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日産、新型「エクステラ」と「インフィニティ」をまとめて開発する「ファミリー企画」とは? キーになるのは「共通アーキテクチャー」

2026年8月21日 開催
日産自動車株式会社 商品事業企画部 副本部長 佐々木英王(ささき ひでお)氏

 日産自動車は8月21日、神奈川県横浜市にあるグローバル本社で報道関係者向けの「ファミリー企画に関するメディアレクチャー」を開催した。

 車両の電動化やソフトウェアの進展、市場ニーズの多様化など、自動車業界を取り巻く環境がかつてないスピードで変化していることを受け、日産では4月に発表した新しい長期ビジョン「モビリティの知能化で、毎日を新たな体験に」でも説明しているように、標準化されたアーキテクチャーや共通コンポーネント、共通の開発ツールなどを基盤とする「商品ファミリー戦略」で商品企画を進めている。

 当日はファミリー単位で新型車開発を行なうことで生み出される効果や意義、取り組みの具体的な事例などについて、日産自動車 商品事業企画部 副本部長 佐々木英王氏から解説が行なわれた。

エスピノーサ社長の強力なリーダーシップで商品ファミリー戦略を策定

ファミリー企画について解説する佐々木氏

 日産では、自動運転やADAS(先進運転支援システム)の進化、コネクティッド対応などが求められ、車両開発が高度化、大規模化している影響などによってモデルチェンジのサイクルが長期化。各商品の競争力が低下傾向にあり、これによって想定した台数が売れないことで収益性が低下するほか、スケールメリットを生かすことができずコスト構造も悪化。

 さらにユーザーニーズや環境規制、補助金政策といった市場環境の急速な変化に対応することが難しくなり、もはや異次元とも言えるスピードで新型車をリリースしていく中国メーカーが競争相手になっている現在では、新型車開発の進め方を抜本的に変革することが不可欠になっているとの考えから商品ファミリー戦略を策定。

 また、2025年4月から日産の社長兼CEOに就任したイヴァン・エスピノーサ氏は、それまで商品企画の担当者として活動していた当時からこうした点が危険だとの問題提起を続けており、社長就任を経て強力なリーダーシップを持って会社全体の問題として開発体制の改革を推進しているという。

 事業構造を一新するため、会社全体の組織構造とこれまで運用していたプロセスなどを新しい事業モデルに合わせて変更。さらに計画の初期段階から生産部門のスタッフやサプライヤー各社の担当者にも参加してもらい、新型車で必要となる生産能力や開発すべき技術、部品点数などのコンセンサスを取りながら展開していく仕組みが生み出されている。

 ファミリー戦略による新型車開発では、最初にマーケットごとの需要分析と生産工場の選定、ファミリーとして同時に開発するモデル数の設定などを「経営戦略 事業計画」で定め、この事業計画を前提としてまとめて開発する複数の車種を「ファミリー企画」で選定する。

 このファミリー企画でまとめられた車種のなかで、販売台数が最も多くなると予想される車種を「リードモデル」、それ以外の車種を「後続モデル」として、それぞれ個別の魅力を磨きながら「ファミリー企画に基づく個車開発」で実際の開発を進めていく。

 この一連の流れのうち、7月に行なわれた「開発期間短縮の取り組みに関するメディアレクチャー」で解説された「PCS-T」は「ファミリー企画に基づく個車開発」で進めている開発期間短縮の取り組みであり、今回はファミリー企画の部分を中心に紹介が行なわれた。

 ファミリー企画でまとめられるのは、「フレーム」「ミドル」「コンパクト」といったジャンルに属する日産の販売台数で8割ほどを占める中核モデル。各ファミリーでは専用プラットフォームのほか、エンジンやe-POWERなどのパワートレーン、AD/ADAS、カーナビ、シートなどのコンポーネントを共通アーキテクチャーとして複数車種で利用する。

