試乗レポート

次世代レクサスの幕開け、新型「NX」のプラグインハイブリッド「NX450h+」とハイブリッド「NX350h」を公道試乗

新型「NX」のプラグインハイブリッド「NX450h+」。レクサス初のPHEVとなる

7年ぶりのフルモデルチェンジで登場した新型「NX」

 先代のレクサス「NX」が発表されたのは2014年。大きくなった「RX」に購入を迷っていたユーザーにとっては日本市場ではちょうどよいサイズ感で、以来順調に販売を伸ばしてレクサスの稼ぎ頭になっていた。今回のフルモデルチェンジではすべてが一新され、レクサス初のPHEV(プラグインハイブリッド車)もラインアップに加わったことも話題だ。

 プラットフォームはRAV4と同じTNGAのGA-Kを採用しているが、もともとRAV4よりは大きいNXにも対応できるように余裕を待たせて計画されていた。これによってトヨタでは中床と呼ばれているGA-KプラットフォームはRAV4、NXとグローバルで非常に大きなボリュームを誇る。

 7年ぶりのフルモデルチェンジで、デザインはNXとすぐに分かるがルーフのトップポイントをCピラーの上に持ってくるなど、さらに躍動的なスタイルとなった。タイヤも四隅に張り出させておくことで、ネコ科の動物がまさにジャンプしようとする姿勢を連想させる。

新型「NX」を公道試乗した。レクサスのベストセラーモデルが7年ぶりにフルモデルチェンジ

 ボディサイズは少し大きくなっている。全幅は1845mmから1865mmへと20mm拡大され、トレッドはフロント35mm/リア55mm広げられ、デザイン上ボディ幅いっぱいにタイヤが配置されて、見た目にも安定感が増している。全長は4660mmでこちらも20mmプラス、全高は1660mmでほぼ同じ、ホイールベースは2690mmと30mm長くなっている。

 骨格はレクサス専用に開発され、初代から大幅に剛性アップが図られた。ステアリング支持剛性のアップ、アンダーボディの強化、環状構造のリアまわり、溶接点の入念な見直しで、ねじれを中心にボディ剛性は大幅に強化されている。一方で部材や工法を見直すことで軽量ボディに仕上げられている。

 公道での試乗は蓼科周辺の山岳路で行なった。4WDはPHEV「NX450h+」とHEV(ハイブリッド車)「NX350h」のE-Fourに加えて、新開発2.4リッターターボ「NX350」と「NX250」の電子制御フルタイムAWD、2WD(FF)は「NX350h」の5機種だ。インプレッションは電動化車両であるPHEV「NX450h+」、HEV「NX350h」と、コンベンショナルエンジンの「NX350」「NX250」に分け、本稿は「NX450h+」「NX350h」についてお届けする。

「NX450h+」、ボディサイズは4660×1865×1660mm(全長×全幅×全高[シャークフィン含む])と先代より少し大きくなっている
全長は先代に比べ20mm増だが、ホイールベースは2690mmと30mm増。タイヤが4隅に配置され、室内空間も広がった
235/50 R20の20インチランフラットタイヤを装備する
センターコンソールに14インチ大画面ディスプレイを装備する、新世代のレクサスデザイン
インサイドドアハンドルやアウトサイドドアハンドルは、メカ制御から電子制御に変更し、レクサス初の「eラッチ」採用

静粛性と乗り心地が好印象のPHEV「NX450h+」

 レクサス初となるPHEV「NX450h+」は、直列4気筒DOHC 2.5リッターのA25A-FXS型自然吸気エンジンとTHSIIのハイブリッドシステムで前輪を、E-Fourで後輪を駆動し、システム出力は227kW(309PS)。PHEV用の駆動バッテリは18.1kWh(51Ah×3.7V×96セル)のリチウムイオンバッテリを搭載する。

