インプレッション

MINI「ジョン・クーパー・ワークス」

6速ATモデルと「ジョン・クーパー・ワークス GP」

 MINIブランドは日本でもすっかり定着して、コンパクトセグメントに大きな一石を投じている。ちなみに2012年のミニの販売台数は約1万6000台と言うから、24万台の日本の輸入車市場では大きな勢力だ。

 そして、これだけの台数を販売するのだからMINIには多くのバリエーションがあり、2012年に投入された「クロスオーバー」もファミリー層に受け入れられて、順調にMINIファミリーは成長している。

MINIファミリーのトップアスリート

 そのMINIファミリーの中でも“スポーツマン”が「クーパー」、そしてさらに“トップアスリート”が「ジョン・クーパー・ワークス」(JCW)だ。

 そもそもクラシックMiniの開発者、アレック・イシゴニスと当時の著名なチューナー、ジョン・クーパーが盟友だったことから、Miniにスポーツモデル「クーパー」が誕生した。BMWのブランドとなった現在もその伝統は受け継がれ、JCWがラインアップに加えられたことで、さらに強力な布陣となった。

 そのJCWは、従来はMTのみの設定だったが、大きなマイナーチェンジと共にATも投入された。

 最もアグレッシブな変更はエンジンだ。パフォーマンスだけではCO2削減が時代の趨勢の中にあって、JCWも直噴として、さらに可変バルブリフト機構「バルブトロニック」を搭載し、出力はそのままに燃費向上を図ることができた。

 おさらいしておくと、エンジンは1.6リッター直噴ターボで最高出力は211PS/6000rpm、低速回転からトルクを出し、1850-5600rpmで260Nmのトルクを、オーバーブースト時には280Nmを発生する。ちなみにJC08モード燃費は13㎞/Lとなる。

 車両重量はAT仕様で1230㎏なので、パワー・ウェイト・レシオは5.83㎏/PS。MINIのトップモデルらしい値だ。このパワー・ウェイト・レシオにホイールベース2465㎜と聞くと凄いじゃじゃ馬を想像するが、これが意外と御しやすい。その顛末は袖ヶ浦スピードウェイで知ることができた。

ATでもマニュアルシフトが面白い

 当日の袖ヶ浦は溶けた雪がコースの一部を流れるウェットコンディションだったが、JCWは水を得た魚のように快走した。

 最初にハンドルを握ったのはハッチバック。トランスミッションは6速トルコンATだ。タイヤは205/45 R17のコンチネンタル「スポーツコンタクト3」になる。

 ドライビングポジションはヒップポイントが高そうなイメージだが、実はそうでもない。ヘッドクリアランスに余裕があるので、かなり大きなドライバーでも無理のない自然なポジションを取れる。このポジションは実はMINIの隠れた美点の1つでもある。インテリアの質感はプレミアム・コンパクトらしい楽しい雰囲気に満ちており、MINI特有の大きなセンターメーターに正面のタコメーターが目に飛びこんでくる。

 イグニッションスイッチを押してスタートさせると、エンジンは硬質な回転フィールで始動するが、いかにもBMWらしい味だ。

 ターボ過給エンジンはごく低回転のレスポンスがわるくなることがあるが、JCWでもほんの僅かにラグはあるものの、ほとんど気にならない。回転を上げるとツインスクロールターボはたちまち過給を開始し、ちょっと回転が上がれば太いトルクバンドに心躍り、そのまま中速回転から高回転まで力強く、かつ滑らかなエンジンフィールは日常から、サーキットまでこなすJCWのフレキシビリティを感じさせる。

 ターボの爆発的に上がる二乗的な加速はよくコントロールされており、太いトルクバンドが扱いやすく、どの回転からでもレスポンスに優れているので、パワーを制御するのは、最初じゃじゃ馬を想像していただけに非常に楽しい。

 トランスミッションは6速ATで、シフトパドルも備わっている。サーキットをATで走るときはDレンジを使用することが多く、たまにしかマニュアルシフトは使わないが、今日は両方トライしてみる。横滑り防止装置のDSCはONのままだ。これがマニュアルシフトだとレッドゾーンに飛び込む6000rpmを超えるところまで回すことができるが、低速ギアだと自動シフトアップする。

 DSC ONの場合は適度にシステムが介入してくれるので、タックインを使っても適度にリアが流れる姿勢まで持っていけるが、トラクションコントロールが作動して、マニュアルでシフトダウンしないと次の加速姿勢に這入れない。非日常のサーキットではマニュアルシフトが面白い。

 それにしてもDSCの介入は絶妙で、タイトコーナーの一部を除いては優れもので頼りになる。

 ハンドリング面ではロールはよく抑えられている。かと言ってフロントスタビライザーが効きすぎている気配はなく、前後とも綺麗なロールバランスを保ってコーナーを抜けて行く。リアのブレークも、DSCとセットで考えると非常にスマートで乗りやすい。ピッチングも少なく、姿勢変化は少ないのが頼もしい。

 さらに感心するのはステアリング剛性の高さで、応答性に優れており、しっかりとした手ごたえが頼もしい。しかも過敏とは感じられないのが素晴らしい。

 高速ベンドも高いグリップ力を保ってコーナリングできるが、ウェット路面などへの変化ではさすがに横っ飛びする。それでも路面からのインフォメーションはあるので、ヒヤリとする場面は経験しなかった。

 試しにDSCをカットしてみたが、ウェットのヘアピンでは、ドライビングの仕方によってはドリフトマシンになってしまった。しかしFFの特性を活かしてアクセルをコントロールして踏み込めば、そのままカウンターステアを当てたままヘアピンをクリアした。面白い挙動だが、サーキットのようにフルに振り回せる場所以外ではお勧めできない。

