コレオスで「日本のD65」を探訪する コレオスを生んだ道を、日本で体験する |
ルノーのSUV「コレオス」は、本誌読者ならすでにご存じのとおり、、ルノーラインナップの中で唯一のSUVモデルとなる。コレオスは、実はオフロードでの走破性や、オンロードでのドライバビリティーだけではなく、ルノーが、その“乗り心地”に徹底的にこだわったモデルだ。
ルノーはSUV作りにも長い経験を持ち、好評を博してきたことは、14日に掲載した武田公実氏の「『コレオス』に繋がるルノーSUVの系譜」に記されているとおり。だがその実力はどの程度のものなのか。9月にマイナーチェンジを果たしたコレオスで、探ってみた。
■コレオスを生んだ道
コレオスの成り立ちで最も興味深いのは、「D65テスト」だ。D65とは、仏ノルマンディ地方にあるルノー技術センターそばの県道65号線のこと。未舗装のD65は地元の人々も辟易するほど荒れた道だったが、ルノーはここをテストロードとして、車両をセッティングした。ルノーならではの乗り心地はD65に養われたのだ。
D65を快適に走れるSUVということなら、D65をコレオスで走ってみれば、その実力のほどが確実に分かるだろう。しかしそれは無理だ。現在のD65は、さすがに舗装されているのだ。したがってルノーは、未舗装のD65の路面状況をコンピューターにインプットし、油圧マルチシリンダーベンチで再現できるようにした。コレオスも、このテストベンチでD65テストを受けたというわけだ。
フランスの地方道。舗装はされているが、日本ならば「簡易舗装」と呼びたくなる状態(撮影:フレデリック・ブレン) |
ルノー・ジャポンのブレンさん。コレオスの特長の1つである上下分轄式テールゲートだが、小さな荷物なら上だけ開けて出し入れできるし、下部ゲートは200kgの重さに耐えるので写真のようにベンチとして使える |
未舗装のD65は無くなってしまった。しかし、似たような道はあるのではないか。そこをコレオスで走れば、ルノーの意図した乗り心地を体感できるのではないか。日本でそんな道が見つかれば、日本のルノー・ユーザーにも楽しめるのではないか。そこで、ルノー・ジャポンのフレデリック・ブレンさんに「日本にD65のような道はありますか?」と聞いてみた。
ブレンさんは、ルノー・ジャポンで商品企画・広報を担当する名物マネージャーだ。報道関係者向けの発表会や、「カングー・ジャンボリー」などのユーザー・イベントには必ず表れ、マシンガン・トークでルノー車の魅力を語る。流ちょうな日本語と、日本人よりも日本に詳しいおかげで、ルノー・ジャポンでは「似非フランス人」などという社内呼称を付けられているが、れっきとしたフランス生まれのフランス人であり、ルノーとリッター・バイクを愛するナイスガイである。ちなみにルノー・ジャポンの公式twitterアカウントは、ブレンさんが担当しているので、魅惑のトークの一端は公式アカウントでも味わえる。
「いやー、日本にはないんじゃないかなぁ。日本はどこも道がきれいだから」と、のっけから懐疑的なブレンさんだったが「でも面白いね。そういえば何年か前に秩父のほうで、フランスみたいな道を走ったよ。どこだか思い出せないけど。twitterで聞いてみよう」と興味を示した。
と言うわけで、D65のような道が見つかったら、そこをブレンさんが実際に走ってみて、D65のようであれば「日本のD65」に認定する、という遊びが始まった。
■紅葉迫る中津川渓谷を登る
10月18日、ブレンさんとカメラマンの安田氏、記者の3人は、コレオスに乗って、「日本のD65」候補を目指して横浜を出発した。
コレオスは9月のマイナーチェンジで、「ダイナミック」「プレミアム」「プレミアム グラスルーフ」の3つにグレードが整理された。特にダイナミックはルーフレールやワンタッチレバー式6:4分割可倒式リアシート、バックソナーなどを標準で装備し、お買い得感の高いグレードになっているが、我々が駆るのはトップグレードの「プレミアム グラスルーフ」。ダイナミックの装備に加え、レザーシートとバイキセノンヘッドライト、グラスルーフなどを備える。ボディーカラーは新色のブルー アシエ メタリックだ。
「運転大好き」というブレンさんがハンドルを握り、首都高速を経て関越自動車道に乗る。4気筒2.5リッターエンジンとCVTは高速道路でもその性能に不満を感じさせず、流れをリードする速度を終始保った。花園IC(インターチェンジ)で関越道を降りると、国道140号を西へ向かい、長瀞、秩父を抜けてひた走る。
関越道を降りてからは、国道とはいえ片側1車線。平均速度が(高速道路に比べれば)遅く、信号でのストップ&ゴーも強いられる。長く感じられる道のりだが、ブレンさんは我々を退屈させまいと、スマートフォンをBluetoothでカーオーディオに接続。「懐かしいでしょ?」とかけてくれたのは、「六本木心中」であった。Arkamys3Dサウンドシステムを通してアン・ルイスの声を聞きながら、ひたすら目的地へ向かう。
