インプレッション
BMW「X5」
Text by Photo:中野英幸(2014/1/24 00:00)
最新のガソリンとディーゼルユニットはそれぞれが歩み寄っている?
車両重量のかさむSUVと、低速域からトルクフルなディーゼルエンジンの相性がよいことは再三言われてきていることながら、新型「X5 35d」に乗ってみると、もはやその意味だけで最新ディーゼルの特徴を語るのは難しいと実感した。ガソリンエンジンであってもターボの過給特性を見直すことで、最大トルクを発揮するエンジン回転域が幅広くなっているため、低速域であってもディーゼルエンジンに近いドライバビリティをもっているからだ。燃費数値にしても、ガソリンエンジンの多くが採り入れてきた直噴方式のきめ細やかな燃料噴射により、SUVモデルであってもカタログ燃費数値にして10.0km/L以上を誇るモデルも少なくない。
実際、ガソリンエンジンの「X5 35i」ではターボの過給効果を最大パワー寄りではなくフラットなトルクカーブを描くために活用していて、1200rpmから最大トルクを引き出しながら、そのまま最大パワーを発揮する5800rpmに近い5000rpmまで最大トルクを維持している。また35dが2992cc、35iが2979ccと両車はほぼ同じ排気量ながら、最大トルクはディーゼルが16.3kgmも上回るが、トルクカーブを見るとディーゼルの最大トルク発生回転域は1500-3000rpmと、ガソリンの発生領域に対して40%ほどにとどまっている。
ファイナルギヤを含めたギヤ比との兼ね合いがあるため、数値だけの単純な比較はできないが、日常領域での使い勝手や伸びのある加速に加えて、ディーゼルの専売特許のように言われていた低速域からの力強いトルクフィールという意味においても、最新のガソリンとディーゼルユニットはそれぞれが歩み寄ってきているというのが本当のところなのではないだろうか。
フルモデルチェンジを受け3代目となった新型「X5 35d」の直列6気筒DOHC直噴ディーゼルターボエンジンは、従来型比で13PS/5.1kgmのパワーアップを受けた。同時に燃焼効率の見直しなどにより、カタログ燃費数値を25%向上させ13.8km/Lを達成している。注目は、20kgの軽量化が図られたボディーと強化されたエンジンスペックによる走行性能だが、まずは新しくなった「X5」の全容を見ていくことにしたい。
大排気量のV8ガソリンエンジンのように加速するX5 35d
新型はサイズこそ従来型に近い(全長+50mm/全幅+5mm/全高-15mm。ホイールベースは同一)が見た目の印象はずいぶんと変わった。3シリーズや5シリーズのように、横長のヘッドライトを採用しワイド感を強調しながら、サイドのプレスラインにはゆったりとした起伏を持たせている。一言で表現するなら“より上質になった”となるのだろうが、個人的には非常に親しみの沸くデザインテイストで好感度が高まった。この新しいエクステリアデザインは見た目だけでなく機能性も向上させていて、前輪後部のエア・ブリーザーや、ルーフスポイラー両サイドに追加されたエア・ブレードなどの採用により欧州仕様ではCd値0.31とSUVクラストップを誇る。
インテリアはシリーズ共通の横方向への拡がりを持たせたデザインだ。センタークラスター部分のオーディオやエアコン操作スイッチは相変わらずサイズが小さく、運転中のブラインドタッチには慣れが必要だが、10.2インチのワイドモニター自体は視認性がとてもよく、各種機能設定を行うiDriveコントローラーにしても操作性はよい。
試乗したのは、ディーゼルユニットを搭載した「X5 35d Msport」だ。標準仕様の「X5 35d」に専用のエクステリアパーツ(Mエアロダイナミクス・パッケージ)と足回り(アダプティブMサスペンション)などが与えられたスポーツモデルで、試乗車にはさらに20インチの大径ホイールや、ダイナミック・ドライブ/ダイナミック・パフォーマンス・コントロールなどのオプション装備が追加されていた。そのため、トータル価格は1097万4000円(ベースモデルは880万円)と軽く“1本”の大台を超えている。
