インプレッション

レクサスの雪上試乗会「LEXUS SNOW EXPERIENCE」

「LX570」などのレクサス車を雪上試乗する「LEXUS SNOW EXPERIENCE」に参加した

 毎年、冬場は頻繁に北海道まで足を運ぶ筆者も、今季はこれで何回目だったかパッと思い出せないほどだが、北の大地の長い冬がまだまだ続きそうな2月の下旬にトヨタ自動車の士別試験場で開催された、「LEXUS SNOW EXPERIENCE」と題する雪上試乗会に参加した。旭川空港からクルマで1時間半ほどの同テストコースに筆者が冬季に訪れるのは初めてのこと。会場に着くと、ドライブする車両は4WD車に限らず、意外や2WD車も数多く用意されていた。

ハイパワーな2WD車でもコントローラブル

 まず、圧雪ハンドリングコースで2WD(FR)の「GS F」「IS300h Fスポーツ」と4WDの「RX450h Fスポーツ」をドライブした。

圧雪ハンドリングコースでGS Fなどを試乗

 筆者は肩慣らしをする間もなく、いきなりGS Fからの走行となったわけだが、これほどハイパワーな2WD車でもコントローラブルだというのが第一印象。また、GS Fに標準装備される、リア左右輪の駆動力を最適に電子制御する「TVD」を切り替えることで、ハンドリングが分かりやすく変化する。「NORMAL」に対し、「SLAROM」にすると回頭性が俊敏になり、後輪の駆動力も上がるので、ちょっと面白いのだがひとクセあるハンドリングになる。一方、「CIRCUIT」にすると弱アンダーステアの安定した穏やかな挙動になり、こちらのほうが不安なく攻められる。

V型8気筒DOHC 5.0リッターエンジンを搭載する2WD(FR)モデル「GS F」
直列4気筒 2.5リッターエンジンとリダクション機構付のTHS IIを採用する2WD(FR)モデル「IS300h Fスポーツ」

 IS300hは、2015年夏の改良で4WD車も選べるようになったのだが、ここで試乗用に用意されていたのは2WD車だった。あえて2WD車で圧雪路を、ということのようだが、たしかにもっと注意して走ることになるのではと思っていたところ、これまた挙動が素直で意外なほど走りやすかった。

RX450hは最高出力193kW(262PS)/6000rpm、最大トルク335Nm(34.2kgm)/4600rpmを発生するV型6気筒DOHC 3.5リッターエンジンに、最高出力123kW(167PS)、335Nm(34.2kgm)を発生するモーターを組み合わせたハイブリッドシステムを採用。4WD車では最高出力50kW(68PS)、139Nm(14.2kgm)を発生するリアモーターを搭載する

 RX450hの4WDシステムは、前後がプロペラシャフトでつながっておらず、後輪をモーターで駆動する4WD「E-Four」だ。これのおかげで発進もラクラクで、コーナリングでの挙動も安定している。VSCをOFFにして攻めた走り方を試すと、やや前後で駆動力の立ち上がり方が一定しない感覚は残るものの、不意にオーバーステアになることもなく、安心感は高い。

タイトコーナーを1発で曲がる「ターンアシスト機能」に驚かされたLX570

LX570は、最高出力277kW(377PS)/5600rpm、最大トルク534Nm(54.5kgm)/3200rpmを発生するV型8気筒DOHC 5.7リッターエンジンを搭載。トランスミッションは8速ATを組み合わせて駆動方式は4WD

 続いてオフロードコースへ。ここでLX570の走破性を試す。コースは通常であればこの日の3倍以上の積雪があるらしく、しかも3日前に大雨が降って下地がスケートリンクのようになっているという厳しい状況。最初にそんな話をされて、見るからに難所っぽいコースレイアウトを見るにつけ、まあLXならちゃんと走れるのだろうとは思っていたものの、少し不安になるくらいだった。

LX570に装備される「マルチテレインセレクト」は、オフロード走行においてトラクションやブレーキを最適に制御して4WD性能をより高めるシステム。モードセレクタースイッチで、「ROCK」「ROCK&DIRT」「MOGUL」「LOOSE ROCK」「MUD&SAND」の5モードを選択可能

 車両に乗り込み、ローレンジに入れて「クロールコントロール」をONにし、「マルチテレインセレクト」は、ひとまず登坂のモーグル向けの「MOGUL」を選ぶ。ローレンジにするとクルマ全体がオフロード向けに切り替わり、マルチテレインモニターには死角となる車両前後や左右両サイドの様子が映し出される。「アンダーフロアビュー」では車両下方の様子をモニターで見ることもできるし、タイヤの向きも教えてくれる。角度計も表示され、コースインしてすぐに左に大きく傾いたときの表示を見ると27~28度ぐらい。カタログ記載によると44度までいけるのだが、30度を超えると警告が表示され、約40度になるとささいなきっかけで転がる危険性があるそうだ。

