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ダンロップの独自技術アクティブトレッド第3のスイッチは「圧力」がカギ!? 2028年の市販化に向け山本悟社長が言及

2025年12月16日 実施
年末記者会見を行なった住友ゴム工業株式会社 代表取締役社長 山本悟氏

2025年の活動に点数をつけるとしたら「90点」

 ダンロップ(住友ゴム工業)は12月16日、今年1年を振り返る年末記者会見を東京本社(東京都江東区豊洲)で実施した。登壇したのは、住友ゴム工業 代表取締役社長 山本悟氏と代表取締役 専務執行役員 西口豪一氏の2名。

 山本社長は2025年を振り返り、欧州・北米・オセアニア地域での四輪タイヤ「DUNLOP」商標権や、マレーシア・シンガポール・ブルネイにおけるタイヤ(航空機用と冬用タイヤは除く)、チューブ、フラップの「DUNLOP」商標の独占使用権の取得をはじめ、既存事業の選択と集中、新たにスタートした総コスト低減活動「Project ARK」といった事業計画や活動が年初に想定したとおりに進められたことから、「個人的には満点をつけたいところですが、販売会社のダンロップタイヤが公正取引委員会の調査を受けたため、その分を差し引いて90点」と総評した。

左から住友ゴム工業株式会社 代表取締役 専務執行役員 西口豪一氏、住友ゴム工業株式会社 代表取締役社長 山本悟氏

 また2026年は「DUNLOPのもとに、グローバルで新たな成長ステージへ飛躍しよう」「全員がイノベーションの主役となり、『R.I.S.E2025』を推進しよう」「多様な力を融合し、挑戦と成長を後押しする組織に進化しよう」の3つの方針を掲げ、DUNLOPブランドを経営の中心に据えてグローバルで戦略を実行しつつ、ゴム起点のイノベーション創出を目指し「3Dプリンター用ゴム材料」「がん細胞吸着キット」「リチウム硫黄電池」の事業化。以前から取り組んでいるDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)によって、全社員が成果創出に向けて自由に議論し、果敢に挑戦し、成長できる組織風土の完成を目指すという。また、最終的にはタイヤ以外の新規事業を3割程度までボリュームを増やしたいとしている。

産業品事業について

独自技術“アクティブトレッド”の第3のスイッチは「圧力」

 タイヤのプレミアム化に向けた活動については、オールシーズンタイヤ、超高性能スポーツタイヤ、大外径オフロードタイヤを中心に展開を推進。コンパウンドが変化する独自技術「アクティブトレッド」については、“水スイッチ”“温度スイッチ”を搭載したオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」を、再びダンロップブランドを使用できるようになった欧州・北米など海外へ展開する。

 また、アクティブトレッドの第3のスイッチは“圧力”がカギになっているとのことで、「圧力をしっかりと感知して、グリップが必要なときには柔らかくなり、グリップよりも剛性が必要な場合は硬くなるといったイメージ」と山本社長は語る。ターゲットとなるのは、ポルシェ、ランボルギーニ、フェラーリや、ハイパワーBEV(バッテリ電気自動車)といった超加速を実現するプレミアムな高性能モデル。さらに岩場など荒れた路面を走るピックアップ・SUV向けの大口径オフロードタイヤにも搭載することで効果を発揮するとのことで、いずれも2028年までの市販化を目指すとしている。

アクティブトレッド「第3のスイッチ」は特許出願済みとのこと

 さらにもっと未来のタイヤについては、空気圧低下警報装置DWS(デフレーション・ウォーニング・システム)やセンシングコア、さらに独自AIをかけ合わせることで多様なデータを回収し、「例えばこの先に滑りやすい路面があることを後続車に知らせ、後続車はタイヤを滑りやすい路面に対応したコンパウンドにあらかじめ変えておく、準備しておく、さらにはタイヤパターンまで変化させられる。そんな夢のようなタイヤもいつかできるかもしれません」と山本社長は話した。

タイヤのプレミアム化に向けたロードマップ

 なお2025年10月には、いすゞの大型トラック新型「GIGA(ギガ)」にセンシングコアの機能の1つ「車輪脱落予兆検知」が標準搭載されており、住友ゴム工業 代表取締役 専務執行役員 西口豪一氏は、「実はタイヤの脱落事故は大きな事故しか報道されていませんが、年間で数千回も発生しているのです。なので、今後出てくるトラックやバスの新型モデルにはこの機能が必須だと考えていますし、多くのメーカーに賛同していただいているので、今後の拡販は期待大です」と強調する。

センシングコアの拡販に期待を寄せる住友ゴム工業株式会社 代表取締役 専務執行役員 西口豪一氏

まずは欧州の自動車メーカーの新車装着拡大を目指す

 ダンロップブランドがグローバルで展開できるようになったことで山本社長は、「ダンロップブランドはイギリスが発祥の地であり、今でも認知度が高いので、まずはダンロップブランドの精鋭を20人ほど送り込み、プレミアム系の自動車メーカーへのアプローチを推進します。これまでも日本から支援はしていますが、これからはもっとスピーディーに対応できるようになりますし、これまでファルケンしか売っていなかった販路もダンロップ製品を展開できるので、ダンロップでティア1、ファルケンでティア2の領域での存在感をしっかりと出していきます」と欧州での戦略について言及した。

 北米についても、2024年にSRUSA(住友ラバーUSA)を解散して工場を閉鎖しているため、トランプ関税に対して厳しい状況に置かれているが、そこは値上げでしっかりと対抗し、活路が見えているという。また、販売会社のSumitomo Rubber North Americaは以前のまま残っており、ダンロップブランドが使用できなくなる以前に取引のあった企業もまだ多くあり、今回また住友ゴム工業がダンロップ製品を扱うようになると知り、歓迎ムードだという。山本社長も「アクティブトレッドやセンシングコアなど、オリジナリティの高いしっかりとした製品があれば、きちんと売れると地元の販売会社も自信を持ってくれている」と期待を込めた。

 また、さまざまなリスクに柔軟に対応できるので、基本的には地産地消がベストと考えているが、現状では北米工場の新設は白紙状態とのこと。

北米での展開について語る山本社長

総原価低減活動「Project ARK」の効果

 2025年5月に発足して7月から本格稼働したという総原価低減活動「Project ARK」について山本社長は、「実はProject ARKの担当である経理財務本部長の荒木伸治は、トヨタでTPS(Toyota Production System:トヨタ生産方式)を学んできまして、その学びを生かすことで効果を上げてきています」と説明。

 11月時点で2025年の目標効果額30億円のうち、すでに24億円の目途が立っているほか、2025年から3年間で300億円の目標効果額も、11月時点で236億円の施策が積みあがっているという。このProject ARKの施策は全社員総動員で実施しており、スタート直後には7000を超えるアイデアが提出され、すでに204件が本施策として動いているという。

Project ARK(プロジェクトアーク)の進捗