試乗記

新型「アウトランダーPHEV」で雪上試乗! 約2.2tの重量級モデルはどう動く?

ビッグマイナーチェンジした新型「アウトランダーPHEV」で雪上試乗

ソフトウェアだけでなくハード面も改良された新型アウトランダーPHEV

 2024年10月にビッグマイナーチェンジを行なった「アウトランダーPHEV」には袖ケ浦フォレストレースウェイ、一般公道で試乗してきた。いよいよ三菱自動車の本領を発揮できる雪道での走破性を試せる機会がやってきた。

 今年はどの降雪地帯でも雪が少ないが北海道でも同様。札幌雪祭りも雪に苦労していると聞く。三菱自動車が準備してくれたのは新千歳空港近くにある新千歳モーターランド。カートコースに併設されたグラベルコースだ。

 比較的フラットで低速と中速のコーナーが設定されている。コースは基本的にスノーだが、場所よってはアイスバーンとなるトリッキーなレイアウトだ。多くの試乗車が走るのでアイスバーンの領域は徐々に減っていく。装着タイヤはブリヂストン「ブリザック DM-V2」(255/45R20)で、SUV用のスタッドレスタイヤだ。

 アウトランダーPHEVは、ドライブモードで路面に合わせた前後駆動力配分やヨーコントロール(AYC)=独立ブレーキ制御を変更できる。三菱自動車の4WDといえば悪路になるほど実力を発揮する。

 特にビッグマイナーチェンジ以降、フロントショックアブソーバ―の底付き感を抑えアームの剛性を上げ、合わせてリアショックアブソーバーの減衰力とバネレートが変更されていて、電子制御のソフトウェアだけでなくハード面も改良されている。姿勢変化の素直さはコーナーでのライントレース性や高速の直進時にも表れていた。

今回試乗したのは2024年10月31日に発売された「アウトランダーPHEV」大幅改良モデル。ボディサイズは4720×1860×1750mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2705mm
試乗車はSUV用のスタッドレスタイヤであるブリヂストン「ブリザック DM-V2」(255/45R20)を装着
直列4気筒DOHC 2.4リッター「4B12(MIVEC)」型エンジンは最高出力98kW/5000rpm、最大トルク195Nm/4300rpmを発生。フロントモーターは最高出力85kW/最大トルク255Nm、リアモータは最高出力100kW/最大トルク195Nmを発生

電子制御の恩恵を最大限に活かして走らせられるアウトランダーPHEV

雪上での走行性能をチェック

 さて、自分がトライしたのはドライブモードNORMALでのASC(姿勢制御装置)がONとOFF、それにSNOWでのASCをOFFにした場合の挙動だ。これに加えてグラベルやターマックも試してみたかったが時間切れ。同じ車両をドライブした橋本洋平さんが一部レポートされると思う。

 基本的にはNORMALはオールマイティモードで、どんな路面にも85点以上のトラクション性能を発揮する。しかしドライブモードでそれぞれ専門性の高いモードを選ぶと、さらにドライバーを助けてくれる制御が入る。

ダイヤル式のドライブモードではPOWER、ECO、NORMAL、TARMAC、GRAVEL、SNOW、MUDから選択可能

 ノーマル+ASC ONはアイスバーンから雪まで安定した姿勢でドライブできる。発進ではわずかなスリップですぐに効率のよい駆動力を発揮する。雪のコーナーでも約2.2tの重量級の車体はステアリング操舵に応じてスイとノーズを向ける。サスペンションとAYCの効果で応答性は素直だ。

 さらに後輪がすべり出すとASCが横滑りを抑えてトラクションも掛からなくなり制御で安定性方向に働く。感覚的にはリアをもう少しすべらした方が乗りやすいが、姿勢安定性という点では十分すぎる制御だと思う。すべり始めると間髪入れずにリアを抑えるために安定感は抜群だ。

 ASCをOFFにすると駆動力制御が入らなくなりアクセルコントロールが必要になるが、さすがに100kWという大出力のリアモーターはすぐに横に流れようとする。しかしアクセルコントロールを繊細に扱わないと横滑り量が多くなる。微妙な操作にモーターが正確に反応するところが電動車らしい。慣れてしまうと運転はよりおもしろくなるが、やはりASCはONのまま使うのがベターだ。

 前後駆動力配分はNORMALでは50:50が基本で、直進時にはこれは変わらず、コーナーに入るとその場に応じた適切な駆動力配分になり、後輪の駆動力を上げる方向になる。NORMALモード以外では直進時でも駆動力を常に可変させることで路面にあった駆動力を選んでいる。

ドライブモードNORMALでのASC ON/OFF、SNOWでのASC OFFの挙動をたしかめた

 SNOWモードの特徴は出力を抑えるだけでなく、もっとも苦手な応答性を早くしたことだ。NORMALモードではステアリングの切り初めでわずかな不感帯を設けており、高速道路の直進時での保舵の軽減に効果がある。操舵力も微妙に軽くなっているが、この不感帯のために直進時に余分な動きが抑えられている。

 SNOWモードではステアリング応答性が早くなる。フロントの独立ブレーキ制御が早く効き、すべりやすい道でも向きを変えるのが早いのが特徴だ。ASCをONにするとリアの横滑りを抑え、効率のよい駆動力を得られるために理論上はライントレースが上がり、極端に言えばアクセルを踏んでもASCとAYC出力制御で旋回力が高くなるはずだが、試すには道幅に十分なマージンがほしい。躊躇しているウチに残念ながら時間切れとなった。

 しかしいずれにしてもどんな速度でも曲がれるわけではなく、タイヤのグリップ限界以上のことはできない。コーナーでの雪から氷に変化した路面ではアクセルオフでハンドルを切り込むのがよさそうだ。

 もう1つ、マイチェン前モデルより向上した轍の乗り越し性のよさがドライバーに優しい。NORMALモードでも体感できるので、峠の山道にできやすいコーナーの轍に不安を感じることは少なくなるだろう。

新型アウトランダーPHEVでは轍の乗り越し性のよさを感じた

 ちなみに重量配分は58:42ぐらいでフロントヘビーだが、2名乗車で55:45になり、三菱自動車の考える4WDの理想重量配分に近づくという。またマイチェン後は容量が大きくなったバッテリのために車高が5mm上がり、ドライバーのアクセル、ブレーキ操作での荷重移動がさせやすくなったとの説明があったが、確かにロール姿勢変化は少ないわりに荷重移動はしやすかったように思う。

 NORMALとSNOWモードのほかにリア駆動力が大きくなり回頭性を重視したTARMAC、駆動力重視のGRAVEL、泥濘でも走破できるようトラクション制御をコントロールするMUD、瞬間的にパワーを出すPOWER、省電力とアクセルのゲインを緩めたECOがあり、それぞれの路面で最適解が得られる設定になっている。ドライバーの好みで雪でもトラクションの強いGRAVELモードを選択できるなど、場所と安全が許せばドライバーが遊べるのも楽しい。いずれにしても、電子制御の恩恵を最大限に活かして走らせられるのがアウトランダーPHEVの魅力だろう。

 気になるのはABS。急減速で作動しているのが振動で分かるが、伝わってくるフィードバックを抑えてあるのかあまり伝わってこない。ABSが効くのは緊急時。速くて重いクルマだけにもう少し分かりやすくした方がよいと感じた。

雪上での性能を存分に体感できた
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学