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住友ゴム、再エネ由来電力で水素を作る「やまなしモデルP2Gシステム」を“脱炭素グランドマスター工場”を目指す白河工場に設置

住友ゴム工業の白河工場に新たに設置された水素製造機「やまなしモデルP2Gシステム」

水素の「つくる」と「つかう」を同一拠点内で完結

 住友ゴム工業は、2050年のカーボンニュートラル達成を目指し、製造工程のカーボンニュートラルを重要テーマと捉え、2021年に「水素バリューチェーン推進協議会」に参画。2021年8月には白河工場(福島県)内にあるタイヤ製造システム「NEO-T01」の加硫工程に水素エネルギーを活用する実証実験を開始するなど、水素エネルギーの活用を推進。

 また、2023年1月には水素エネルギーと太陽光発電を使用した製造時(スコープ1、2)カーボンニュートラルを達成した量産タイヤ「ファルケン アゼニス FK520」の生産を開始したほか、2023年7月には再生可能エネルギーを利用した水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」から供給を受け、再生可能エネルギーの電力を最大限利用するとともにクリーンで低コストな水素製造技術の確立を目指してきた。

住友ゴム工業株式会社の白河工場は福島県白河市に位置する
白河工場のタイヤ製造システム「NEO-T01」で利用する蒸気(熱・圧力)を作るための水素ボイラー
タイヤ製造システム「NEO-T01」の製造工程の加硫で水素エネルギーを活用している
水素トレーラー専用の駐車設備。トレーラーには細長い水素ボンベが21本搭載されていて、一度にたくさんはこべるように約200倍に圧縮してあり、2段階の減圧を行なってからボイラーに利用される
白河工場には水素エネルギーを活用して製造したタイヤ第1号が飾られている

 さらに2024年5月には白河工場の「脱炭素グランドマスター工場」化を目標に掲げ、山梨県と“タイヤ製造等における脱炭素化と地域資源を活かした水素エネルギー社会の構築に連携して取り組むこと”について合意し、再生可能エネルギー由来の電力から水素を製造し、水素を熱エネルギーとして利用することで脱炭素化を実現する技術「やまなしモデルP2G(Power to Gas)システム」の導入を決定。2025年4月に稼働を開始させ、水素の「つくる」と「つかう」を同一拠点内で完結させることで、輸送に伴う環境負荷低減への貢献も実現させている。

新たに導入した水素製造機「やまなしモデルP2Gシステム」
やまなしモデルP2Gシステムは、山梨県、東京電力エナジーパートナー、東レが中心となっていて、住友ゴム工業のほかにも、UCC上島珈琲が珈琲豆を焙煎する蒸気の熱に活用したり、大成建設が大成ユーレック川越工場に導入している
コンテナ内の制御機器を冷却するために内部にはエアコンが設けられ、側面には室外機が設置されている
やまなしモデルP2Gシステム内の電極が収められたケース。動画の中心にある部分が大きくなったようなもの
【住友ゴム工業】白河工場に設置した水素製造機「やまなしモデルP2Gシステム」が、「水」から「水素」と「酸素」を作りだすイメージ機器(13秒)

 白河工場ではこの「やまなしモデルP2Gシステム」を24時間稼働させることで、年間最大約100tの水素の製造が可能となり、輸送を含むサプライチェーン全体(スコープ1、2、3)で年間約1000tのCO2排出量削減を見込むとともに、福島県内から調達する水素、太陽光発電による電力、購入する再生可能エネルギー電力、既存燃料の5つのエネルギーを調和させながら、カーボンニュートラルの達成を目指すとしている。

やまなしモデルP2Gシステムお披露目会を実施

「やまなしモデルP2Gシステム」を視察する白河市の鈴木和夫市長

 4月15日に実施された「タイヤ工場における水素製造装置のお披露目会」では、住友ゴム工業関係者のほかに、福島県知事の内堀雅雄氏、山梨県公営企業管理者の落合直樹氏、白河市長の鈴木和夫氏、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)理事の飯村亜紀子氏、産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所所長の古谷博秀氏らが参列した。

