インプレッション

トヨタ「クラウン」

 日本を見つめ、常に日本人が喜ぶようにと開発されてきたトヨタ自動車「クラウン」が登場したのは1955年のことだ。国内メーカーの多くは海外との提携に活路を見出す中、クラウンは日本人の頭と腕で世界一のクルマを造る道を選んだのだそうだ。メイドインジャパン、そして日本人のために常に革新的な装備を提供して行こうという精神があったからこそ、“いつかはクラウン”というキャッチフレーズさえ登場することになったのだろう。

日本市場に目を向けてきたクラウン

 いま高級車の多くは海外市場に向いたものが多い。欧州勢と肩を並べるため、そして数が見込める北米市場の確保など、多くの理由があるからだ。それ故に大きくなりすぎて日本では使いにくかったり、高級を求めるあまり車両価格が高くなりすぎたりと、日本市場には適していないクルマも数多く見られる。だが、トヨタの場合は違う。その分野をレクサスに任せることで、トヨタブランドのクラウンは日本だけを見つめることができているのだ。

 昨年の12月25日にフルモデルチェンジを果たした14代目となる今回のクラウンも、その姿勢は変わらない。トヨタのフラッグシップにも関わらず、全幅を1800mm(先代比+5mm)に抑え、日本での使い勝手をきちんと残したことはその代表例。全長についても25mm延長されているが、それはラゲッジスペースの拡大に繋がっている。後述するハイブリッドモデルでもゴルフバッグを4つ積めるそうだ。これなら4人でゴルフにも行ける。ニッポンのお父さんのためには重要なことだ。

 そのハイブリッドモデルは、なんとエンジン本体がV型6気筒から直列4気筒エンジンになったことがトピック。これにより、従来よりも価格を大幅に抑えながら、燃費を23.2km/Lへと向上させていることがメリットになりそうだ。ちなみに1月15日時点での販売データはシリーズ全体で1万9000台が売れ、そのうちの65%がハイブリッドモデルと言う。

 今回はそのハイブリッドモデルについては公道試乗がなく、試乗会が開催された富士スピードウェイの構内を走るのみだったが、そこで感じられたことはゆっくり走るくらいでは4気筒でも十分だということだった。もちろん、アクセルを踏み込めば4気筒エンジンがうなり、V6エンジンのようなシルキーさを味わうことはできない。ただ、静粛性はまずまずだし、ハイブリッドで走る限りはエンジンがうなることもない。日常的な使い方なら高級車でも4気筒+ハイブリッドはアリだと思えた。詳細については後日公道を走ってからゆっくりとお伝えしたい。

2013年末の発売を予定している特別色のピンクカラーのクラウン アスリート。ボディーサイズは4895×1800×1450mm(全長×全幅×全高)で、ロイヤルの全高は10mm高い1460mmとなる
シルバーメタリックのロイヤルサルーン。ホイールサイズは16インチ(タイヤサイズ:215/60 R16)

グレード別で明確にキャラクター分け

試乗したアスリートG(ブラック)。パワートレーンはV型6気筒DOHC 3.5リッターエンジンと8速ATを組み合わせ、エンジンの最高出力は232kW(315PS)/6400rpm、最大トルクは377Nm(38.4kgm)4800rpm。3.5リッターエンジンはアスリートのみの設定

 一方のV6ガソリンエンジンは2.5リッターと3.5リッターを用意。グレード展開は先代同様、コンフォート系のロイヤル、そしてスポーティさを目指したアスリートという2本立てとなるが、3.5リッターエンジンはアスリート専用となる。この3.5リッターエンジンにはトヨタとして初となる8速ATが与えられると同時に、パドルシフトを装備している。

 シャシーについては先代のキャリーオーバーとなる。だが、走りを進化させようという意気込みは強く、各部にこだわりが隠されている。目指すところは、アスリートはよりスポーティに、ロイヤルはよりコンフォートに、ということだ。実は先代モデルではロイヤルでもスポーティな仕上がりをしており、ユーザーから違いが分かりにくいという指摘があったそうだ。グレード別の明確なキャラクター分けが求められている。

 その違いを一見しただけでも理解できるのは全高の違い。ロイヤルでも先代に比べて10mm下げられているが、アスリートは従来よりも20mmもの車高ダウンを果たしているのだ。もちろん、ともに備えるアッパーグリルとロアグリルの違いも強烈なインパクトとなるが、アスリートが伝えてくる低く構えた佇まいは、明らかに走りを意識したものだと感じさせてくれる。

