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住友ゴム、長期経営戦略「R.I.S.E.2035」説明会 「アクティブトレッド技術を進化させてタイヤ業界にゲームチェンジを起こす」と山本悟社長
2025年3月10日 10:01
- 2025年3月7日 実施
住友ゴム工業は3月7日、2035年を見据えた長期経営戦略「R.I.S.E. 2035(ライズ ニーゼロサンゴ)」を策定したと発表。都内にて同戦略に関する説明会を実施した。列席者は、住友ゴム工業 代表取締役社長 山本悟氏、代表取締役 専務執行役員 西口豪一氏、取締役 常務執行役員 大川直記氏、執行役員 経理財務本部長 日野仁氏の4人。
山本社長は冒頭、2023年に策定した中期計画に基づいた構造改革と、アクティブトレッドなどの技術開発といった新たな成長事業の基盤作りを着実に進めてきたことや、グッドイヤーからダンロップの北米・欧州での販売権利を買い戻したこと、さらに中期計画で掲げた経営目標の前倒し達成も見えてきたことから、「2025年をターニングポイントとして、将来の環境変化も見据え、長期的に当社が向かうべき道筋を明確にする戦略を策定しました」と、今回の長期経営戦略「R.I.S.E2035」を策定した理由を説明。
R.I.S.Eの由来は「Rubber/Resilience/Reliable」「Innovation」「Solution」「Evolution」の意味で、これまでの事業活動で培ってきたゴムを起点とした価値創造プロセスで高機能商品を作り出す“ゴム・解析技術力”と、ユーザーに喜びを感じてもらえる複数のブランドを立ち上げ育ててきた“ブランド創造力”を強みにして、「ゴムから生み出す新たな体験価値をすべての人に提供し続けることが目指す姿である」と山本社長。
また、その実現のためには、「ゴム起点のイノベーション創出」「ブランド経営強化」「変化に強い経営基盤構築」という 3つの成長促進ドライバーをベースとした戦略を実行するとしている。
具体的には、2027年までにタイヤのプレミアム化(=差別化商品やSUV用および18インチ以上の乗用車用タイヤ)による収益体質の改革を進め、2030年にはプレミアム商品の比率を販売本数比率で60%以上に高め、そこで得たキャッシュを新領域の成長に投資して、新たな収益の柱を構築するという。その結果、2035年にはタイヤ以外の事業や成長事業の利益を全体の30%まで伸ばし、イノベーティブな商品・サービスを継続的に創出し、成長事業の拡大を通じたポートフォリオ変革によって、持続可能な事業体質を目指す。
新規事業については、ゴムを起点としたイノベーションで見出してきた独自技術をベースに事業化を図るとし、現在研究開発を進めている「リチウムイオン電池の正極材活物質」や「がん細胞吸着キット」「3Dプリンタ造形用ゴム材料」など、バックアップ体制作りや外部との共用も含めて、「よりスピーディに事業化させたい」と山本社長は説明。
ゴムを起点としたイノベーションの創出
また、成長促進ドライバーの1つ「ゴム起点のイノベーション創出」に関しては、2024年10月に発売した次世代オールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」に採用している独自開発のアクティブトレッド技術に関して、2027年には欧州向けのオールシーズンタイヤを投入するほか、「水スイッチ」「温度スイッチ」に続き、グリップと耐摩耗性を高次元で両立させる「第3のスイッチ」も技術的には明確になっていると説明。すでにドイツのニュルブルクリンクサーキットで実験も行なっているとのことで、2028年~2030年にはEV向けタイヤや超高性能スポーツタイヤなどに投入したい考えを明らかにした。
さらに2026年までにアメリカに生産工場ではなく、市場ニーズをとらえ、イノベーションを事業家するマーケティング力の強化につながる「北米イノベーションラボ」の開設および、日本には2028年までに研究主導でイノベーションを創出する力を強化するためのイノベーションセンターを設立する予定という。
