インプレッション
スバル「レヴォーグ」(DBA-VMG)搭載の「アイサイト・ツーリングアシスト」高速道路試乗
運転支援技術を信頼して任せられる意義を再認識
2017年10月10日 13:16
スバルではない他メーカーの販売店で、「このクルマ、アイサイト付いてますか?」と来場者から言われることがあると、セールススタッフから聞いたのはもう5年以上前のこと。スバルの販売店でも、車名ではなく「アイサイトが欲しいんですけど」と言う人がいるというから、その知名度はどのメーカーの安全運転支援技術よりも高く、日本車のそうした技術の普及促進にも大きく貢献したことは間違いない。
そんなアイサイトが、この8月に新しくなった「レヴォーグ」「WRX S4」からバージョンアップし、名称も「アイサイト・ツーリングアシスト」となった。これまでの「アイサイト ver.3」では60km/h以上での作動だったステアリングアシストが、0km/hからの全車速対応となったり、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)の作動速度上限が約120km/hに引き上げられたことなど、詳細はすでにクローズドコースで試乗した西村直人さんのレポートや谷川編集長の技術解説でお届けしているとおり。今回のバージョンアップの狙いは、リアルワールドで実感できる最高水準の運転支援技術を提供することであり、車両制御の徹底した作り込みや、ステレオカメラ認識の信頼性アップなどにより、本当に“使える”レベルを実現したという。
そのリアルワールド(=一般道)でアイサイト・ツーリングアシストを試し、これまでとどのように違うのか、どれだけ“使える”レベルになっているのかチェックする機会を得た。試乗コースは、こうした運転支援技術にとって難易度が高いことで知られる首都高速道路。通行量が多く前走車の入れ替わりが頻繁で、車間距離を一定に保つことが難しいうえに合流・分流も次々に現れる。さらに急カーブやアップダウンが多いことなどで、誤作動や制御不能、またはアシスト不足などを招きやすいというのがその理由だ。しかし、敢えてその首都高を試乗コースに選ぶところから、開発者たちの自信のほどが伝わってくる。
試乗のスタート地点は、東京都港区にある東京タワー下の駐車場。アイサイト・ツーリングアシストは、新しいレヴォーグ、WRX S4ともに全車標準装備となっており、今回の試乗車はレヴォーグ「2.0GT-S EyeSight」。まずは首都高の芝公園IC(インターチェンジ)を目指して走りだす。
アイサイト・ツーリングアシストは自動車専用道路での利用を推奨しているので、ICまでの市街地ではスイッチを押さず、純粋に新しいレヴォーグの乗り味を体感した。とくに感じたのは、重すぎず適度な手応えを伝えてくるステアフィールのよさ。舵角に対する車両の反応が思いどおりで、車両との一体感がグッと高まる。これは新しくなった電動パワーステアリングの効果だ。そしてフロント、リアともに新しいチューニングダンパーやチューニングコイルスプリングとなり、リアスタビライザーも新しくなることで、乗り心地のフラット感と穏やかさが抜群によくなったと感じる。これには後席に乗っていたスタッフ2人も、しきりに「快適だ」と感心していた。
そしていよいよ芝公園ICから首都高へと入る。本線に合流してすぐ、アイサイト・ツーリングアシストをONにした。その設定はこれまでどおり、ステアリングについているスイッチで、指先だけで操作できる。まずメインスイッチを押すと、前走車を認識したことを示すアイコンがメーター内でグリーンに点灯。次に設定速度を上下するスイッチで好みの速度に調節する。なにもしなければ、メインスイッチを押して追従を始めたときの速度に設定されるが、この時点の本線はスムーズに流れていたので、速度設定アップのボタンで70km/hにした。そして、3段階から選べる車間距離設定は中間に。その後、ステアリング制御を作動させるスイッチを押すと、アイサイト・ツーリングアシストの全ての設定は完了だ。
2車線ある本線の左車線で、前走車との距離を保ちながら走り始めると、すぐに前走車が右に車線変更していなくなり、前方が40~50mほど空いた。レヴォーグはもう1台先の前走車に追いつこうと強めの加速を始める。そこへ、右車線から別の車両が車線変更してレヴォーグのすぐ前に入った。このとき、これまでの経験から急ブレーキがかかることを覚悟したのだが、それがとても滑らかに、乗員の身体に強いGがかかることのない自然なブレーキングで減速し、再び新しい前走車への追従をスタート。これにはのっけから感心させられた。まるで自分自身が運転しているのと同じ感覚で、少しの恐怖も違和感もない。首都高では、車間距離がちょっとでも開いていれば隣りの車線から車両が前に入ってくることが頻繁にある。その後も何度かこうしたシーンに遭遇したが、そのたびに的確な加速とブレーキングでスムーズな挙動を見せたレヴォーグ、もといアイサイト・ツーリングアシストの制御は、人間の感覚により近づいていることを実感させた。
そして最も注目していたのが、急カーブや合流の多い都心環状線(C1)で、ステアリング制御がどのように作動するのかというところ。両手はステアリングに軽い力で添える程度にしていたが、カーブに進入するだいぶ手前から少しずつアシストが入って舵を切りはじめ、曲がりきってからもまた同じように少しずつ戻っていく感覚だ。同乗者にも分かってしまうくらいの急ハンドルでグイッと切れるのではなく、ふわりとしたアシストで自分自身が操作しているという意識を邪魔しない。他メーカーのステアリング制御では「今、アシストが入ったな」というのが明確に分かるものや、作動中だけ妙にステアリングが重たくなるものもあるが、ここまで穏やかで自然な制御をしてくれることに驚いた。