ポスト新長期規制に加えて、燃費数値の規定をクリアしたため自動車取得税と重量税が100%免除される「エコカー減税対象車」なのだが、現在の日本でこうした高額輸入車を購入できる方々には、ぜひとも燃費数値のよいクリーンディーゼルの強みを活かし、全国津々浦々まで足を延ばしていただき、地域を含めて日本の経済活性化のためにご尽力をいただきたいと思うのだが、これは筆者のひがみだろうか……。
話がそれてしまった。今回、「X5 35d Msport」の試乗は高速道路とワインディング路の2ステージをメインに行ったが、アイドリング時の静粛性もさることながら、スタートの瞬間から思わず顔がほころんだ。微速のアクセルワークに対して大排気量のV8ガソリンエンジンのようにゆったりと、そしてタイムラグなしに反応してくれるからだ。タイヤのひと転がり目から分厚いトルクで重量級ボディー(試乗車は2320kg)をジワッと引っ張ってくれる、そんな印象だ。
興味深いことに、このあたりの車両挙動はメルセデス・ベンツのディーゼルエンジンを搭載するSUV「ML 350 BlueTEC 4MATIC」と明確に違う部分だ。「ML 350」の場合も同じく分厚いトルクで引っ張るタイプながら、パワーが一気に立ち上がる特性のため、あたかもボディーが軽く感じられるような力強さが前面に出た加速フィールを演出する。両車は排気量こそほぼ同じだが、最大トルクは「ML 350」が6.1kgm上回っており、加えてこうした加速フィールの違いは直列とV型のエンジン形式による影響も大きい。
排出ガスの後処理装置にはどちらも「SCR触媒」を使用。これにより日本ではポスト新長期規制を余裕をもってクリアした。エンジンを高温燃焼させ思いっきりPM(粒子状物質)を低減させる代わりに、相克の関係にあるNOx(窒素酸化物)を尿素水であるAdBlueの加水分解によって無害な水と窒素に還元させるのが「SCR触媒」の役割だ。今回、新型「X35d」ではこれまで2つに分かれていたAdblueの給水口を1つにまとめメンテナンス性を向上させている。Adblueの消費量はこれまでと同じだ。一方、メルセデス・ベンツの「SCR触媒」であるBlueTecシステムは、BMWを含めた他社に比べてAdBlueの消費量が多い。これは、ともかくエンジンアウトでのPMを極限まで減らしてDPFでの燃料消費を抑えるためだ。
微速でのマナーをそのままに8速ATはシフトアップを繰り返しスルスルと加速する。市街地走行を想定して40~50km/h前後でアクセルON/OFFを繰り返してみてもその印象は変わることなく、あたかもアクセルを踏む右足とエンジンが直結しているようなダイレクト感は気持ちがよい。
高速道路では、直列6気筒ならではのスムーズな回転上昇を堪能した。アクセルを踏み込んだ瞬間にフルパワーを発揮するといったタイプではなく、踏み込む速さに応じて加速力が増強されていく印象が強いため、ロングドライブであっても疲労度は少ない。空力性能もそうだが、エンジン透過音も大幅にカットされていて静粛性はガソリンモデル並みに高かった。クルージング時、少しだけ増速させる際に燃焼ノイズが一時的に高まるのがクリーンディーゼルの特徴だが、「X5 35d Msport」はそうした燃焼ノイズを高めることなく静かに速度を乗せてゆく。
ワインディング路では、「X5 35d Msport」の専用装備である「アダプティブMサスペンション」と「ダイナミック・ドライブ/ダイナミック・パフォーマンス・コントロール」の相乗効果で、重量級ボディーがいとも簡単にタイトコーナーに吸い込まれる。これはちょっと異様な感覚だ。走行モードを「SPORT」モードか「SPORT+」モードにした際には、フロントのオイルダンバーとリアのエアサスの減衰力がよりハードな特性となり、さらに後輪左右間の駆動力がコーナリング時の車両状況に応じて制御されるため、クリッピングポイントについたあとのアクセルコントロールをかなり早いタイミングで行うことができる。
