ニュース
ホンダ学園、「ラリー・モンテカルロ・ヒストリック」にレストア中の初代「シビックRS」で参戦 ドライバーは佐藤琢磨選手
2025年8月8日 12:27
- 2025年8月7日 発表
レストアから参戦手続きなどすべてを学生が手掛ける
学校法人ホンダ学園は8月7日、創立50周年を記念して2026年2月に開催の「第28回ラリー・モンテカルロ・ヒストリック」に初代「シビック RS」2台で参戦すると発表した。ホンダ学園の学生有志約30名が車両のレストアから整備、部品調達、現地への輸送手配や現地での滞在手配などを担う。さらに、アンバサダー兼ドライバーとして佐藤琢磨選手が参加する。
ホンダ学園は1976年に初代校長でもあった本田宗一郎氏の「技術だけでなく、世界に歓迎される人間を作りたい」という志のもとに創設された。現在、埼玉県ふじみ野市にホンダテクニカルカレッジ関東、大阪府大阪狭山市にホンダテクニカルカレッジ関西の2校を設置している。
これまでに卒業生は約2万2000人いて、ホンダディーラーなどで自動車整備士として活躍する人が多いという。さらにレッドブルでチーフメカニックを務める吉野誠氏など、レースの最前線で活躍している人もいて、活躍の場は多岐にわたる。
今回、創立50周年を記念する節目としてホンダ学園の歩みの集大成を披露する企画を実施。その第1弾がラリー・モンテカルロ・ヒストリックへの挑戦となる。シビックRSを2台用意して参戦し、ドライバーには佐藤琢磨選手とホンダテクニカルカレッジ関東 校長の勝田啓輔氏が参加するが、クルマのレストアから整備、現地での準備、ラリー本番のサービスをはじめ参戦に関する手続きなどは全般にわたって学生が担当する。教員は技術指導と安全管理にとどめる。
また、第2弾もすでに企画が動き出していて「Cub(カブ)チャレンジ」ということで、発売当初のスーパーカブをレストアし、日本各地を巡回する。第2弾は関東校と関西校で2台ずつレストアを行ない、合計4台が巡回する。こちらも学生が巡回先などを企画し、卒業生がいるホンダディーラーや、各地のカブに関係するイベントを回ることなどを検討しているという。
初代シビックRSは現在レストア中
ラリー・モンテカルロ・ヒストリックは、ラリー・モンテカルロのヒストリック版として1986年1月までにラリー・モンテカルロに出場経験のある車両だけが参加できる。速さを競うのではなく、設定された時間で正確に走行することが求められるレギュラリティラン形式。
これまでもホンダ学園は2016年~2022年に、東京大学と共同でラリー・モンテカルロ・ヒストリックに挑戦するプロジェクトを行なっていたが、東大とのコラボレーションは終了。その後はホンダ学園単独でレストアプロジェクトを行なってきたが、50周年ということでレストアした車両でラリー・モンテカルロ・ヒストリックに挑戦する。
参戦車両は現在、レストアの真っ最中。佐藤琢磨選手がドライブする1号車「サンセット号」は、佐藤琢磨選手によるシート合わせなどを行なった。1号車のレストア作業完了は9月の予定で、参戦条件でもある日本国内での車検取得、その後10月に北海道ラリーキャラバンとHonda PG 鷹栖テスト走行と予定が組まれている。
2号車「マドリード号」はエンジンが搭載されたばかりの状態で、現時点で1号車よりも進んでいて8月内に車検取得予定。車検はラリー・モンテカルロ・ヒストリックの出場条件となっていることから、現在、急ピッチで車検が受けられる状態に仕上げている。
レストア作業は、すべて学生が行なっており、錆で穴の開いたボディを丁寧に補修、現地での走行に耐えられるように仕上げている。
現場でのリアルな経験こそ欠かせないもの
ホンダ学園での発表会では、ホンダ学園 常務理事の中嶋歩氏が「この50年間、私たちが最も大切にしてきたものは世界に歓迎される人間の育成で、チャレンジ精神にあふれ、人に愛され、信頼される技術者を育成するということ」とホンダ学園の意義を説明した。
そのうえで「時代は進化を続けており、技術が革新する時代だからこそ、変えるものと変えてはいけないものを区別し、これからの50年も教育で本質的な価値の継承に力を注いでいく」と説明した。
