試乗レポート
マツダの“人間中心の自動運転コンセプト”「コ・パイロット・コンセプト」とは何か 進化版2.0を体験してきた
2021年11月4日 11:30
2022年からマツダ・コ・パイロット1.0を導入
マツダが発表した新しい運転支援技術には「MAZDA Co-Pilot Concept(コ・パイロット・コンセプト)」という名が付けられた。いわく「人間中心の自動運転コンセプト」だという。
コ・パイロットとは副操縦士のこと。操縦士の脇に常にいて、必要とあればすぐに介入して操縦を支援する。まさにクルマの運転の際に副操縦士の役を引き受けてくれるのが、この技術。自動運転コンセプトとは銘打っているが、運転の主体はあくまでドライバー。けれど、それをずっと見守ってくれるというわけだ。
具体的には、ドライバーが居眠りをしている時、あるいは急な発作など身体に異常をきたして運転操作が困難になるのを検知して、安全に車両を停止させる、あるいは停止可能な場所まで導くというのがその主たる機能となる。現在、交通事故全体のうちの死亡重傷事故件数は減っているが、一方で78%のドライバーが運転中に眠気を感じているといい、また発作、急病に起因する交通事故の件数も増加の傾向というデータがある。しかも、急な体調変化による事故は95.8%が60km/h以下で起きているというから、高速域にだけ対応した運転支援技術ではここを救えないのである。
それを踏まえてコ・パイロット・コンセプトが特徴としているのは、まずドライバーを選ばないということ。基本的な運転能力を維持できていれば、誰もが恩恵にあずかることができる。また、モード切り替えなどは不要で常に動作する。そして高速道路など特定の状況だけでなく、一般道でも作動するというのもポイントである。こうして、居眠りや身体の異常に起因する事故を広い範囲でカバーしていこうというのだ。
マツダは現在、2022年からマツダ・コ・パイロット1.0を導入する予定である。そして、2025年以降にそれを進化版の2.0へと繋げていくという計画で開発を進めている。
まず1.0では、検知するのはドライバーの異常、あるいは居眠りで、そうした状態になった際に高速道路では車線を維持し、減速停止を行なう。そして路肩への退避までを視野に入れている。一般道では異常自動検知で減速停止、車線維持を。さらにドライバー異常時には自動緊急通報を行なうとともに、ハザード・ストップランプとホーンにより車外に報知を行ない、追突などの二次被害を防止する。
2.0の大きな違いは、まずドライバーの状態検知として異常が起きるより前から予兆検知を行なうということ。そしてその後、高速道路では必要ならば車線変更を行ないながら路肩、もしくは非常停車帯へとクルマを退避させる。また一般道においても、車線維持以上の退避の可能性を検討しているという。
実は今回、この2.0に相当する技術を広島県にあるマツダの三次テストコースにて実際に体験してきた。また、ドライバーの状態検知技術についても話を聞いてきたので、お伝えしたい。
2.0で注目なのは非常停車帯への退避
多数の追加カメラなどが搭載された「MAZDA3」がベースの試作車の運転席に乗り込み、まずは走り出す。そして同乗のエンジニア氏の指示に従って、居眠りをするかのように恐る恐る目を閉じ、上体を倒していくと………まずは本来なら警告が入り、それで目を覚まさなければ車両は停止に向かう。表示と警告音が鳴り響き、外部にもホーン、ハザード、そしてブレーキランプのハイフラッシュで異常事態であることを伝える。そして車線内を走行していき、最終的には高速道路、一般道問わず路肩もしくは非常停車帯にクルマを停止させると、緊急通報が行なわれる。その間、当たり前だがドライバーは何も操作はしていない。
異常検知も動作はほぼ同様である。ドライバーの姿勢が崩れると警告を発し、それでも気づかなければ最終的に安全な場所へと停止させる。
居眠り、異常の場合のいずれも、実際には上体が倒れたりする前からすでにクルマの側は予兆の検知を行なっている。運転操作、頭部の挙動、そして視線の特定箇所への偏りの有無などのパラメータから検知、判断するそのロジックは、コ・パイロット・コンセプトの最大の強みと言ってもいい。ステアリングコラム上に追加されたカメラは、このドライバー監視用である。
いずれの場合もクルマが停車した後までブレーキがかかり続け、ドアロックは解除され、車外から救助に入れるようになる。ただし、この時にシフトセレクターはDレンジに入ったままなので、クルマが動き出しそうで不安に。将来的には電気式セレクターになっている方がいいかもしれない。
ここまでならば他社にもすでにほぼ同様の機能がある。マツダ・コ・パイロット2.0で注目なのは非常停車帯への退避だ。車線上あるいは路肩で停止するのではなく、必要なら車線変更も行ないながら路外に退避するためには、当然ながら自動走行が必要になる。
試作車には、そのために市販車のセンサーに加えてカメラ12個、高精度地図、ロケーターECUが追加され、ECUもまだ試作段階のもので動いていた。単純に車線内を走行するだけなら現状搭載されたセンサーでもできなくはないが、車線変更を行なう場合などには、周辺状況のより確実な検知が必要になるため、ここまでのものが必要なのだという。
実際、この自動走行の質は非常に高い。エンジニア氏によれば、同乗者が不安を抱かないよう躍度を前後左右そろえた、要するに急のつく動作のない運転を実現しているという。このコース、相当タイトなコーナーが続く山岳路なのだが、安心して乗っていることができた。
この非常停車帯などへの退避は、車両がドライバーの居眠り、異常を検知した場合だけでなく、同乗者がドライバーの異常に気づき、緊急通報ボタンを押した際にも同じように機能する。そのためには同乗者にボタンの存在を知っておいてもらう必要があるが、万一の際には本当に役立つはずだ。
これらの機能をまとめれば、こういうことも可能になるかもしれない。ドライバーの異常を検知したか、あるいは同乗者がそれに気づいて緊急通報ボタンを押すと、通報により救急車がクルマの元に向かうわけだが、そこは場合によっては救急車が到着するまでに相当な時間を要する場所かもしれない。それならば、地図データなどからクルマと救急車、あるいは搬送先までを結ぶもっとも効率的な合流地点を導き出し、そこにクルマを向かわせることもできるだろう。そうなれば自車、他車の安全が保たれるだけでなく、ドライバーの一命を取り留める、症状を最小限に抑えられる可能性も拡大することになる。
緊急通報システムは多くのクルマに搭載されるようになってきているし、その際の自動停止機能も珍しいものではなくなってきた。その意味では一見、新しさは少ないように見えるコ・パイロット・コンセプトだが、実際にはあらゆるドライバーに寄り添い、乗員に優しく、事故を未然に防ぐことでクルマを取り巻く環境にも貢献し、何より走りの歓びをサポートするという、誠にマツダらしい技術に仕上がっていたと言えそうだ。