イベントレポート 東京オートサロン 2025
出力は400馬力以上? 2.0リッター4気筒ターボのミッドシップ4WD「GRヤリスMコンセプト」断面図披露 トヨタの公開開発はすごすぎる
2025年1月12日 10:22
- 2025年1月10日~12日 開催
2.0リッター4気筒ターボのミッドシップ4WD「GRヤリスMコンセプト」断面図
東京オートサロン2025の初日に、新開発の直列4気筒2.0リッターターボエンジン「G20E」をリアミッドシップに搭載したGRヤリス改造車「GRヤリスMコンセプト」を世界初公開したTOYOTA GAZOO Racing。2日目のトークショー「モータースポーツ起点のもっといいクルマづくり」では、佐々木雅弘選手、石浦宏明選手、大嶋和也選手とともに、トヨタやルーキーレーシング側からは平田泰男氏、関谷利之氏、齋藤尚彦氏が登壇し、GRヤリスの開発過程が語られるとともにGRヤリスMコンセプトの生まれたきっかけ、そしてその構造などが明らかにされた。
GRヤリスシリーズの開発に携わる齋藤氏によると、ミッドシップ4WDであるMコンセプト誕生は、モリゾウさんことトヨタ自動車 豊田章男会長とのサーキットでのミーティングにあったという。
フロントにエンジンとトランスミッションを置き、フロントの駆動軸取り出し機構(パワーテイクオフ、PTOと略される)から、プロペラシャフト経由でリアに駆動力を送る現行のGRヤリスでは、フロントにほとんどの機構が集まる関係から、モリゾウさんが「神に祈る時間」と呼ぶ瞬間がどうしても発生してしまうという。
フロントにエンジンや駆動機構が集まるため、重量配分がフロント寄りとなり、基本的にはアンダーステア傾向。もちろん、一般的なクルマとしては望ましい特性となるが、極限まで運動性能を極めていく過程でどうしても運転操作が効かない時間帯がコンマ数秒という状況で発生。その解消が難しかったという。
そのような打ち合わせをモリゾウさんやプロドライバーと行なっていく過程で、モリゾウさんが親指と人差し指をパチリと鳴らすような仕草で、エンジンを後ろに持っていくことを提案。齋藤氏のほうですぐに絵を描き上げ、モリゾウさんと打ち合わせに入ったという。
その際の映像とともに公開されたのが、齋藤氏が「絵」とよぶMコンセプトの断面構造図。イラストみたいなものが出るのかなと思っていたら、齋藤氏は構造図をどかーんとスクリーンに映し、見ている側が「こんなものまで公開するのか?」というほどの衝撃を受けるものだった。
見れば見るほど味わい深い構造図
この構造図から読み取れるものは多い。まず前提条件として、GRヤリスとはGA-Bプラットフォームの通常ヤリスとは異なり、前半はGA-Bプラットフォーム、後半はGA-Cプラットフォームを採用するスペシャルなモデルになっている。これは、GA-Cのダブルウィッシュボーンサスペンションなどを使いたかったためで、リアまわりのボリュームはプリウス並の許容力がある。
Mコンセプトの開発初期段階(もちろん今も初期だが)では、GRヤリスを本当に前後逆にしたような構造を取るため、1.6リッターエンジンを搭載。ただしそのままだと、駆動軸の取り出しに問題が発生するためトランスミッション後部にカウンターギヤユニットを設けて、一旦後ろに流したトルクを前方向にプロペラシャフトで流している。
フロントはGRヤリスでは後部にあったトルクスプリット装置(ジェイテクト製のITCC)が必然的に前にあり、前後トルク配分を調整。本来リアデフだったものがフロントデフとして取り付けられている。
ここの部分は、本当にGRヤリスのリアトランスファーがフロントトランスファーとして使われており、取り付けメンバーもGRヤリスのリアに用いられていたものが、フロントに用いられている。この部分は展示車でも確認できるので、ぜひのぞいてみてほしい。
佐々木選手、石浦選手、大嶋選手は、1.6リッター版のGRヤリスMコンセプトでテストを行なっており、その特性は素晴らしいものだという。ミッドシップとなったため、現行GRヤリスよりは機敏になり、「神に祈る時間」とモリゾウさんが表現していた時間帯も消えクルマを操る楽しみが増しているという。
ただし、GRヤリスのサイズでのミッドシップでは扱いがクイックになるため、佐々木選手はGR86で運転を学びはじめ、GRヤリスで向上し、といった先にあるスペシャルなクルマであると表現していた。
新開発の直列4気筒2.0リッターターボ、出力は市販モデルで
400馬力以上?
