試乗記

日産の新型「スカイライン NISMO」試乗 復活した赤のGTエンブレムにふさわしい走り

「スカイラインNISMO」がデビュー

スカイライン400Rとどう違う?

 1964年の第2回日本グランプリにおいて、たった1周ではあるがレーシングデザインを纏ったポルシェ904の前を走ったクルマがあった。それが4ドアセダンの「スカイラインGT」だ。S5系スカイラインはそもそも直列4気筒エンジンでの出発だったが、レースで勝つためにグロリア用の直列6気筒エンジンをノーズを伸ばして積み込むという突貫工事を敢行した。ベースモデルとなる100台限定のスカイラインGTはシングルキャブレター仕様だったが、レース車両は3連キャブレターに変更(後に市販車もGT-Bへ改名され3連キャブ仕様に)。それは羊の皮をかぶった狼と称され、スカイライン神話が後世まで伝えられたのだ。

 あれから間もなく60年。それを祝うかのように特別なスカイラインが登場する。「スカイライン400R」をベースにチューニングを行なった新型「スカイラインNISMO」がそれだ。限定1000台での販売となり、フロントフェンダーにはあの頃と同じようにGTバッヂが与えられている。S54の3連キャブ仕様であるGT-Bをオマージュとしたそのエンブレムは、赤く染められているポイントがあることが特徴的。これはハイパワー仕様の証だ。かつては3連キャブ仕様が赤、シングルキャブ仕様が青だったし、後にはターボが赤でNAが青、なんていう時代もあった。いずれにしてもGTエンブレムを赤く染めるには理由があり、それはもちろんベースとは違ってハイパワーであることをさりげなくアピールしている。

 スカイラインNISMOが搭載するVR30型エンジンは、歴代レース用エンジンを開発してきた経験者によって開発が行なわれ、GT-Rと同様の匠によってエンジンが組まれている。結果として400Rに比べてトルクで75Nmアップの550Nmを達成。出力は15PSアップの420PSを達成している。これはおそらく、最近発表となったフェアレディZ NISMOと同様となるのだろう。ATのシフトスケジュールもチューニングされ、キックダウンを頻繁に行なうことなくギヤをキープしたまま、引き上げられたビッグトルクによって走れるようにセットしたという。

今回試乗したのは2023年9月上旬に発売される「スカイライン NISMO」で、価格は788万400円(レカロ製スポーツシート+カーボン製フィニッシャー装着車は847万円)
より速く、気持ちよく、安心して走れる究極のGTカーを目指して開発されたスカイライン NISMOのボディサイズは4835×1820×1440mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2850mm
エクステリアでは前後バンパーとサイドシルカバーをスカイライン NISMO専用とし、補足鮮やかなレッドアクセント、NISMO専用フォグランプ、NISMOエンブレムなど新世代NISMOロードカー共通の要素を用いることでひと目でNISMOと分かるデザインを採用
GTエンブレムが復活。エンブレムのサイズについては社内でもさまざまな議論があったというが、現代のクルマのボディサイズに合わせてひと昔前よりサイズアップしたものとなる
NISMO専用のエンケイ製19インチアルミホイールに専用開発のダンロップ「SP SPORT MAXX GT600」(フロント245/40R19 98W、リア265/35R19 98W)の組み合わせ。ブレーキには対フェード性に優れる摩擦材を採用
スカイライン NISMO専用となるV型6気筒DOHC 3.0リッター直噴ターボ「VR30DDTT」型エンジンは最高出力309kW(420PS)/6400rpm、最大トルク550Nm(56.1kgfm)/2800-4400rpmを発生

 それに合わせてシャシー側も変更が与えられている。ベースモデルの400Rと圧倒的に違うのはタイヤである。400Rはフロント、リアともに245/40R19サイズだったが、NISMOではリアを265/35R19に引き上げている。さらにはランフラットタイヤだったものを、一般的なラジアルタイヤに変更。これによりタイヤはサイズアップしていても11%の軽量化を実現。銘柄はダンロップ「SP SPORT MAXX GT600」となる。足まわりはフロントのスプリングを78N/mmから82N/mmへレートアップ。リアは同様となるが、スタビライザーは20φから22φへと引き上げられている。ただし可変ダンパーのセッティング同様という。

 さらに変化を感じるのがやはりNISMOならではのエアロパーツの数々だろう。強烈なインパクトを与えてくれるフロントマスク、低さを際立たせるサイドスカート、そしてリアアンダーディフューザーやリアスポイラーには、全て飾りじゃなくダウンフォースを考えた機能が持たされている。結果としてCd値は0.28から0.27へ。Cl値は0.10から0.04へと性能向上しているようだ。ここまでの変更を行ないつつも車重は1760kgをキープ。MAT製法を用いたホイール、先述したタイヤ、そして分割可倒を廃止したリアシートを採用したことがその要因だ。