 最初に住友ゴム工業 代表取締役社長の山本悟氏は、プロジェクトに協力している関係者への感謝を述べつつ、「水素を活用したタイヤ製造を行なえているのは、水素の安定供給が可能な福島県だからこそ実現できた取り組みであり、山梨県との連携の進化により、カーボンニュートラル実現への歩みがさらに加速することを期待しています」とコメント。

住友ゴム工業株式会社 代表取締役社長 山本悟氏

 続いて住友ゴム工業 タイヤ事業本部の箱嶋英一生産本部長は、「タイヤ製造工程の加硫工程はボイラーによって高温・高圧エネルギーを使用するため、CO2排出の大きな要因となり、この工程の熱源を化石燃料から水素に転換することは、脱炭素における重要なチャレンジの1つです。私たちはこの課題に正面から取り組み、技術と実証で一歩を生み出しました。また、2MWの太陽光パネルを設置し、製造ラインの電力を再生可能エネルギーに置き換えることでスコープ1、2のCO2排出ゼロのタイヤ生産を実現しました。この結果、水素ボイラーによるタイヤ生産が技術的に可能であると確認でき、大きな一歩となりました」とこれまでの取り組みを紹介。

白河工場の従業員用駐車場の上には2MW太陽光発電用パネルが設けられていて、発電量は常時モニタリングできる

 また、グリーン水素の安定供給が難しいことや、水素のコストが高いなどの課題もあるとし、水素製造装置「やまなしモデルP2Gシステム」を導入し、グリーン電力で水を電気分解し、水素を製造する取り組みを開始したと説明した。

住友ゴム工業株式会社 執行役員 タイヤ事業本部 生産本部長 箱嶋英一氏

 福島県知事の内堀雅雄氏は、「本県にて福島県2050年カーボンニュートラルを宣言し、再生可能エネルギーの最大限の活用に取り組んでいます。特にカーボンニュートラル実現の鍵となる水素に着目し、再生可能エネルギーから水素をつくり、ため、はこび、つかうといった未来の新エネルギー社会のモデル構築を目指し、さまざまな挑戦を続けています。住友ゴム工業は、世界で初めて水素エネルギーを活用した量産タイヤの製造を実現するなど、水素の利活用拡大に取り組んでいて、このたびは山梨県との連携によりグリーン水素製造装置を新たに導入し、再エネから水素をつくり、つかう取り組みがさらに発展します。こうした取り組みは、まさに本県が目指す水素の地産地消を体現するものであり、水素社会の実現を力強く後押しするものと大いに期待しています」と期待を述べた。

福島県知事 内堀雅雄氏

 また、山梨県公営企業管理者の落合直樹氏は、「山梨県では電力の需給変動にも優れた対応力を有する水素の製造装置の開発しています。また、その普及促進を図る一環として、小型のパッケージ化した水素製造装置の技術開発をNEDOに支援してもらいながら開発を進めております。今回住友ゴム工業には、私どもが開発しているやまなしモデルP2Gシステムを採用していただきました。実証過程でさまざまな情報や知見が新たに採取されることと、この水素製造装置に関する普及がさらに加速化されていくことを期待しています。私どもの水素製造装置を使うことで、新しい局面が開かれるよう引き続き努力していきます」と抱負を語った。

 続けて白河市の鈴木和夫市長は、「自ら水素を作るところまで発展し、まさしく究極の工場ができたことを心から嬉しく思っています。自治体、工場も脱カーボンを掲げているが、なかなかいうは易く行なうは難しということで、実現するのは難しいと思っています。脱カーボンをいち早く実現したということは、会社をあげて全員で取り組んだという証だろうと思っています。また、われわれ行政も掛け声だけではなく、実際に住友ゴム工業のやっている姿を拝見しながら、市内の事業所に向けてアピールをしていきたい。各企業においても取り組みが一層進むよう今後も支援をしていく」と一層の支援を誓った。