Mコンセプトでは、さらなる戦闘力を求めるため新開発の直列4気筒2.0リッターターボを搭載。これは、モリゾウさんがトヨタの佐藤恒治社長に開発をお願いした2つのエンジンの1つで、赤いヘッドを持つスポーツエンジン。ちょうど1年前の東京オートサロン2024で存在が明かされていたものだ。
2024年5月の「マルチパスウェイワークショップ」では、詳細なコンセプトを中嶋裕樹副社長が説明。トヨタのパフォーマンス系エンジンを置き換えるべく開発が続けられている。
その目標性能は、市販エンジンとしては400PS/500Nmや300PS/400Nmで、レーシングヘッドに交換すれば600馬力以上を目指すもの。ターボエンジン前提のため馬力やトルク性能に幅を持たせることができる。
このエンジンについて中嶋副社長は「縦にも横にもおけます」と常々語っており、試作車両のISでは縦に搭載されていたものの、横での搭載を示唆していた。常識的な発想しかできない記者は、それをFFベースの4WDスポーツ、つまり中嶋副社長がラリージャパンで宣言した「セリカ、やります」として開発が始まっているであろう「やりますセリカ」かと思っていたのだが、まさかのリアミッドシップ搭載とは。世界初公開のプレスカンファレンス時に見たときは、トヨタ技術陣のすごさに圧倒されるとともに、常識を超えたモリゾウさんの前後入れ替えアイディアという発想の豊かさにしびれてしまった。
さらに出力についてだが、中嶋副社長は記者の「400馬力エンジンの~」という質問に対し、それ以上の馬力もあることを示唆。すでにプロトタイプで400馬力仕様を公開していることから、市販バージョンでも驚きを用意しているのかもしれない。
車体やエンジンすべてがとんでもないチャレンジのため、展示してあるGRヤリスMコンセプトは過渡期のものであると思われる。冷却性が課題とのことだが、断面構造図やクルマを見ると、ラジエータはフロント部にあり、そこから冷却水を回すなど、ある意味マスの集中化が行なわれていない。
また、リアサスペンションはサブフレームを用いたダブルウィッシュボーンで、対談で語られていた整備性などを考えると、空間を広く持てることからストラット(つまり、4輪ストラット)などもあり得るだろう。ストラットであるとジオメトリ変化の自由度は下がるが、自由度が下がるだけ分かりやすい動きとなり、解析や整備性は向上する。
さらにボディまわりに手を付けるかどうかは分からないが、冷却性に難があるのであれば、ボディ後部はまだまだ変わってくるだろう。一般的に冷却は入りが大切だと思われがちだが、実は抜きが非常に大切で、後部にどれだけ負圧を発生させられるかがポイントになる。F1でのディフューザー効果を見ればそれは圧倒的で、ドラッグの発生なく負圧を作れるようなデザインが採り入れられていくだろう。
この断面構造図で隠されているのがフロントまわり。フロントまわりには謎の四角く塗りつぶされた部分があり、展示車ではすっからかんとなっている部分。GRヤリスのボディデザインではフロント部に上向きの力が発生していたと思われ(いわゆる普通のクルマのデザイン)、フロントに重量物がある場合はポジティブな影響を与えていたとも考えられる。
一方、このようにリアミッドシップになると、フロント部の荷重は静的状態では大幅に減るため、なんからの荷重があると動的特性を有利に作り込みやすい。ボディデザインに手を入れてフロントまわりを変更という解決策もあるが、それでは大規模な投資になりすぎてしまう部分がある。
齋藤氏は、トヨタ車で多数採り入れられているエアロスタビライジングフィン(通称お魚フィン)の発案者の1人であり、空力に詳しい人物。この四角い部分はなんらかのダウンフォース発生装置であると推測してみたいが、実際はどうだろうか? 正解は、これからのスーパー耐久で明らかになっていくだろう。