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国際学会「International Symposium on Sustainability」リポート(2日目)

会期:2015年10月16日~17日(現地時間)

会場:ヴェネツィア国際大学(Venice International University、VIU)

会場では学会参加者全員による討論会が行われた
会場となったヴェネツィア国際大学のキャンパス。ヴェネツィア市の島嶼の島の1つに立っているという非常に風光明媚なロケーション

 ヴェネツィア国際大学(Venice International University、VIU)は10月16日~17日(現地時間)、イタリア ヴェネツィア市にある同大学のキャンパスにおいて、サステナビリティ(持続可能性)に関する国際学会「International Symposium on Sustainability」を開催した。初日の模様は別記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20151027_727487.html)でお伝えしたが、本記事では2日目の模様をお伝えする。

 2日目はヨーロッパの研究者、自動車メーカー、NGOの関係者などが参加したセッションが行われ、国際的なサステナビリティへの取り組みや本学会を後援しているイタリアのAlcantara S.p.A.のセッション、サステナビリティへの取り組みが企業経営にどのような影響を与えるのかなどの考察の紹介が行われた。

サステナビリティの実現にはサプライチェーン全体を含めて見る必要がある

 サステナビリティと言えば、やはり環境面の規制とセットで語られることも多く、特に欧州や米国などでは、政府などが積極的に厳しい規制を課すことでサステナビリティを実現してきた歴史がある。実際、1970年に米国カリフォルニア州で導入された通称「マスキー法」は、自動車の排出ガス削減、二酸化硫黄削減など、当時としてはかなり厳しい基準を設けたが、その結果として自動車メーカー側で開発が進んだという歴史はよく知られている。

米ウスター工業大学(WPI)経営学部 学部長 ジョセフ・サーキス教授

 米ウスター工業大学(WPI)経営学部 学部長 ジョセフ・サーキス教授は、そうした規制とサステナビリティの関係についての考察を説明した。サーキス教授は「サステナビリティというのは環境保護の置きかえ用語ではない。現代ではインターネットの普及などによりコミュニケーションは容易になっており、企業が反社会的行為を行った場合のコストは非常に高くなっている。株主もそうした声を無視できなくなっており、グリーンで環境に配慮したサステナビリティに取り組むことは重要になりつつある」と述べ、今後は企業にとってもサステナビリティに取り組むことの重要性がどんどん増していくし、そして大学などのアカデミックや政府なども含めて全体で取り組まなければいけないと指摘した。

 その上で、企業の活動でも、複雑さが増しており、以前のように工場から排出する汚染物質のようなトラディショナルな環境問題だけでなく、サプライチェーンと呼ばれる企業の生産活動の上流(工場に部品を納入してもらう下請けなど)や下流(生産された製品の配送を担当する業者など)も含めて考える必要があると述べた。そうした、サプライチェーン全体で環境に配慮したサプライチェーンをグリーンSCM(SCM=Supply Chain Management)と呼んで、サプライチェーンの上流や下流におけるエネルギー消費量なども含めて総合的に考える必要があるとした。

 そうしたグリーンSCMがこれまで実行されてこなかった理由としては、追加コストがかかったり、導入すべき理由が見えなかったりなどがあったが「実際にはグリーンSCMを導入することで、多くの企業はコストの削減が可能になっている。例えばGMは下請け業者からのコンテナの再利用プログラムを導入することで1200万ドルものコストを削減できている。また、グリーンSCMを導入することで売り上げが増えたという企業も多い」と述べ、企業にとっても導入する価値が出てきていると指摘した。その上で、企業にとってはサプライチェーンをしっかりと管理して、グリーンSCMの取り組みをしっかりとやっていくことが大事だとした。

サーキス教授のスライド
グローバル・ソーシング・カウンシル理事長 ワンダ・ロプーチ氏

 米国のNGOであるグローバル・ソーシング・カウンシル(Global Sourcing Council)理事長 ワンダ・ロプーチ氏は国際連合で193カ国が参加して策定されたSustainable Development Goal(SDG)について説明を行った。ロプーチ氏によれば、国連では持続可能な社会を目指すために、17の分野で2015年~2030年に実現すべき国際的な取り組みを進めており、天候変化や自動車などで様々なゴールが設定されてると説明した。ロプーチ氏は「一般消費者はサステナビリティが重要だと考え始めており、今後は企業も真剣に取り組んで行かなければならないだろう」と述べ、そうした国連の取り組みについては企業側の積極的な取り組みが重要だとした。

グローバル・コンパクト・ネットワーク・イタリア 理事長 マルコ・フレイ氏

 この他、イタリアのNGOであるグローバル・コンパクト・ネットワーク・イタリア 理事長 マルコ・フレイ氏も同じように、国際連合のSDGの取り組みやイタリアにおける影響などを説明した。