ここで大きな力を発揮するのが、フロント275/40 R20、リア315/35 R20インチのハイパフォーマンスタイヤ「ダンロップSP SPORT MAXX GT」だ。前後の絶大なグリップ力に加えてサイドウォールもしっかりと重量級ボディーを支えながら、さらなる数々の電子制御デバイスが生み出す運動エネルギーを忠実にボディーへと反映する。ブレーキも強力でワインディング路レベルでの走行ではまったくもって不安はなかった。
エンジンはかなりの高回転型で、タコメーターの表示上は5000-5800rpmがゼブラゾーンだ。とはいえ、実際には4200rpmを過ぎたあたりから加速感は弱まり始める。「X5 35d Msport」には、他のシリーズ同様にM専用のスポーツタイプ8速ATとパドルシフターが装着されるが、それらを駆使して早めのシフトアップを意識すると走行フィールは劇的に向上する。エンジンそのものは5000rpmを越えて回ろうとするし、そうした高回転領域でもスムーズさは失われず、また、いきなり透過音が増加するわけでもないのだが、結果的にその下の領域を使った走行パターンのほうが速く走ることができた。
エアサスペンションに起因した課題も
しかし、スポーツ走行をかなり意識した重量級ボディーでのこうしたセッティングは、たとえばゆったりと高速道路を流す際の“すわりのよさ”との両立という意味では課題を残したようだ。今回走行した路面状況による影響も否定できないが、80km/h前後でのクルージングではリアのエアサスペンションに起因した直進安定性の悪化が目立つ。電動パワーステアリングとの関連性もあるのだろう。とくに「ECO PRO」モードではその傾向が強かった。
今回のフルモデルチェンジを機に、他のBMWモデル同様に「衝突被害軽減ブレーキ」などの機能を向上させているが、こちらはHMI絡みでの検証が主になるため、インテリアのレポート同様、連載の「インテリア見聞録」でしっかりと報告したい。
BMWモトラッドのフラグシップ「K1600GTL」にもチョイ乗り
試乗会場ではBMWモトラッド(BMWのバイク部門)の最新モデルも試乗することができた。筆者はライダー歴26年になるが、そのうち17年間をBMW「K100RS 4V」と過ごしてきた。前身の「K100RS 2V」は市販モーターサイクル初のABSを搭載したツーリングスポーツモデルで、縦置き(!)の直列4気筒エンジンを90°寝かせて(!!)搭載した、ユニークな車体設計が特徴だった。これにより、水平対向エンジンのような低重心化とエンジンの高回転領域における車両安定性が図られたわけだが、「2V」から10PS上乗せされ100PSを絞り出した「4V」では運動性能も向上し、230km/h以上の最高速度を誇った。
上の写真はその伝統を受け継ぐ「K1600GTL」だ。数あるBMWモトラッドのフラグシップモデルで、車体中央の誇らしげな刻印「6」が示す通り、直列6気筒(!!!)1648ccのビッグエンジンを搭載している。スペック的には160PS/7750rpmと、今では1000ccクラスのスーパースポーツモデルでも楽に達成する値だが、加速力を決めるトルクにいたっては強大で17.15kgm/5250rpmを発揮する。これにより355kgの巨体を「BMW M3」と同等の加速力と咆哮(エンジン設計者の1人は同一人物)を響かせながら200km/hオーバーの世界まで軽々と引っ張る実力を持つ。
大型のフェアリング(カウル)の効果は絶大で、下半身へのウインドプロテクションは完璧。加えて、スイッチ1つで走行中も操作可能な電動調整式ウインドスクリーンを最上段でセットすると、まったくといっていいほど上半身に走行風は当たらない。通常、こうした大きなスクリーンを立たせて使用すると自車の巻き込み風に背中を押されるのだが、「K1600GTL」では緻密な整流設計によりそれも皆無。タンデマーまで含めて使用できるシートヒーターと強力なグリップヒーターを組み合わせれば、それこそ真冬であろうとも大陸横断ツーリングをこなせてしまいそうだ。高速巡航燃費(90km/h)は21.7km/Lで、価格は304万5000円。あ~、欲しいっ!