インプレッション

ダイハツ「ミラ イース」(2017年フルモデルチェンジ)

 節約第一から、安全・安心で自分らしい暮らしへ。そうした世の中の意識の移り変わりを、新型「ミラ イース」に試乗して再認識することになった。

 初代ミラ イースが登場した2011年9月は、東日本大震災の影響が色濃く、「なにかあったときのための備え」を重視して必要最低限で堅実な暮らしをしようというムードが高まっていたころ。「第3のエコカー」というキャッチコピーで低燃費・低価格・省資源の3つを突き詰めた初代は、そうしたムードにマッチして大きな注目を集めた。

 ところがダイハツ工業は、新型ミラ イースの開発にあたり、多くのユーザーの声を聞くなかで意識の変化を実感したという。あいかわらず経済性は重視しつつも、それだけではない“プラスαの魅力”を求めており、とくに強く感じたのは安全性や品質、自分らしいこだわりへの価値観。そこで新型ミラ イースは低燃費・低価格に加えて安全・安心を新たなキーワードとし、キャッチコピーは「新 みんなのエコカー」となった。

新型ミラ イース X“SA III”(マゼンタベリーマイカメタリック)

 また、ダイハツはユーザーオリエンテッドなクルマづくりを実現するための事業構造を「DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」と題して、ダイハツらしいモノづくり×コトづくり(ユーザーとの接点拡大)を進めており、新型ミラ イースがその原点を確立するモデルという位置づけ。それだけに、開発段階の話を聞いていくと、従来では考えられないほどのこだわりを感じる。

サイドアウターパネルに全面厚板ハイテン材を使い、結合構造の合理化なども行なって剛性を確保しつつ大幅な軽量化を実現した「Dモノコック」

 例えば、「ムーヴ」から導入している「Dモノコック」を採用したボディでは、従来は生産過程の作業がしやすいように空けられていた穴(サービスホール)を、工場に掛け合って1つずつ埋めていくことで騒音・振動を改善。埋めた穴の総面積は全体の約15%にのぼる。また、部品点数の軽減や品質向上のために、パーツ生産をサプライヤーに任せるのではなく、自社の九州工場で行なっているという。

 さらに、コスト低減を優先する軽自動車ではシート骨格やステアリングを他モデルと共有することが多いが、新型ミラ イースでは座り心地やホールド性を考慮した軽量骨格シートを新開発。ステアリングもグリップ径を太くし、握り部分に手触りのいい革シボを新設計している。今後のダイハツ車に流用されていくことを考えても、価格設定の高いモデルではなく、このミラ イースから取り入れたというところにダイハツの意気込みを感じる。

 そして、キーワードに加わった安全・安心に関しては、最新の衝突回避支援システム「スマートアシストIII」を6グレード中4グレードに標準装備としたことや、障害物の接近を知らせるコーナーセンサー(フロント・リヤ各2個)を軽自動車で初めて採用したことからも進化が伝わるが、それ以前に走りの基本性能を大きく引き上げるこだわりが見える。

G“SA III”のインパネ。上下で色の異なるツートーンインテリアだが、成形途中で樹脂を変更し、一体化したパネルで構成する技術が用いられている
中央にメッキオーナメントを備えるウレタンステアリング
自発光式デジタルメーターを全車で採用。両サイドのブルーイルミネーションは、燃費のいい走行状態になるとグリーンに変化する「エコドライブアシスト照明」となっている
シート表皮は全車共通。ヘッドレスト一体型のフロントシートは骨格部分の大幅な見直しを実施。乗員の体圧を適切に分散させて受け止めて長時間座っても疲れない形状と、板厚や構造の最適化による軽量化を両立している
ルームミラーに隠れてしまうコンパクトサイズが自慢という「スマートアシストIII」のステレオカメラ
スマートアシストIIIとセットで装着されるコーナーセンサー。前後のバンパーに計4個を設定。軽自動車としては初めての採用になるという
コーナーセンサーで障害物を検知すると、ブザー音に加えてメーター内のTFTマルチインフォメーションディスプレイに障害物の方向を表示する
バックカメラはGPSアンテナや16cmリアスピーカーとセットの「純正ナビ装着用アップグレードパック」として全車にオプション設定

 まず大きなところでは、上級グレード(G“SA III”、X“SA III”)のアブソーバーに軽自動車で初めて超飽和バルブと専用ベースバルブの組み合わせを採用。シリンダーサイズも25mmから30mmへと1サイズアップし、減衰力の素早い立ち上がりや、ピストン速度に応じたサスペンションの収縮をコントロールして、低速域から高速域までの上質な乗り心地を実現したという。パワーユニットでも性能を向上させた新世代ECUを採用し、CVTの制御機能もEFI-ECU(エンジン制御コンピューター)に統合。エンジンとCVTの協調制御を最適化したほか、スロットル開度や変速線図も見直し、よりリニアな加速性能としている。