コレオスの内装はSUVくささを感じさせず、フランス車らしく明るい | Arkamys3DサウンドシステムはBluetooth対応。センターアームレスト内にはUSB端子も備える | 日本の実情に合わせて40と80を強調したスピードメーター |
目的地近くの滝沢ダム。ループ橋でかすめるように走る |
この辺でお気づきの方もおられるかもしれないが、我々が「日本のD65」と目して向かった先は、「中津川林道」である。正式な名称を「秩父市道大滝幹線17号線」と言うこの道は、埼玉県秩父市と長野県川上村を結ぶ約20kmの自動車が通れる道路だが、その大半は未舗装。
日本の山道ゆえフランスの県道のような開けた景色は望めないし、2車線道路としては整備されていないが、埼玉と長野を結ぶ生活道路として使われている側面もあって、山道としては比較的広く、路面の状態もよいようだ。D65は未舗装路とはいえ県道ゆえ、ウインチやスコップが必要になるような山道ではあまりに違いすぎるだろう。
青い線がいわゆる中津川林道。三国峠を境に埼玉県側が秩父市道、長野県側が村上村道 |
国道140号の入波トンネルを抜けてから県道210号へ折れる。210号が大きく右に曲がるY字路を直進すると、大滝幹線17号だ。早速、素掘りのトンネル(内部の壁をコンクリートなどで塗り固めていないトンネル)が迎えてくれる。しばらくは集落やキャンプ場の中の舗装路を行くが、すぐにダートになる。
中津川渓谷沿いの道を登る道は、薄く紅葉の気配を漂わせた緑に包まれ、爽快だ。エアコンを止め、フィトンチッドに満ちた空気を楽しみながら、コレオスを進めていくと、次第に路面の凹凸が激しくなり、路傍に転がる石が大きくなってきた。オールモード4×4-iシステムを、AUTOモード、つまり通常は2WD(FF)で、必要なときに最大50%のトルクを後輪に配分する状態にする。
大滝幹線17号に入ってすぐはまだ舗装路だが…… | ||
道はすぐにダートに。素堀のトンネル(右)もいくつか抜ける |
■1本で2度おいしい道
「そうそう、こういう感じ」とブレンさんが言う。轍がついた路面は中央が盛り上がっている。「左右の車輪に異なる入力がある、こういう路面です。ルノーは、開発の最終段階では必ず一般道でテストするんです。テストコースではなく、お客様が実際に使う道路でね」。
「こういう道、よく走りますか?」とブレンさんに聞くと「走ったことはあるけど、そうたくさんではない」との答え。しかしステアリングホイールを握るブレンさんは始終笑顔で、「楽しいね」と運転を楽しんでいる。実は記者は1週間前、下見と称してとあるSUVでこの道を走ったのだが、そのときとは明確に乗り心地が違う。溝やバンプを越えるとき、少しスピードを高めにしておくと、まさに「ふわり」と障害をいなすのだ。未舗装路を走る間、大きなショックを感じることはなく、終始しゃべっていたにも関わらず舌や口の中を噛むこともなかった。オフロードでのコレオス独特の乗り心地を実感した次第である。
深めの轍で路面の中央が盛り上がったようになっている | 「この盛り上がりがD65っぽい」 | ブレンさんは終始楽しげにステアリングを握っていた |
標高が高くなると、外気温計の数字が下がり、山の木々もしっかりと色づいてきた。大滝幹線17号の終点である三国峠では、外気温計は10度を表示し、雲がすぐ頭上に降りてきた。ここは標高1828m、気候はまさに「山」である。たびたび撮影でクルマを止め、車外に出るのだが、すっかり油断して都会と同じ格好でやってきた記者は凍えてしまった。しかし、車内に戻ればコレオスのプレミアムには、フロントシートヒーターが標準装備なのであった。
三国峠でブレンさんに感想を聞くと「まさしくD65。日本のD65に認定します」との答え。手間のかかる調査や遠出も報われたというものである。
標高が高くなってくると木々や落葉が色づいて来た | ||
三国峠。雲が我々のところまで下がってきた | 峠の切り通しを抜けて、長野県側へ |
だがこれだけでは終わらなかった。三国峠の切り通しを抜け長野県側に入ると、道は川上村の村道になる。こちらは舗装されているのだが、県道や国道のそれのようではなく、路面は波打ち、穴を塞いだ跡が凹凸を形成している。
この路面を見てブレンさんが言った。「舗装したD65は、こういう感じなんです」。大滝幹線17号と川上村道、通称中津川林道は、過去と現在のD65を味わえる、まさにコレオスの出自を知るための道だったのだ。
なお、大滝幹線17号は17時~8時の夜間は通行止め。また12月1日~翌4月30日も冬期通行止めとなる。このほか、悪天候などでも走行できない。制限速度は15km/h。この種の道としては比較的通行量が多いため、対向車などにも注意が必要だ。
長野県側の路面。路面が波打ち、補修でパッチワークのようになっている。もちろんこうした路面でもコレオスの乗り心地のよさは変わらない |
(編集部:田中真一郎/Photo:安田 剛)
2010年 10月 22日