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ホンダ三部敏宏社長、CEATECでサステナブルな社会の実現に向け「共創」の重要性から規制・人事・将来までを語る

2025年10月14日 開催
CEATEC 2025にて「サステナブルな社会の実現に向けて」と題し、さまざまな企業の代表者5人が意見を交わした

 幕張メッセで開催した「CEATEC 2025」において10月14日に「サステナブルな社会の実現に向けて」と題した講演があり、パネリストのひとりに本田技研工業 取締役代表執行役社長の三部敏宏氏が登壇、環境、自動運転、AI時代の人材について語った。

ベンチャーから大企業まで5人がサステナブルな社会を語る

 今回登壇したのは、ホンダの三部氏のほか、三菱電機 代表執行役執行役社長CEOの漆間啓氏、エレファンテック 代表取締役社長 清水信哉氏、newmo(ニューも)COO兼共同創業者 野地春菜氏、株式会社ファーメンステーション 代表取締役 酒井里奈氏の5人。そして司会は日経CNBCキャスターの佐久間あすか氏が務めた。

 最初にパネラー5名が、それぞれの事業などを説明。ホンダの三部氏は企業理念「The Power of Dreams」を基盤に、2050年カーボンニュートラルを実現するための「トリプルアクション2050」を紹介。電動化については「ホンダは長期的に見て、EVがカーボンニュートラルの実現に不可欠であると考えている」と話し、ゼロからの発想で生まれた新グローバルEV「Honda 0シリーズ」を進めていることを紹介した。

本田技研工業株式会社 取締役代表執行役社長 三部敏宏氏
環境負荷ゼロ社会に向けて
再生可能エネルギー普及に向けた取り組み

 さらにEVだけでは環境負荷の削減は不十分。車両生産への環境負荷低減や走行用に再生可能エネルギーの安定供給、使用済み車両の再資源化も重要とし、これまでホンダが関与していない領域の取り組みが必要。そして、モビリティのエネルギーに走行距離や車両重量に応じた最適なパワートレーンを選択し、ホンダはその内製化を進めていくと説明した。

 一方で、再生可能エネルギーの普及には、現在の供給不安定を安定化させることが必要で、蓄電するためには水素によるFC発電技術が重要として、その点についてもホンダの技術で準備を進めているとした。

三菱電機株式会社 代表執行役 執行役社長 CEO 漆間啓氏
カーボンニュートラルの実現

 三菱電機の漆間氏は、気候変動への対応を重要な社会課題とし、サステナビリティの実現を経営の根幹に位置づけていると強調「カーボンニュートラルを含むグリーン関連領域において事業創出と拡大のため、2024年から2030年まで研究開発に約9000億の投資を遂行している」とした。

「三菱電機のパワー半導体は機器の省エネ化や自動車の電動化、再生可能エネルギーの電力効率の向上といったカーボンニュートラルに不可欠なキーデバイス」と位置づけた。その一方でデータとの出会いから価値を共創する三菱電機のデジタル基盤「Serendie」を活用して、新しい価値と社会課題の解決を目指すという見解を示した。

newmo株式会社 COO兼共同創業者 野地春菜氏
タクシー新会社「夢洲交通」を新設

 効率的な配車システムなど最新テクノロジー活用をしながらタクシー事業を行なうnewmoの野地氏は、「移動で地域をカラフルに」を掲げて持続可能な交通モデルを提案。タクシー事業がサステナブルに運用できるのに必要な基幹システムを内製で開発。その結果、乗務員数が増加、稼働率も非常に改善しているという。

 さらにこの基幹システムを使って新しいタクシー法人「夢洲交通」を大阪に設立し、今年の冬に開業する。自社開発の業務フローを導入、想定を上まわるオープニングスタッフの応募があったと紹介。

株式会社ファーメンステーション 代表取締役 酒井里奈氏
柑橘果皮からアルコールを作る

 研究開発型スタートアップであるファーメンステーションの酒井氏は自社の事業を「食品廃棄物や未利用資源といったバイオマスを機能性の素材に転換するという事業に取り組んでいる」とし、時代がようやく未利用資源の活用を求め始めたことを受け「今ようやくドライブをかけられる時期に来た」と語り、誰も未利用バイオマスや未利用資源のことを考えない時代から取り組んでいるため、ノウハウの蓄積が大きいことが強みと強調した。

