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アーチオンの掲げる「統合プラットフォーム戦略」説明会 両社の強みを融合しつつも独自性を維持できるのか?

2026年8月26日 開催
アーチオン本社で統合プラットフォーム戦略についてメディア説明会が開催された

成長戦略の中核となる「統合プラットフォーム戦略」

 日野自動車と三菱ふそうトラック・バスの経営統合により設立された持株会社のARCHION(アーチオン)は、アーチオングループにおける成長戦略の中核として、日野と三菱ふそうの統合シナジーを最大化し、商品の競争力を強化することで、幅広いユーザーニーズに対応していく「統合プラットフォーム戦略」を掲げている。

 統合プラットフォーム戦略は、パワートレーン、シャシー、キャブ、エレクトロニクスといったトラックを構成する主要部分の製品基盤を共通化するとともに、部品の種類についても適正化し、両社が持つ仕組み、部品、ノウハウを共有することでスケールメリットを高め、商品の競争力強化につなげるという内容。また、早期施策として両社が現在持っている既存プラットフォームを相互に活用していくことも戦略に含まれている。

日野自動車と三菱ふそうトラック・バスの経営統合によって設立されたアーチオン

 8月26日にはアーチオン本社で、この統合プラットフォーム戦略についての説明会が開催された。説明会でアーチオン渉外広報部部長の飯島真琴氏は、「日野と三菱ふそうは長い歴史を持っていますが、アーチオンはまだ始まったばかりです。そこで会社を知ってもらうために、広報だけでなく経営層も含めて、どんどん顔を見せていきたいと思っています」とあいさつした。

アーチオン 渉外広報部 部長 飯島真琴氏

 統合プラットフォーム戦略の説明は、アーチオンCTOの小木曽聡氏が担当。アーチオンは2026年4月1日に日野と三菱ふそうの持株会社としてスタートしたが、これまで経営統合に関する説明では、財務面を中心とした統合効果が注目される傾向にあった。もちろんそれも重要な要素だが、小木曽氏は、それ以前にアーチオンのミッションやビジョンが重要であると強調する。

 小木曽氏は、「一番大切なことはアーチオンのミッション、ビジョンの内容です。基本となるのは、世界各地、地域ごとのトラックやバスをお使いのお客さまに貢献し、お役に立つということです。日野と三菱ふそうがしっかりとよい商品群を提供し、お客さまに貢献していく。われわれはこの目的を忘れないようにしたいと思っています」と切り出した。

アーチオンCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)の小木曽聡氏

 続けて、「お客さまに貢献するために価格競争力を上げて期待に応え、その結果として企業体としても収益を上げていくという順番です。以前の説明ではそうしたところを飛ばしてお話した部分もあったので、今回はお伝えしたいことを伝え切れればと思っています」と説明会を開催した理由について言及した。

 三菱ふそうと日野は、大型、中型、小型のトラックをともにフルラインアップで展開しているが、これはつまり、非常に似た製品ポートフォリオを持つ2社が一緒になるということだ。

 この点について小木曽氏は、「2つの会社のリソースを、大型、中型、小型それぞれのトラックに使えます。商品ポートフォリオを拡大していくこともできますし、サプライヤーから見ても規模のメリットが大きくなります。商用車は乗用車と比べれば台数がまだまだ少ないですが、一緒に取り組むことによって投資効率を高められます。さらに、そこで生まれた余力やリソースを、新しいビジネスに振り向けられます」と、大きな効果が期待できると説明。

アーチオンのミッションとビジョン

 つまり、これまでは日野と三菱ふそうが、それぞれ独自に車両を開発してきたが、今後は市場のニーズに合わせて、BEV(バッテリ電気自動車)、FCEV(燃料電池自動車)、ADAS、自動運転、OTA(Over-The-Air)、サイバーセキュリティといった新しい技術の開発も進めなければならない。これまでは同じ市場に向け、似た要求を満たすための技術を2社がそれぞれ開発してきたことになるが、共通化できる部分を共創していけば、その分の人材や開発費を将来技術へ振り向けることが可能ということになる。