続いて、ホンダテクニカルカレッジ教員でもある中野健二氏がプロジェクトについて説明。「現場でのリアルな経験こそ技術者として、人としての成長に欠かせないものだと考えており、ラリーはまさに実戦と挑戦が凝縮されていると考える」という。
このラリーを選んだ理由も「究極の整備現場」とし、「長い年月を経た古い車両をモンテカルロで走らせるということは、予期しないトラブルの連続。それでも修理を繰り返しながら参戦車両をゴールまで運ぶためには、単にパーツを交換するのではなく、本物の技術力、本質を見極めた創意工夫、これらを駆使し続けるということが必要」と説明した。
ほかにも参戦のためのエントリー申請から、現地への車両運搬、現地滞在のさまざまな手配といった困難なことへの挑戦、そして、追い込まれたときに試される人間力を最大の価値とし、「異国の地で過酷な試練を乗り越え、ゴールで見る景色は決して忘れることのできないものとなるはず。そこで得られる経験こそが、その後の人生を輝かせると信じている」と参戦の効果を期待した。
ほぼ学生の手で参加する
続いて、参加する学生を代表して、1号車のリーダー飯塚はるなさんは「私たちの力だけでは決してやり遂げることのできない挑戦であるということを、日々多くの困難を乗り越えながら身に染みて実感している」とこれまでの感想を述べた。
ボディの補修、電気系統のハーネスの作り直し、競技者として装備の検討、ラリーコンピュータの作成とすべて学生たちでやっている。特に、レギュレーションを確認する中で、日本の車検取得が条件であることを発見。急きょ車検を取得するための準備を進めているという。
また、2号車のリーダー松野翔太さんは、今回挑戦する学生チーム名が「兆(きざし)」となった理由を、「挑戦することの素晴らしさや、先が見えないことに一歩踏み出すことへの勇気を持てるきっかけになりたいという思いを込めました」と説明。「難問に負けず挑み続ける気持ちを忘れることなく突き進みます!」と挑む気持ちを表現した。
ラリー初挑戦の佐藤琢磨選手「ノーアタック、ノーチャンス」
今回、1号車のドライバーを務める佐藤琢磨選手も、学生たちの取り組みに共感するとともに「自分自身のキャリアで“ノーアタック、ノーチャンス”という言葉を自分の中で大切にしているのですが、まさに、みんなにもノーアタック、ノーチャンスで頑張っていただきたい」と語った。
ラリー初挑戦でレギュラリティラン形式の経験もないことについては「インディ500のオーバルレースとは反対にある競技だとは思う」として、自分にとっても新たな挑戦であることを説明し、「やるからには全力でやる!」と宣言した。
目標順位について問われると、いったんは「レーシングドライバーですから、ここはホンダらしく1番を狙いたい」と答えるも、レギュラリティラン形式の説明がされるにつれて「優勝目標っていうのはちょっと撤回しようかな……」と笑いを誘った。
佐藤琢磨選手は会見の後、レストア中のシビックRSのシート合わせなどを行なった。なお、現代のラリー用タイヤでは初代シビックRSのタイヤサイズに合わないため、佐藤琢磨選手がブリヂストンと交渉し、シビックRSに合ったタイヤを限定生産してもらうという。
ホンダの即戦力を養成するホンダ学園
今回、ラリー・モンテカルロ・ヒストリックの参戦発表とあわせて報道向けにホンダ学園が公開された。
卒業生の多くがホンダディーラーで整備士として活躍することから、校内には実習用に大量のホンダ車や、これまでに先輩たちが関わってきた車両があふれている。
通常の車両の整備のほか、最近ではEVにも対応できるよう、EV整備の特徴的なバッテリ降ろし作業の実習用車両や専用のバッテリリフトなども備えた。
また、ホンダ学園の特徴として「NSX PERFORMANCE DEALER」と同等の整備環境も整えられ、学園も実習用のNSXを複数台所有している。
ほかにも、3D CADを学び、3Dプリンターや3Dスキャナなども用意。加工などの実習ではホンダの開発環境や生産現場に近い設備が用意されているという。
一方でクラブ活動も盛ん。当然ながらクルマに関するクラブ活動もモータースポーツ部やオフロード部、自動車整備部など細かく分かれており、それぞれに充実した活動を送っている。また、スポーツのクラブもあり、掛け持ちも可能だという。































