 また、酒井氏はバイオマスを機能性素材へ転換する例として、柑橘の残渣から作ったアルコールがチューハイに使われた例を紹介し、「アルコールなので、これでクルマを走らせることも可能」と述べ、ファーメンステーションの発酵技術がモビリティ分野を含むエネルギー・化成品領域へ応用可能であることを示した。

エレファンテック株式会社 代表取締役社長 清水 信哉 氏
金属インクジェット印刷技術を用いたプリント基板による効果。コストも下げられる

 電子機器に不可欠なプリント基板を、既存と全く異なる方法で作成する技術を持つエレファンテックの清水氏は、これまでは銅を溶かして作成していたプリント基板を、同社は金属インクジェット印刷技術を用いて作成、引き算で作成していたものを足し算で作成するパラダイムシフトで「100年に1度の革命」を起こそうしていると紹介。これは、コストの面でも有利で「グリーンだから高いということを、永久に受け入れる顧客はいない」とし、環境によい上に低コストということが重要と訴えた。

 さらに清水氏は「日本からテクノロジーで新しい価値を生み出し、世界トップになったスタートアップはほとんどいない。だからそういう前例を作っていく」とし、同社がサステナブルな技術をグローバルに販売して、社会にとっても利益になるチャンスだとした。

未来に向けて「共創」の重要を訴え、日本のスピード感の少なさは意外に合理的?

 続いて、司会から未来予測や日本がどういうスピードで進んで、どんなポジションをとっていくべきなのかを問われると、ホンダの三部氏は自動車の展示会の名称が東京モーターショーから日本モビリティショーに変わったことに触れ、「今までの延長線上に自動車の未来がない。ということで“モビリティショー”にした。今までの研究開発して生産して販売する売切ビジネス的なビジネスモデルそのものを変える」と変革の必要性を訴えた。

 さらに「大きく変わるひとつに自動運転などがあり、AIの飛躍的な進化で、自動車の世界も大きく変わりつつある。報道では大きく取り上げられていないが、実は内部で相当な変革が起こりつつある」とし、さまざまな会社の総合力で新しい社会を作っていくと予測した。

 また、新しい社会へのスピード感はグローバルが先行しているとしながらも、日本の個々の会社の技術レベルが高いため、国内でつながりを強固なものにしていけば、社会構造そのものを変えられるとした。

 協力関係を作って共創していく点については、ほかのパネリストも同様の意見を述べているが、エレファンテックの清水氏は、「日本は非常に平和なので、今の日常が5年後も同じことが続くと思っている人が多い」と、日本のスピード感の不足や緊張感のなさを指摘。

「日本での開発は、意外に合理的では?」と清水氏

 しかし、エレファンテックが2014年の創業から7、8年は純粋な基礎研究をしていたことを振り返り「中長期的に世界を変えられるものだけにフォーカスしてきたが、それができるのは日本の強みかもしれない。日本で中長期的な開発をして、グローバルに売っていくことは意外と合理的ではないか」と意見を述べた。

「鎖国」から「開国」へ、他社とのかけ合わせによる新しい価値創造

 また三部氏は、共創についても語り、ホンダは創業者の本田宗一郎以来の「全て社内で作る」という鎖国政策を、自身が9代目社長として初めて破り「開国」に踏み切ったことを紹介した。

「スピードで勝つために」鎖国から開国へという三部氏

 その「開国」の理由は、技術を社内で作れても「一番のスピードでできない」ため。他社が成功してしまえば、技術の価値は半減以下になるため、「スピードで勝つため」には、さまざまな会社とのかけ合わせによる新しい価値創造が最短であると判断したからだという。

 ソニーとの新しい自動車会社(ソニー・ホンダモビリティ)はその具体例とし、企業規模に関わらず、価値のある技術を持ち寄ってグローバルに打って出ることが、日本の将来的な方向性であると強調した。

