インプレッション
トヨタ「ヴィッツ」(ハイブリッドモデル追加)
2017年3月4日 00:00
世界ラリー選手権(WRC)では「ヤリス」、つまり「ヴィッツ」をベースにしたラリーマシンである「ヤリスWRC」が、復帰2戦目となるラリー・スウェーデンで復帰後初優勝という活躍を見せて話題になっているが、生まれ故郷の日本でもビッグマイナーチェンジを受け、ラインアップも大きく変わった。
最大の変更ポイントはヴィッツにもハイブリッドが投入されたことで、トヨタの電動化戦略がまた1歩進められたことになる。これにより、これまであった1.5リッターエンジンはラインアップから落とされ、コンベンショナルエンジンは1.0リッターと1.3リッターのみとなる。ハイブリッドのパワートレーンは「アクア」と基本的に共通の1.5リッターエンジンとモーターを組み合わせる「THS-II」だ。ハイブリッド専用モデルであるアクアとの関係は微妙だが、いずれにしてもこれまで以上にヴィッツに力が入っていくのは間違いない。
パワートレーン以外でもヴィッツは大きな変更を受けており、ボディに初めて大きく手が入れられた。主な目的は走行安定性の向上。フロントドア開口部の前側とリアドア開口部の上側にスポット打点を増加して、ボディ左右を連結するインストルメントパネル・リーンフォースメントやその取り付けガセットの板厚をアップ。そしてフロント側に入っているブレースも同様に板厚アップされている。ガラス接着剤の改良もあり、フロントウィンドウまわりはかなり剛性が上がっている。また、Uグレード以上で採用するダンパーは、微小域の減衰力を制御する新構造のダンパーバルブを新たに採用して、ステアリングの切り始めなどの動きをスムーズにしている。
エクステリアではフロントロアグリルが大型化され、ヘッドライトも形状が異なっている。リアコンビネーションランプはバックドアまで連続する横長デザインになり、伸びやかなスタイルになっているのが最も簡単に従来型と見分けるポイントだ。
新型と言ってもよいほどのビッグマイナーチェンジを受けたヴィッツは、グレード別やオプション装着によって3種類のタイヤが設定されている。これらの違いなどをテストドライブのなかに折り込みながら進めていこう。
最初に乗ったのはハイブリッド U。ボリュームゾーンのグレードだ。装着タイヤは新開発の185/60 R15。ポイントはヴィッツに新搭載したハイブリッドとの相性と、走行性能にこだわったというボディ剛性向上の効果だ。
ヴィッツのドライビングポジションはアップライトに座らせているので、アイポイントも高く、正座に近い感覚だ。床から生えた長いシフトセレクターと合わせて、いつものヴィッツとはいえ最初はちょっと着座位置が高いと感じさせる。しかし、それだけに斜め前方も含めた視界は開けており、市街地では扱いやすく、少し走るとこのポジションにも慣れてしまう。
インテリアデザインの変更もあり、ダッシュボードは最近のトヨタデザインに則って一体感のあるもので、9インチの大きなナビディスプレイ(販売店オプション)が目新しく視認性もよい。ドライバー正面のメーター内にはレーンキープ警告なども表示され、新たに追加されたハイブリッドモニターを含めて、ベーシックグレードのヴィッツとは大きな違いがある。
スタートではモーター発進するため、車内にはハイブリッド特有の電子音が響く。宇宙船のような音(宇宙船に乗ったことはないけど)だ。1.5リッターのハイブリッドであるパワートレーンは、アクアと共通とはいうものの全く同じではなく、ヴィッツ用に適合と進化が行なわれている。エンジン本体はフリクション低減とセッティングの変更で燃費効率が高められ、パワーコントロールユニットも電流変換時の損失低減などの細かいチューニングが施されている。走行用バッテリーはリアシートの下に巧みに配置されており、スペース損失はほぼない。