 エンジンはPHEV用に最適化し、出力を少し抑える代わりに低回転からトルクを出す設定となっている。車両重量は重いバッテリを積んでいるために2010kgと2tをわずかに超えているが、同クラスのPHEVに比べると軽量に仕上がっている。

最高出力136kW(185PS)/6000rpm、最大トルク228Nm(23.2kgmf)/3600-3700rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.5リッター(A25A-FXS型)エンジン。「NX450h+」はフロント高出力モーターやE-Fourと合わせ、システム最高出力は227kW(309PS)

 PHEVはEV走行モードでの航続距離が長く(WLTCで88km走行)、システムを始動してからエンジンがかかることはなく粛々と走り出す。静粛性は極めて高い。騒音源であるエンジンが始動しないだけではなく、システムからのノイズもレクサスらしく見事にカットされている。遮音はエンジンルームのパワーユニットだけでなく、外部の風切り音、タイヤが出すロードノイズに関しても配慮されており、さすがに静粛性を大切にするレクサスらしい。

 またパワーソースはEV走行モードがデフォルトとなり、ほぼエンジンを始動せずに走行を続けるが、センターコンソール上にあるAUTO EV/HVスイッチを押すと状況に応じたエンジンとモーター駆動の組み合わせとなる。こんな場面でも緩加速ではエンジン回転が上がらないようにモーターが走行をサポートして加速するために、EVとエンジン始動のつなぎ目に気付かない。

 強くアクセルを踏むと、車速の上昇とともにエンジン回転を上げる設定でリズミカルに加速する。これもエンジンノイズが気にならないようにするための配慮で、なかなか芸が細かく、PHEVはどこまでも静粛性が高い。

 静粛性とともに着目したのは乗り心地のよさだ。重いバッテリを低い位置に搭載し、ボディの上物を軽量化すること、そして前後の重量配分を適正に近づけたことで上下振動が前後バランスよく収まり、荒れた路面でのバネ上の動きがよく抑えられている。ドライバーも後席のゲストも大きな突き上げを感じることなく、ゆったりとくつろぐことができる。

 低重心はコーナーでの横揺れにも強い。ロールそのものが小さく、ロール速度も遅いので快適性は高い。乗り心地のよさは静粛性と並んでPHEV「NX450h+」のもう1つの特徴だ。

 ハンドリングはハンドルの切り始めから素直にノーズを変える。スポーツモデルのような俊敏さはないが、ジワリとグリップをかみしめるようにコーナリング姿勢に入るのは楽しくまた安心感がある。乗り心地同様に前後重量配分が優れている点でもスムーズなハンドリングを実現している。

 ハンドル応答性にはボディ剛性、特にリア剛性の影響が高いと言われるが、しっかりとリアがグリップしているため、スムーズにハンドルが反応する要因だ。長いコーナーも安定した姿勢で回ることができる。

 さすがに車重が重いため、速い操舵で切り返すようなときにはハンドルの反応が遅れるが、予想したよりも追従性ははるかによかった。

 ブレーキは重量に対応してローターの厚みに余裕を持たせており、キャパシティを増している。ブレーキ操作はハイブリッドらしく踏み始めのストロークコントロールが鈍いところがあるが、経験豊かなメーカーだけに違和感は少ない。

 ドライバーの操作に対するクルマの動きはスムーズで無理がなく、「NX450h+」の好感度は高い。

 このほかにも日々のドライバーの運転履歴や交通状況をナビゲーションと連動して、AUTO EV/HVモードとHVモード(駆動バッテリが少ないときにエンジン始動し、充電できるとEV走行となる)を切り替えて燃費に貢献する制御も備わっている。

