となるだけでなく、車種の需要変動に対してラインの稼働率が低下する課題がありました」と振り返る。
そこで、ものづくり革新1.0では、5年~10年先に必要となる商品や技術を一括企画して、車種開発の構想段階から開発と生産が一緒になり、車種間で搬送する基準、部品の組み立ての順番、組み付けなどの方法・工程を共通化を実施。
それを前提にした生産設備を導入することで、車種や世代を超えた混流生産のできるメインラインを構築。また、車種によって作業手順や工程数が異なるパワートレーン、内装のインパネなどの部品群はサブラインという複数の部品を一塊にするラインでモジュール化し、メインラインで搭載する仕組みを開発したほか、生産量の変動にも対応できるようにもしたという。これにより、メインラインが非常にシンプルかつ短くなり、工程数4割減を実現できたうえ、柔軟性が圧倒的に高くなり、高い稼働率を維持できるようになったとしている。
ものづくり革新2.0では、サブラインを固定された組み立てラインから、根の生えないAGV(無人搬送車)上で組み立てを行なうラインに変えることで作業方法の制約をなくし、作業性を向上。また、AGVの台数を変えることで、工程数を自由に変えられるため、バッテリEVも含めた作業量の異なる多様なパワートレーンを組み立てられるという。
弘中氏は、「バッテリEVを生産するなら工程数が少ないから専用工場を作る方が効率的ではないですか? とよく聞かれるのですが、マツダはすでに生産ラインの工程数削減を実現しているほか、AGVを活用しつつ同一生産ラインで多様な車種を生産できる“混流生産”を確立していることから、バッテリEV専用の生産ラインは不要なんです」と改めてアピールした。