インプレッション

ボルボ「XC90 T6 AWD R-DESIGN」(ロングドライブ)

 ボルボ「XC90」に乗って好きなところへ出かけようという今回の試乗会で、どこへ行こうかと編集部から相談があり、即座に思い浮かんだのが富士山の五合目だ。当日朝に車両を借りて試乗と撮影をこなし、夕方までに返却することを考えると、ちょうどよいのではと思って提案した。本当はまだ登ったことのない富士山の頂上に登りたいと常々思っているのだが、それはまたの機会にということで……。

 さて、拝借した車両は「T6 AWD R-DESIGN」。どのグレードを選択してもよかったのだが、デビュー後に開催されたXC90 T6の試乗会ではR-DESIGNに乗れなかったので、よい機会だと思い希望した。

 専用のエクステリアは見てのとおり。ボルボ史上で最大という22インチホイールも目を引く。

 XC90といえば、ラグジュアリーモデルの「Inscription」の明るい色調で高級感のあるインテリアも非常に魅力的だと感じていたが、R-DESIGNのチャコール基調のスポーティな佇まいもまたよい。各部にはりめぐらされたカーボンファイバーパネルは、本国ではオプション設定のところ、日本仕様では標準で付くというのもうれしい。スポーティな形状のシートもR-DESIGNならでは。ステアリングホイールやシフトノブなども専用品が与えられている。また、必要に応じて室内空間を自在にアレンジできる柔軟性の高さや、その多くが電動で行なえるところもXC90の魅力。もちろんR-DESIGNもである。

今回のロングドライブで試乗したのは、スポーティなスタイリングが特徴となる「XC90 T6 AWD R-DESIGN」。ボディサイズは4950×1960×1760mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2985mm。車両重量は2100kg。パワートレーンは最高出力235kW(320PS)/5700rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/2200-5400rpmを発生するスーパーチャージャー付き直列4気筒 2.0リッター直噴ガソリンターボエンジンに8速ATを組み合わせ、4輪を駆動。電動パノラマサンルーフとエアサスペンションを装着する撮影車のJC08モード燃費は11.4km/L。価格は879万円
エクステリアでは北欧神話に登場するトール神(雷神)が持つハンマーをモチーフにしたというT字型のポジションランプを備えたLEDヘッドライトなどはそのままに、専用のグリル、サイドウインドー・シルクメタル・トリム、ドアミラーカバー、フロント・グロッシーブラックトリムなどを装備
インテリアでは各部にカーボンファイバーパネルが与えられるほか、専用のパーフォレーテッド・ファインナッパレザーを用いたスポーツシート、本革巻きステアリング&シフトノブ、アルミニウム・スポーツペダルなどで上品かつスポーティに仕上げている。他のグレードと同様、乗車定員は7名になる

R-DESIGNならではの味

 東京都港区にあるボルボ・カー・ジャパンで車両を受け取り、首都高速の湾岸線をしばし走って横浜在住のカメラマンと合流。そこから富士山を目指すにはいくつかの行き方があるのだが、我々はカーナビが案内したとおり、もっとも一般的な東名高速~圏央道~中央道~富士五湖道路~富士スバルラインというルートでアクセスすることにした。

 2.0リッターの4気筒ながらターボとスーパーチャージャーを身に着けたT6エンジンは、発進と停止を繰り返す市街地でも出足は俊敏で十分に力強く、高速道路やバイパスでも余力を感じながら走れる。再加速したいときには即座に求める車速まで到達させてくれる。排気量が2.0リッターでも、2tを超える車体をものともせず引っ張る。こうした走りを実現できることに、あらためて感心せずにいられない。

 ところで、ボルボの他のモデルのR-DESIGNでは、足まわりが専用にチューニングされているケースが多いが、XC90の場合はドライブモードを「ダイナミック」に設定すれば、十分にR-DESIGNに相応しいドライブフィールを実現できているという判断から、全車で共通のセッティングとなっているのが特徴だ。ただし、22インチタイヤを履くR-DESIGNならではのやや引き締まった走り味は、やはり他モデルとは異質である。

