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三菱自動車、2024年度通期決算は売上高0.0%減の2兆7882億円、営業利益27.3%減の1388億円、当期純利益73.5%減の410億円で減収減益

2025年5月8日 開催
オンライン開催された2024年度通期決算説明会に出席した三菱自動車工業株式会社 代表執行役社長 兼 最高経営責任者 加藤隆雄氏(左)と同代表執行役副社長(CFO)松岡健太郎氏(右)

 三菱自動車工業は5月8日、2024年度通期(2024年4月1日~2025年3月31日)の決算を発表した。

 2024年度通期の売上高は前年同期(2兆7895億8900万円)から0.0%減となる2兆7882億3200万円、営業利益は前年同期(1909億7100万円)から27.3%減の1388億2600万円、営業利益率は5.0%、経常利益は前年同期(2090億4000万円)から52.8%減の986億200万円、当期純利益は前年同期(1547億900万円)から73.5%減の409億8700万円。また、グローバル販売台数は前年同期(81万5000台)から2万7000台増の84万2000台となった。

対前年度で減収減益だが、第3四半期の下方修正からは上まわる通期決算

三菱自動車 2024年度通期決算の業績サマリー

 オンライン開催された決算説明会では、最初に2024年度通期の決算内容について三菱自動車工業 代表執行役副社長(CFO)松岡健太郎氏が説明。

 2024年度はタイ、インドネシアの自動車需要の回復が遅れ、世界的な車両供給不足が緩和したことによる競争激化など影響で厳しい経営環境となった。そのなかで三菱自動車は、上期はインフレ対応などの固定費増加などがありつつ、為替の追い風によってしっかりと収益を伸ばすことができたが、下期になってコスト通貨のタイバーツの影響で為替影響もマイナスに転じて厳しさを増した。

 しかし、新型車投入を軸とした販売台数増を着実に収益につなげ、コスト・費用削減の徹底によって第3四半期に下方修正した通期営業見通しを上まわる形での通期決算となっていることを説明した。

2024年度通期のグローバル販売台数と市場別の内訳

 グローバル販売台数では、全体としては市場環境が厳しくなっているなかでもモデル刷新、電動化の促進、販売ネットワーク強化などの施策によって主要国でのシェア拡大に注力。修正後の見通しに対してわずかにマイナスとなったものの、対前年度比でアセアン、日本、北米などの主要市場で販売台数が増加している。

 一方、欧州販売は主要国での景況感悪化、政情不安などの先行き不透明感で総需要が低迷した影響で販売台数が11%減、中国ほかでの販売は、2023年度に実施した抜本的な構造改革の影響で対前年度比で減少となっている。

2024年度通期の営業利益変動要因
2024年度第4四半期の営業利益変動要因

2025年度通期見通しは売上高2兆9500億円、営業利益1000億円、当期純利益400億円

2025年度の三菱自動車業績見通し

 すでにスタートしている2025年度の業績見通しについては、三菱自動車工業 代表執行役社長 兼 最高経営責任者 加藤隆雄氏が解説した。

 2025年度は米国の関税政策に端を発する国際経済の混乱により、グローバルで景気に不確実性が増すとの判断から、2025年度通期業績見通しを売上高2兆9500億円、営業利益1000億円、経常利益900億円、当期純利益400億円と発表。これらの数字は売上高のみ6%増としつつ、ほかはそれぞれ減少となる。また、グローバル販売台数は対前年度4%増の87万8000台としている。

 なお、これらの見通し数値は現時点で米国が発表している関税影響を織り込んだものとなっており、今後も四半期ごとに細かく業績見通しをアップデートしていくと加藤社長は述べている。

2025年度通期業績見通しの営業利益変動要因

 また、2025年度の通期業績見通しにおける営業利益変動要因も解説され、2024年度に市場投入した新型車の通年貢献、これから2025年度に市場投入を予定する新型車の投入効果によって販売台数、販売ミックスによる増益に寄与。一方、競争激化による販売費の増加、対前年で穏やかに円高に推移すると予測する為替などが減益要因となり、この結果として関税の影響を除いた試算としては1400億円の営業利益となるが、米国の関税影響で300億円、その他の国でも関税の影響による景気後退で100億円の減益になると現時点で試算している。

 関税影響と卸売り台数の減少をコスト削減などの施策である程度吸収。2025年度は景気の下振れリスクが非常に高く、コスト、費用などの徹底的な削減を図って営業利益1000億円達成を目指すとしている。

2025年度通期におけるグローバル販売台数と市場別内訳の見通し

新型軽自動車を2025年度に発売

2025年度の「商品パイプライン」

 通期見通しで公表した対前年度4%増となる87万8000台のグローバル販売台数を実現する具体的な施策についても加藤社長は説明。

 三菱自動車の成長ドライバーとなっているアセアン・オセアニア地域では、2025年度通期では全般的に厳しい状況が続くと予測。タイ市場では家計債務比率が依然として高水準でマクロ経済の回復も見込めていない。インドネシア市場では増税や新政権が行なう分配政策による景気停滞が懸念材料となり、ベトナムとマレーシア市場は米国の相互関税の影響を受ける可能性がある一方、フィリピンは比較的好調な市場環境が続くと予想している。

