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低い空気圧で走れるミシュランの「ウルトラフレックステクノロジー」とは? デモンストレーションで効果を確認してみた

2025年7月2日 実施
日本ミシュランタイヤが農機用タイヤのデモンストレーションイベントを実施した

土壌を踏み固めないから作物の成長促進に貢献できる

 日本ミシュランタイヤは、北海道美幌町にある日本ニューホランドにあるテスト圃場(農作物を育てる場所)にて、アジア初開催となる農機用タイヤのデモンストレーションイベントを実施した。

 登壇した日本ミシュラン B2B事業部 オフロード 常務執行役員 高橋敬明氏によると、世界の人口は2050年には90億人を超えるといわれ、その90億人を超える人々に食物を供給するには、高効率で持続可能な農業が必要不可欠となり、その高効率を実現するポイントの1つとして、土に対して優しい=土を踏み固めないタイヤが挙げられるという。

日本ミシュラン株式会社 B2B事業部 オフロード 常務執行役員 高橋敬明氏

 そこでミシュランは、2004年に強化したハイフレクション側面壁と特殊なゴムブレンドを採用し、空気圧が低い状態で使用しても非常に耐久性が高いケーシングを実現する「ウルトラフレックステクノロジー」を開発。

ウルトラフレックステクノロジーのロゴ。黄色の部分がタイヤの側面がたわんでも使用できることを表現している

 空気圧を通常の20%~40%低減させた状態でも標準タイヤ同等の耐荷重性能を発揮する初の低空気圧(VF:Very High Flexion)認定の農機用タイヤ「XEOBIB(エクシオビブ)」を完成させた。

デモンストレーションで使用したウルトラフレックステクノロジーを採用する農機用タイヤの最新モデル「アクシオビブ2」の特徴

 空気圧が低い状態で走れることのメリットについては、日本ミシュラン マーケティング部 オフロードセグメント マネージャーの原田精二氏が解説。「重量のあるトラクターが圃場を走れば、その重さで土が圧縮され踏み固められてしまいます。その結果、土の中の空気や水の通り道がなくなり、根も育ちにくくなってしまうのです。空気圧を低くしてタイヤの接地面積を増やせば、その分重さは分散され、踏み固める力が弱まります。これにより土壌を健康に保ち、作物の成長促進に貢献できるのです」と原田氏。

日本ミシュラン株式会社 マーケティング部 オフロードセグメント マネージャー 原田精二氏

 また、土壌や作物への好影響だけにとどまらず、正しい空気圧で走行することで、駆動性能も向上し、結果作業時間が短縮し、生産効率の向上につながるほか、走行ロスが減ることで燃料消費量も低減し、コスト削減にもつながるなど、事業全体に好影響を及ぼすという。

 ただし、今でもまだ農家の中には、農業機械のタイヤも通常の自動車と同じように空気圧は高い方が燃費がよくなると勘違いしていたり、適正空気圧が低いと知りつつも、自宅から圃場まで一般道を走るシーンがあるため、やむを得ず空気圧を高めて使用しているケースもあるという。

圃場が離れている場合は一般道を走行して移動しなければならないが、タイヤが大きくその都度タイヤの空気圧を調整するのは手間がかかるのも課題
北海道は農場も大きく、いろいろな種類の作物を作ると、それぞれに適した農業機械が必要となり、投資コストも膨大

 そこで今回、実際に空気圧の違いでどんな差があり、低い空気圧で走れる「ウルトラフレックステクノロジー」のメリットはどこにあるのかを実証するため、デモンストレーションが実施された。

実際に空気圧の違いによる影響を確認

 デモンストレーション会場では、「タイヤの接地面積(フットプリント)の比較」「土壌圧縮(ソイルコンパンクション)比較」「駆動性能と燃料消費量比較テスト」と3つの実証を実施。

 使用したトラクターは、ニューホランドの「T7.300」。ボディサイズは5165×2760×3390mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースは2885mm。パワートレーンは直列6気筒6.7リッターディーゼルエンジンを搭載。タイヤサイズはフロント600/70R30、リア710/70R42。重量は11.67t(フロント車軸3.6t、リア軸重8.07t)。リアヒッチ最大揚力は1万587kgfを誇る。

ニューホランドのトラクター「T7.300」
装着タイヤは超低空気圧で使用できるVFタイヤ「AXIOBIB 2」
ウルトラフレックステクノロジーのロゴも入る

タイヤの接地面積(フットプリント)の比較

 軸重をそろえた2種類のタイヤで圃場を走行し、接地面積(フットプリント)を比較。ウルトラフレックステクノロジーを採用した超低空気圧で使用できるVFタイヤ「AXIOBIB 2」は圃場を広く浅く踏むため、踏圧が低く土壌に優しいことが実証された。また、同じVFタイヤ「AXIOBIB 2」でも、空気圧の違いで圃場にかける圧力は大きく異なり、適正な空気圧で使用することが、いかに重要かが実証された。

標準タイヤ「MACHXBIB」が適正空気圧110kPaで走行したフットプリント(リアタイヤ)。接地面積が狭いので力が分散せず圃場を踏み固めてしまう
VFタイヤ「AXIOBIB 2」が適正空気圧60kPaで走行したフットプリント(リアタイヤ)。接地面積が広いので力が分散して圃場を踏み固めない
左は「AXIOBIB 2」が空気圧200kPaで走行したフットプリントで設置面積が狭い。右は同じ「AXIOBIB 2」が適正空気圧60kPaで走行したフットプリントで設置面積が広いことが分かる。同じVFタイヤでも空気圧の違いで圃場にかける圧力は大きく異なることも実証された

