ニュース

住友ゴム、サステナビリティ長期方針説明会 天然ガスの代替えエネルギーに「水素」を利用

2021年9月22日 実施

白河工場では天然ガスの代わりに次世代エネルギーである水素を活用した実証実験が進められている

2050年の「100%サステナブルタイヤ実現」に向けて

 住友ゴム工業は9月22日、同社が手掛けている事業やサービスにおける、社会や環境の持続可能な未来を見据えた「サステナビリティ長期方針発表会」を実施した。登壇したのは、常務執行役員 材料開発本部長の村岡清繁氏、執行役員 サステナビリティ推進本部長の山下文一氏、材料開発本部 材料企画部長の上坂憲市氏の3名。

 冒頭で村岡氏は「今は企業が事業活動を行なう上でサステナビリティの観点を取り入れることは最重要事項であり、その中でも気候変動の影響を抑制するためのCO2削減は全世界的な潮流になっている。また、自動車業界は各社がEV化へ舵を切るなど、急速な変化が起きている」と時流に触れ、続けて「住友ゴム工業では、タイヤ開発や周辺サービスのコンセプトとして“スマートタイヤコンセプト”を発表し、今後の方向性を示してきた。スマートタイヤコンセプトにはサステナビリティだけでなく、ライフサイクルアセスメントという概念や性能持続技術なども含まれていて、そういった技術やサービスの開発によって生まれた製品は、ユーザーから高い評価をいただいている」とあいさつ。

住友ゴム工業株式会社 常務執行役員 材料開発本部長 村岡清繁氏

 また、今後は「サステナビリティ長期方針」という自社で掲げている方針に基づき、バイオマスやリサイクルによってできる原材料を使った製品開発を、タイヤだけでなくスポーツ用品や産業品でも推進し、サステナブルな社会の実現に貢献すると抱負を語った。

サステナビリティ長期方針『はずむ未来チャレンジ2050』とは

住友ゴム工業株式会社 執行役員 サステナビリティ推進本部長 山下文一氏

 続いてサステナビリティ推進本部長の山下氏が登壇。まず、2020年度の中期経営計画にて、事業を通じて環境問題や社会課題の解決に貢献し、社会をサステナブルにするための取り組みを強化することを宣言したことを紹介。同時に自社と社会が持続的成長を遂げるには、「2050年を見越した長期視点での方針・計画が必要になってくる」と山下氏。そして今回発表したサステナビリティ長期方針については、昨年発表している新企業理念体系“Our Philosophy”の中で制定した「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる」という企業の存在意義を体現するための方針であると解説した。

 また、サステナビリティ長期方針は、“はずむ未来を実現する”という想いから『はずむ未来チャレンジ2050』と命名。環境・社会・ガバナンスと3つのカテゴリーでそれぞれチャレンジ目標テーマをしっかりと掲げ、グループ全社員が一丸となって取り組むという。特に環境のカテゴリーでは、「調達」「輸送」「開発」「製造」「販売」といったサプライチェーン全体を通じて、CO2の削減と原材料のバイオマス化とリサイクル化、サステナブルな商品開発を推進しつつ、最先端のセンシング技術も用いることで安全・安心で環境負荷の少ない新たなソリューションサービスを開発し、2030年はもちろんのこと、2050年に向けて循環型ビジネスの確立を目指すとしている。

 その中でも、バイオマス原材料の活用、次世代エネルギー“水素”の活用、サステナビリティ商品の基準制定など、スマートタイヤコンセプトの2050年に向けた新たな取り組みについての紹介も進められた。

サステナビリティの実現には長期的な計画が必要となる
住友ゴム工業は社会と企業の持続的な成長を目指している
「はずむ未来チャレンジ2050」の概念図
「はずむ未来チャレンジ2050」の全体像
目指している循環型環境ビジネス概要
住友ゴム工業独自の3つの新たな取り組み

 スマートタイヤコンセプトの開発計画について山下氏は、安全性能を高める「セーフティテクノロジ」、環境性能を高める「エナセーブテクノロジ」を部分的に搭載したタイヤを商品化してきた事例に触れつつ、今後はLCA(ライフサイクルアセスメント)を基軸に置いて、より安全で環境に優しいサステナブルなタイヤの開発を加速させると語る。さらに計画では、2029年までにスマートタイヤコンセプトの全技術を完成させ、空気入りとエアレス(空気なし)の2つのコンセプトタイヤを提案。翌2030年以降は発売する製品すべてにスマートタイヤコンセプトの技術を搭載するとした。

 また、まだ世の中でサステナブルといった単語が頻繁に使われる前の2013年に、すでに原材料に化石資源を使用しない、世界初の石油外天然資源タイヤを販売していることを紹介。今後もその技術をさらに進化させることで原材料のバイオマス比率を高めつつ、同時にリサイクル原材料比率も高めていき、2030年にはタイヤのサステナブル原材料比率を40%にまで高め、2050年には100%とし、カーボンニュートラル実現に貢献したいという。これはタイヤだけでなくゴルフボールやテニスボール、その他の産業品についても同様で、2050年にはサステナブル原材料比率100%を目指すとしている。

スマートタイヤコンセプトの考え方
スマートタイヤコンセプトの開発スケジュール
サステナブルタイヤ実現までの予定
タイヤ以外の製品における今後の計画

 山下氏は製造段階におけるカーボンニュートラルの取り組みについても言及し「工場からの排出CO2をグローバルグループ全体で2030年までに50%まで削減、2050年にはカーボンニュートラル達成を目指している」と紹介。そして、その実現方法については、従来から取り組んでいるコージェネレーションや太陽光発電といった省エネ活動については継続しつつ、タイヤの加硫工程で使用する蒸気エネルギーについては現在の天然ガスからのエネルギー転換が必須条件であると解説。その代替えエネルギー資源としては、次世代エネルギーとして注目されている「水素」を活用することに決定したと明言。