また2035年に向けては、独自タイヤセンシング技術“センシングコア”で得た路面情報と組み合わせて、環境に応じた性能にゴムの特性が変化する「次世代スイッチ」もすでに開発に着手していると説明。「アクティブトレッド技術を進化させることで、タイヤ業界にゲームチェンジを起こす。そして今後グローバルでのティア1メーカーの仲間入りをしっかりと果たして、その中で独自の輝きを放っていきたい」と山本社長は力説。
加えて日本とタイの生産工場については、既存の生産拠点の一部を最新鋭の生産設備への置き換えを行なう、「In-House New Factory」という新たな工場リニューアルコンセプトを提唱。拠点全体の操業を止めることなく、競争力のある最新鋭の生産設備への移行が可能になるという。
「ダンロップ」ブランドの経営を強化
成長促進ドライバー「ブランド経営強化」に関しては、グローバルで使用できることになった“ダンロップ”のブランド価値の最大化を目指し、モータースポーツなどのタイヤ事業だけでなく、テニスやゴルフといったスポーツ事業、医療品や建築など産業品事業も含め、高付加価値商品による社会課題解決などを通じてブランドの信頼を高めていきたいという。
ゴルフビジネスでは、オフコースゴルファーの増加といったプレイスタイルの変化に合わせて価値提供の進化を図りつつ、ギア販売をビジネスの中核と位置づけ、サービス、ソフトグッズ提供といった事業範囲を拡張するとした。さらに拡大させた顧客をデジタルマーケティングで囲い込み、テニスビジネスでは、プロ契約や大会協賛などのブランディング投資と、テニスボールのグローバルNo.1シェアを獲得したことなどから、ゴルフとテニスともにグローバルTOP3を目指すとしている。そのほかにも、eスポーツビジネスを本格化させるなど、第3の柱を構築するとしている。
同時に、各地域に沿ったブランディングをスピーディに実行できるように、日本、アメリカ、欧州にそれぞれ事業地域横断のブランディング拠点を新設し、ブランド経営を加速させるとした。
変化に強い経営基盤の構築を目指す
グループ全体の今後の基盤強化について山本社長は、「人材については、組織基盤の構築と共にさまざまな施策を実行し、多文化環境でのリーダーシップを発揮できるグローバル経営人材、新たな事業を生み出せるイノベーション人材、データを駆使して意思決定や業務革新を推進できるデジタル革新人材を生み出し、会社の成長を持続させる」と説明。
また、デジタル戦略については、製造・販売・技術・すべての取り組みでDX化を推進し、データ連携していくことで技術の進化、新商品開発やグローバル生産体制の最適化、原価低減を加速させ、DX投資の効果の刈り取りを行なうとしている。加えて、「ベースとなるDX人材育成も実施していく」と山本社長は言及した。
サスティナビリティ経営に関しては、 「気候変動」や「循環型経済」「生物多様性」など計7つのマテリアリティ項目を掲げ、カーボンニュートラル達成や、再生可能エネルギーの利用に加え、水素などの次世代エネルギーの活用にも挑戦し、CO2削減を進めるほか、使用済みタイヤを活用した原材料の開発に挑戦し、サステナブルな原材料の比率を高めると説明した。
加えて、中期計画の財務目標を前倒しで達成できる見通しが出たことから、2027年度の目標について、事業利益率7→10%、ROE(自己資本利益率)10%→10%、ROIC(投下資本利益率)6%→8%へと改定しつつ、2030~35年に向けては事業利益率15%、ROE12%、ROIC10%の目線で取り組むと説明した。
今回の長期経営戦略では、具体的な売上目標金額などは提示せず、利益率だけを提示したことについて西口氏は、「もう数量を追いかけて、売上総額を稼ぐ時代は終わったと思っていて、これからは売上規模よりも事業利益額とか株主さんへの還元政策の内容とかで企業のバリューを高めていければと思っています」と説明した。