試乗レポート

静粛性の向上したレクサス新型「LX」 オフロード性能に加えオンロード性能も大幅に進化していた

オフロード性能やオンロード性能の向上を実感できたレクサス新型「LX」

レクサスのトップ・オブ・ザ・SUV、新型「LX」

 レクサスのトップ・オブ・ザ・SUVである新型「LX」。今回、ラフロードを模したモーグルを、そしてワインディングロード想定のミニコースでハンドルを握ることができた。普通では走れないコースで、新型LXの一端を肌で感じられたのは貴重な体験をもたらした。

 ラフロードを模したモーグルにおける新旧LXの乗り比べでは、まずインストラクターの運転で要領を掴んでからハンドルを握る。とても最初から一人で行く気にはなれないほどモーグルは大きい。車高は一番高いHi2モードを選択して最低地上高をマックスにする。ギヤレンジはLo。マルチテレインセレクトは旧型ではモーグルを選択する。

 傾斜路で停止する。傾斜角度は23度ぐらいだろうか。シートベルトにぶら下がるような状態になっても、LXは安定して停車している。限界傾斜角度にはまだ余裕があり、慣れないと恐怖心が湧いてくる。

傾斜路での走行性能も高い新型LX

 続いて山のように大きなモーグルに挑む。最低地上高を上げたLXは腹をすることもなく、モーグルによじ登るようにして進入する。途中行き足が止まってスリップする。ここからギクシャクしながらもアクセルをグイと踏むと前進する。グリップする際に横揺れもある。システムを動かすアクチュエータも引っ切りなしに作動しているのが伝わってくる。

 次いで待っているのは鉄骨材で組んだ階段だ。階段上りは経験がなく怯む。見上げるような階段に乗り入れると空しか見えない。手探り状態で勘で走るしかなくなってしまうのも恐怖だ。

モーグル性能を確認

 従来モデルのLXも実力の高さを改めて体感したが、ランクル譲りの力技で乗り切る部分もあって、初心者にはLXの限界点が分からず躊躇してしまう場面がある。

 新しいLX600で同じコースにチャレンジする。新型LXでは、基本となるグレードのLX600、オフロード向けの機能が充実するLX600 “OFFROAD”、最上級グレードのLX600“EXECUTIVE”と3つのグレードに分化したが、今回ここで試乗したのはLX600 “OFFROAD”。

 フレーム付きで根っからのオフローダーのLXだが、オンロード性能も向上させたというコメントからオフロードとのトレードオフではないかと思ったがそれは杞憂に終わった。

 まず車高をHi2にする。車高が上がる速度が従来型LXとは大きく違う。2段階で前後ずつ上がる。このアクティブハイトコントロール(AHC)は車高を4段階で選択できる。従来型LXではユックリだったこともありハイモードまで持つ時間は意外と長く感じたが、新型では車高が上がる状態もつかみやすくて速くてありがたい。

車高調整性能の比較。左が新型LXで右が従来型のLX。車高調整は標準時
車高調整を最も高くした状態。左の新型LXのほうが素早く変更できる

 新型ではマルチテレインセレクトはAUTOを選ぶ。走行状態に応じて各輪の駆動力を変えるマルチテレインセレクトはAUTOのほかにDIRT、SAND、MUD、DEEP SNOW、ROCKも選べる。今回の設定ではAUTOで十分ということだろう。

 低速トルクのあるエンジンはクリープのままLX用に設定されたコースに挑む。ちょっとした突起を乗り越したときでもタイヤが路面の状況を伝えながら違和感なく進む。最初の傾斜地での停車も旧型同様にさりげなく止まっている。左右ウィンドウからを見える空と地面は、こんな所にいてもいいんだろうかと思わった。

 モーグルに進入する。デパーチャーアングルはHi2では27.4度と大きく、アゴを打つ心配はない。長くなったリアサスペンションのストロークは路面をしっかりつかむ。従来型では空転するタイミングが早く、一旦立ち止まって浮いたホイールのブレーキをつまみ、アクセルを踏むとグイと路面を蹴って走り出した。ちょっと勇気のいる瞬間だ。

 新型ではこれらの一連の動きが滑らかで、何事もなく通過してしまう。初めてモーグルに挑むドライバーでも、アクチュエータの音に恐怖心を感じないで走破できるだろう。そのアクチュエータ音は、従来型では大きく圧迫感があったが、新型では劇的に静かになった。レスポンスの速さは副次的な効果として駆動力の途切れが少ないために横揺れも少なかった。

 続いて階段に挑む。最高出力305kW(415PS)/5200rpm、最大トルク650Nm(66.3kgfm)/2000-3600rpmのV型6気筒3.5リッターのガソリンツインターボは、2000rpmで650Nmのトルクが出ており、極低回転でもクリープで階段を登っていく。

 アクセルを足すのは4輪が階段に踏み込んでからだ。従来型に比較するとショックは小さく一段一段歩くように登っていく。駆動輪が止まりそうになると間髪を入れずにシステムが作動するのでドタバタした感じがない。

 階段の頂点でクロールコントロールを作動させる。滑りやすい路面や超悪路で駆動輪とブレーキを自動でコントロールし、速度は1~5km/hで設定できる。ドライバーはハンドルに集中でき、初めてのクロールコントロールでも使いやすい。

 また段差乗り越えの際にハンドルに伝わるキックバックも、新型ではパワーの大きな電動パワーステアリングで抑えられており、ハンドルもある程度力を添えていれば、はじかれたりしない。ここも新型LXが洗練された大きなポイントでもある。