 ここまでの話を聞くと合理的な取り組みに思える一方で、これまで「日野のトラック」「三菱ふそうのトラック」として、それぞれを選んできたユーザーもいる部分をどうするのかという疑問もある。

 つまり統合プラットフォーム戦略によって共通化が進めば、「日野と三菱ふそうはエンブレムが違うだけの同じトラックになってしまうのではないか」という懸念である。

 しかし、アーチオンが目指しているのはそういう姿ではないようだ。小木曽氏は、「進め方は大きく分けると2つあります。まずは既存のプラットフォームをお互いに活用することです。これによって、お客さまのニーズに素早く対応できるようになります。これは本日発表した日野の中型トラック『レンジャー』がそれに当たります。さらに今後は、小型BEVトラック『eキャンター』を日野ブランドで供給していくことも予定しています」と説明。さらに「日野ブランド、三菱ふそうブランド、それぞれのお客さまからのリクエストをしっかりと受け止めることで、共通する部分が多くても、それぞれのブランドを大切にしていきます」と説明した。

日野と三菱ふそうのお互いの強みを掛け合わせるのが統合プラットフォーム戦略

 つまり今回の取り組みは、開発や生産の基盤を共通化しながらも、最終的な商品はあくまで「日野としての製品」「三菱ふそうとしての製品」を作っていくという考え方になる。

 具体的にどの部分でブランドの違いを表現していくかについて、今回の説明では詳細まで触れなかったが、ユーザーから求められる機能については、ブランドが異なっていても共通する部分が多いという。例えばパワートレーン、エレクトロニクス、シャシー、キャブ、コネクテッド機能、さらに将来的な自動運転などは、ユーザーの声を聞きながら共通化できる部分が数多くあると考えているそうだ。

 さらに、この統合プラットフォーム戦略では、日野と三菱ふそうがそれぞれ持つ開発基盤を活用するだけでなく、部品調達についても両社がこれまで築いてきた強みを生かせるという。具体的には、日野はトヨタグループの中で培ってきた国内外の調達基盤を持っている。三菱ふそうもダイムラートラック傘下で培ってきた、欧州をはじめとした海外サプライヤーとのネットワークを持っているので、双方の調達基盤を活用できるほか、トヨタとダイムラートラックから技術面の支援を受けられることも、アーチオングループにとって大きな強みになるという。

統合プラットフォーム戦略のアプローチについて

 トラックは用途に応じてさまざまな架装を施して使用されるが、この分野にもプラットフォーム共通化のメリットがある。架装は専門メーカーによって行なわれることが多いが、これまでは「日野用の部品」「三菱ふそう用の部品」をそれぞれ用意したり、車種ごとに異なる作業工程に対応したりする必要があった。

 プラットフォームの共通化が進めば、架装に関わる部品や作業も共通化できる可能性があり、架装メーカー側の負担軽減にもつながる。さらに、その結果として架装にかかるコストや期間を抑えられれば、トラックを導入する運送会社側にもメリットが及ぶ可能性がある。

 もう1つ注目したいのが、今後のトラックに搭載されるコネクテッド機能だ。車両の位置や稼働状況などを細かく把握できれば、「何t積めるトラックか」という車両単体の能力だけでなく、交通状況や荷役に要する時間なども含め、1回の運行でどの程度の荷物を効率よく運べるかという視点で車両を運用できる。

 車両そのものの効率化に加え、運行方法まで含めて最適化できれば、保有台数を単純に増やすことなく物流全体の輸送能力を高めていくことにもつながりそうだ。

 これは筆者の感想だが、運送業界を取り巻く環境は、ドライバー不足をはじめとしたさまざまな課題が指摘されている。今回説明にあった統合プラットフォーム戦略は、単に2社の開発コストを削減するための取り組みではなく、そこで生まれた余力を新しい技術へ振り向けたり、部品の共通化により車体価格の高騰化に対応したりするなど、物流業界を困らせている課題そのものに対応していこうという考え方とも感じた部分だった。