 すでに8月から震災の復興支援も含め、福島県にある白河工場で実証実験を開始。2023年には太陽光発電と水素を活用することで、「メタルコア工法」「全自動連結コントロール」「高剛性構造」の3つのキー技術を採用する次世代新工法「NEO-T01」の全工程をクリーンエネルギー化させ、製造時におけるCO2排出ゼロタイヤの実現を目指す。その後は工場全体に、いずれは海外工場への展開も検討しているという。

 こうしたCO2削減、サステナブル原材料比率の増加はタイヤだけでなく全事業に展開すると同時にSSP(住友ゴムサステナビリティ商品)として自社基準を制定し、循環型社会への貢献も推進していくとしている。加えてプラスチックの使用量についても、2030年までのグローバルで2019年比40%削減を目指すとしている。

カーボンニュートラル化に向けてのスケジュール
白河工場(福島県)における水素燃料利用計画の概要
サスティナビリティ商品に関する住友ゴム工業の自社基準
プラスチック素材の削減活動の取り組み方針
自社での活動だけでなく外部の活動にも積極的に参画

住友ゴム、プラスチック素材削減に関する具体的な取り組み方針を発表 2030年までに販売店での年間使用量45%削減を目指す

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1352855.html

サステナブル原材料の開発と課題

住友ゴム工業株式会社 材料開発本部 材料企画部長 上坂憲市氏

 最後は材料開発本部 材料企画部長の上坂氏が登壇し、サステナブル原材料の開発と課題について解説が行なわれた。

 材料開発部では、サプライチェーン全体におけるバイオマス原材料やリサイクル原材料の開発を推進していて、独自の循環型ビジネスの確立を目指している。目標は前出の山下氏が述べた通りだが、タイヤはゴムだけでなくさまざまな原材料が使用されていて、細かく見ると有機物と無機物に分けられ、それぞれに適したサステナブル化方法があり、特に有機物のサステナブル化は空気中のCO2が増加し難いことから基幹技術になるという。

 もちろん住友ゴム工業は、以前から有機物のサステナブル化技術の開発に着手しており、2013年に石油を使わない材料技術を確立し、100%石油外天然資源タイヤ「エナセーブ100」を販売している。今ではさらに技術が進化していて、ゴム材料については、天然ゴム分子の構造を変化させ、合成ゴムの特性に近づけたという。近年では石油から製造している合成ゴムの原材料であるブタジエンを、植物から得られるグルコースなど糖類から製造する技術が業界で進められているとし「住友ゴム工業でも注視している」と上坂氏は語る。

 このように有機物のサステナブル化技術は進んでいて、最大で78%程度がバイオマス原材料に置き換えられると予測しているという。ただし、100%サステナブルタイヤを実現するためには、「シリカ」「スチール」「酸化亜鉛」といった無機物のサステナブル化技術も必須になるといい、こちらの技術開発について上坂氏は「今は廃棄資源からタイヤに使用できる材料のリサイクル技術を見極めている段階である」と語った。

乗用車タイヤの使用材料と原材料構成比率
タイヤ資源のサステナブル化の取り組み内訳
有機物資源のサステナブル化の取り組み例
非金属や金属資源のリサイクル化を推進
バイオマス原材料開発の歴史
有機物の再利用に向けた動向
植物由来の合成ゴムの技術も進化している
木材由来の補強材も再利用に向けた開発を推進
100%サステナブルタイヤ実現へ向けた取り組み
無機物からタイヤの原材料を作る開発も推進
破棄資源からリサイクル原材料を作り出す技術

 最後はサステナブル原材料技術の課題にも触れ、上坂氏は「原材料の機能性、品質のさらなる改良」「生産性と低価格の実現」「原料の確保」と、大きく3つの課題があると紹介。

 特に機能性と品質のさらなる改良については、「安全を遵守するタイヤメーカー使命だ」と捉えていると上坂氏は言い、今後も高機能バイオマス原材料の開発には継続して力を入れていくと説明した。続けて、2050年の100%サステナブルタイヤ実現を達成するには、カーボンブラックやシリカ、オイルなど、タイヤの汎用材料についてもサステナブル原材料化が急務だとしながらも、低価格で提供するために研究の手を緩めることなく開発を推進していくという。

 この化石資源から植物バイオマス原材料へ変化させていく過程では、原料の安定生産や安定調達も課題で、例えば植物由来ゴムの原料である糖類は、バイオ燃料の原料にもなり、安定調達が可能か懸念が残るという。その解決策のひとつとして、廃棄タイヤを原料としたリサイクル原材料の開発があり、住友ゴム工業では取り組んを加速させたいとしている。日本では廃棄タイヤの65%が燃焼され熱利用されているのが実情で、これらを再利用できれば安定的な調達元とでき、この技術に関してもバイオマス技術と同様に基幹技術となる可能性があるといい、上坂氏は「これからも開発と研究を推進していくので、住友ゴム工業だけでなく今後の業界の動向にもぜひ注力してほしい」と説明会を締めくくった。

100%サステナブルタイヤ実現のための主な課題
サステナブルな原材料でより高機能を生み出す技術開発
植物資源からタイヤに使う汎用材料を作り出す技術の確立
2020年時点でのタイヤのリサイクル状況
廃棄タイヤを再び材料へと戻す取り組み