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「日本企業の暗黙知/社内データ AI-Ready化プロジェクト」発足記念発表会 国内企業内に眠っている「暗黙知」を今後の現場で使えるようにAI実装を目指す
2026年5月18日 16:39
- 2026年5月14日 開催
ストックマークは、「GENIAC」の第4期における「製造業データ等のAI-Ready化に関する研究開発」に採択されたことを受け、国内16社とともに「日本企業の暗黙知/社内データ AI-Ready化プロジェクト」として推進していく。この発足記念発表会が5月14日に行なわれた。
ストックマークは、生成AI技術を活用し企業を支援する、2016年起業のスタートアップ企業。製造業向けAIエージェント「Aconnect」や、あらゆるデータを構造化し企業の資産にする「SAT」を運営していて、企業特化生成AIの開発も行なっている。
「GENIAC(ジーニアック/Generative AI Accelerator Challenge)」とは、経済産業省とNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施する国内の生成AI開発力強化のためのプロジェクト名だ。日本のデジタル分野での取り組みの遅れを、生成AI時代にその流れを変えるべく、その鍵を握る基盤モデル開発力の向上、開発に必要な計算資源の調達、データセットの蓄積、ナレッジの共有、生成AIの社会実装促進などを支援している。
今回「GENIAC」の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/製造業データ等のAI-Ready化に関する研究開発(GENIAC)」の公募で、ストックマークが採択されたテーマは「製造業における非構造化データの多層的構造化とヒアリングAgentによる暗黙知の形式知化・自律運用プロセスの研究開発」となっている。かなり難しい用語が並ぶが、ポイントとなるのは、製造業を中心に国内企業内に眠っている熟練者の経験や知識、非構造化ナレッジなどの形式化されていない「暗黙知」を、生成AIが学習・活用できる「AI-Ready」なデータ構造へと変換し、これからの現場で使いやすいようにAIに実装することにある。
AI活用で本当に必要なデータは社内に眠っている
発表会の冒頭、ストックマーク 代表取締役CEO 林達氏から解説があった。今回は経済産業省とNEDOのドラフト段階から、かなりのスピード感を持って急ピッチで審査まで進められたという。
まず重要なのは、公開データ中心のAIでは、実業務に必須の専門性の高い質問には十分に答えることができない、ということだ。モデルの優秀さは重要だが、すでにインターネットに公開されたデータのみを読み込んだAIには限界が見えてきている。本当に重要なデータは、社内に眠っているのだという。
そして「単にドキュメントとしてあるというだけでなく、AIが学習しやすい定形データや構造化データといった“AI-Ready”なデータに変換していったり、社内の熟練者の知見や慣行などの暗黙知をAIに読ませたりするところがポイントになります。これからのAIの主戦場は社内データです」(林氏)という。また、今回は実装して実データや業務で検証し、ベストプラクティスとして整理、現場で使える状態にまで持って行くところまでを目指す。
さらに、今回の実装を進めていった中から出てきたベストプラクティスは、公開して社会に還元していくという。公開するのはあくまでも他社でも活用可能な共通の知見に限り、現場のデータやノウハウ、学習済みモデルは資産としてしっかり守っていくこともポイントになる。機密データは守りながら、AIの活用を進めていく。
「今回は16社にエントリーいただきましたが、実際には全体で40社程度に声をかけました。その中でネガティブな反応をされた会社は1社もありませんでした。みんなぜひやりたいということだったのですが、今回はスケジュール的に間に合わなかったのです。デジタル実装を推し進めていきたいという、各社の思いが感じられるプロジェクトになったと思います」(林氏)と、今回のプロジェクトへの反応を語っていた。
自社のノウハウが詰まったAIは自社で使う
続いて、ゲストとして経済産業省大臣官房審議官(商務情報政策局担当) 奥家敏和氏が登壇し、「AI政策とデータ政策の融合」をテーマにあいさつがあった。