 その姿勢はステアリングギア比にも表れている。今回はロイヤル、アスリートともにクイックな方向へと改められたそうだ。ステアリング1回転に対するタイロットのストローク量を表す数値を示すと、ロイヤルは46→50mm/rev、アスリートは50→54mm/revになるとのこと。つまりロイヤルは先代アスリート並みに、アスリートは未知のシャープさを実現しているということなのだろう。

 ここまでクイックな方向にできた理由は、サスペンション自体の煮詰めが行われたからだ。タイロッドエンドやサスペンションアーム、そしてトーコントロールアームの形状を変更することで、従来よりも入力をいなすことができるようになったそうだ。

 具体的には、タイロッドエンドは旋回時のトー変化特性をトーアウト方向に変位させることで安定性を確保。操舵に対する穏やかな車両挙動を実現したと言う。また、リアサスペンションに供えられた開断面構造のサスペンションアームは、ねじり方向のみの剛性をおよそ95%ダウンさせている。これにより路面から伝わる振動を適度に吸収する特性を与えているとのこと。これまで剛性を高めることばかりがクローズアップされてきたが、逆にダウンさせることでよい方向性を模索したところは面白い。実はコレ、輸入車の一部車種では昔から行われていた手法なのだとか。研究に研究を重ねてようやく世に送り出せた逸品らしい。

足まわりの熟成化が図られた新型クラウンのサスペンションまわり。リアサスペンションには開断面構造のサスペンションアーム(赤く塗装されている個所)を採用。ねじり方向のみ剛性を下げ、路面から伝わる振動を適度に吸収する特性とした

日本人のさまざまな欲求を満たしてくれる

プレシャスシルバーのロイヤルサルーンG。パワートレーンはV型6気筒DOHC 2.5リッターエンジンと6速ATの組み合わせで、エンジンの最高出力は149kW(203PS)/6400rpm、最大トルクは243Nm(24.8kgm)4800rpm

 こうして見た目から走りまですべてを洗練した新型クラウン。まずはロイヤルから試乗を開始してみる。すると、ドライバーズシートに収まって感じることは、空調などをコントロールできる見慣れないトヨタマルチオペレーションタッチが異彩を放っているということだった。個人的にはなんでもかんでもタッチパネルにしてしまうことはどうかとも思うが、クラウンは常に革新を目指しているから仕方なしか? 目新しさがあることは紛れもない事実だ。

 それよりも感心したことは、低重心さを得られるドライビングポジションだった。ヒップポイントを従来よりも10mm下げ、ステアリング角度やペダル断面角も変更したというそこは、座っただけでクルマとの一体感が得られる。これだけでも十分スポーティに感じる。

 走り始めてみると、ロイヤルはかなりしなやかに走ってくれる。路面の凹凸を見事に吸収しながらサラリと走るその感覚は、「これぞクラウン!」とホッとしてしまうほど。長年継承してきた走り味が確実に展開されていると感じる。クイックさが増したというステアリングにいやみはなく、リニアさが際立つといったところが好感触だった。2.5リッターエンジンも低速トルクこそやや薄いように感じるが、なめらかに吹け上がる感覚はなかなかだ。

ロイヤルでは長年継承してきた走り味が確実に展開されていると感じた

 対極に位置する3.5リッターのアスリートは、とにかくパワフルかつシャープ。低速からグッと蹴り出すトルク感は2.5リッターよりもかなり力強いし、高回転まで爽快に吹け上がるところは心地いい。ハイブリッドを味わった後だと、この滑らかさがかなり魅力的に映る。これぞ高級車という仕上がりである。

 シャシーについてはかなり引き締められたイメージ。突き上げこそ抑えられているが、ハードに感じる人もいるだろう。安定感は抜群だ。また、ステアリングはかなりクイック。常に丁寧に操作する必要性を感じるほどだ。個人的な好みから言えばもう少し穏やかであってもよいと思う部分があるが、アスリートならではのシャープさを出すには必要だったということなのだろう。

これぞ高級車という仕上がりのアスリート。両グレードとも、空調などのコントロールが行えるトヨタマルチオペレーションタッチが採用された

 ロイヤルとアスリート、そしてV6エンジンと直4+ハイブリッドという組み合わせを展開する新型クラウンは、性格付けを明確にしたことが印象的な1台だった。これなら日本人のさまざまな欲求を満たすことができるだろう。この贅沢なグレード展開、これぞ新型クラウンの魅力といっていいだろう。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。