今後の方針や調達、両社の協業の内容について

 説明会後には、小木曽聡CTOのほかに、製品・開発・調達本部 本部長付(統合商品戦略担当)の野村達也氏、統合プラットフォーム企画部 部長のカストゥリランガン・スリチャラン氏、統合商品戦略部 部長の薦田知章氏が参加し、質疑応答が行なわれた。

質疑応答にも小木曽氏は参加

 まず、日野と三菱ふそうは別々の会社であり、開発拠点も異なる中で、実際にどのように共同開発を進めていくのかという質問が出た。

 その答えとして、現状では日野と三菱ふそうの担当者が集まり、直接話し合いながら開発を進めるワーキングスタイルをとっているという。その中で両社の担当範囲などを決め、会議や開発作業についても日野、三菱ふそう双方の拠点を利用しているとのこと。今後、開発組織そのものをどのような形にしていくかは、実際に事業を進めながら、より効率的な形を検討していくとしている。

 続いて部品の調達について。日野と三菱ふそうはいずれも高い品質基準を設けて部品を採用してきたが、それぞれの基準に違いがある場合、どのように共通化していくのかという質問があった。

 これについては、部品種類の適正化について社内でさまざまな議論を進めているものの、現時点では具体的な数値目標などを絞り込んでいる段階ではないという。ただし、これまで2社が別々に行なっていた業務を共通化することで、業務そのものを大幅にスリム化できる可能性は見えてきているとのこと。

 また、両社には考え方や基準に違いがあるものの、小木曽氏はそれを問題とは捉えず、むしろ違いがあるからこそ互いに学ぶことができ、優れた部分を取り入れながら、1つずつアーチオングループとして共有できるものにしていくと考えているそうだ。

質疑応答に参加したアーチオン 製品・開発・調達本部・本部長付(統合商品戦略担当)の野村達也氏

 続いて話題となったのがブランドについて。統合プラットフォームによって共通化を進める一方で、日野と三菱ふそうという2つのブランドをどのように表現していくのかという質問が投げられた。

 日野と三菱ふそうのブランドは、今後もそれぞれ維持される。どちらも長い歴史を持つ商用車メーカーであり、それぞれのユーザーとの間に築いてきた信頼関係もある。そのため、単に2つのブランドを意図的に違うものにすることを目的とするのではなく、それぞれのブランドについて「ユーザーから大切にされている価値は何か」を考え、それを商品へ反映することを基本にするという。

 このブランドの話に関連して、すでに日野と三菱ふそうにはそれぞれ完成度の高いトラックが存在するのであれば、どちらか一方の既存プラットフォームをベースとして新型車を作る方が効率的ではないかという質問も出た。

 これについて小木曽氏は、それぞれのトラックを構成する部品を細かく比較していくと、双方に優れた部分があると説明した。そのため、どちらか一方を最初からベース車として決めるのではなく、それぞれの優れた部分を組み合わせ、最適な商品を作り上げることを重視するという。

 もし一方の車両をベースとしてしまえば、課題が見つかるたびに別の技術や部品を追加していくような開発になりかねない。そこで中長期的な統合プラットフォームについては、最初から「日野ベース」「三菱ふそうベース」と決めるのではなく、最適化を優先して開発していくという考え方だ。

質疑応答に参加したアーチオン 統合プラットフォーム企画部 部長 カストゥリランガン スリチャラン氏

 最後に品質についての質問もあった。両社がこれまで経験してきた品質や認証に関わる課題については、それぞれがさまざまな改善を進め、同様の問題を起こさないための体制作りを行なってきたとの認識を示した。

 さらに経営統合によって、これまで別々の会社で管理されていた技術情報や品質情報、不具合情報、さらにはそれぞれが蓄積してきたノウハウまで共有できるようになっているとのこと。

 小木曽氏は、そうした両社の知見をアーチオングループ全体で共有することで、品質面についても、より安心してもらえる方向へ進めていきたいとの考えを示した。

質疑応答に参加したアーチオン 統合商品戦略部 部長 薦田知章氏