動力性能は、モーターによるサポートもあって結構元気よく走る。どこから踏んでもハイブリッドらしく効率の高いところを選んで加速してくれるので、均一な加速が可能だ。ただ、「ラバーバンドフィール」と言われる加速感とエンジン回転数が合わないところはTHS IIハイブリッド特有のもので仕方がない。とはいえ、アクセルOFF時の空走感はもう少し減速度がほしいのが正直なところだ。
細かいところまで手を抜かないマイナーチェンジ
ハンドリングは、従来のヴィッツはロールの動きが早かった。ヴィッツはドライビングポジションが高いため、ロールが大きく感じられたのだ。新型ではステアリングを切ったときのクルマの動きに一体感が出て、好ましい姿勢変化になってきた。ステアリングの操舵力もナチュラルになり、段付き感が少ないことも効果がある。
ハンドリングに一体感が出たのは、ダンパーの微低速域の減衰力が上げられたこと、そして気まじめにボディの部分剛性を向上させたことによる効果が大きいが、ドライバーにとって嬉しいのは運転する質の向上と安心感だ。
乗り心地では、従来のモデルでは荒れた路面を通過したときにバタバタした上下振動が大きかったが、バタつきはあるものの、かなり抑えが効くようになっていた。乗り心地ではもう1つ、1.3リッターのコンベンショナルモデルとハイブリッドでは少し差があり、低速ではコンべモデルは少し突き上げがあって、逆に高速走行になると収まりがよくなる。わずかな差だが、市街地走行ではハイブリッドの乗り味に分がありそうだ。
そのハイブリッドのリアシートは、走行用バッテリーがシートの座面下に収まる関係でコンべモデルより少し薄く、そして硬めになっているのだが、底付き感はなく、フラットなシート形状も幸いして乗り心地は意外とよい。
タイヤの違いでは、15インチタイヤは少しピッチングする傾向があったが、これが195/50 R16のスポーティパッケージだと、ダンピングも向上してフラットな動きになる。ちなみに175/70 R14を履くJewela(女性がターゲットだが、内装カラーなどの差別化が顕著でがらりと印象が変わる)では、路面からのあたりが少しソフトになり、ダンピングも強くはないがサイズなりの自然さがある。
素の(X-URBANではない)アクアのJC08モード燃費は37.0km/L。対するヴィッツ ハイブリッドは34.4km/Lでアクアの方が優れている。しかし、ここには実は車両重量とカテゴリー違いによる差があって、装備品を増やして重量が1090kgになると、アクアの燃費は33.8km/Lになる。こうなると1110kgのヴィッツ ハイブリッドの燃費が逆転して、クラストップの燃費となるのだ。
アクアの燃費はパワートレーンだけでなく、空力もかなり進んでいたことで実現されていたが、その技術はヴィッツでも取り入れている。例えば、リアインナーフェンダーのエア抜きダクトやフロントインナーフェンダー上に整流板を追加したことで、走行中にフェンダー内に入ってくる乱れた空気を外に向かって送り出し、走行性能の向上と燃費の改善に結びつけている。細かいところまで手を抜かないマイナーチェンジである。
さて、最近のトヨタは社内カンパニー制を敷くようになった。ヴィッツが属するのは「Compact Car Company」。トヨタ本体とトヨタ自動車東日本を合わせて約7700名体制の社内カンパニーを引っ張るプレジデントは、トヨタ入社時からこれまで生産畑ひと筋に歩んできたという宮内一公氏。クルマ作りのA~Zまで携わるのは初めてだが、生産の面白さとはまた違った幅広い開発の醍醐味を味わっているという。実際、カンパニー制にしたことで意思決定が早くなり、開発スピードは飛躍的に向上して各カンパニーでよい効果が表れているという。
トヨタのような世界有数の会社でこのようなドラスティックな改革がスムーズに行なわれ、そこに人材が揃うということにトヨタの底力を感じる。