 アーキテクチャーは経営戦略で策定された車種や生産工場、販売地域に合わせて必要となるものを「アーキテクチャー戦略部門」が主導して事前に開発。用意されている選択肢のなかから、ファミリーごとに共通アーキテクチャーとして利用するプラットフォームなどを、ファミリーで目指す販売台数や車両価格、車両デザインの前提条件などに応じて「CFS(チーフ・ファミリー・ストラテジスト)」が主導して選び出していく。

 以前からプラットフォームの共有化などは進めていたが、プラットフォームを開発する際にどうしても最初に利用することになるリードモデルで求められる要件にフォーカスしすぎてしまうことに加え、後続モデルの設計がスタートするまでに期間が空くと改良したい部分が出てきてしまい、結果として同じプラットフォームと言いつつ、実際にはそれぞれ少しずつ異なるプラットフォームになっていくケースも出ていた。

 基本的には生産台数が多い車種がリードモデルとなり、後続モデルも台数順に開発される傾向があるため、後続モデルのあとの方に開発がスタートする車種で特色を出すため、ハイスペックな「NISMO仕様」などをラインアップに追加したいと考えても、すでに開発が終っている車種との兼ね合いでそこまでハイスペックな要求に適合させることが難しく、断念することもあったとの例も挙げられた。

 ファミリー企画ではリードモデルの開発がスタートする前の段階ですべての車種で利用する共通アーキテクチャーについて検討が行なわれ、ファミリー全体でどのようにマーケットをカバーしていくかを見定めながらコストも分配することが可能。後続モデルで必要となる要求も事前にしっかり織り込んでおけるため、商品力を高めやすくなる。

 事業計画の面で見ても、車種ごとに分けて開発していた従来手法と比較して、ファミリー単位で開発条件を計画する場合は長めに時間がかかる半面、1回で基本線が固まり、車種それぞれで計画する場合と比較して全体としては開発期間の短縮が図れるという。

 また、従来手法ではプラットフォームやパワートレーンなどを複数車種で共有する場合、あとから開発がスタートする車種と足並みを揃えるためリードモデルなどの作業が一部ストップしたり、後続モデルの開発中に出てきた新たな要件を満たす仕様変更が行なわれた影響がほかの車種にも波及して、終わったはずの作業が巻き戻ってやり直しになってしまう事態も発生。開発期間が延びて生産開始も延期され、生産現場やサプライヤー、発売を待つユーザーにまで影響して販売台数低下の要因になっていた。

 ファミリー企画では計画段階で選定されている共通アーキテクチャーの選択肢から車種ごとに必要なものをセレクトする形になるため、ほかの車種の影響で作業がストップしたり巻き戻るといった開発のブレが抑制され、想定どおりのペースで作業が進められるようになる。

新型「エクステラ」と共通アーキテクチャーを使う「インフィニティモデル」

 佐々木氏はファミリー企画の具体例として、すでに計画が立案されて活動がスタートしているフレームファミリーについて紹介。

 リードモデルには商品ポートフォリオで米国市場向けの「ハートビートモデル」として挙げられている新型「エクステラ」を起用。フレームファミリーでは2列シートで価格帯が比較的手ごろなエクステラを1番手として開発しつつ、共通アーキテクチャーを活用しながら高級感を強調した「インフィニティモデル」を後続モデルとして用意する。

 車種別で計画・開発を行なう従来手法であれば、“フレーム構造を持つインフィニティモデル”を造ろうと企画しても、開発コストと想定される販売台数を比較して却下されてしまうところだが、共通アーキテクチャーを活用できるファミリー企画なら開発をスタートさせることが可能になるという。

 また、日産ブランドのエクステラでは純正オーディオのスピーカー数は多くても10個程度になるが、インフィニティモデルとなれば上質な音響空間を実現するためその3倍は欲しいところ。ファミリー企画ならエクステラの開発が始まる前の計画段階からブラケットやスピーカーのレイアウトなどを織り込めるため、後続モデルのインフィニティモデルでも“インフィニティらしさ”を妥協することなくスムーズに実現できる。

