日産、「フーガ ハイブリッド」発表会
フーガ ハイブリッドのシステムはプリウスと同等の効果が得られる

志賀俊之COOとフーガ ハイブリッド

2010年10月26日開催



 日産自動車は10月26日、同社グローバル本社ギャラリーにおいて「フーガ ハイブリッド」の発表会を開催した。

 フーガ ハイブリッドの詳細は関連記事に詳しいが、フーガ ハイブリッドは最高出力225kW(306PS)/6800rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/5000rpmを発生するV型6気筒DOHC 3.5リッターエンジンと、最大出力50kW(68PS)/最大トルク270Nm(27.5kgm)を発生するモーターおよび2つのクラッチ、それに7速トランスミッションで構成する、1モーター2クラッチ式のハイブリッドシステム「PURE DRIVE HYBRID(ピュア ドライブ ハイブリッド)」を搭載。

 ピュア ドライブ ハイブリッドで採用されるモーターは1つで、駆動と発電を担う。2つあるクラッチのうちの1つはエンジンとモーターの接続/切り離しに使われ(クラッチ1)、これによりモーターのみでのEV走行を可能にしている。もう1つのクラッチはトランスミッションの変速時と発進時に使われ(クラッチ2)、エンジン始動時やクラッチをつなぐ際のショックを吸収するのにも使用される。

ピュア ドライブ ハイブリッドシステム。エンジン側からクラッチ1、モーター、7速トランスミッション、クラッチ2と並ぶ。写真左のオレンジ色のラインで繋がっているのがリチウムイオンバッテリーで、素早い充放電能力を特徴としている

 ピュア ドライブ ハイブリッドは「シンプルで軽量」「レスポンスの向上、ダイレクトフィーリング」を特徴とするとともに、コンパクトカー並みの燃費を目指し、その結果10・15モード燃費は19.0km/Lとなった。これは標準モデルでV型DOHC 3.7リッターエンジンを搭載する370GT(10.0km/L)はもとより、V型6気筒DOHC 2.5リッターエンジンを搭載する250GT(12.2km/L)を大きく引き離す数値となる。

 外観上での標準モデルとの変更点は大きくないが、エクステリアではボディーカラーに新色のエターナルスノーホワイトを設定したほか、ハイブリッド専用のクロームカラーコートが施された18インチアルミホイール、ハイブリッド専用エンブレムなどを装備する。

 インテリアでは、メーターディスプレイ内にエンジンが停止してモーターのみの走行時に点灯する「EVランプ」や、走行時と発電時のモーターの作動状態やそれぞれのパワーレベルを表示する「アシスト/チャージゲージ」、モーター駆動用のリチウムイオンバッテリーの残量を表示する「バッテリー残量ゲージ」、エンジンやモーターの駆動、モーターによる発電、電気エネルギーの流れ、バッテリー残量などを表示する「エネルギーモニター」といった専用メカニズムを備える。

標準モデルとの相違点はあまりないが、相異点はエクステリアでは専用ホイールのほか、「HYBRID」エンブレムとクラストップレベルの低燃費を実現するエンジン進化型エコカーに与えられる「PURE DRIVE」エンブレムくらい(写真は専用装備を装着するフーガ ハイブリッド VIPパッケージ)
バイキセノンヘッドランプを採用18インチホイールは専用装備(タイヤサイズは前後とも245/50 R18)テールランプはLED
V型6気筒DOHC 3.5リッターエンジンHYBRIDエンブレムPURE DRIVEエンブレム
写真はブラウンインテリアでプレミアムインテリアパッケージ装着車。銀粉本木目フィニッシャーやセミアニリン本革シートなどを装備する本革巻きステアリングカーナビのメニューやオーディオの音量操作などが可能熟練の職人が手作業で銀粉をすり込むという銀粉本木目フィニッシャー。シフトレバーの手前にあるドライブモードセレクターによってスタンダードモード、エコモード、スポーツモード、スノーモードを選択できる
走行時と発電時のモーターの作動状態などを表示するアシスト/チャージゲージはタコメーターの左側にあるセミアニリン本革シート助手席はオットマン機能がつく
BOSEサラウンド・サウンド・システム搭載車のためシートに5cmスピーカーが埋め込まれるドアの内側にも銀粉本木目フィニッシャーが与えられる後席のアームレスト
カーナビのモニターはエネルギーモニターや燃費・充電履歴、燃費情報(航続可能距離・平均燃費・瞬間燃費)などを確認できる
リチウムイオンバッテリーや通常の電源用バッテリーは、後席シートバックとトランクルームの間に配置するが、トランクスペースはあまり犠牲になっていないフロア下にはスペアタイヤが備わるトランクからリチウムイオンバッテリーや通常の電源用バッテリーを望む

