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三菱ふそうのテストコースで復興支援車両「ウニモグ」「ゼトロス」に乗ってみた

同社のトラック、バス試乗会も併催

 三菱ふそうトラック・バス(以下、三菱ふそう)は10月中旬、栃木県さくら市にある同社喜連川研究所内において、復興支援車両「ウニモグ」「ゼトロス」と、同社のラインアップ試乗会を開催した。

東日本大震災の被災地へ復興支援車両として投入された「ウニモグ」(左)と「ゼトロス」(右)

 三菱ふそうは東日本大震災発生後の2011年4月12日に、独ダイムラーAGの一員としてメルセデス・ベンツ日本とともに、救援活動や復興活動用の車両提供を発表。提供した車両は、三菱ふそうの小型トラック「キャンター」30台、メルセデス・ベンツのオフロードトラック「ゼトロス」8台、多目的作業車「ウニモグ」4台、オフロード車「Gクラス」8台で、これとは別にダイムラーの経営陣および共同労使協議会による共同募金も行い、ドイツ赤十字社を通じて日本赤十字社に送り、義援金提供を実施した。

 ゼトロス、ウニモグ、Gクラスは、ドイツから輸送機で空輸。日本の法規に適合しない車両であったが、当時の政府の特別処置により、日本財団経由で被災地で2年間の復興支援活動に供された。それらの車両は、通常の建設車両が被災地に入れるようになったこと、2年間の特別処置が切れたことなどにより、復興支援活動を終え、一部は日本自動車博物館(石川県小松市)に寄贈され、一部は三菱ふそうが引き取った。

 今回試乗したゼトロスとウニモグは、その復興支援活動に供されたもので、一般公道はすでに走れないため、喜連川研究所内だけで走行を行った。

 ゼトロスのボディーサイズは7782×2530×2833mm(全長×全幅×全高)と巨大なもので、運転席に乗り込むときには、2階に上るようなイメージがある。エンジンは直噴式4ストロークディーゼルで、排気量は7201cc。最高出力240kW(326HP)、最大トルク1300Nmと、巨大なトルクを発生し、これを1~4速と5~8速でハイ/ロー切り替え式となっている8速MTで後輪を駆動する。喜連川研究所内の汎用路で少しだけ運転することができたが、運転感覚は異次元のものだった。

喜連川研究所内の汎用路を走行するゼトロス
ゼトロスのコクピット
メーターパネル
センターコンソールにあるシフトレバー。シフトレバーの右(実際は後方)にあるのは、パーキングブレーキレバー
シフトパターン

 スタートや通常の変速は、低回転から発生する豊かなトルクのため意外と簡単だったが、苦労したのは4速と5速を行き来する際のハイ/ロー切り替え。ハイ/ロー切り替えは、一度ニュートラルにして、シフトレバーをドライバー側に倒すと低速のギアセット(1~4速)、助手席側に倒すと高速のギアセット(5~8速)に変更することができ、ニュートラルが2つあるイメージ。このハイ/ロー切り替えが重く、片手では相当力を入れないと行えないほどのものだった。

 同乗していただいた三菱ふそうのスタッフにゼトロスの感想を聞くと、「とにかく騒音に関する考え方が違いますね」とのこと。三菱ふそうでは、低騒音での走行を重視して車作りを行っている部分があるのに対し、ゼトロスでは騒音対策に関する優先順位が低いのだろうという。実用一辺倒で設計されている面もあり、「我々とは異なる設計思想のクルマ」とのことだった。

 ゼトロスと比べると、ウニモグはまだ一般車に近い印象。ボディーサイズは、5410×3490×2916mm(全長×全高×全幅)で、4250ccの直噴式4ストロークディーゼルを搭載。最高出力130kW(177HP)、最大トルク675Nmと、ゼトロスのおよそ半分のトルクとなる。こちらはAMTを搭載しており、最初に1速に入れれば後はアクセルを踏むだけでコントロール可能。視線は乗用車に比べて高いものの、運転感覚はさほど変わらない。こちらも、車内騒音に気を配って作られてはおらず、実用性を高く感じるクルマだった。