 実は新型には大きな武器がある。「マルチテレインモニター」だ。車両にある4つの周辺カメラの映像をセンターディスプレイに映し出すことでドライバーの死角を減らし、オフロードでも周囲の状況を把握しやすい。さらにアンダーフロアビューに切り替えると直前の映像を合成して床下を透過して見えるようにする。勘で走っていたところを可視化することで圧倒的に走りやすくなった。

 モニターの解像度も高くフロア下が見える安心感は圧倒的だ。前進だけでなく後退時にも映像を活用できる。今回の試乗でもマルチテレインモニターの有効性を確認できた。カメラがふさがれない限り有効だ。

 オフロード性能は進化し、しかもレクサスらしいスマートな悪路走破性と乗り心地に驚嘆した。

ミニコースでオンロード性能を体感

オンロードコースでも乗り比べてみた。左が新型LX、右が従来型のLX

 さて、もう一方のオンロード性能は最も新型LXに期待したいところだ。フレームタイプの車体は堅牢性、整備性、そして極悪路の走破性で有利だがオンロードではモノコックほどの一体感を出しにくい。従来のLXはオンロードではフレームボディらしい動きだった。オンロードでもオフ同様に従来型との比較試乗だ。

 試乗コースはフラットなミニサーキット。タイトコーナー中心でLXには少し小さいが、S字やストレートでの全開加速、そしてブレーキングを行なうシーンを体験できる。

 従来型のLX570は5.7リッターのV型8気筒自然吸気で277kW/534Nmの出力を出し、いつものLXらしいゆったりとした動きで走り出す。重量は約2.7tあり、さすがに最新の欧州勢SUVに比べると加速の伸びは穏やかだ。日常走行ではそれほど不自由ではないが、高速になってからの追い越し加速では鋭さがほしい。

 ハンドルの操舵力は好みがあるがLX570は重めで、スーと軽く切れる感じではない。高い静粛性はレクサスらしいが、ときおり駆動系からヒュルヒュルとしたノイズが入る。静かなキャビンだからこそ聞き取れるノイズだが気になる。左右にハンドルを切り返す場面ではロールは大きいながらもユッタリとしている。ただハンドル応答がワンテンポ遅れるところがフレーム車らしい。

 新型のLX600に乗り換える。ボンネットラインが従来型同様にスッキリ見え、1990mmの全幅ほどには大きさは感じない。アクセルは適度に重く速度をコントロールしやすい。ジワリと踏んでも反応が速く、オフロードで培ったノウハウはオンロードでも活かせる。重量級のLXでは重宝する性格だ。トルクバンドが広く、2000rpmですでに最大トルク650Nmを出す3.5リッターツインターボガソリンエンジンは2.6tの車体をグイグイと前に押し出す。

最大トルク650Nmのエンジンは、新型LXをグイグイと加速してくれる
最高出力305kW(415PS)/5200rpm、最大トルク650Nm(66.3kgfm)/2000-3600rpmのV型6気筒3.5リッターのガソリンツインターボ

 スーパースポーツのようにシートバックに背中を押し付けられるような加速ではないが、レクサスSUVらしい伸びやかな加速が続く。従来型と比べると低速からの加速がシャープになり、かつ中高速域加速も鋭くなっているので、パフォーマンスは大幅に上がっている。車体の軽量化とトルクバンドが分厚く、低速から高速回転まで出ていること、さらにトランスミッションが10速ATになりワイドレシオになったことが大きな要素だ。

 ハンドリングもフットワークがよくなった。キャビンは8ポイントでフレームと締結されているが、その締結点の接触面を広くするなどボディとの一体化を進めた結果だ。S字コーナーでもハンドルの切り返しに対してボディの揺り返しが小さく、応答性能が向上した。

 ホイールベース2850mm、全長5100mmの巨体がドライバーの操作に対して、大きな反応遅れがなくついてきており感心した。モノコックに近いフィーリングもあわせ持っていたのだ。コーナーではロールも大きいが、ライントレース性は格段に高い。特にハンドルの微小舵角で追従してくれるところがうれしい。早い操舵に対しては位相遅れがあるものものの一体感ははるかに強くなっている。

 サスペンション関係ではAHCを使った高バネ低バネとの切り替えと、よく吟味されたショックアブソーバーの減衰力が印象に強く残った。ちなみに装着タイヤはレクサス初となる22インチ。サイズは255/50 R22と大径だ。パターンノイズもよく抑え込まれており、ハンドリングでの車体とのマッチングも素晴らしい。

 公道試乗ができるようになったら高速クールージングで、ぜひフレーム車が弱い直進性などとともにタイヤとのマッチングをさらにチェックしたい。

 もう一つ特筆したいのはハンドルの操舵力だ。軽くて操舵力変化が小さくスマートに切れる。操舵量も従来型よりも小さい。容量の大きな電動パワーステアリングになってキックバックも小さく、少ない舵角で曲がれて運転も随分と楽になっている。

 ブレーキは大型ローターに大型キャリパーが付いているが、反復急ブレーキは遠慮しておいた。2.6tのボディは予想以上に制動力を持っていたが、ブレーキを踏み込んでからの反応が遅いので軽量車のような感覚では狙ったところで止まりにくい。

静粛性の高さはレクサスの美点。その静粛性にも磨きがかけられていた

 静粛性が高いのはレクサスのセールスポイントだが、LXは磨きがかけられて細かい雑音がカットされている。キャビンはこれまで以上に静かで快適だ。しかも後席も含めて乗り心地は素晴らしい。ゴツゴツした突き上げはよく吸収され、カットされた音と共に、どんな場面でも上質な空間となっている。

 新型LXは新しいプレミアムSUVの時代を感じさせた。レクサスファミリーとして威風堂々と、そしてフレーム車であること言い訳としない走り味、上質なキャビンはこれまでのSUVの概念から脱却していこうという強い意志が感じられた。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学