チーフ・プロダクト・スペシャリスト 大澤辰夫氏

 フーガ ハイブリッドの概要説明はチーフ・プロダクト・スペシャリストの大澤辰夫氏が行った。

 フーガ ハイブリッドは「本当のハイブリッドの、本当のラグジュアリーカー」を目標に開発したと言う。本当のハイブリッドとは、環境負荷をいかに軽減できる技術が搭載されているかということを指しており、フーガ ハイブリッドが10・15モード燃費で19.0km/Lを達成できたことを述べるとともに、「小排気量・FF(2WD)のプリウスも本当のハイブリッドで、同等モデルに対して1.9倍の燃費性能を持つ。フーガ ハイブリッドも(3.7リッターエンジンの10.0km/Lと比較して)1.9倍で、プリウスと同等の効果が得られるシステムを開発した」と紹介。

 フーガは乗って楽しいという性質を持つクルマでなければならないことから、エンジンはV型6気筒DOHC 3.5リッターを採用し、これに高出力のモーターを組み合わせた。その加速性能については「ガソリンの3.7リッターエンジンや、先代フーガに搭載していたV型8気筒4.5リッターエンジンと同等」と解説する。こうした優れた燃費性能と加速性能を実現できた屋台骨となるのが、ピュア ドライブ ハイブリッドとなる。

高級車ハイブリッド群のなかでもっとも高い燃費性能を誇る3.7リッターエンジン搭載モデルの1.9倍の燃費向上率3.7リッターエンジン搭載車などと同等の加速性能を発揮すると言う

 ピュア ドライブ ハイブリッドは、エンジンとモーターの接続/切り離しを行うクラッチ1と、トランスミッションの変速を担うクラッチ2、そして従来はトルクコンバーターが配置されていた場所(クラッチ1とクラッチ2の間)に搭載されるモーターからなる。モーターの制御は、後席とトランクルームの間に配置する高出力(345V)のリチウムイオンバッテリーが担う。

 他社で採用されるハイブリッドシステムとの比較では、同じ1モーター2クラッチ方式を採用するP社は間にトルコンが入るため、「我々としてはトルコンがないほうが燃費性能に優れ、またダイレクトフィールが味わえると考える」と、その優位点を解説。

 また、1モーター1クラッチのトルクコンバーター付きパラレルハイブリッドを採用するMB社は、エンジンとモーターを切り離せないが、フーガ ハイブリッドはクラッチを備えてエンジンとモーターを切り離すことができることから、「我々の方が燃費性能が優れるのではないか」と説明。

 2モーターシリーズパラレルハイブリッドシステムを採用するT社のハイブリッドシステムについては「巧妙で非常に優れるハイブリッドシステム」と前置きした上で、「我々のハイブリッドシステムのほうがより高速までエンジンを停止することができる。また、トルコンのない7速トランスミッションを使っているので、よりシフトチェンジ時にダイレクトフィールが味わえるのではないか」と、フーガ ハイブリッドに搭載したハイブリッドシステムの優位性を紹介するとともに、「ピュア ドライブ ハイブリッドは大排気量で後輪駆動車の考えられる最適なシステム」とした。

