BMW、「MINI E」引き渡し式を開催、実証実験がスタート
「MINI Eはエキサイティングで楽しいクルマ」

実証実験への出発を待つMINI Eたち

2011年3月1日開催
東京 六本木ヒルズ



 ビー・エム・ダブリューは3月1日、電気自動車(EV)「MINI E」の引き渡し式を東京 六本木ヒルズ開催し、日本におけるEVの実証実験を開始した。式では実験に参加する14名のユーザーにMINI Eのキーを渡し、出発式が行われた。

 この実証実験は、米国ニューヨークとロスアンゼルスで450台、英国ロンドンで40台、独ベルリンとミュンヘンで50台の規模で行われてきたもの。東京のほか、仏パリ、中国の北京と上海でも開始される。

 日本での実験には14台を使用し、2期に渡ってのべ28名の選抜された一般ユーザーが参加する。

 参加する条件は、自宅に充電設備を設置可能なこと。また、6万円/月の使用料を払い、MINI Eを日常生活で使用する必要がある。

 今回始まった第1期には、900名が応募し、約60倍の倍率となった。第1期は7月末まで行われ、日常生活でMINI Eを使うことで、走行データや充電の頻度と時間のデータ、ユーザーによるレポートを収集するほか、グループインタビューを行う。

 なお第2期ユーザーの募集は5月1日に開始される予定。

六本木ヒルズのアリーナから14台のMINI Eが出発した
日本仕様のMINI Eには、リアウインドーと給電口の横にステッカーが貼られている
ハンドルは左。ポータブルカーナビが装着されている
14台のMINI Eにユーザーが乗り込み、1台ずつ音もなく出発していった

 

ザティッヒ コミュニケーション・マネジャー

次世代モビリティは全く違うアプローチで
 BMWは、「Eモビリティ」と呼ぶ次世代モビリティのために「i」というサブブランドを設け、「i3」「i8」の2モデルをリリースすることをすでに発表している。

 i3は「メガ・シティ・ビークル」(MCV)と呼ばれていたモデルだが、MINI Eの実証実験で得られた知見は、この後行われる1シリーズベースのEV「アクティブE」の実証実験の知見と合わせて、iブランドのモデルに活かされることになる。

 引渡し式において、独BMWグループ プロジェクトiのマヌエル・ザティッヒ コミュニケーション・マネジャーは「Eモビリティのためのベストなソリューションを実現するため、新しい素材とリサイクルのコンセプト、新しい生産のコンセプト、新しいドライブトレイン、新しい販売・マーケティング・サービスを採る」とスピーチ。すなわち、BMWは次世代モビリティにおいて、内燃機関車とは全く異なるアプローチを試みる。

 i3、i8も、ボディ上半分がカーボンファイバー製の「ライフ」モジュール、下半分がパワートレーンやバッテリー、サスペンションなどを持つアルミ製の「ドライブ」モジュールで構成されるという、「ライフ・ドライブ」コンセプトを採用する。つまり、既存の内燃機関車のボディーやブランドを流用しない。「BMWはサステイナブルかつプレミアムなモデルのための専用設計と専用生産ラインを用意する、唯一の自動車会社となる」と言う。

i3とi8
MINI EとアクティブEの成果をi3に活かすMINI Eの実験は6カ国で行う

 ライフ・ドライブコンセプトには、「非常にシンプルで、派生品の構築が容易になり、軽量になる」「低い位置にバッテリーを搭載することで、重心が低く、ダイナミックなドライビングを実現できる」「バッテリーがアルミとカーボンファイバーで十分に保護される安全な部分に搭載されることになる」といったメリットがあると言う。

 またi3、i8はリチウムイオンバッテリーを冷却する「アクティブ・クーリング・システム」を搭載。「バッテリーの温度を外気温に合わせて調整することで、バッテリーの寿命と航続距離を伸ばすことができる」と言う。

 i3はリアにモーターを置き、後輪を駆動することで、ドライバビリティとトラクションを確保。これまでの実証実験での要請を受け、4人乗りで、十分なトランクスペースを確保する。

 i8は3気筒エンジンとモーターのフルハイブリッドで、2+2レイアウトを採用。「郊外に行く時に適したクルマで、スポーツカーのダイナミクスと小型車の燃費を兼ね備える」クルマになる。

 ライフ・ドライブに使われるカーボンファイバー生産は、SGLグループとBMWのジョイントベンチャーである「SGLオートモーティブ・カーボン・ファイバー」が担当。三菱レイヨンから供給されるプレカーサーを米国のSGLでカーボンにし、独で成形される。これにより「非常に競争力のある価格で作ることができた」うえに「すべてのプロセスにアクセスできるので、生産から素材の品質まで十分に保証できるようになった」と言う。

 ザティッヒ マネジャーは「お客様のEモビリティへの要求はクルマだけにとどまらない。充電、パーソナルモビリティ、ほかの輸送機関への接続、インテリジェントな交通輸送網への統合についても期待が高い。プロジェクトiはサービス、ソリューションはモビリティ関連に広がっていく」と、同プロジェクトの未来についても語った。

アルミ製のドライブ・モジュールとカーボン製のライフ・モジュールを組み合わせたライフ・ドライブ コンセプトSGLとのジョイントベンチャーでライフ・モジュールのカーボンを生産