 続いて深さ30~40cmのモーグルセクション。いまどきの一般的なSUVではタイヤが浮いてしまいそうな状況でも、LX570ならリアリジッドサスが路面をしっかり捉えてグイグイと前進していく。ホイールストロークのトラベル量が小さいSUVでは挙動が安定しないであろう状況でも、LX570なら足まわりが巧みに吸収するので、あまりボディを傾けることもなくスムーズに走っていける。外から見るとタイヤが外れそうなぐらいビローンと伸びているのが分かる。

 そしていよいよ今回の真骨頂、「ターンアシスト機能」を試す。コースには「こんなところを本当に切り返さずに曲がれるのか」と思わずにいられないタイトなコーナーが設定されていたのだが、本当に1発で曲がったことには驚くばかりだ。これは、クルマ側が舵角センサーにより自動的にドライバーの旋回意思を判断。リア内輪にブレーキをかけてロックさせ、そこを軸に回り込ませるようにしてノーズをインに向けるという仕組み。ブレーキのアクチュエーターの音がかなり盛大に聞こえたのは、クルマがそれだけ頑張っているということにほかならない。また、クロールコントロールが自動的に接地しているタイヤに駆動力を伝えるので、アクセルもブレーキも踏まなくても進行方向に進んでいく。ちなみにこうした機能は、本稿掲載時点ではまだ他に例がないそうだ。

ターンアシスト機能は、クロールコントロール走行時に切り返しが必要とされるようなタイトコーナーに差しかかった際、舵角センサーによりドライバーの旋回意思を判断。後輪内側のブレーキ油圧を制御することで回頭性を高めるシステム(作動条件・クロールコントロール作動時・センターデフロックOFF時・シフト位置: P・N・R以外)

 さらに、約50cmの大きな段差で完全にタイヤが空回りした状態からの脱出。通常その状態ではアクセルを踏んでも進まないが、マルチテレインセレクトの選択状況に合わせて、クルマがスリップを判断すると自動的にブレーキをかけてスリップを止める。通常の雪道用のトラクションコントロールは、エンジン出力を抑えながら補助的にブレーキをかけてスリップを止めるのに対し、オフロードでは出力を下げてしまうと大きな岩やコブを乗り越えられなくなるので、出力はそのままでブレーキをぐいぐいつかむような制御になる。

LX570は最大安定傾斜角44度、登坂能力45度、アプローチアングル25度、デパーチャーアングル20度

 最後の急な下り坂はなんと最大斜度35度。しかもスケートリンクのように滑りやすい。こんな状況では、エンジンブレーキやフットブレーキを使うとコントロールを失って横を向いてしまうことがある。ところがクロールコントロールを使うと、4輪それぞれの進む量に応じて適切にタイヤを回そうとしてくれるので、よりまっすぐ進みやすくなり、グリップが回復すると設定した速度に合わせて減速させていくので、ブレーキもアクセルも踏むことなくステアリング操作に集中してラクに下りることができるのだ。

LX570の雪上試乗

IS300hの4WD車で朱鞠内湖までを往復

IS300hの4WDモデル。前後輪に動力を配分するトランスファーにトルセンLSDを採用。通常は前後輪のトルクを40:60で配分し、走行条件に応じて前後輪に50:50~30:70でトルク配分する

 続いて、実は初めてドライブするIS300hの4WD車で公道を走って、幻の魚と呼ばれるイトウで知られる朱鞠内湖までを往復した。路面は圧雪と、ところどころアスファルトが見えていた状態のところ、最初にハンドリングコースで乗った2WD車に対し、やはり発進性に優れることと、コーナー進入やアクセルを強めに踏んだときにもラインが乱れにくいように感じた。

 心なしかフロントヘビーな印象もあったので車検証の記載を確認すると、車両重量は1790kg、前軸重930kg、後軸重860kgと、思ったよりもけっこう重め。また、助手席のフロアに2WD車にはない出っ張りがあるのは、前輪を駆動させるための機構が収まっているからだが、2WDと4WDでフロアを共用して、本来はなくてもよい2WDでも出っ張っている車種も見受けられるところ、フロアを作り分けて2WD車の足下を広く確保していることを、むしろ評価してよいと思う。

IS300h Fスポーツの4WD車は最高出力131kW(178PS)/6000rpm、最大トルク221Nm(22.5kgm)/4200-4800rpmを発生する直列4気筒 2.5リッターエンジンと最高出力105kW(143PS)、最大トルク300Nm(30.6kgm)のモーターを組み合わせたハイブリッドシステムを採用

 最後に、試乗会の参加者全員とレクサスの開発陣が、GS FとRC Fのどちらか(選ぶことはできない)に乗って、特設コースでタイムアタックを実施。ロングホイールベースでTVDが標準装備のGS Fと、ショートホイールベースだが今回の車両にはオプションのTVDが装着されていなかったRC Fではどちらが速いのか興味深かったのが、ドライバーのスキルもあるし、後半は路面がたいぶ荒れたので一概にはいえないものの、傾向としてはどうやらTVDが効いてかGS Fのほうが速かったようだ。

試乗会の参加者全員とレクサスの開発陣による特設コースでのタイムアタック

 こうしていろいろなレクサス車の雪上氷上性能を試し、その実力のほどを体感。レクサスのラインアップが冬場の厳しい条件下での走破性にも優れることを確認することができた次第である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。