ハイブリッドのシステム構造他社のハイブリッドシステムとの比較
高速なモーター制御と高出力で素早い充放電が可能なリチウムイオンバッテリーによって、エンジンとクラッチのコントロールが難しいとされる1モーター2クラッチシステムが完成したモーター制御は短時間で行われ、レスポンスの向上とダイレクト感を実現リチウムイオンバッテリーのサイズは795×453×374mm。公称電圧は346V、最大出力は50kW
従来のニッケル水素電池よりも軽量・コンパクトでありながら高出力を実現したと言う

 なお、同社のシミュレーションによれば、高速走行モードであれば無給油で1240kmの走行が可能という試算が出ていると言い、「状況によっては横浜から鹿児島(計1330km)まで走れるのではないかと考えている。ナンバーを取得したら走行チャレンジしたい」とコメントするとともに、「本当のハイブリッドでラグジュアリーなモデルを目指して作った。ぜひ皆さんにもじっくり見てもらいたい」と述べ、解説を終えた。

ハイブリッド専用メーターを採用したエコ情報は分かりやすく表示させると言うカーナビ画面では分かりやすいグラフィックでエネルギーフローを表示する
デザイン面のポイント専用アルミホイール、エンブレムなどが従来モデルとの違いプレミアムインテリアパッケージの主な内容
インテリアはフォレストエアコン、自動内外気切換、新型プラズマクラスターイオンなどの採用により心地よく仕立てられるエアコンは電動式コンプレッサーで駆動し、エンジン停止中もエアコンが作動するとともにエアコン使用時の燃費が約10%向上したと言うBOSE・サラウンド・サウンドシステムはメーカーオプション。計16個のスピーカー、14のパワーアンプを備える
ガソリンエンジンを搭載するフーガより、車速によって異なるものの最大で約5dBも静かだと言う。ちなみにフーガ ハイブリッドはEV走行が可能なため、リーフと同じ車両接近通報装置を備えるガソリン車同様にスピーカーからエンジン騒音を打ち消す音を出すANC(アクティブノイズコントロール)を装備するダブルピストンショックアブソーバー(周波数感応型)を採用し、路面からの振動の伝達を抑えて乗り心地を向上させた
エンジン停止時もアシストできる電動油圧式電子制御パワーステアリングを採用ドライブモードセレクターによってエンジン、トランスミッション、ペダル・メーターの特性を変更できる。モードは4つさまざまな安全装備を備える
トランクルームはでっぱりがなく使いやすい形状とし、9インチのゴルフバックが4個入るスペースを持つVIPパッケージの主な内容横浜~鹿児島間(1330km)を無給油で走るテストを予定していると言う

志賀俊之COO

 同社の志賀俊之COOは、新型フーガが「次世代環境技術」を搭載してクラストップレベルの低燃費を実現したモデルのみに与えられるエンジン進化型エコカー「PURE DRIVE(ピュア ドライブ)」の第3弾にあたるとし、「搭載した1モーター2クラッチのパラレルハイブリッドシステムは優れた燃費とダイレクトな走りを高次元で両立する“究極のハイブリッド”としながら、エンジンとクラッチの制御が非常に難しいことから実用化が困難であると考えられてきた」と言う。

 こうした課題をクリアできた理由は、1992年に開始したリチウムイオンバッテリーの研究・開発や、並行してモーター、インバーターなど、電動車両に欠かせない技術の研究・開発を行ってきた結果とし、「2000年に発売した日産初のハイブリッド車『ティーノ ハイブリッド』や電気自動車の『ハイパーミニ』、燃料電池車『エクストレイル FCV』にも、これらの技術を搭載し、市場での膨大なノウハウを蓄積してきた。こうした技術の蓄積がフーガ ハイブリッドに活かされている」としたほか、「フーガ ハイブリッドは日産の高い技術力を強く印象づけるクルマになるだろう」と述べ、締めくくった。

(編集部:小林 隆)
2010年 10月 27日