Eモビリティは1国にどどまらない
 引き渡し式の冒頭では、「サステイナビリティは、プレミアムを定義する際に間違いなく重要な役割を果たすでしょう」という独BMWのライトホーファー会長の言葉が紹介された。

 独BMWグループのグレン・シュミッド渉外担当部長は、同社が電気自動車などによる次世代モビリティ「Eモビリティ」に取り組む理由を「世界ベースでこれだけコンセンサスが広くあった議題はなかったから」とし、「サステイナビリティは自己満足のためにやるのではない。サステイナビリティは戦略の一部であり、正しいやり方で導入することで、戦略的な大きな効果を得られると確信している」と述べた。

 Eモビリティは「1国にとどまらない世界の問題。世界で最も大切な6つの市場でMINI Eの実証実験を行うことで、顧客の動向や必要なものを把握する努力をしている途上にある」とし、さらに「Eモビリティは我々の力でなんとかできるようなものではない。できるだけ多くのステークホルダー、パートナーに協力していただく必要がある」と述べた。

 重視しているのはエネルギー・プロバイダーと研究機関、官公庁だ。日本では東京電力、早稲田大学、国交省、経産省、環境省らがMINI E実証実験に参加している。とくに研究機関で情報を公開することは「我々の学びのためだけでなく、学べたことを皆さんと一緒に共有することで、より早くこの新しい技術を活用できる」とした。

 なお、日本に先立って行われた独でのMINI Eの実証実験では、同クラスの内燃機関車と比較して、MINI Eの走行距離は変わらず、航続距離や充電時間にも不満が出なかったことが明らかになっている。クルマへの依存度が高い米国でもこれは同様だったことが、今回明らかにされた。

各国でパートナーと協働するMINI Eの走行パターンは同クラスの内燃機関車とほぼ同じ都市部の低速域ではEVのエネルギー効率が優れる

 

三菱総研の鈴木主席研究員

森ビルとMCVについて意見交換
 引き渡し式には官公庁やパートナー企業からも多数の来賓が出席した。三菱総合研究所 ITSモビリティグループリーダーの鈴木啓史 主席研究員は、「EVには充電インフラや社会の受け入れ態勢も重要。充電施設の整備が進んでいるが、まだ数は十分ではない。これを支援するために、カーナビで充電施設の場所を知らせたり、電気の消費が多くなる勾配の情報を入れて、電池に優しいルートを見つけ出すといったことが可能だ。こうした情報を作り、データを標準化してみんなが使いやすい環境を作ることが重要になってくる」「EVは高齢者のパーソナルモビリティとしても期待できる。充電設備が街中に整備されれば、高齢者が安心して出かけられる社会が訪れるのではないか。EVが普及して受け入れる社会基盤が整えば、皆さんが環境にやさしく移動しやすい社会が訪れる」とEV普及への期待を述べた。

 引き渡し式の会場である六本木ヒルズは、BMWがコラボレーションパートナーとしてさまざまなプロモーションに活用していると言う。六本木ヒルズのデベロッパーである森ビルの山本和彦 副社長は、BMWと森ビルがMCVの研究過程で、将来の都市と交通のあり方について意見交換したことを明らかにした。

 「日本の自動車メーカーでそういう事を聞きに来た人はいなかったので、非常にびっくりし、さすがだと思った。メガシティをどれだけ快適で、魅力的な環境にするのかは森ビルにとっても大きなテーマ。その中で乗り物は欠かせない。今後も意見交換して、より素晴らしい都市と交通システムを議論できればと思う。六本木ヒルズにも充電器を設置するので、未来の都市(六本木ヒルズ)と、未来のビークルを両方共楽しんでいただきたい」と述べた。

 ビー・エム・ダブリューのローランド・クルーガー社長は、「BMWグループは、“駆け抜ける歓び”そしてMINIの“エキサイトメント”をお届けしたいと考えている。同時に、サステイナブルな、将来につながる商品をお届けし、技術と生産プロセスにおいてベンチマークを確立したい。MINI Eの利用に当たっては、優先駐車や、駐車料金・通行料金のディスカウントといったメリットが出るようにしたい」と述べ、「この後、みなさんにはMINI Eのカギをお渡ししますが、1つ強調しておきたいことがあります。私もMINI Eを運転しましたが、本当にエキサイティングで楽しいクルマです。非常に重要なことですが、後でカギをお返しいただくことだけは、ぜひ覚えておいてください」とジョークで14名のテストドライバーを送り出した。

森ビルの山本副社長クルーガー社長(右)からキーを受け取る鎌倉氏14名の実験参加ユーザー

 14名の実証実験ユーザーを代表してクルーガー社長からキーを受け取った鎌倉忍氏は、4輪を8台、2輪を2台、いずれもBMWを乗り、MINIも所有する「クルマ人生はBMWほぼ一色」というBMWファン。

 「BMWは“駆け抜ける歓び”をダイレクトに味わえるメーカー。最初に買った3世代前の318tiも、つい最近まで乗っていたM3も、乗っている感じが変わらないのがBMWの素晴らしいところ。持っているMINIも、試乗したMINI Eも、ダイナミックさは変わらなかった。1シリーズMクーペのようなEVを出していただければファンにとっては嬉しい」と述べた。

(編集部:田中真一郎)
2011年 3月 2日