エンジンではオルタネーターベルトの低フリクション化などでエネルギー効率を高めたほか、CVTケースの薄肉化などで軽量化を図った。JC08モード燃費はG“SA III”とX“SA III”の2WD(FF)車が34.2km/L、そのほかの2WD車が35.2km/Lで、4WD車は全車32.2km/L

 こうしたダイハツによる地道な改良の成果を、私たち取材班はのちに驚きをもって実感することになった。というのも、車両全体で「最大約80kgの軽量化を果たした」という新型ミラ イースに申し訳ないほど“最悪の条件”で試乗を試みてしまったからだ。大人4人フル乗車(うち1人は重量級)に加え、幼児1人分はあろうかという重いカメラバッグを荷室に積載。その光景を見たダイハツの関係者たちも苦笑いする状態で、まずは最上級グレードのG“SA III”を走らせた。

“最悪の条件”でも不満なく走り、静かで安心できる

 発進でアクセルを踏み込む瞬間、重さによる抵抗を感じることを覚悟していた私だったが、拍子抜けするほど軽やかな反応に早くも驚いた。試乗会場をそのまま低速で走ると、路面の凹凸を乗り越える際のガタピシ感がなく、道路へ出るための減速でも重量の影響による前のめり感はまったくない。交差点でのステアフィールは軽い中にもしっかりとした手応えがあり、ボディが外側に振られるようなこともなく、とてもキビキビとしている。

直列3気筒DOHC 0.66リッターの「KF-VE型」エンジンは、最高出力36kW(49PS)/6800rpm、最大トルク57Nm(5.8kgm)/5200rpmを発生

 幹線道路に出て加速していくと、燃費対策が強いクルマにありがちな40km/hあたりでのもたつきもなく、スムーズに気持ちよく速度が上がっていく。途中、上り坂に差し掛かるとさすがに失速感を感じてアクセルを踏み足すことになったが、その際の唸り音は小さく、加速までの反応も早い。聞けば先代と比べて、アクセル半開での発進加速は0-5秒で約3m多く進み、アクセル全開での追い越し加速は40-80km/hの加速タイムが10.4秒から9.8秒に短縮しているという。これを4人フル乗車でも体感できるところに、新型ミラ イースの実力の高さが窺い知れる。

 そして車内の全員が一致したのが乗り心地のよさ。運転席では路面をしっかりと捉える安定感と、どんなシーンでもボディ全体が一体となって走れるカッチリとした剛性を実感。後席に乗り換えると、路面によって多少のゴツゴツ感はあるものの、カーブで身体がズリズリと動くようなことがなく、落ち着いて座っていられる安心感がある。足下や頭上のスペースもゆったりしており、ノイズも小さくて前席との会話がしやすい静かさだ。

 さて、今度はG“SA III”の1つ下のグレードとなるX“SA III”に懲りずに4人で試乗した。先ほどは14インチアルミホイールだったが、こちらは14インチスチールホイール+フルホイールキャップとなり、2WD(FF)車の価格はG“SA III”が120万9600円に対して、X“SA III”は108万円と手ごろ感が増す。ダイハツでも量販グレードになると予想しているモデルだ。

 市街地での印象はまったく変わらず、こちらも軽快によく走る。そこで先ほどは時間切れで試せなかった、高速道路に乗ってみた。料金所までの上り坂はやはり強い踏み込みが必要だったが、そこからの本線合流ではすでに余裕が生まれ、本線での速い流れにもスムーズに乗っていける。ステアリングは“ビシッと”とまではいかないが、なかなかの安定感で路面のうねりにも左右されず、安心して元気に走ることができた。

 ただ、100km/h付近まで速度が上がってくると、ポワンポワンと車体がわずかに弾むようなシーンが見られ、ステアリングを握る手に力が入った。それでもブレーキは違和感なく効くし、車線変更も不安なくできるし、4人フル乗車でこれだけの実力ならなんの不満もないと、またしても全員で納得したのだった。

G“SA III”の14インチアルミホイール。タイヤサイズは155/65 R14 75S
X“SA III”の14インチスチールホイール+フルホイールキャップ。タイヤサイズはG“SA III”と同じ155/65 R14 75S
B“SA III”とBで装着する13インチスチールホイール。新開発で“国内最軽量”としており、開発担当者によれば「おそらく世界最軽量」とのこと