 こうした市場環境のなか、新型車の投入をてこに、販売ネットワークの改善、現地金融機関との連携などをつうじて販売台数の拡大を目指し、コストと費用の削減を徹底して利益拡大を図っていく。

 また、オセアニア市場については政策金利高、主要産品の輸出先である中国経済の低迷の影響を受けた豪州経済の冷え込みを想定。市場シェアの維持を最優先事項としつつ、すべてのグレードが出そろった新型「トライトン」、モデル刷新を行なった「アウトランダー」シリーズの販売を強化していく。

アセアン・オセアニア地域の2025年度予測と施策

 レバレッジ地域としている中南米・中東アフリカ地域では、中南米の主要国であるブラジル市場は政策金利の高止まりで自動車需要の成長が鈍化すると予測。しかし、三菱自動車ではブラジルにおける高いブランド力を活用し、新型車の継続的な市場投入と新型トライトンの上級グレードをプライベート向け販売で強化することで持続的な成長を目指していく。

 中東地域では大きな変化は見られず、おおむね前年並みでの推移を予測。ブランドの柱となっているアウトランダーや「モンテロ スポーツ」を販売の中心に据え、2024年度に投入した「L200 トライトン」を市場に浸透させていく。

中南米・中東アフリカ地域の2025年度予測と施策

 先進技術推進地域である日本・北米・欧州地域については、日本の国内市場はおおむね前年度並みの自動車需要があると予測。“三菱自動車らしさ”を象徴する車種でブランド力の強化を続け、新型車をてこにしたさらなる販売拡大、他商品への波及効果の最大化を結びつけていく計画。販売の現場ではデジタル化を加速させ、販売効率を高めていく。また、今後も続く新型モデルの投入に向け、販売ネットワークの拡大、サービス体制の整備などによって中長期的な成長改善にも取り組んでいくとした。

 北米市場では関税リスク、金利高止まりの可能性、景気鈍化リスクなどにより市場環境は不透明な状況が続いているほか、市場競争の激化も予測されているが、商品力を大幅に強化したアウトランダーシリーズをコアとして販売モメンタムを維持しつつ、市場の変化に迅速に対応して収益確保を優先していく。

 欧州では対前年度比で自動車需要が若干減速すると見込まれ、米国の関税による影響もあって不確実性が増している。そのなかでも三菱自動車では、2024年度末に投入した「アウトランダーPHEV」の拡販に取り組み、予定している新型車投入を着実に立ち上げることでユーザーニーズに応えていく。

日本・北米・欧州地域の2025年度予測と施策

 このように、2025年度はすでに市場投入しているアウトランダーシリーズに加え、2025年3月にタイで世界初公開した「エクスフォース HEV」の販売が本格化。さらに2024年10月にフィリピン国際モーターショーで世界初公開したミッドサイズSUV「MITSUBISHI DST CONCEPT」の量産モデルを、インドネシアを皮切りとしてアセアン各国に投入していく。

 日本国内向けとしては軽自動車のフルモデルチェンジを予定しており、「新しいセグメントへの挑戦、既存車種の発信強化、アライアンスの活用などをつうじて商品ラインアップの充実を図ってまいります」とコメントしている。

米国の日産工場に共同投資して、次世代SUVを両ブランドで生産、販売

中期経営計画「Challenge 2025」の進捗状況

 これに加え、加藤社長は中期経営計画「Challenge 2025」の進捗状況についても説明を行なった。

 経営KPI(重要業績評価指標)の推移としては、計画初年度の2023年度は「販売の質向上」と「手取り改善活動」への注力によって台あたり売上高と営業利益の目標をおおむね達成したものの、2024年度はアセアン市場の市況回復が遅れたこと、米国におけるインセンティブの増加、インフレを背景とした資材費の高騰などによる影響で対前年で減益決算となった。今後もタイやインドネシアの本格的な市場回復が見通せず、他地域でも不透明感が高まっていることで、2025年度の台数損益目標で達成時期に遅れが生じる見込みであると述べた。一方、自己資本の面は達成に向けて順調に進捗しているとアピールしている。

 主要施策の進捗では、まず「自社製BEVを含めた電動車開発の推進」について説明。計画では自社製BEV(バッテリ電気自動車)の2モデルを含む電動車を9モデル投入することを予定していたが、2024年前後からBEVの世界需要の成長が踊り場に入り、より現実的な環境技術としてPHEV(プラグインハイブリッド車)やHEV(ハイブリッド車)が再評価されている環境の変化を踏まえ、当面のあいだはBEVが求められる市場に向けてはパートナーからのOEM供給による製品投入を主軸として、三菱自動車では優位性を持っているPHEVやHEVの開発に専念していくことにしたとコメントしている。