まずは、AI政策の始まりに関して概要を説明した。2022年に会話のできるChatGPTの登場で仕事に使えることに気づいたのだが、日本にはGPUがない。NVIDIAから計算インフラとしてのGPU調達をはじめ、さくらインターネットなどでGPUクラウドサービス基盤を構築してきた。ただ、構築には時間がかかるので、並行してGoogleとMicrosoftから調達したGPUクラウドサービスを、ストックマークなど開発能力があるところに、GPU能力を分配するということを、領域特化型のところから入っていったという。これが2023年の補正予算のころで、このころにようやく各企業の顔が見えてきたとのこと。
2024年には早くもフィジカルと融合しはじめ、この領域は日本の将来に関わるぞ、とAIとロボットの融合領域にもリーチをかけ始めたという。この時点で、ベースとなる基盤モデルを日本が持たない状態で、非構造化データを学習に読み込ませていいのか問題になった。「自分たちが持っている貴重なデータを学習することになってしまう。日本独自に持たなくていいのか」と、大議論が起きたそうだ。そのため今年の補正予算から、これらのフィジカルAI向けのものにも着手し始めたとのことだ。
今のLLM(大規模言語モデル)は、インターネットからの情報を元にしている。2年ほど前から2026年にはデータを学習し尽くす、2025年ぐらいにはもうすでに食いつくしているのかもしれないということも言われ、AIが作ったデータで学習するようになっているとのこと。AIの結論は生のデータではなく確率論なので、それを学習させてもレベルは上がらず、フィジカル領域や、非構造化データは手に入らない。データを使える状態にするために、意味付けをしたり適切な単位に区切ること自体が、現場の人たちのノウハウがないとできないのだという。この世界に入ることで、さまざまなロボットをAIで自律的に使っていくことが可能になるという。今は言語や音声、動画だが、この先に触覚データ、摩耗データ、オペレーション現場のデータというものも学習させ、基盤モデルを作っていくようになるという。
「自分たちのノウハウの塊といえるアセットは、自分たちで使えるようにしましょう。もしこれが流出し使われてしまうとキツい。ただし、現状のままでは使えません。リファインしないとならない。この分野には、アメリカにパランティア・テクノロジーズ(Palantir Technologies)という巨人がいます。ここ1年の間に日本でもスタートアップが、この領域にどんどん出てきています。ここを集中的に狙った政策を打つことが、AI政策の肝になります。世界的に見ても、日本はこういう手でくるかって見ているはずです。今回ここに乗り込んでいきます。皆さんの活躍を非常に期待しています。ようやく船出したところ。一緒にがんばってまいりましょう」(奥家氏)と今回の政策の意義を語った。
続けて、プロジェクト概要紹介として、プロジェクトに参加する16社の代表者が登壇し、短く解説を加えた。16社(五十音順)とテーマは以下のとおり。
味の素 執行役常務 チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)スムリガ・ミロスラブ氏
「長年蓄積された製造・技術知をAI-Ready化し、 検索・活用可能な次世代技術ナレッジ基盤の構築」
伊藤忠商事 准執行役員 IT・デジタル戦略部長 浦上善一郎氏
「現物・先物市況の相場観を形式知化し、 市況予測の精度向上を図るハイブリッド型市場分析AIの開発」
NGK 取締役専務執行役員 森潤氏
「研究開発における暗黙知継承とナレッジ活用のためのAIプラットフォームの構築」
神戸製鋼所 執行役員 入谷一夫氏
「発電所の運転管理・保全に関するデータおよび業務知見のAI-Ready化、運転最適化やトラブル対応高度化に向けたAI活用の推進」
ジェイテクト 研究開発センター長 小野崎徹氏
「生成AIによる企業内暗黙知の形式知化と、データ構造化技術の研究開発および活用基盤の構築」
スズキ 常務役員 IT本部長 野中彰氏
「複雑な品質DBと非構造化ナレッジの統合による、次世代AI品質保証プラットフォームの開発」
住友化学 常務理事 DX推進室長 土佐泰夫氏
「『AI駆動型モノづくりに向けたAI-Ready化』 -エンジニアリングチェーン全域の意思決定を支える基盤整備-」
太陽誘電 開発研究所 開発企画部 茂木昌詩氏