サステナビリティを導入することが経営に役立っているとアルカンターラ CEO

スペイン ナバラ大学 経営大学院(IESE)戦略経営学科 ファブリツィオ・フェラーロ教授

 スペイン ナバラ大学 経営大学院(IESE)戦略経営学科 ファブリツィオ・フェラーロ教授は、サステナビリティと企業の業績の関係性について説明を行った。

 フェラーロ教授はPRI(Principles for Responsible Investment)という用語を用いて、企業が社会的責任を果たしているか否かを投資の基準にする投資家が増えていると説明した。「投資家にとって、企業が社会的責任を果たしているかどうかは資産形成上のリスクとして認識が進んでいる。社会的責任を果たしている経営こそが投資家にとってもよい経営であると認識されつつある」と述べ、サステナビリティや環境への配慮といった社会的責任を企業が果たしているかどうかが、投資家にとってリスクだとの認識が進んでいると指摘した。

 例えば、何らかの事故が発生したときにその賠償金の額は上がり続け、イギリスの石油メジャー BPが、2010年にメキシコ湾で起こした流失事故では最終的に200億ドル(日本円で約2兆5000億円)もの支払いが行われたと指摘し、その結果として株主が被った損害は小さくないと考えられていることなどを指摘した。また、このイベントの直近の事件として、フォルクスワーゲンの排出ガスのソフトウェアに関するスキャンダルなどを挙げ、いずれも事故後に株価が大きく下落しており、証券アナリストもCSR(企業の社会責任)をきちんと行っている会社を推薦することが多くなっていることなどを説明した。

フェラーロ教授のスライド
Alcantara 会長兼CEO アンドレア・ボラーニョ氏

 このあとに登壇したAlcantara 会長兼CEO アンドレア・ボラーニョ氏は、同社のサステナビリティへの取り組みを説明した。既に説明したとおりAlcantara S.p.A.はこのイベントの後援をしており、同社は企業ポリシーとしてサステナビリティに積極的に取り組んでいる。ボラーニョ氏は「弊社では2008年のリーマンショックにより構造改革が必要になり、2009年からサステナビリティへの取り組みを進めてきた。徐々にカーボンナチュラルを実現したり、サステナビリティレポートを出すなどして取り組みを進めている」と述べ、その具体的な取り組みとして国際連合と一緒に発展途上国でのサステナビリティのプロジェクトを行ったり、サプライチェーンもきちんとモニターしてサプライチェーン全体でサステナビリティを実現するべく努力していると説明した。

 ボラーニョ氏は「2009年から始めたこの取り組みは徐々に理解が進んでおり、弊社のブランドバリューを向上させることに役立っている。さらにそれが他社との差別化ポイントになっており、弊社の将来にとっても重要な取り組みになると考えている」と述べ、サステナビリティへ取り組むことが、Alcantaraにとってもメリットとなっていると強調した。

ボラーニョ氏のスライド

サステナビリティへの理解を深めてもらうか、すべてそうした製品を提供するかが実現方法とBMW

英バース大学 社会心理学科 バス・ヴァープランケン教授

 英バース大学 社会心理学科 バス・ヴァープランケン教授はサステナビリティが一般消費者が製品を選択するときに影響を与えるのかという点に関して説明した。ヴァープランケン教授は消費者が何らかの商品、例えば自動車を買うときには1つの要素だけでなく、複数の要素が影響し合って最終的な選択に至っているとした。実際に調査してみると、多くの場合は価格や性能といった要素に目がいっているが、環境を理由にした例は現実的にはまだまだ少ないと指摘。「一般消費者のプロフィールによりアプローチを変えていく必要があるだろう。例えば元々環境には興味がない人なら情報を伝えるだけでいいし、あまり興味がないユーザーなら環境貢献の事実を伝えるなどだ」と述べ、一般消費者のプロフィールに応じた対応が必要だと指摘した。

ヴァープランケン教授のスライド
BMWグループ サステナビリティおよび環境保護部長 ウルズラ・マータル氏

 最後に登壇したのは、BMWグループ サステナビリティおよび環境保護部長 ウルズラ・マータル氏。マータル氏は「サステナビリティに対して興味を持ってもらえるかどうかは、その消費者の生活スタイルに依存している。大事なことはそうした興味を持ってもらえない消費者にどのように訴求するかだ」と述べ、サステナビリティに対するBMWの考え方を説明した。

 マータル氏は「2つのオプションがある。1つはすべての製品をサステナビリティを重視する製品にすること、ないしは価格は同じだがサステナビリティを取り入れた製品を用意すること。先進国にはこのシナリオを受け入れる余地があると思う。もう1つは、一般消費者にもそれがサステナビリティが分かるような形の商品にすること。例えば食料品や化粧品、ファッションといった製品のサプライチェーンで問題が発生すると、それが一般消費者の選択にも影響を及ぼすようになっている。今後は自動車にもそうした動きが出てきてもおかしくない」と述べ、今後BMWとしても、より効率のよいパワーユニットや排出ガスの削減などを実現した自動車を供給することで、そうしたサステナビリティを実現していきたいとした。

(笠原一輝)