このステアリング制御は、「白線がしっかり見えている場合」は制御対象が白線認識となり、全車速で作動。「渋滞などで白線が見えにく場合」は前走車の認識と白線の認識を組み合わせて、40km/h以下での作動。そして「白線が消えていたりトラックなど大型車両で隠れてしまう場合」は、前走車の認識で追従する制御となり、60km/h以下で作動と、3つの制御を状況によって使い分けている。メーター内のアイコンがブルーや白に点灯することで、そのときの制御対象が分かるようになっているが、運転している側としてはどの制御で作動しているのか、また、切り替わったタイミングなどを身体で感じ取ることは難しい。それほどシームレスな制御で、最初は頻繁にメーター内を確認して、今どのような制御状況にあるのかを知ろうとしていたが、すぐにそんな必要はないと悟った。アイサイト・ツーリングアシストを信頼して、任せておいても大丈夫だという意識が芽生えたからだ。
そんな運転支援技術を信頼するという意識こそ、運転中の疲労を軽減し、万が一の事故を防ぐために必要な第一歩ではないだろうか。もちろん、運転の主導権をシステム側に渡すのではなく、あくまで自分の操作が主体で、全ての責任は自分にある。でも、その操作が足りなかったり、間違いを起こしそうになったときはシステム側が手助けをしてくれるという信頼感だ。
例えばシステム側が率先して誤った操作を繰り返すようでは信頼しきれず、いつもどこかで「誤作動を起こすのではないか? 制御が効かないのではないか?」と疑い続けながら運転しなければならない。そんな状況が一番疲れるし、もし不要な作動をしたときにそれを正しい操作に直さなければならず、余計な手間がかかる。これまではどちらかと言えば、「余計な手間」がかかることをある程度覚悟のうえでシステムをONにしていたところがあったが、アイサイト・ツーリングアシストでは終始、信頼感を持って作動させることができた。
もちろん、本線と分流のジャンクション付近で、本線よりも分流の方が角度的に自然な流れになっているところで、私の意思に反して分流の方にステアリング制御が効いてしまった場面もあった。でもそれは、すぐに自分自身の手でステアリングを本線の方に戻せば違和感なく進めたし、そうなった原因も分かりやすく、不安になることはなかった。また、カーブ進入時にはステアリング制御が効いていたのに、曲線がきつすぎてカーブの途中で制御がOFFになることもあったが、その際のステアフィールもほぼ違和感のないもので、制御が切れたあとも自然に自分自身で操作が続けられた。
不要な作動が入ってしまったときも、その原因がすぐに分かること。そして、制御のONとOFFの切り替わりに大きな違和感がなく、そのまま操作が自然に行なえること。アイサイト・ツーリングアシストはこの2点が他メーカーのシステムよりも優れていると感じた。
さて、今回のバージョンアップでステアリング制御が0km/hから作動するようになったことの最大の恩恵は、ノロノロ渋滞で使えるところにある。なので、今回の試乗ではガッツリと渋滞にハマることを願っていたのだが、残念ながら当日の首都高はあまり混んでおらず、帰り道の環状線でようやく20km/h~30km/hでソロソロと動く渋滞に遭遇。
ここでは車間距離を最短の位置に設定してアイサイト・ツーリングアシストを試したが、じんわりとした加速と穏やかなブレーキングを繰り返し、カーブでのステアリング制御も完璧。前走車が4tトラックになった場面もあったが、制御がOFFになることはなく、私はとても楽をさせてもらった。もちろん、よそ見をしたりステアリングから手を離したりしてはならないが、それでも肩の力を抜き、足先で何度もペダル操作を繰り返す必要がないどころかフロアに置いたままで、ゆったりと座りながら渋滞を進むことができるのは、本当に楽だ。
ただ1つ気になったのは、これは以前から気になっていたことでもあるが、前走車がいなくなって前がガラリと空いた途端、設定速度上限までフル加速を始めるのはとても怖い。周りの車両も「こんなところでこんなに加速して、なんなんだ?」と驚くだろうし、IC出口などで先が急カーブなのにどんどん加速し、慌ててブレーキを踏むこともあった。これはどうにかならないだろうか。
開発者に聞いたところ、アイサイトはカーナビの地図情報との連携はしていないが、車両のGを感知しているとのことなので、そうした情報収集・分析技術とステレオカメラの認識技術の連携をもっと高めていけば、先がカーブならば緩やかな加速にしたり、かなり離れていても前走車がいる場合には適切な加速にするなど、なにか方法があるかもしれない。
とはいえ、首都高で試した最新のアイサイト・ツーリングアシストは、その自然で緻密なステアリング制御をはじめ、運転している人を邪魔しないどころか、自分の運転が上手くなったような心地よさと、いざというときには補助してくれるという安心感がとても高まっていると実感。渋滞での完璧なアシストで疲労も軽減してくれるのは間違いない。「使える」=「信頼できる」ということを、改めて感じた公道試乗だった。
【お詫びと訂正】記事初出時、アイサイト・ツーリングアシストの採用車に関する記述が一部間違っておりました。記事執筆時の採用車はレヴォーグ、WRX S4になります。お詫びして訂正させていただきます。