土壌圧縮(ソイルコンパンクション)比較

 軸重をそろえた2種類のタイヤで圃場を走行し、土壌の圧縮を比較。走行後の地面を掘り起こして確認してみたところ、VFタイヤの「AXIOBIB 2」は圃場を広く浅く踏むため、土壌の沈み込みが浅いことが実証された。標準タイヤとの沈み込み差は1cmほどだが、広大な敷地の圃場すべてが1cm圧縮されれば、その損失は圃場が広ければ広いほど大きくなる。

VFタイヤ「AXIOBIB 2」が適正空気圧60kPaで走行したソイルコンパンクション。上から4番目の白線は下のピンクの糸より下には沈み込んでいない
標準タイヤ「MACHXBIB」が適正空気圧110kPaで走行したソイルコンパンクション。上から4番目の白線が下のピンクの糸より下へ沈み込んでいるのが分かる

駆動性能と燃料消費量比較テスト

 牽引力4.3tのトラクターを、実際の農作業を想定して、作業機を付けたトラクターを牽引することで4.3tの負荷をかけて実走。まずは空気圧200kPaで走行して計測。続いてタイヤの空気を抜いて適正空気圧60kPaに調整して再度実走。

 適正な空気圧で走行すると、タイヤが圃場を広く浅く踏むためトレッドのブロックもしっかりと働きトラクション性能が向上。同時にスリップ率の改善、1ha(ヘクタール)走行時の燃費性能も向上することが実証された。

牽引力4.3tのトラクターを、実際の農作業を想定して、作業機を付けたトラクターを牽引することで4.3tの負荷をかけて実走
前後とも少し潰れているように見えるが、これが適正空気圧60kPaで、ミシュランの「ウルトラフレックステクノロジー」のなせるわざ
【ミシュラン】農機用タイヤの空気圧の違いによる燃料消費量比較テスト
フランスから駆けつけて参加したテストドライバーのセドリック氏(左)とマニュエル氏(右)。息の合ったコンビネーションでデモンストレーション走行を実施してくれた

収穫量が最大4%向上する可能性もある

 ミシュランの試算では、標準タイヤや不適切な空気圧で農業機械を動かしている状況から、ウルトラフレックステクノロジーを採用したVFタイヤ「AXIOBIB 2」を最適な空気圧で使用すれば、最大24%の燃料消費削減のほか、駆動性能の生産性が最大7%向上し、収穫量も最大4%向上することが見込まれるとしている。

タイヤ選択と管理の最適化によるトータルコスト削減の可能性について

 なお、「ウルトラフレックステクノロジー」を搭載したタイヤは現在、トラクター用の「アクシオビブ2」をはじめ、収穫機やフローター用の「セレックスビブ2」、散布機用の「スプレービブCFO」、トレーラーおよび農機具用の「トレイルエックスビブ」など全12種類に拡大している。

低空気圧での使用を実現した「ウルトラフレックステクノロジー」はミシュランの農機用タイヤの多くに採用されている

 さらにミシュランでは、トラクターなど農業機械のデータベースに接続することで、空車重量や車軸重量、ホイールベースなどから、地形や使用用途に応じた空気圧(表示単位はBARとPSI)のアドバイスを、3分以内に割り出してくれる農業用車両の空気圧計算ツール「アグロプレッシャー」も用意。使いやすいシンプルなインターフェースとしていて、現在は英語版のみの提供となっているが2026年秋ごろ日本語版の提供も予定されている。

日本語版の提供は2026年秋ごろの予定という

デモンストレーション会場となった日本ニューホランド

 日本ニューホランドは、1934年に北海自動車工業として創業。フォードや外国製乗用車の販売・整備事業を行なっていたが、1952年にはフォードトラクターの日本総代理店となり農機の輸入販売を開始。1970年には北海自動車からトラクター部門が独立し、フォードとの合弁で北海フォードトラクター(HFT)を設立、1995年に社名を日本ニューホランドと改めた。

日本ニューホランド株式会社 CS営業推進本部 パーツサービス 営業推進部 部長 永井克規氏。自身もフランスにあるミシュラン本社のテスト圃場を訪問し、タイヤテストの様子を見学し、ミシュランの農業に対する思いに感銘したという

 日本ニューホランド CS営業推進本部 パーツサービス 営業推進部 部長の永井氏は、「1970年代ごろから農業機械の四輪駆動化がはじまると同時に大型化も進行。機械が大型になると圃場を傷めることが分かってきた。また、機械の大型化で効率が上がるはずが、圃場を傷めて作物が育たなくなる課題が出てきた」と振り返る。

 さらに農業機械はGPSの搭載や自動操舵など高性能化が進んでいるが、「1番大事なことはそのパフォーマンスをどうやって作物に還元するかで、その解決策の1つが農業機械と圃場をつなぐタイヤなのです」と説明してくれた。

デモンストレーション会場は北海道美幌町にある日本ニューホランド
日本ニューホランドはトラクターだけでなく収穫機など幅広い農業機械を取り扱っている