 さらに、フレームファミリーではエクステラやインフィニティモデルとは異なるユーザー層をカバーするため、3列シート車をラインアップすることも予定。サードシートにアクセスするための乗降性も計画段階からフレーム設計などに織り込んでいるという。

日産「エクステラ」ティザームービー(13秒)

 フレームファミリー以外はこれから活動が本格化することになっており、ミドルファミリーは「エクストレイル」、コンパクトファミリーは「ノート」といったモデルがファミリー企画の対象になるイメージだと説明。すでに公表されている3つのファミリー以外にも、必要だと判断されれば別のジャンルでもファミリー企画を展開する予定だと語られた。

 商品ファミリー戦略を展開する事業効果としては、開発期間を従来手法と比較して約40%短縮。共通アーキテクチャーを活用することで生産で必要となる部品種類を70%減らし、ファミリー単位での生産拠点最適化を図って工場における重複投資を削減。設備投資の効率化を図り、コスト削減を追求していく。これらで得た成果を商品である新型車に反映させ、「魅力ある商品」を「納得できる価格」で「タイムリー」にユーザーに届けていく。

 佐々木氏は「われわれがファミリー企画の活動でやっていきたいのは、日産は日産らしくありたいということなんです。過去90年に渡ってお客さまにお約束してきた価値をしっかり作り続けていく必要がありますし、これから新しい未来を作っていかなきゃならない。厳しい経営環境のなかで、われわれの“日産らしさ”を魅力としてどのように工夫して造っていくかにチャレンジすることが一連のプロセス変更です」とコメントして解説を締めくくった。

ユーザーの声を次期型に反映させやすくなるのが開発期間短縮で一番のメリット

 後半に行なわれた質疑応答では、マツダが行なっている「一括企画」との違いについて質問され、「この新しいプロセスや新しい組織を作るにあたってプロジェクトチームを組みましたが、そのときにマツダさんのやり方についてとても勉強させていただきました。われわれの商品ファミリー戦略で大切なところは、計画を立てるときに車両横断でしっかり判断できる高い能力を備えた人を集めて必要な教育を行ない、マツダさんと同じようにノウハウを共有するということになると思います」。

「一方で、そのノウハウの共有も行ないつつ、本日説明させていただいた部分は物理的な部分、共通アーキテクチャーを共用化するところです。日産ではグローバルにクルマを作り続けていて、工場もたくさん持っています。そして私たちはお客さまのことを真剣に考え続け、もの凄い種類の部品を造ってきました。この結果として、われわれは部品を管理するだけでにっちもさっちもいかなくなっています。単純に同じ部品でも世代管理するだけで管理しきれないものが出ています」。

「グローバルの市場ごとにどれだけニーズが分かれていても、部品のバリエーションをある程度まで統合する必要があって、いっしょに働いてもらっているサプライヤーさんが安心して『明日も日産とビジネスを続けていこう』と考えてもらえる部品の量と将来見通しがなければできなくなってしまいます。まずは身辺をシンプルにして、部品管理の工数を少し減らして、そこで取り戻した労力、能力を新しいものを造ったりするところに振り分けることで“日産らしさ”を取り戻したい。マツダさんの手法を学んだところに日産の要求を掛け合わせて解いたものが今回の取り組みです」と佐々木氏は説明。

 このほか、商品ファミリー戦略で開発期間が短縮されて発生する別のメリットについても紹介。1台の開発を終えて発売されてから次期型モデルの企画・開発がスタートするまでに1年半~2年ほど期間が空くようになり、ここで各メディアでの評価や購入して日常的に使うユーザーの感想を集めることが可能になるという。従来手法では1つの新型車開発が終わるとすぐ次期型の企画を練り始めることになったり、わるくするとまだ開発の作業が終わっていない段階で次の企画に取りかからざるを得ないケースもあったとのこと。

 開発期間が短くなってリサーチの時間が生まれ、自分たちが世に送り出したクルマに対して好評なところ、不評だったところをしっかり把握して次期型に反映させやすくなり、企画段階で投資を行なう判断にも市場の反響を生かせるようになることが現場の人間にとって一番のメリットだと語られた。