インプレッション

スバル「BRZ」(2016年ビッグマイナーチェンジ)

エンジンからシャシーまで変更

 ビッグマイナーチェンジを迎えるスバル(富士重工業)「BRZ」がこの世に誕生したのは、もう4年以上も前のことだ。それまでの日本国内における日本車のクーペ/スペシャリティ市場はかなり冷え込んでいた。スバルが調べたところによれば、当時はトータルしても月販1000台がいいところだったそうだ。それがBRZと実質兄弟車のトヨタ自動車「86」が発売されるやいなや、市場は3倍以上に膨れ上がった。BRZはグローバルでも5万5000台を販売。そのうち国内は約1万5000台を占めている。ジリ貧だった市場に活気が出たことは明らかだった。

 しかし2012年度に月平均620台を販売したBRZは、2013年度に296台、2014年度に167台、2015年度に172台と尻すぼみに伸び悩んでいることも事実。A型からD型まで着実な進化を果たしてきてはいたが、ライバルとなりそうなマツダ「ロードスター」の登場もあり、そろそろ大きな変化が欲しいタイミング。だからこそのビッグマイナーチェンジなのだ。

 新生BRZは、持ち前の低重心をさらにアピールするかのようにフェイスリフトを実行。フロントバンパーは開口部がやや大きくなり、両サイドのリップスポイラーもやや強調することで水平基調のイメージを強化している。また、前後の灯火類はすべてがLEDに改められ、現代流になったことも目新しい。どうせなら今風に流れるウインカーにしてみても面白そうだと感じたが、いまの状態でもかなりの進化だ。

ビッグマイナーチェンジした新型BRZ(Sグレード/6速MT)
エクステリアでは航空機のウィングチップ(翼端板)をモチーフにしたバンパー、新デザインの17インチアルミホイールなどを採用するとともに、すべての光源にLEDを使用

 一方でインテリアも質感の向上が図られた。その中でも特に注目しておきたいのが、4.2インチのカラーTFT液晶追加メーターがSグレード以上に奢られたことだ。出力特性とスロットルがリンクする表示や、前後左右Gを示すGメーター、さらには水温、油温、電圧が表示されるなど、かなり凝った造り込み。これまで油温を知るには追加メーターを装着するしか方法がなかっただけに、この進化はかなり興味深い。サーキット派にも嬉しいところ。タコメーターが垂直ゼロ指針となったことも目新しい。

 さらにスポーツカーらしい進化だと感じたのは、ステアリングが一新されたことだ。これまでのφ365mmからφ362mmへと小ぶりになったステアリングは、エアバックを中心に寄せるなどの努力によって、イナーシャを10%ほど軽減。これだけでもフィーリングは向上するに違いない。

インテリアではステアリングホイールのデザインを刷新。Sグレードではインストルメントパネル、ニーパッド、メーターパネルバイザーにレザー調素材を新たに採用するとともに、各所にレッドステッチもあしらわれる
メーターパネルには4.2インチマルチインフォメーションディスプレイを新たに採用。出力特性とスロットルがリンクする表示、Gメーター、ラップタイム(ストップウォッチ)、水温、油温、電圧などの表示が可能

 エンジンはMT仕様に限り出力をアップ。インテークマニホールド&エキゾーストマニホールドの拡大によってパワーは7PS、トルクは7Nm向上。シリンダーブロックはリブを追加することで強化。ピストンにはショットピーニング加工を施すとともに、カムシャフトのジャーナル部のフリクションを低減している。また、ファイナルギヤも4.1から4.3へと改められた。なお、17インチを装着するSグレードでは、燃費が12.4km/Lから11.8km/Lへとダウン。実燃費自体はそれほど変わらないというが、このご時世によくぞそれが許されたものである。走りの進化こそが正義だと判断された結果だろう。

MT車に搭載する水平対向4気筒DOHC 2.0リッターエンジンは、最高出力152kW(207PS)/7000rpm、最大トルク212Nm(21.6kgm)/6400-6800rpmを発生する

 ボディやシャシーにもまた細部まで変更が施されている。バネ、ダンパー、そしてリアスタビ径を変更。エンジンルーム奥に存在するタワーバーの付け根や、ミッションマウントブラケットの板厚をアップ。リアタイヤハウス内にはリアエプロンアウターと呼ばれる板も追加されている。また、D型より採用されていたリアガラスまわりのスポット打点増加や、後席上部にあるリアパネルの板厚アップはそのまま引き継がれている。

V型タワーバー取付け部の板厚アップにより操舵応答性の向上を図ったほか、D型より採用されたリアガラスまわりのスポット打点増加、後席上部にあるリアパネルの板厚アップは引き続き採用

日常域から走りの楽しさが増した

 試乗が許された富士スピードウェイのショートコースを走り出すと、これまでとはすべてが違うことを痛感させられる。走り出しからツキのよいスロットルは、これまで不満に思っていた4000rpm以下の応答遅れが払拭された感覚で、日常域から走りの楽しさが増している感覚。高回転まで回し切れば、そのイメージが連続して得られるかのような仕上がりを見せている。また、エンジンフィールもやや滑らかさが増した印象があるほか、吸排気音についても心地よさが増したような感覚がある。

 ステアリングを切り込めば、微操舵域から即座にクルマ全体が応答。BRZはリアの安定感を第一に考えるあまり、フロントの応答が鈍いようなところがあったが、新型はフロントもシッカリとインを突き刺すように旋回していくから爽快! ステアリングを多く切り込むような状況でもシッカリと応答する。まさに思い通りのコントロールが可能なのだ。

 結果、グリップでもドリフトでもどうにでもコントロールできる懐の深さがある。振り回しやすさが増したあたりは、ちょっと旧型86っぽい味付けに感じるが、そのレベルは数段上。そこにコントロール性の高いパワー系が見事に追従するのだから面白い。タイヤ銘柄を変更せず、ここまで仕上げたことに驚くばかり。そう感じるくらいメカニカルグリップは高く、ハッキリ言えば別のクルマかのような印象が残る。

これまで不満に思っていた4000rpm以下の応答遅れが払拭された今回のBRZ。日常域から走りの楽しさが増したことを確認できた
「GT」(プロトタイプ)にも試乗

 今回のビッグマイナーチェンジでは新たに「GT」というグレードも追加(2016年秋に発売予定)。SグレードをベースにブレンボブレーキとSACHSサスペンションを追加し、ホイールも0.5J広げるなど、実にマニアックな進化を遂げている。走れば、しなやかさが増しながらも、正確性は明らかに向上しているところが見どころ。微操舵域の反応のよさも引き上げられている。また、フルブレーキから踏力を抜いていく方向のコントロール性がかなり引き上げられており、車体の姿勢をキメやすいところも興味深かった。ストッピングパワーだけでなく、扱いやすさも備わったその仕上げ方はなかなかだった。

 こうしてベースモデルの着実な進化から、新たなるグレード展開までを準備した新たなるBRZは、実にスバルらしいこだわりのある深化を果たしたと思える仕上がりだった。これまでのモデルでは到底追いつくことのできないその仕上がりは、さすがはビッグマイナーチェンジだと思えるレベルに到達している。これなら、きっと落ち込んでいた販売状況だって復活するに違いない。

ブレンボブレーキやZF製のSACHS(ザックス)ダンパーを装備した最上級グレードの「GT」(プロトタイプ)は、今秋に発売予定

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。

Photo:堤晋一