「非構造化技術資産のナレッジグラフ化による、『探索的R&D』に向けた生成AI活用型テーマ創出プラットフォームの実証」
帝人 CTO補佐 尾崎大介氏
「製品輸出管理における属人化間接業務の業務効率化とAI-Ready化」
東京電力ホールディングス 常務執行役 関知道氏
「水力発電所ダム管理ノウハウの形式知化・活用」
日揮ホールディングス 執行役員 チーフ・デジタル・オフィサー(CDO) 谷川圭史氏
「設計意図を読み解くP&ID作成業務の部分自動化を推進し、設計品質の標準化と工数削減を検証」
三井住友銀行 執行役員 八木修氏
「決済関連ソリューション営業支援における暗黙知のインタビュー・AI-ready化(構造化)ツールの開発・実証」
三菱ケミカル 執行役員 チーフ・デジタル・オフィサー(CDO) 浦本直彦氏
「多様な化学プロセスにおける『一般工学知』と『ドメイン固有知』の分離・構造化による、習熟・運転支援ハイブリッドモデルの実証」
ヤンマーホールディングス 取締役 経営戦略・技術・DX担当 奥山博史氏
「過去の製品不具合データのAI活用による設計品質向上と不具合対応コスト(Fコスト)削減の推進」
ライオン 執行役員 全社デジタル戦略担当、デジタル戦略部担当 中林紀彦氏
「生活者調査データの構造化と 『AIコンシューマー・ツイン』との共創がもたらす、次世代マーケティング基盤の構築」
LIXIL 常務役員 CX部門 リーダー 安井卓氏
「オンラインショールームの接客映像と製品構成仕様の統合学習による、複雑なリフォーム提案を完遂させるデータ基盤の構築」
ジェイテクトとスズキの取り組み
参画企業の中から、自動車関連として、トヨタグループ傘下のジェイテクトとスズキをピックアップして、取り組みを簡単に紹介しよう。
ジェイテクトは、パワーステアリング、ドライブシャフト、プロペラシャフト、オイルポンプなど自動車の主要部品や軸受、工作機械などを作る、王道の“ものづくり”企業。これまでは製品を提供するサプライヤービジネスを主としていたが、今後は課題解決型のソリューションプロバイダーへと変革しようと推進しているという。現場は工場だけでなく、経営、調達、営業、研究開発と多岐にわたっている。その現場には、とても多くの暗黙知が存在するとのこと。構造化されたデータとしては、DRBFM(Design Review Based on Failure Mode)と呼んでいる設計段階で課題をなくしていくものがあるそうだが、まだまだ構造化もされていないExcelやPDFといったデータが多く、とにかく雑多なテキスト情報も多いとのこと。手書きのメモもあるようだ。
今回参加するきっかけは、もともと業務でストックマークを活用していてつながりがあったそうで、実現したいことなどを相談しているときに、声をかけてもらったという。「今回、実際に話をいただいてからのスピード感は本当にすごかった。暗黙知の活用をぜひ実現したい。みんなが使える形になっていないものが結構な量で埋もれています。それを掘り起こして、AIのチャットボットのような形で、新人も含めてみんなが簡単に活用できるようにしたい」(ジェイテクト 小野崎氏)と教えてくれた。
スズキは、ご存じのように自動車や二輪車のメーカー。自動車製造業では、設計から開発中の実験工程、製造という工程を経て、さらには設計品質を製造品質にし、最終的に市場の人々の手元に届けるという、実に数多くの工程がある。これらの過程の中では、使われている言葉も使っている道具も、起きる問題も異なる。その中には暗黙知も存在し、非定型のデータ、図面などもあるという。
「社内には、とにかく膨大な暗黙知があります。これらを部門間を超えて、どのように活用し共有できるか。今回は特に品質に着目しています。いち早く品質問題を解決できるよう実現していきたい。今までの生成AIでは扱うことのできなかった種類のデータ、これを同じプラットフォームで扱って解決していくことに大変期待しています。まず最初に市場からやってくるさまざまな不具合の情報がサービスデータとして上がってきます。これは1つのデータベースに入っていますが、例えば、ちょっとクラッチのつながりが悪いというようなケースでも、どういうことが起きているか、その設計者や実験時のデータなどにうまくつなげていき、原因をすばやく特定する。こういったことをAIで実現していきたいと考えています」(スズキ 野中氏)と教えてくれた。
















