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日野自動車と京王電鉄バスの「AIを活用したバス車内転倒事故防止システム」説明会 2027年の実用化を目指し検証開始

2026年10月21日 実施
日野自動車株式会社の本社内スペースにて実車の撮影と試乗が行なわれた

 京王電鉄バスと日野自動車は10月21日、バス車内における転倒事故ゼロを目指して開発した「AIを活用した新たな安全確認システム」に関する説明会を日野自動車本社にて実施した。

足下の運行課題に寄り添う「安全支援ソリューション」の背景

 発表会ではまず、日野自動車 ソリューション事業部長の三好克浩氏が登壇し、新システム開発にいたる同事業部の理念を語った。

ソリューション事業部の取り組みと開発への思いを語る日野自動車 ソリューション事業部長の三好克浩氏

 三好氏は同事業部の歩みについて、CASE時代の課題解決部署として発足した経緯に触れつつ、「現在は車両開発にとらわれず、現場のお客さまの課題に寄り添い、具体的なサービスやアプリとして具現化する取り組みを進めている」と説明。

日野自動車ソリューション事業部の取り組み

 路線バスの自動運転化にはまだ高いハードルが存在する中、「まずは全国のバス事業者が今すぐ解決しなければならない現場の運行課題に応えることが最優先とし、約4年間にわたり京王バスと膝を突き合わせて開発してきました。この装置は完成形を押し付けるものではなく、現場のドライバーや事業者の意見をもとに共に作り上げていくものと考えています。ゆくゆくは安全運行を支え、全国へ広く届けられればと考えています」と意気込みを述べた。

いずれは自動運転技術も確立されるだろうが、今は目の前にある「車内安全確保」に関する課題を1つずつ解決したいとしている

京王電鉄バスが直面する現状と車内事故ゼロへの厳しい国の目標

 続いて登壇した京王電鉄バス 取締役 安全技術部長の大野賢治氏は、「AIを活用した新たな安全確認システムの導入~バス車内転倒事故ゼロを目指して~」と題し、バス事業者が置かれている厳しい事業環境と車内事故削減に向けた課題感を多角的に解説。

バス事業者を取り巻く課題と車内事故ゼロへの取り組みを説明する京王電鉄バス 取締役 安全技術部長の大野賢治氏

 まず同社の事業規模として、京王電鉄バスグループ全体(2社合計)で車両約900両、従業員約2000名、年間輸送人員は約9000万人に達することを紹介。新宿を起点に多摩エリアなどの路線バスや中央高速バスを展開するほか、バス予約サイト「ハイウェイバス・ドット・コム」や「バスターミナル東京八重洲」の運営など幅広い事業を手掛け、安全輸送が経営の最優先課題であることを強調した。

京王電鉄バスグループ概要
バス事業を取り巻く環境

 国の施策としても、国土交通省の「事業用自動車総合安全プラン2030」にて世界最高水準の安全輸送を掲げていて、乗り合いバスの車内事故件数には「全国で年間85件以下」「関東圏で25件以下」という極めて厳格な削減目標が設定されていることを提示。京王電鉄バスグループも「発進時の安全確認徹底による車内人身事故の半減」を最重要目標にとらえて取り組んでいると説明。

安全に対する取り組み(国の指針)
輸送の安全のための重点施策および計画

高齢化と深刻な人手不足、確認項目の多さがもたらす現場の限界

 続けて大野氏は、車内事故が深刻化する背景として、乗客の高齢化によるリスク増大をピックアップ。70代女性が後方座席へ移動中に発車してステップ付近から転倒・骨折した例や、80代女性が停車直前に手すりを放して転倒・入院となった例など、高齢者の骨折事故は後遺症やQOL(生活の質)低下に直結するため、非常に重大なリスクとしてとらえられていると言及した。

バス車内転倒事故について

 その一方で、バス業界は深刻なドライバー不足に直面しており、採用や人員確保が非常に難しい状況にあると紹介。この環境下でドライバーは、バス発進時に「前後のドア閉め確認」「車内確認」「左ミラー確認」「右ミラー確認」「前方確認」「右後方の死角確認」「再度車内確認」といった膨大な確認手順を短い時間で行なわなければならず、運転席からの死角も多いため確認漏れのリスクが常につきまとう。さらに、手すりやつり革につかまらない乗客も一定数存在し、1人の転倒事故でも運行停止やクレーム対応が発生するなど、ドライバーへの精神的プレッシャーは過大となっていると説明。

事故対策の取り組み
バス発進時にドライバーが車内事故安全のために実施していること

 京王電鉄バスグループでは、入社1~5年目の毎年および3年ごとの集合教育やポスターなどでの啓発活動を徹底してきたものの、コロナ禍以降、業界全体の車内事故数は下げ止まり傾向にあるという。最後に大野氏は、「ドライバーの努力や会社の啓発活動だけではすでに限界に来ています。トラックなどに比べてニッチなバス市場では、これまで専用のIT技術開発が進みにくかったですが、近年のAIやセンサー技術の進歩によって現場の課題にアプローチできるようになり、日野自動車への相談から今回のソリューションがうまく形になりました」と語り、技術支援への強い期待を示した。

バス車内転倒事故件数の推移

AI解析と直感的なUIで安全確認を支援する技術的メカニズム

 続いて、システムの詳細な説明に立った日野自動車 ソリューション事業部 事業企画室 開発グループ長の柴田義之氏が、システムの具体的な技術仕様、開発の経緯、実証データについて解説した。