「NX450h+」はボディ右側面に普通充電システムを備える
ラゲッジルームにAC100V/1500Wのアクセサリーコンセントを装備
「NX450h+」では、ボディ右側面に普通充電システムを使って、AC100V/1500WのAC外部給電も行なえる。写真は用品装着車で、キャンプなどに便利なほか、災害時の給電にも配慮されている
用品装着車では、各種エアロパーツが装備されていた。いずれもレクサスらしい、さりげないもの
SUVらしい力強さを表現したアルミホイール
こちらは専用キャリア。スーリー製のルーフボックスもディーラーで購入可能とのこと
レクサス純正のルーフキャリア。ルーフ荷重を考えると、ここは純正用品を使いたいところ
フルモデルチェンジ、新世代レクサスの幕開けということで、多くの開発者が試乗会に参加していた。先代からの進化点は膨大だ

2WDと4WDが用意される「NX350h」

ハイブリッドモデルの「NX350h“version L”」。写真は2WDモデルで、ボディカラーはマダーレッド。塗装品質に定評のあるレクサスの赤は鮮烈だ
チーフエンジニアの加藤武昭氏によると、新型NXはリアまわりのデザインがとくに美しいとのこと。フロントからの流れがリアドアで上下に広がり、リアまわりでスピンドル形状に絞り込まれていく。凝縮感を表現している

 一方、「NX450h+」より小容量の駆動用バッテリ(4.3Ah×3.7V×70セル)を搭載するストロングハイブリッドであるHEV「NX350h」も、もちろん用意されている。「NX350h」は、「NX450h+」と同じ2.5リッターのA25A-FXS型自然吸気エンジンと高出力モーターを組み合わせ、2WD(FF)モデルとE-Fourモデルを用意。エンジンの最高出力はNX450h+の136kW(185PS)から140kW(190PS)と高められているが、システム最高出力は179kW(243PS)と設定されている。始めにFFモデルから試乗した。

 バッテリは小型のリチウムイオンでTHS自体も進化している。緩加速ではアクセルの開度とともにエンジンが始動するが、エンジン回転が急に高回転に達することはなく、エンジン回転が先行するラバーバンドフィールは小さい。

 EV走行主体の「NX450h+」と違うのは、「NX350h」はあくまでエンジン主体ということ。それゆえにエンジンがひんぱんに始動し、静粛性に対してはちょっと不利だ。ただノイズ自体はよく遮音されており、静かなレクサスであることに変わりはない。

「NX450h+」と同じパワーユニットを搭載するが、「NX350h」では最高出力140kW(190PS)/6000rpm、最大トルク243Nm(24.8kgmf)/4300-4500rpmとエンジン出力が高められている。HEVはPHEVよりもエンジン主体で走るため

 また、アクセルワークに対するクルマの動きが少なく加速が滑らかなのも好印象。エキゾーストノートは少し大きいのがこのエンジンの特徴で、音圧自体はそれほど高くないもののチョッピリ損をしているようだ。

 乗り心地ではリアまわりが軽いためか、悪路ではピッチング傾向があり、少しリアサスペンションが強めに感じられた。この影響は操舵フィールにも影響を与えているようだが、滑らかな路面では軽快な走りで、「NX450h+」の重量感のある走りとは別の一面を見せた。

 一方可変ショックアブソーバーを持つ「NX350h“F SPORT”」のE-Fourでは、乗り心地はフラットで荒れた路面でもバネ上の動きはよく抑えられている。E-Fourによるリア荷重が大きいことも前後の動きを抑える方向になっている。ドライブモードをSPORT Sにすると引き締まった乗り心地になり、路面形状に反応しやすくなるものの、クルマ全体の上下バランスはよく取れている。またコーナリングではE-Fourのきめ細かい制御で4輪の接地感は高く、姿勢安定性も優れていた。

 PHEVの「NX450h+」、HEVの「NX350h」それぞれにメリットがあり、E-Four、FFでもキャラクターが異なっていたが、個人的にはレクサス初のPHEVである「NX450h+」の乗り心地と安定性に引かれる。生産も順調でRAV4で経験した納車待ちはほぼ解消される見込みと聞く。自治体によって額は異なるものの、PHEVでは利用可能な補助金を考慮すると、HEVとの価格差が一気に小さくなるのも魅力である。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