ウニモグ
ウニモグのコクピット
メーターパネルまわり。マルチインフォメーションディスプレイの表示は英語だった

喜連川研究所の高速周回路を走行

高速周回路を走行中の、観光バス「エアロ エース」(左)、大型トラック「スーパーグレート」(中)、路線バス「エアロ スター」(右)

 復興支援車両以外では、三菱ふそうトラック・バスがラインアップするさまざまな車両に乗ることができた。まずは、同社の看板商品である、小型トラック「キャンター エコ ハイブリッド」の通常仕様と、塵芥車仕様から。キャンター エコ ハイブリッドは、ディーゼルエンジンにハイブリッド用モーターを内蔵したデュアルクラッチトランスミッション「DUONIC(デュオニック)」が組み合わされたパワートレーンを搭載しており、新型「フィット ハイブリッド」と同様に高効率を追求して設計されている。キャンター エコ ハイブリッドは2速の軸にモーターが接続され、フィット ハイブリッドは1速の軸にモーターが接続されるなど、発進ギヤをモーターで駆動という思想にも共通性がうかがえる。

キャンター エコ ハイブリッドの通常仕様
キャンター エコ ハイブリッドの塵芥車仕様
10%勾配の坂道で坂道発進などを体験できた

 この点を三菱ふそうのスタッフに聞いてみたところ、「我々のやってきたことが間違いではなかったという意味でうれしかった」と語り、同様のシステムが市場に登場することで、技術が進歩するスピードが早まるのではという見通しを示してくれた。

 キャンター エコ ハイブリッドは、ゼトロスやウニモグと同様に汎用路で試乗したほか、10%の上り勾配、下り勾配でも試乗。背中に新明和製の塵芥ユニットを搭載した塵芥車でも10%の上り勾配をラクラク坂道発進できるなど、使い勝手のよさが印象的だった。

 そのほか、高速周回路で、大型トラック「スーパーグレート」、路線バス「エアロ スター」に試乗。12.6リッターに12段変速のAMT「INOMAT II」を搭載するスーパーグレートも迫力だったが、やはり感動したのが7.6リッターディーゼルに6段変速のAT「ALLISON A/T」を搭載するエアロ スター。子供の頃あこがれた路線バスを実際に運転できたのは、単純にうれしかった。いずれの車両も自動変速が可能で、特殊な運転方法は必要とせず、快適に周回路を走ることができた。

スーパーグレート
エアロ スター
エアロ スターで高速周回路を走行中
エアロ スターのトランスミッションコントローラ。ボタン式となっている

 三菱ふそうのトラックやバスを運転して改めて感じたのは、ゼトロスやウニモグとの違い。用途がそもそも違うため比べるのが難しいが、ゼトロスやウニモグは、各種の動きに“ゴツさ”があり、各部品の厚みを感じる。一方、三菱ふそうの各車両は、巨大だし、排気量も大きいのだが、ある種のスマートさを感じることができた。

展示車両も紹介しておく。これはスーパーグレート ASV-5。世界ITS会議に出展された車両で、車車間通信、歩車間通信を行い、車両や歩行者の接近を車内モニターで知ることができる
各部に通信用のアンテナを装備
次世代低燃費実験車。10%ほどの燃費改善を目指している
空気抵抗低減や側面のソーラーパネルで、省エネ、蓄エネを図る
復興支援車両の「Gクラス」。このGクラスの試乗は行われなかった

 荒れ地などでの活動を前提としたゼトロスやウニモグだからこそ、インフラが崩壊した被災地で役に立つことができたのだろう。それらの車両を東日本大震災発生後1カ月で被災地に投入する決断を行った三菱ふそうトラック・バスをはじめとするダイムラーグループには、改めて感謝するとともに、働くクルマの大切さを再認識した1日だった。

【お詫びと訂正】記事初出時、路線バス「エアロ スター」と観光バス「エアロ エース」について名称記載誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

(編集部:谷川 潔/Photo:高橋 学)