試乗記

スズキの新型「スイフト」に試乗 走りも使いやすさも“スイフトらしく”進化

新型スイフト

妥協のない開発が行なわれた新型スイフト

 間もなく「スポーツ」が登場かと噂されている新型スイフト。けれども、その前にチェックしておきたいのはベーシックモデルである。そもそも先代スイフトは、スイフトスポーツがその人気を牽引してきた傾向にあり、結果として一般ユーザーからはちょっと敷居が高く見えてしまっていたというのが開発陣のリサーチ結果。そこを打破しようとしたのが新型スイフトのベーシックモデルの立ち位置だ。

 キャビンとボディが分かれて見えるフローティングルーフを採用した新型は、貝殻のようなボンネットデザインを採用するなど、一見してスポーティさばかりを追っていない斬新なルックスを採用することで、印象深くなるように仕立てている。さらにベルトラインをまっすぐ後ろまで通すことでガラスエリアを拡大。暗かったインテリアに多くの光を取り入れることに成功している。また、全長を15mmほど伸ばすことで立体的な造形も手に入れるなど、5ナンバー枠に収めながらもなかなか凝った造りにしていることが印象的だ。

試乗したのは新型スイフトの「HYBRID MZ」(2WD/CVT)。価格は216万7000円。ボディサイズは3860×1695×1500mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2450mm。最低地上高は120mmを確保し、車両重量は950kgと1tをきっている。最小回転半径は4.8m
リムからセンターに向かって長い線を使うことで強い印象を与えるデザインを採用した16インチホイール(切削加工&ブラック塗装)。組み合わせるタイヤはブリヂストン「エコピア EP150」で、サイズは185/55R16 83V

 新型のプラットフォームは先代のキャリーオーバーとなり、ホイールベース、トレッド、タイヤの位置は同様だ。けれども足まわりは変更を与え、フロントスタビライザーは中空から中実に。バネダンパーはもちろん、バンプストッパーを長く、たわみやすくするなどのチューニングを行ない、さらにサスペンションメンバーにも手を入れて剛性アップやストロークアップを図っている。また、ボディ下面アンダーカバーをかなりの面積に与え、ボディ上面の空気の流れもスムーズにすることで、空気抵抗を4.6%も低減。ボディ結合部には減衰性を持たせた接着剤を塗布したほか、ダッシュパネルの板圧アップを行なうなどの対策もとられている。

 エンジンは4気筒だったものを3気筒にしたことが最大の違いと言っていいかもしれない。新開発となるZ12E型エンジンは、熱効率を究極まで高めることを狙った結果、行き着いたものだ。従来あったデュアルジェットインジェクターはシングルへ。シリンダーヘッドはバルブ挟み角を最適化し、ピストン冠面形状を最適化することでタンブル流を強化。異常燃焼対策に有効な電動ウォーターポンプも装備している。試乗車は環境性能を考えてマイルドハイブリッドを搭載。WLTCモード燃費は24.5km/Lをマークしている。車重は950kg。CVTにも改良を行ない1.9kg軽くしたという地道な努力が好燃費につながっているのだろう。

最高出力60kW(82PS)/5700rpm、最大トルク108Nm(11kgfm)/4500rpmを発生する直列3気筒DOHC 1.2リッターZ12E型エンジンに加え、最高出力2.3kW(3.1PS)/1100rpm、最大トルク60Nm(6.1kgfm)/100rpmを発生するWA06Dモーターを組み合わせるマイルドハイブリッドを搭載。トランスミッションにはCVTを採用し、WLTCモード燃費は24.5km/Lを記録。なお、HYBRID MXにはMTも設定される
橋本洋平が新型スイフトに試乗

スイフトらしい走りに加え、日常の使いやすさへのこだわりも

 ドライバーズシートに収まると、ベーシックモデルにも関わらずコクピット感が強いようにも感じる。それはスイッチ類がかなりドライバーに向いているからだろう。右側のスタータースイッチ側はドライバー側に3度、エアコンやオーディオスイッチが備わる左側はドライバー側に8度(先代は5度)傾けてあるからだ。これは直感でかなり使いやすく、スターターのスイッチは目視できて即座に押しやすいし、従来はパネルが奥まで傾斜した先にハザードスイッチが備わっていたことも改められ、いざという時のスイッチの押しやすさにもこだわっているようだ。当たり前のことをとことん追求して日常に溶け込む扱いやすさは好感触。さらに、スズキ小型車初となる電動パーキングブレーキもようやく装着された。これにより信号待ちにおいてブレーキホールドが可能となり、さらなるイージードライブが可能となったこともうれしいポイントだ。さらには「扉が開いています」などの注意喚起を音声で行なってくれるところも分かりやすい。クルマにあまりなじみがない人にもなかなかフレンドリーだ。

運転のしやすさを追求し、スイッチやオーディオなどをドライバー側に傾けた新型スイフトのインパネ
HYBRID MZにはスズキの小型車として初めて電動パーキングブレーキ(EPB)を採用。ブレーキホールドも備わる
オーディオ位置を先代スイフトよりも140mm高く配置して見やすさを改善。オプションの全方位モニター付き9インチメモリーナビゲーション(スズキコネクト対応通信機装着車)はドライバーモニタリング機能にも対応し、ナビゲーションパネル右上にセンサーが配置される
9インチメモリーナビゲーションはCD/DVDにも対応
シート表皮は立体的な三角形柄。フロントのヘッドレストは高さと厚みを先代スイフトから約10mmアップさせている
運転席側にだけアームレストを備える

 走ればやっぱり扱いやすい。5ナンバーサイズを守ったとはいえ、全長は15mm拡大しているのだが、最小回転半径は変わらずの4.8mを実現。おかげでパーキングにおける取り回しは相変わらずだ。エンジンは3気筒に変更となり振動や音がどうかと心配したが、トルクコンバーターに先代より低剛性化したダンパーを採用。エンジンからの回転変動を効果的に吸収しているらしく、不快感のないスムーズな動きが好感触。実用域のトルクも十分であり、そこから高速道路までフラットなトルクでスピードを重ねていく。ベーシックモデルとしては必要十分以上と言っていい仕上がりだ。

 シャシーはスポーツ感をあまり出したくなかったという割にはきちんと引き締められた感覚にあふれ、たとえ高速道路のジャンクションであったとしてもフラットに駆け抜けて行くほど。ADASが与えられ容量を引き上げられたパワーステアリングは、リニアですっきりとしたフィーリングも得られている。こうして走りに振っている感覚もあるのだが、だからといって街乗りにおける不快感はなく、うまく突き上げや微振動を収めているところはなかなかのバランスだ。硬質ではあるが一発で入力を収めるマナーのよさは、単なるベーシックモデルではない、やはり走りにこだわるスイフトらしさが出ているように感じる。

 ここまで仕上がっているのなら、やはりスイフトスポーツが気になるところ。一部では「現行型で終わるのでは?」なんて話があるらしいが、新型のレベルの高い走りを目の当たりにしてしまうと、さらに先が見たくなってくるのだった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学