 乗り心地は、サーキットではよく分からないのが正直なところ。しかし縁石などを通過したケースでのリアサスの収束の仕方を見ると、リアから跳ね上げられるようなハーシュネスは強くないと推察される。今度は一般路で試してみたいものだ。

より“ドライビングマシン”のクーペ

 ハッチバックのJCWを楽しんだ後、JCWクーペに乗り換えた。こちらはホイールベースはハッチバックと共通の2465㎜だが、2シーターとなっており、リアには書類バッグが乗せられる程度のスペースがある。全長は3745㎜と変わらず、トランクスルーが備わっているので、ある程度長いものでも収納することは可能だが、クーペというボディ形状のために、嵩張る物を積むには限界がある。クーペはドライビングを楽しむためのものと割り切ったほうがよいだろう。

 クーペの全高は1380㎜とハッチバックに比べると50㎜低い。またAピラーもかなり寝かされており、コックピットにはもぐりこむ感覚かと思ったが、それほどでもなかった。比較すれば、サイズの割には異例に広々としたハッチバックに比べると圧迫感はあるが、ヘッドクリアランスは十分で、ドライビングポジションもごく自然に収まる。

 重量はコンバーチブルのボディをベースにしているために、ハッチバックよりも30㎏重い1260㎏(AT)になる。

 エンジンは共通だが、クーペの方はいわゆるあたりがついているのか滑らかで、心なしか回転の上昇が速いように感じられる。エンジンのあたり外れというよりも、そのエンジンにじっくりと付き合うとそれなりに応えてくれるということだろう。

 ハンドリングは、相対的に上下視界が狭いドライビングポジションの効果もあるが、実際にステアリングレスポンスに対する反応がシャープだ。回頭性がシャープで、ぐいぐいと旋回していく。捻じれ剛性にはさらアップされており、ドライバーとの一体感はさらに上がっている。

 DSCのシステムは共通なので、リアの動きなどのコーナリング時の反応は変わらない。試しにDSC OFFで路面の濡れたタイトコーナーをちょっとハードに攻めてみたが、挙動は基本的にハッチバックと共通で、少しばかり忙しいが修正舵の効き方も変わりない。つまりFFでありながら、大ドリフトをすることになる。

 ブレーキは定番のブレンボ。タッチ感覚は、サーキットで走らせた履歴によって変わってくるが、どのモデルもそれぞれハードにサーキットランをした後としては、カッチリとしたペダルストロークがあり、制動力、コントロール性共に十分に楽しめた。

 ハッチバックに対してよりクイックに動くのがクーペという印象だが、その個性的なスタイルからもFFのドライビングマシンとの性格をより強くしている。

レーシングカー的な「ジョン・クーパー・ワークス GP」

 さて最後に「ジョン・クーパー・ワークス GP」のハンドルを握った。こちらはJCWをベースにしてMINI史上最強のプロダクション・スポーツモデルに仕上げられている。ただし世界限定2000台のうち、日本では200台のみがデリバリーされる。

 基本的なメカニズムは変わりがないが、1.6リッターターボは5PSアップされた218PSに、トルクバンドはトップエンドが250rpm上げられて1750-5750rpmになり、最大でオーバーブースト時には280Nmを出している。このトルクの数字自体は変わらない。

 要はエンジンに関しては軽度のチューニングが図られており、MINIの公式データによると0-100㎞/h加速は僅かに6.3秒となっている。確かにJCWに比べるとその瞬発力はさらに磨きがかかっているようで、さらにトップエンドの回転リミットが上がったことで、ドライビングの自由度は上がっている。しかもデメリットは少しもない。エンジンは爽快で、どの回転域からでもシャープに加速態勢に移れるのは好ましい。

 ハッチバックボディはリアシートを取っ払って2シーターになっており、さらにインナーバーなどで補強されており、ボディー剛性アップが図られている。

 装着タイヤはドライパターンのクムホ「ESTA」でサイズは215/40 R17。さすがにウェット路面では車が横っ飛びするが、ドライでのグリップは高い。余談だが、GPは6速MTだけで、手元だけの操作で済むATに比べると全身運動になるので、一生懸命走ると汗ばんでくる。

 さてサーキットインプレだが、前述のように僅かとはいえエンジンチューニングの効果は大きく、数字以上の余裕を与えてくれる。

 またステアリングレスポンスも、ハイグリップタイヤとチューニングされたサスペンションのためにレーシングカー的なシャープな動きで、コーナリング姿勢に入る。応答性もさることながらロールはさらに少なく、フラットな姿勢でコーナーをクリアする。ボディー各部に入れられたブレースのためにねじれ剛性が上がっていることで、サスペンション、タイヤとのバランスが高い次元でバランスしたことも実感できる。ハードなコーナリングに対してバケットシートは体をよくサポートしてくれる。

ワンメイクレース「MINI チャレンジカップ」用車両

 ブレーキは6ピストンを奢られている。車両重量は1180㎏。リアシートなどを外して、各部を軽量化したために60㎏というアドバンテージを持っており、ブレーキング、加速などすべてに渡ってクルマの運動性能がアップしているのが体感できる。クルマの挙動変化は速いが、それに応じてドライバーが反応すると、直ちにそれに応えてくれるところがワクワクする。

 このGPをベースにして、サスペンションチューニングとロールケージなどの安全装備を加えたチャレンジカップの車両を使ったワンメイクレースが世界で開催されている。日本での開催も期待しよう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。