立ちはだかる規制と社会実装のジレンマ

 さらに三部氏はイノベーション実現を阻む要因として、日本の規制を挙げた。特に自動運転によるタクシービジネスのように、グローバルでまだ確立されていない分野において、日本には多くの規制があり、社会実装のハードルとなっている。

「今の技術進化が起こると、2040年には間違いなくタクシーに運転手はいない」と予測、その時をマイルストーンとし、技術もビジネスモデルも日本がリードしたい意向を示した。しかし、規制が課題となり、日本での社会実装が遅れ、やむを得ずアメリカなど海外で技術実証やビジネスを開始するといった事態が起きていることを明らかにした。

 三部氏は「日本全体として見直さないと、新しい事業、ビジネスが日本発とならない」とし、規制緩和に向けた皆の声の結集を呼びかけた。

「全国を巡っていると先進技術の導入に非常に熱心な地方自治体も多くある」という野地氏

 それを受けてnewmoの野地氏は「自動運転タクシーは先進技術であっても、人の命に関わる技術なので、導入に関してはさまざまな見方がある」とした上で、「タクシー事業は新規参入が許されていない規制があるなかで、自動運転タクシーのような先進技術の導入については自治体によって姿勢が異なる」とし、大阪の堺市のように積極的に社会実装を支援してくれる自治体があることから先進技術の導入は「堺市から始めて全国で手がけていきたいと思う」と述べた。

DX人材の必要性は時代ですぐ変わる。人事もリアルタイムに対応

 続いて、企業のサステナビリティに不可欠な人材の話になると、三菱電機の漆間氏は「まず社内をリスキリングして、デジタルを自由に扱えるような人材を増やすよう、早稲田大学と共有しながら育成を進めている」とし、人材をこれまでは事務系か技術系かで分けてしまいがちだが、事務系技術系に関係なくデジタルに精通している人はいて、事務系にもいるので、そうした人を“発掘”しくことが重要とした。

 ホンダの三部氏は、必要な人材が刻々と変わっている現状を指摘した。かつて重要視されたDX人材のなかでもソフトウェアエンジニアは、生成AIの飛躍的な進化で需要が変化。引く手あまただったのは2022年がピークで、現在はアメリカでも簡単に雇えるという。

 そして、生成AIがコーディング業務を担うようになったことから「今、欲しいのは高度AI人材、データサイエンティスト、この人たちは非常に欲しい」とした。しかし、一方で「やっている最中にもどんどん状況が変わっている」とも指摘し、人事戦略をリアルタイムに対応することが必要とした。

SF映画に出てくる世界は、当たり前になる2040年

 最後にまとめとして、次世代に向けた展望やメッセージを求められると、ホンダの三部氏は「どのような未来社会になるかを各自が頭のなかで具体的に描くと、その未来が必ず実現するという確信を持つこと」とし、それが新しいものを生み出す力になると強調。モビリティは地上走行から3次元化へと拡大し「SF映画に出てくる世界は、そのころには当たり前になっている」との見通しを示した。

 newmoの野地氏は「より多くのエリアで自分たちの目指すべきタクシー事業を展開して、地域のみなさまに交通の資産を提供することに集中したい」と述べ、地道に活動していくことを強調した。

 エレファンテックの清水氏は、AIの進化で社会が二極化していくと予測、このままでは日本はイノベーションを輸入するだけの存在になる懸念があると指摘し、「大きなリスクをとって非常に大きな技術革新を起こしていく、ということをぜひやり直そう」強く呼びかけた。

 三菱電機の漆間氏も「過去の延長線上では生き残れない」と指摘、失敗を恐れずにチャレンジしながら、個々の社員が主体的に考えて新しいものを生み出していく、そういう会社にならないといけないとした。

 また、ファーメンステーションの酒井氏は、企業価値の評価指標に、「利益やキャッシュフローだけでなく、ソーシャルインパクトにどう取り組んでいるかが必ず企業価値とリンクするようになる」と予測、酒井氏自身もそうした未来を作りたいという気持ちを示し「みなさんも準備されたほうがよい」と訴えた。

司会進行は日経CNBCキャスター 佐久間あすか氏