ボルボ史上で最大となる5ダブルスポークの22インチホイール(ダイヤモンドカット/マットブラック)
縦型のタッチスクリーン式センターディスプレイではドライブモードを選択できる。種類は「Eco」「Comfort」「Off Road」「Dynamic」「Individual」の5つ

 また、先進安全装備が充実していることもXC90の魅力であり、こうして高速道路を使って遠乗りするとなおのことそのありがたみを実感する。ACCは言うまでもなし。すでに他メーカーともども普及が進んできたACCだが、まだまだその完成度はマチマチで、加減速の制御が粗くて不快に感じたり、前方に何かあるのになかなか減速しなくて怖い思いをしたり、隣の車線の車両に反応して不意に急減速したり、という症状が見受けられる。そんな中でもXC90のACCは、こうした事象がさすがにゼロではないものの非常に少ないところがよい。

 また、LKA(レーン・キーピング・エイド)の恩恵も小さくない。LKAの仕上がりがよいおかげで、直進状態を維持するのに余計な神経を使わずにすむので、ドライバーにとって負担が大幅に低減されるのだ。さらにはBowers&Wilkinsのプレミアムサウンド・オーディオシステムは、素晴らしいサウンドを楽しませてくれる。

 途中、後席の快適性も味わっておこうと、運転を編集担当氏に代わってもらった。広々とした車内は、シアターレイアウトによるシート配置や大きな開口面積を持つサンルーフのおかげで解放感はタップリ。景色のよい道を走るのが待ち遠しくなる。

車内に開放感をもたらす電動パノラマサンルーフ

R-DESIGNを選んでよかったと思わずニンマリ

 ほどなく富士五湖道路を河口湖IC(インターチェンジ)で下りて、富士山を目指す前に富士五湖の1つである西湖へ。西湖にはこのようにクルマで湖のほとりに行ける箇所があるので、ついつい記念撮影しに寄り道したくなる。

 そしていよいよ富士スバルラインへ。比較的緩やかながら次から次へとコーナーの折り重なるワインディングロードでは、とても2t超あるとは思えないような軽快なドライブフィールに感心する。むろん大幅な車体の軽量化やエンジン自体が軽いこと、22インチのタイヤ&ホイールなどが効いてのことだろう。ドライブしていてボディサイズの大きさをあまり感じない。ダイナミックモードを選ぶとさらにその印象が高まる。サイドサポートの張り出したシートもしっかり身体を保持してくれる。この日、R-DESIGNを選んでよかったなと、思わずニンマリである。

 四合目の標高2200mにある大沢駐車場まで行くと霧がたちこめてきて、天候に不安を感じたのも束の間、さらに登ったら晴れていた。だんだん五合目が近づいてくる途中で見わたすことのできた富士山の頂上は、6月初旬にもなるとさすがに雪はあまり残っておらず、もはや夏山の様相である。

 いよいよ五合目へ。観光バスがズラリと並んでいて、海外から訪れる観光客で大いに賑わっていた。筆者がここへ来たのは幼稚園児のとき以来、実に40年以上ぶりになる。当時は乗馬や神社にお参りをしたことを記憶していて、この日も馬や神社を目にしてとても懐かしく思い出された。

 せっかくなので、富士山の形をした限定の「富士山めろんぱん」を食しながら、筆者もいつかは家族とともに頂上を目指そうという思いを新たにした次第である。そのときには、ぜひまたXC90を相棒にしたいものだ。

五合目に到着。40年以上ぶりに小御嶽神社へ来たのでした
さくっとした食感が特徴的なクッキー生地を用い、ココアパウダーで仕上げた「富士山めろんぱん」。1個260円、おいしくいただきました

 帰路は河口湖ICではなく、富士五湖道路で南下して御殿場ICから東京を目指し、夕方、ボルボ・カー・ジャパンに到着。東名高速の途中で、ほぼ平坦な区間を100km/hでしばらく巡行して燃費を計測したところ、15.3km/hというなかなかの数字をマーク。今回のトータルでの走行距離は416km。高速道路での移動が多かったが、途中の渋滞も含め、いろいろな走り方をしての実走燃費は、JC08モード値をやや上まわる11.7km/Lをマークした。これってなかなか立派では?

 そして、この日ずっと触れていて、XC90のある生活っていいなぁとしみじみ思ったのであった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