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住友ゴム、日本初「製造時カーボンニュートラル」の量産タイヤを製造する福島県 白河工場を見てきた
2023年4月24日 12:18
- 2023年4月18日 開催
住友ゴム工業は4月18日、水素エネルギーと太陽光発電を活用して、日本初となる「製造時カーボンニュートラル」を実現したファルケンブランドの量産タイヤ「アゼニス FK520」を製造する白河工場(福島県)の見学ツアーを報道陣向けに実施した。
白河工場は、東京ドームおよそ13個分=60万m 2 の敷地面積を持ち、従業員1600名超と、住友ゴムグループの中でも国内最大級の工場で、操業も1974年と歴史も長い。また、コンパクトな製造工程で高性能なタイヤを生産できる高精度メタルコア製造システム「NEO-T01」が配備されているのは白河工場のみ。
このNEO-T01は製造工程がまとまっていて、通常のボイラーから水素ボイラーへの転換が容易であったこと、次世代エネルギーにふさわしい最先端の製造工程で高性能なタイヤを作れることから、水素エネルギーの導入を決定したという。
従来のタイヤ製造システムは、あらかじめタイヤのサイズにカットしたゴムにワイヤーなど部材を加えていたため、加熱して加工したあとに冷却する必要があり、最大で120mもの直線がある大きな設備を必要としていた。また、押し出しや裁断で作られた各部材を成型工程で1つひとつ貼り付けていくことでタイヤを完成させていくため、それぞれの部材の端には継ぎ目ができていた。
それに対してNEO-T01は、従来製造システムの10分の1以下と非常にコンパクトな設備となる。工場内部の撮影は許可が出なかったが、タイヤサイズに合わせて作られた「メタルコア」と呼ばれるタイヤ内部の形状をした部品に、テープ状になった部材を100分の1mm単位以下のコンピュータ制御システムによってコントロールしながら貼り付けていく。機械はすべて自動制御になっていて、ロボットアームがメタルコアを受け渡ししながら順番に部材を貼り付けていく。コの字に進んでいき、約1時間ですべての素材貼り付けが完了し、その後はロボットトレイによって加硫工程へ運ばれ、水素ボイラーの熱で発生させた蒸気と専用機械によって約20分加熱成形され、継ぎ目のない高性能なタイヤに仕上がる。
燃料となる水素は、福島県内にあるレゾナック・ガスプロダクツ(郡山市)、福島水素エネルギー研究フィールド(浪江町)の2か所から供給を受けていて、専用トレーラー4台で循環させ、水素エネルギーの地産地消という実証実験も踏まえて行なっているという。
また、住友ゴム工業は、カーボンニュートラルを実現させるには会社全体で取り組むことが重要であると捉え、社内でもさまざまな活動を実施。水素を運ぶトレーラーの荷台に書かれたキャッチコピー「水素の力ではずむ未来へ」や、カーボンニュートラルにもっと関心を持ってもらおうと考案したキャラクターなどは、若手従業員の手によるもの。今の若い世代は学生時代にSDGsなどを教わっているからか、ベテラン従業員よりも積極的に取り組む傾向があるそうだ。
トレーラーで運ばれてきた水素は、一度にたくさん運べるように約200倍にまで圧縮してあり、2段階の減圧を行なってからボイラーに利用される。トレーラーの最大運搬容量は1万4355Lで、NEO-T01加硫工程で使用される1日以上分を運んでいるという。専用駐車場には水素を取り出す装置が備わっていて、まずここで1段階目の減圧が行なわれる。そのあと、排水溝の中のパイプを通ってNEO-T01のある建屋の隣の水素ボイラーまで運ばれる。水素ボイラーの煙突からは水蒸気の煙が出ているが、もちろんCO2の排出量はゼロだ。
また、NEO-T01は加硫工程で水素を活用しているが、それ以外の部分の電力は太陽光発電によるクリーンな電気を利用している。これにより製造時(Scope1&2)カーボンニュートラルを達成している。太陽光発電用のパネルは従業員用駐車場に設けていて、発電パネルは上側だけでなく反射した光でも発電できるように両面に貼ってあるほか、雪の季節の帰宅時にクルマに積もった雪の雪かきをしなくてよくなったというメリットもあるという。
住友ゴム工業は本社のある神戸が阪神淡路大震災で、また白河工場も東日本大震災で被災。特に福島県は原発事故もあったことから、このクリーンな水素エネルギーの活用を世界に先駆けて成功させ、リードしていきたい想いもあるという。白河工場で成し得た製造時カーボンニュートラルを実現したタイヤは、技術力のアピールで作る特注品ではなく量産品であり、着実に想いを形に結び付けている。