インテリアではスカイライン 400Rの質感はそのままに全体を黒基調で統一し、コクピットまわりにはレッドセンターマーク付きのNISMO専用本革巻きステアリング、280km/hスケールのスピードメーター、NISMOロゴを配したレッドリングタコメーターなどを採用
NISMO専用チューニングのレカロ製スポーツシートをオプション設定。レカロ製スポーツシート装着車では専用のリア固定式シートを装備

「より速く、気持ちよく、安定して」を最も体現できているモデル

 そんなスカイラインNISMOをノーマルモードでテストコースで走らせてみると、まずは豪快でトルクフルな加速に驚いた。さすがは550Nmである。ギヤをキープしたままグッと前に出る感覚は3.0リッターとは思えぬ加速感。試しにスタンディングスタートで0-100km/h加速を計測してみると、およそ5秒といったところだった(日産公式記録は5.2秒)。ホイールスピンはほとんどしないトラクション性能もなかなかだ。

 そして安定感が高くしなやかな乗り味に驚いた。ベースとなった400Rはキビキビとした応答性がおもしろいが、ランフラットタイヤならではの剛性が高すぎる感覚があり、突き上げ感が感じられるところが多く、限界域もやや線が細かった。スカイラインNISMOはそれとは真逆と言っていい。タイヤに適度なたわみがあり、しなやかさとコントロール性の高さが感じられる。さらに、リアのサイズアップでドッシリとした安定感が得られているのだ。もちろんそこには空力の向上もあるのだろう。スピードを高めても不安感がないその仕上がりは、大人なセダンといった感覚。明らかにロードホールディング方向のセッティングだ。後にリアシートにも座ってみたが、突き上げを感じることもなく、背もたれも倒れ気味ということもあってかなりリラックスした空間が広がっていた。

 だが、決して力の抜けたセダンではなく、スポーツもできる。スポーツプラスモードにすると足まわりやブレーキLSDの設定を引き締められるが、それにより狙ったラインをトレースしやすくなる。ガラス接着剤をGT-Rと同様のものにして、ボディを実質硬めたことも効いているのだろう。パイロンスラロームをこなしてみても、バランスよく駆け抜けていく。フロントバネとリアスタビのみの変更で可変ダンパーをそのままとしたことを心配したのだが、不足したようには感じない。

 聞けば可変ダンパーはGの大きさや操舵の速さなどを読んで、それに合わせて減衰力が変化していくが、タイヤ、バネ、リアスタビを変更し入力が変化すれば、それに応じて減衰力の出し方が変化し、対応可能だったからセッティングを変更する必要がなかったのだという。そもそもの振り幅の大きさがあったからこその芸当といえるだろう。ランフラットを廃止したことで、限界域のコントロール性に幅が出たようにも感じる。ブレーキLSDについてはストリート程度の入力であれば受け入れられるが、それ以上を求めるなら機械式へと変更した方が良さそう。タイトターンの立ち上がりでは、ややイン側が空転している状況があった。

 ステアバイワイヤについては好みが分かれるかもしれない。低速ではクイックで取り回しがしやすく、中高速になるとスタビリティ方向にギヤ比が変化していくそれは、シャフトがつながる従来のシステムとはややフィールが異なる。高速旋回時間が長くなるようなところではスローなギヤ比に感じるところが気になった。要はシャシーは余っているのに手でアンダーを出しているような感覚がある。小操舵角、中操舵角、大操舵角、操舵スピードによってギヤ比が変えられるところがいいという意見もあるらしいが、スポーツモデルならば全てリニア、もしくはスポーツプラスモードのみリニアとするような設定が欲しかった。細かな部分だが次の世代のステアバイワイヤにはそんな変化、さらにはフィードバックの濃さも増してほしい。

 けれどもロングドライブをこなすGTとして考えればこの仕立ても間違いじゃないのだろう。NISMOの理念は「より速く、気持ちよく、安定して」だと聞いたが、それをいま最も体現できているのはこのスカイラインNISMOで間違いない。これでもの足りなければNISMOではさらにチューニングパーツをラインアップしている。ここまで充実するなら……。もう一度、レースに出てみてはどうかと思うのは筆者だけだろうか? スカイライン神話をここで終わらせず、次の世代につながることを願っている。

以下は会場に展示されたスカイラインNISMO用NISMOパーツ。写真は鍛造軽量ホイール「LM GT4」のチューナーサイズで、カラーはマットガンブラックとブラックの2種類を用意(10月発売予定)
オーリンズ製をベースにNISMOオリジナルのチューニングを施した全長調整式サスペンション(9月発売予定)
クローズドサーキット走行を想定してスピードリミッター作動速度を変更した仕様のスポーツリセッティング「TYPE-1」(9月発売予定)
9月発売予定の「機械式L.S.D」。普段使いでは不快な作動音はなく、左右の回転差が生じたときなど、性能を発揮してほしいときにしっかり働くことを狙ったという
「スポーツチタンマフラー」(9月発売予定)。高純度チタン合金の採用による大幅な軽量化と耐久性、高品質な外観を実現。全回転域で軽快で心地よいサウンドを実現するという。フィニッシャー部はDLCコーティングを採用し、特徴的なブラック色とした
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