日野自動車株式会社 ソリューション事業部 事業企画室 開発グループ長 柴田義之氏

 柴田氏はまず開発の足跡について触れ、2020年から約4年間にわたり京王バスと膝を突き合わせて分析を継続してきたと紹介。発車時のドライバーの行動パターン解析や過去の事故事例データの検証を重ねた結果、車内事故が最も発生しやすい「バス発車時」および「車内中央から前方エリア」に焦点を絞った検知ロジックを作り上げたという。

 システムでは、車内前部と中央部の天井部に設置した広角カメラが車室全体を撮影。AIが映像をリアルタイム解析して、立席者のうち「手すり」や「つり革」、「手すりポール」などにつかまっていない不安定な状態の乗客を確認。

運手席から見やすい位置に追加のモニターを設置
カメラはバスの前部と中央部の天井に装着。車種を選ばす装着可能となっている
運転席の後ろ上部に映像をリアルタイムに解析するAIの心臓部が取り付けられていた

 運転席横のモニター画面上では、安定している乗客が「緑色の枠」、どこにもつかまっていない乗客が「赤色の枠」で囲んで表示される。乗客がバスに乗車し、ドアが閉まってパーキングブレーキが解除されるなどの「発車準備状態」に入り、それでもまだ赤枠の乗客が残っている場合、システムが「車内確認、車内確認」と音声と表示でドライバーに注意をうながす。

 さらに現場のドライバーの意見を反映した機能として、車両が発車し一定の速度に達するとモニター表示が自動的に暗転する「画面暗転機能」を標準搭載。走行中に画面のチラつきが視界に入ることで運転操作を妨げたり、画面注視につながるのを未然に防止する配慮が施されている。京王電鉄バスグループでは10km/hで暗転する設定とのこと。

運転席横に設置されるモニター表示。保持者は緑枠、非保持・不安定な乗客は赤枠で強調され、発進時に音声でドライバーに注意喚起を行なう

実証データが示す新米ドライバーへの絶大な効果と今後の展開

 2024年秋に実施されたプロトタイプによるPoC(実証実験)では、現場のドライバーから非常に高い評価を得たことを柴田氏は明かした。

実証実験におけるドライバー評価では、特に経験浅いドライバーから支持が集まった

 特に注目すべき点として、運転経験年数5年未満のドライバーは「システムが欲しい」と回答した比率が極めて高く、経験が浅く確認工程や死角に強いプレッシャーを感じているドライバーほど、デジタル技術による確認支援を心強く感じていることが明確になったという。ドライバーはこの通知をきっかけに車内アナウンスを行なったり、アクセルを優しく踏み込むなどのスムーズな行動変容へつなげられる。

 今後の見通しとして、現在日本バス協会主導のもと、京王電鉄バスをはじめ、相鉄バス、神奈川中央交通、名鉄バス、京阪バス、神姫バスの計6社(約12台規模の実証枠)で大規模なフィールドテストを実施中。実証期間を通じて不安全状態の検知精度やヒヤリハットの削減効果を定量的に検証し、フィードバックを取り入れたブラッシュアップを行なうとしている。

実証実験が全国で進められている

 最後に柴田氏は、「このシステムは専用カメラとモニターを組み合わせ、後付けも可能な構成となっていて、既存のあらゆるバス車両へ容易に導入できます。2027年の正式商品化・発売に向けて開発を加速させ、全国のバスドライバーが安心・安全に運転に専念できる環境づくりに貢献していきたい」と説明会を締めくくった。

2027年の発売を目指し開発と実証実験が進められている

バス車内転倒事故防止システム搭載車を試乗

 説明会ではメディア向けの試乗も行なわれ、実際の作動状況を確認できた。基本的には車内の立ち乗り乗車エリア(フラットな部分)を見ていて、そこで棒やつり革につかまっているかをAIが判定。そのためドライブレコーダーなどに使われているカメラよりも解像度の高いカメラを使用しているという。

京王電鉄バスグループでは「バス車内転倒事故防止システム」を搭載した練習車も用意している

 また、イスに座っている乗客がフラットエリアに足を出していると、つかまっていない不安定な乗客と検知するほど精巧に見ていることも分かった。基本的にはモニターから注意喚起を受けたドライバーが、車内に向かってマイクで注意をうながす流れだが、運転席後ろに乗客への注意喚起を行なうモニターも用意している。しかし最近の乗客は、基本的にスマホの画面を見入っているし、ワイヤレスイヤホンなどをしている乗客も多く、効果が限定的と考え“オプション設定”としている。

運転席後方のモニターでも注意をうながす表示が可能。発進時や停車時、制動時など状況によって色分けで警告している
モニターへの表示内容は、導入企業のリクエストにも対応できるという

 タクシーとは異なり多くの様々な乗客がいる路線バスの場合、まだまだ自動運転を取り入れるにはいろいろなハードルがあるが、日野自動車は今回の新システムは、いずれ路線バスをより安全に自動運転化するには必要な技術となり、そのためにも実証実験と開発を急ぐとしている。

【京王電鉄バスグループ・日野自動車】AIを活用した新たな安全確認システム(44秒)
両社はAIを活用したバス車内転倒事故防止システムの実装を推進中だ