山梨県公営企業管理者 落合直樹氏
白河市長 鈴木和夫氏

 NED(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の飯村亜紀子理事は、「P2Gシステムの導入により、グリーン電力の購入と合わせることで、グリーン水素を製造し、そして同じ場所で水素を利用することが可能となります。こうした取り組みは水素社会実現に向け、水素を地域で統合的に利活用する技術の確立を目指した本プロジェクトの集大成そのものといっても過言ではないです。福島県と山梨県は日本を代表するだけではなく、世界を代表するような水素の利活用が進んでいる地域で、この2県が協力し、権益の垣根を越えて取り組みを進めていることに、私どもとしても一層期待を寄せています。今後ともNEDOは関係事業を支援するとともに、技術開発などを通じて水素社会の実現に向けて、引き続き尽力していきます」とコメント。

 最後に、産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所の古谷博秀所長は、「今回の取り組みは、世界から見ても非常に誇れるような技術になっていると思っています。水素を作るだけでなく、再生可能エネルギーをより多く導入するきっかけになるようなものです。また、山梨県には水素の発展において多くの力を貸していただいており、福島県のカーボンニュートラルにつながる水素活動に貢献いただけることを非常に嬉しく思っています。白河工場は世界においてもカーボンニュートラルに近い工場になっているのではないかと、アドバイザーとしても非常に誇りに思っています。水素の地産地消を使ったカーボンニュートラルの動きが成功すれば、世界に誇れるカーボンニュートラルに向けた技術になると期待しています」と期待を語った。

NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)理事 飯村亜紀子氏
産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所所長 古谷博秀氏

新たな製造工程の開発拠点でもある白河工場は2024年に操業50周年を迎えた

 2025年4月1日より白河工場の工場長に着任した大平准司氏は、「1974年8月に操業した白河工場は、日本最大級の生産規模を誇るタイヤ生産工場で、2024年に操業50周年を迎えました。操業当初から『自然との調和』『公害を出さない』『地域との密着』を運営方針に掲げ、地域に愛される工場を常に目指して活動しております。また、生産工場として会社の屋台骨でありつつも、新しい製造工程の開発や実用開始拠点も担っています。現在海外工場の製造工法に採用している“太陽工法”も、20年以上前に白河工場で開発したもので、さらには進化版として超高精度を追求した高精度メタルコア製造システム『NEO-T01』も白河工場で開発されたものです」と白河工場の歴史と役割を紹介した。

住友ゴム工業株式会社 白河工場 工場長 大平准司氏

 そのほかにも、地域に愛される工場として社会貢献活動を積極的に行なっていて、福祉施設でのボランティアや白川市の児童クラブへの物品の寄贈をはじめ、交通遺児基金への寄付、講習会への講師派遣、構内ビオトープ、植樹、観光名所の清掃など、新たな活動にも取り組んでいるという。

白河工場の歴史
白河工場の役割

 また昨年の5月3日には、地域への感謝とつながり、従業員同士のつながり、白河工場を操業100周年へとつなげたいと、『つながり』をテーマにした創業50周年記念祭を実施。社員たちで実行委員会を立ち上げ、50日前からのカウントダウン動画作成、ムカデ競争、ダンスステージ、バザー、近隣高校3校による合同吹奏楽演奏など、さまざまな催しものを自分たちの手で用意。当日は福島県知事をはじめ、白川市長、地域の方々、従業員とその家族など、総勢2700名ちかくが白河工場を訪れたという。

 白川工場操業50周年記念実行副委員長の渡邊琢馬氏は、「今年は次の50年に向けての新たなスタートの年であります。今後も地域そして社会の貢献活動、環境への取り組みを継続することで、地域から愛される、信頼される工場を目指してまいります」と締めくくった。

白河工場操業50周年記念イベント実行副委員長 渡邊琢馬氏(製造第一課長)
従業員から回収したペットボトルのキャップ7000個を使って制作したという記念ロゴのキャップアート