「アセアン新商品の連続投入によるアセアン地域の収益力強化」では、アセアン市場は現在でも三菱自動車の重点市場であることに変わりはないが、この2年間で中期経営計画策定当時に想定していたような市場成長は出ていない。とくにタイ市場では市場の冷え込みと同時に、BEV向け税制優遇の恩恵を受けるべく多数の新規ブランドが市場参入。過剰供給と値引き競争の過熱が市場を混乱させており、市場低迷の長期化が懸念されていると指摘した。一方、フィリピン、ベトナムは順調に市場が伸び、計画どおりのシェア拡大によってアセアン全体での収益強化に貢献している。

 アセアン市場向けのモデルについてはクルマに対する要望が高度化、知能化することで開発工数の増加につながり、市場投入の遅れにつながっていると明かした。この影響により、新商品の連続投入による販売台数拡大の時期について、想定していたより時間がかかっていると述べた。

 このほか、地域戦略の1つとして計画初年度に実施した中国市場からの撤退については順調に作業が完了。現在はアフターセールスのフェーズに移行しているという、大きな痛みを伴う経営判断となったが、中国自動車市場の現状を踏まえ、適切な方針変更だったのではないかと自己評価した。

「自社製BEVを含めた電動車開発の推進」では、BEVはパートナーからのOEM供給を主軸として、三菱自動車はPHEVやHEVの開発に専念
アセアン市場でクルマに対する要望が高度化、知能化。開発工数の増加が市場投入の遅れにつながっている

「三菱自動車らしい車の投入によるブランド力の強化」では、近年はアセアン地域などの新興市場に中国メーカーを含む多くの新ブランドが参入して競争が激化。従来以上にブランド力の強化が重要になっており、“三菱自動車らしさ”を具現化したモデルの市場投入によってブランド力強化を実施。ホームマーケットである日本市場では、「デリカミニ」「トライトン」の認知度が向上したことを背景にブランド力が高まって、2024年度は対2020年度比でマーケットシェアが1%向上。今後も新製品の継続的な投入でさらなるシェア拡大、販売台数増を図っていく。

 このほか、中期経営計画でも掲げている新規事業開発の取り組みも推し進め、主力であるアセアン地域ではフィリピンの「セキュリティバンク」との協業で「三菱自動車ファイナンスフィリピン」を設立して今春から営業を開始。豪州では自動車関連金融サービス会社大手の「フリートパートナーズグループ」に出資して、豪州における法人向け事業の拡大、さらなる販売台数増と収益拡大に取り組んでいる。

 日本国内でも「KALUZA JAPAN」「MCリテールエナジー」「三菱商事」の3社と協業して、電動車のコネクティッド技術を活用したスマート充電サービスの商用事業をスタート。このほかにも「Yanekara」との協業では、岡山県倉敷市の倉敷市役所駐車場で公用車に対する充電サービスを運用している。

「デリカミニ」「トライトン」の認知度向上を背景に日本国内でのブランド力を強化
協業による新規事業開発にも積極的に取り組んでいる

 商品展開では2025年度以降もまずはアセアン戦略車のラインアップ強化に注力。ここで生み出されたモデルはアセアンにとどまらず、中南米・中東やオセアニア、日本での販売にも展開していき、グローバルでの収益力向上を図っていく。グローバルモデルについては自社ブランドに加えてさまざまなパートナーとの協業により、地域に応じたラインアップの強化・拡充を推し進めていく。これらによって経済変動の柔軟に対応できる強靭なグローバルポートフォリオを構築していく。

 グローバル展開で不可欠なパートナーとの協業については今後もさまざまなパートナーとの協業をつうじ、ラインアップの拡充と地域事業の強化、収益化に向けて順次取り組みを加速させていくと説明。欧州ではルノーからSUV、BEVのOEM供給を受けてモデルラインアップを拡充していく。

 日産自動車とは日本で行なっている軽自動車の共同開発と生産に続き、グローバルで次世代ピックアップの共同開発と生産、電動車における協業と事業拡大の検討を進めていくと紹介。北米では2025年から日産「ローグ」としてPHEVをOEM供給し、2026年から次期型「リーフ」から派生するBEVをOEM車両として三菱自動車から販売する。これに加え、米国にある日産の工場に共同投資を行ない、次世代SUVを両ブランドで生産、販売する検討についても開始したと明らかにした。

2025年度以降の商品展開
米国にある日産の工場に共同投資して、次世代SUVを両ブランドで生産、販売する検討も開始した

 最後に加藤社長は「中期経営計画のChallenge 2025が始まって2年が経ちましたが、この間の自動車業界の変化は極めて大きかったと感じています。そのような環境下においても、変化に機敏に、かつ柔軟に対応することによって事業基盤の安定性が徐々に高まってきたのではないかと考えています。経済環境の面では、2024年度上期までは為替の追い風もあり堅調に推移してきたものの、下期に入って利下げ効果が一巡したこと、為替の円高基調への転換に加え、米国の関税政策が発表されたことにより、世界経済の混乱が始まっています」。

「2025年度の経営環境は、とくに自動車業界にとって逆風が強く、かつ今後も変化の大きいものになると思われますが、引き続き変化に機敏に対応し、新車種の投入効果を最大化するとともに、コスト面の管理を徹底することで今期の業績の維持に努めていきたいと考えます」と締めくくった。

三菱自動車 2024年度通期決算説明会