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トヨタ、新型ミッドシップ「GRヤリスMコンセプト」の4WDシステム「GR-FOUR」にはジェイテクト製「ITCC」を引き続き採用
現行GRヤリスのシステムを前後逆に搭載
2025年10月26日 04:09
トヨタの新型ミッドシップ4WD「GRヤリスMコンセプト」がスーパー耐久第6戦岡山に登場した。10月25日には予選が行なわれ、ベストタイムは3分19秒397。ST-2クラスと合わせた総合では4位に食い込む速さを見せている。
新開発の直列4気筒2.0リッターターボエンジン、新開発のミッドシップ、新開発のミッドシップ4WDシステム「GR-FOUR」を搭載することから目標は完走としており、26日に行なわれる決勝レースでは3時間後のゴールを目指すことになる。
このGRヤリスMコンセプトでの注目はエンジンにやリアミッドシップマウントに集まりがちだが、4WDシステムにも注目だろう。現行GRヤリスの4WDシステムは「GR-FOUR」と呼ばれるもので、フロントに配置されたエンジンからの駆動力をシャフトドライブにより後方へ導き、後輪の直前に配置されたジェイテクト製の4WD電子制御カップリング「ITCC(Intelligent Torque Controlled Coupling)」によって前後の駆動配分をコントロール。NORMALモードは前輪60:後輪40、GRAVELモードは前輪53:後輪47、TRACKモードは前輪60~30:後輪40~70で連続可変の3つのモードを電子制御で成り立たせている。
4WDシステムに詳しい方であれば、ここで1つの疑問を感じるに違いない。「カップリングによる4WD制御なのに、後輪のトルク配分が前輪を超えるのはどうして?」というものだ。
前輪のトルクを後輪に導く電子制御カップリングの基本形として、フロントエンジンの場合は前輪100:後輪0~前輪50:後輪50というものがある。センターデフとなる電子制御カップリングを全締結したときに前輪と後輪に均等にトルクが流れ、前50:後50を最大値となるものだ。
実は現行のGRヤリスでは、全締結した際には後輪と前輪のデフのギヤ比が異なり、後輪を前輪より増速することで前輪と後輪の回転数が異なる仕様となっている。つまり、全締結した際にどんどん後輪にトルクが流れるように設計されており、それをITCCでコントロールすることで自由度の高い前後トルク管理を行なっている。その増速割合はわずか0.7%。「歯車の歯1つ程度」(GRヤリス開発スタッフ)といい、この割合はモリゾウ選手ら開発ドライバーの実走によって決まった数値とのことだ。
ちなみにこれがとても希少なシステムかというと、そうでもない。マツダが現在採用している新世代の4WDシステム「i-ACTIV AWD」でも後輪を増速しており、リアの増速割合は約1%とのこと。マツダのi-ACTIV AWD採用車に雪道で乗った際に後輪駆動的な気持ちのよい特性を明確に感じる人もいるだろうが、そのポイントはこのような工夫に起因する部分でもある。ちなみにこのマツダのi-ACTIV AWDもジェイテクト製のITCCを採用している。
現行GRヤリスの「GR-FOUR」を前後逆に搭載したGRヤリスMコンセプト
では、ミッドシップ4WDであるGRヤリスMコンセプトはどのような4WDシステムを採用したのだろうか。開発スタッフに確認すると、GRヤリスの「GR-FOUR」を前後逆に搭載しているという。
外観からは分かりにくいが、新開発の2.0リッターターボ「G20E型」エンジンを低く搭載したさらにその下に前方にトルク配分するためのギヤ機構「カウンターギヤユニット」を装備。いわゆるPTO(Power Take Off)と呼ばれるものから取り出したトルクの方向を変更。これにより駆動軸を前輪に導いている。
そして前輪デフの前にはジェイテクト製の4WD電子制御カップリングであるITCCを配置。これによって前後トルクの調節を電子的に行なっている。このGRヤリスMコンセプトも現行GRヤリスと同様に、前後輪の回転数が異なる仕様となっており、全締結した際にはどんどん前輪にトルクが流れる仕様となっている。ギヤ比はGRヤリスの逆となるようで、ITCCのコントロール次第では前輪側のトルクを後輪側より大きくすることもできる能力を持つ。
もちろんこのクルマは後輪側に荷重の大きいリアミッドシップであるため、トルク配分は後輪側が大きい。当初は前輪20:後輪80で開発していたが、より安定した旋回を得るため、前輪30:後輪70など安定方向の駆動比が試されているようだ。
驚くべきはITCCはGRヤリスと同じものが使われているとのことで、GRヤリスに装着されているITCCは1.6リッターターボ「G16E-GTS型」のトルク400Nmどころか、新型エンジンのトルクもこなしているとのこと。400馬力を発生するG20E型エンジンのトルクが1.6リッターと同じであるはずはなく、500Nmくらいは発生していると見るのが普通だ。つまり、G系エンジンを搭載するシステムは、市販でありながらかなり上のレベルでの信頼性が確保されていることになる。
現行GRヤリスは、2025年のニュルブルクリンク24時間レースを、市販と同じパワートレーンで完走している。ある意味、快挙であることは間違いないが、開発陣は相当高いレベルを見てGRヤリスを開発していたことが新型エンジン搭載車によって確認された形だ。





