試乗レポート

メルセデス・マイバッハのフラグシップSUV「マイバッハ GLS」、これぞラグジュアリーの神髄! 走りも装備も超ゴージャスだ!

メルセデス・ベンツのモデルをラグジュアリーに仕立てるマイバッハ初のSUVモデルに乗った

 うはっ、顔すごッ。ボディ、でかッ!

 マイバッハの名前が付いた「GLS 600 4MATIC」を前にして、自然と口をついて出た言葉だ。

 しかし5210×2030×1840mm(全長×全幅×全高)というボディサイズは、実は標準モデルのGLSの5210×1955×1825mm(同)と大きく変わらない。そもそもGLSの絶対的な質量が、日本の環境に対して大き過ぎるのだ。街でこんなフルサイズSUVは滅多に走っていないから、見慣れないのである。なおかつフロントグリルはマイバッハ専用に、おごそかで貴族風なメッキトリムが施されているから、筆者のような庶民はすっかり気圧される。

試乗した「メルセデス・マイバッハ GLS 600 4MATIC」のボディサイズは5210×2030×1840mm(全長×全幅×全高、全幅はミラーを含めると2155mm)、ホイールベースは3135mm、車両重量は2840kg。価格は2915万円
パワートレーンはV型8気筒4.0リッターツインターボ「M177」型エンジンに、48V電気システムとISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を組み合わせたユニットを採用。エンジンは最高出力410kW(557PS)/6000-6500rpm、最大トルク730Nm/2500-5000rpmを発生。さらにISGのブーストモードにより瞬間的に16kW(22PS)と250Nmを上乗せできる

 だから編集部からこのマイバッハをあてがわれたとき、私は「選ぶ相手を間違っていますよ」と言った。敬愛する日下部さんが解説する方がずっとふさわしい。

 だがどうやら編集部の狙いもそこにあり、筆者が感じた庶民のギャップをして、メルセデス・マイバッハ GLS 600 4MATICのキャラクターや魅力、すごさを引き出そうというわけだった。なんともはや。

 その視点で言うとこのマイバッハ、笑えるほどに全てがセレブリティのために作られている。

シンプルなデザインでも大迫力のフロントグリル
メルセデス・マイバッハ専用23インチマルチスポーク鍛造アルミホイールを装着。タイヤはピレリ「P ZERO」で、サイズはフロントが285/40R23、リアが325/35R23
リアビューでは中央部にメッキの装飾パーツが追加されている
前後どちらのドアを開けても稼働するランニングボード。乗降しやすい大きさも文句なしだ

 ドアを開けた途端に、“スーッ”と出てくる巨大なランニングボード(その長さは206cm!)。車輪を着けたらそのまま滑り出せそうなほどパネルは大きくて、しかも後部座席側が乗降性を高めるために、幅広くなっている。

 ドアを開けば、汚したらめっちゃ怒られそうな真っ白いインテリア。ナッパ-レザーをまとったオットマン付きのリアシートがどーんと2脚あり、中央にはまたもや巨大なコンソールが備え付けられていた。

 GLSといえばそのサイズを生かした3列シートがセリングポイントだが、メルセデス・マイバッハではそのスペースを2列4人乗りで贅沢に使うというわけだ。ちなみに後席は3列仕様に対し120mmほど後方に配置されており、当然その分レッグスペースが広くなっている。

内装は標準はブラックのナッパレザーだが、試乗車はオプションのクリスタルホワイト/シルバーグレーになっていた。オプション価格は289万9000円。また、ハイグロスブラックフローイングラインピアノラッカーウッドインテリアトリムを装着(10万6000円)している

 シートは通常でもゆったりめの配置だが、これを傾けると最大43.5度までバックレストを寝かせることができる。

 極めつけはトランクまで貫通して、750mlのシャンパンボトルが3本入るクーラーボックスが備え付けられていること。このフタを開けるとシャンパングラスが現れて、ツメが付いたグラスホルダーにセットすれば、これがこぼれないようになっている。開けたボトルは保温機能付きのホルダーに立てかければOKだ。

 うはぁ。こりゃSUVのショーファー・ドリブンだ。

運転席と助手席もすべてがゴージャス
後席はゆったりと広いスペースが確保されている
ラゲッジスペースにはシャンパンを冷やすための冷蔵庫を搭載
ステアリングは本革巻が標準だが、オプションでウッドステアリングも用意される
アクセルペダルは吊り下げ式ではなくオルガン式を採用。ペダルにもマイバッハのロゴが入る
Burmesterハイエンド3Dサラウンドサウンドシステムを標準装備
スカッフプレートにも「MYBACH」のロゴがあしらわれている
クリスタルに輝くルームランプ
パノラミックスライディングルーフも標準装備となる