 また、これは市街地走行でも感じていたことだが、ドアミラーがとても見やすく、それが運転しやすさや安心感につながっている。聞けば、ダイハツでは部品開発の基本となる社内指針のアップデートを進めており、G“SA III”とX“SA III”のドアミラーはその新しい部品軸で作られたものとのこと。運転ポジションに関しても、取り付け角度を調整してステアリングを20.2mmドライバー側に近づけ、逆にアクセルペダルは取り付け角度の調整で12.7mm前進。運転席に座る人が体格に合わせて最適なポジションがとれるように改良してる。最小回転半径は4.4mで初代と変わらないが、運転しやすさはさらにアップしていると感じた。

G“SAIII”はかなりのバーゲンプライス

 そして最後にもう1つ、新型ミラ イースの大きな魅力だと感じたのが、劇的に上質でモダンになった内外装だ。初代は「シンプルで無駄のない形」を突き詰めたものだったが、新型はそこに力強さや先進感を表現したとのことで、全体にエッジの効いた立体感がとてもカッコイイ。G“SA III”とX“SA III”に標準装備となるLEDヘッドライトや、ライン状に4個のLEDが光るリアコンビネーションランプも、上質でキリリとした新型の印象を高めている。

 ひと目見て、これはカスタムのベースとしてもかなりいい素材ではないかと思ったが、やはりそこはダイハツ側も意識したそうで、今回はエアロパーツやメッキ装飾などのアイテムをどどんと豊富に用意。試乗会場にはそれらのアイテムを装着したカスタムモデルが置かれていて、ワイルドさを増したカスタムモデルは夜の街にも似合いそうな雰囲気だった。販売店の中には、展示車両を敢えてカスタムモデルにしているところがあるほどだという。エグゼクティブ・チーフ・エンジニアの南出洋志さんによれば、初代ユーザーは50~60代が約半数を占めていたとのことだが、新型はもっと若い世代にもアピールできるのではないだろうか。

G“SAIII”とX“SAIII”に標準装備するLEDヘッドライト。B“SA III”にも「ビジネスユースフルパック」でセットオプション装着が可能
G“SAIII”とX“SAIII”以外で標準装備するマルチリフレクターハロゲンヘッドライト(マニュアルレベリング機能付)
リアコンビネーションランプは、上側に4個のLEDを並べてライン状に発光させるスタイル
ドアトリムでも軽量化を図るため、できる限り表面積を増やさないようにしながら単調にならないようデザインを工夫。さらに上下にポケットを設置して実用性を確保している
助手席前方のインパネロングアッパートレイや回転式のショッピングフックなども、大きさなどに加えて手が届きやすい位置設定などにこだわっているという
フロアボード下に、発泡スチロールを使った収納スペースを設定
リアシートの背もたれは一体可倒式。左右のロックを解除して前方に倒すことでラゲッジスペース容量を拡大できる

 ただ、1つ気になった点もある。インテリアのデザインや質感も同じように感心したのだが、G“SA III”からX“SA III”に乗り換えたときに「アレッ?」と思うほどの差を感じてしまった。というのも、G“SA III”はオートエアコンやエンジンのプッシュスタートボタン、前席シートヒーターなどが標準装備。それがX“SA III”ではマニュアルエアコンになり、エンジンスタートもキーを差し込んで回すタイプ。シートヒーターのスイッチは埋め込まれておらず、なんだか一気に時代をさかのぼった気がしてしまったのだった。

 これが87万4800円のL、84万2400円のB(それぞれ2WD車)になれば、装備の差はなおさらだろう。ちなみにLとBは13インチタイヤ、後席のヘッドレストもオプションとなる。もちろん、そうした“素のモデル”を好む人もいるし、価格重視なら十分な内容だ。でも「プラスαの魅力」を求めるならば、X“SA III”とは12万9600円の差で、前述の装備やサイドエアバックまで標準装備となるG“SAIII”は、実はかなりのバーゲンプライス。最もお買い得で満足度も高いはずだ。

プッシュ式のオートエアコンはG“SAIII”専用の装備
G“SAIII”以外はダイヤル式マニュアルエアコンを採用する
全車オーディオレスが基本となり、写真の「ワイドスタンダードメモリーナビ」は12万4200円高のディーラーオプション品

 ダイハツの原点であり、「軽の中の軽」を目指して完成した新型ミラ イース。“最悪の条件”での試乗でも、見事に私たちを惚れさせた実力に、そのプライドを感じたのだった。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:堤晋一