 1つ残念だったのは、これがBMWの「i7」を見た直後だったということ。オットマンに足を乗せ、寝そべりながら見る画面は、やっぱりフロントシートの背面に付けられた12.3インチよりも、31.3インチの巨大モニターの方がワクワクする。

 もっともこうしたオプションのアップデート合戦は、この先激化するだろう。間もなく発表される新型GLS、それに続くマイバッハ仕様がムービーシアター系を採用するかは興味深いところだ。

「自動車のレベルを超えたパーソナルな空間を実現するMBUXリアエンターテインメントシステム」と豪語するだけあって、もうゴージャスの度を越えていて笑うしかないです!
前席の後ろには12.3インチのディスプレイが備わり後席のエンタメを充実させている
センターコンソールには折りたたみ式のテーブルが格納されていて、必要に応じて出すことができる
センターコンソールには操作用の「MBUXリアタブレット」が備わり、前席のナビなどもコントロール可能
ワイヤレスヘッドフォンも2つ標準装備となる
試乗車はグラスを積んでいなかったが、シャンパンを冷やす冷蔵庫に加え、シャンパングラスを収納するシステムも完備する

 そんなリアシートの乗り味は、確かに素敵だった。限られた試乗時間ゆえにシャンパンを楽しむことも、マッサージ機能でうたた寝することもできなかったが、ハッチバック形状のSUVらしからぬ遮音性の高さや、23インチタイヤを優しく受け止めるエアサスの懐深さは、きちんと体感できた。またその高い着座位置がもたらす特別感と、パノラミックサンルーフがもたらす解放感がミックスした室内空間は、少し呆れてしまうほどにゴージャスだった。これを一度味わったら、セダンのショーファーには戻れないかもしれない。

 だが今回一番驚いたのは、こうしたハイエンドな作り込みではなく、実は走りのよさだった。その見た目に圧倒され、2915万円という価格に軽く緊張しながら走らせたメルセデス・マイバッハ GLS 600 4MATICはしかし、とっても走らせやすかった。そして心地良かったのである。

 搭載されるエンジンは、ガソリン時代のメルセデスを締め括る最強ユニット、4.0V8ツインターボ。その出力は558PS/730Nmと、メルセデスAMG版のGLS 63 4MATICに対して54PS/120Nmほど出力が抑えられているけれど、そこはさしたる問題じゃない。むしろVバンクの間に2つのタービンを挟み込む“ホットインサイドV”のリニアリティと、ISG(インテグレートジェネレータースターター:22PS/250Nm))の組み合わせが恐ろしく滑らかで、この巨体が軽々とゼロスタートを切る様子に惚れぼれする。9速ATのステップ制御も、クリームのように滑らか。これこそマイバッハを購入するようなユーザーのために考えられた、メルセデスのもてなし作法なのだろう。非常に贅沢なV8エンジンの使い方だと感じた。

 またこの超絶リニアな出足に対して、身のこなしもすこぶる軽やかだ。前述したエアサスと可変ダンパーのしなやかさに加え、後輪操舵がその制御を覚らせないまま、驚くほど小回りを利かせる。

 確かにその全幅は大きいのだが、高いアイポイントのおかげで見切りはよく、さらにハンドルがよく切れるものだから、大きなクルマを上手に走らせている気分になれる。そしてこれが、実に楽しい。

 高速巡航はノーマルモードだと、ステアリングセンター付近の感度がやや曖昧で、北米好みだと感じた。スポーツモードに転じれば電動パワステは座るが、パワーユニットも輪郭がシャープになってしまうから、こういうときはACCで直進安定性を高めてしまうのがいい。そのくらいこのクルマは、悠々と走るのが似合う。

 メルセデス・マイバッハ GLS 600 4MATICは、まるで踊れるプロレスラーのようだ。その見た目からは想像も付かないほどドライバーにフレンドリーで、決して単なるショーファー・ドリブンじゃない。

 だからもしアナタがこれを手に入れられるほどの立場にいるなら、「自分が運転手になってしまう」なんて思わず、ステアリングを握ってみて欲しい。これなきっと走らせても満足できるし、そのうえ最高の親孝行まで出来てしまうことだろう。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:堤晋一