インプレッション

日産「スカイライン 200GT-t」

ダイムラー製エンジンだが同じではない

 スカイラインとしては久々の4気筒エンジンの搭載となる「200GT-t」の情報を知って、まずなるほどと感じたのは、ちゃんと「GT」の名称が与えられたことだ。さらにはハイブリッドの「350GT」との内外装の相違点はほぼなく、装備面での差別化も小さい。

 かつての「GL」「TI」「GXi」などが、スカイラインの中では扱いの低い印象だったのに対し、今度の200GT-tは価格こそ350GTに対してだいぶ安いのは見てのとおりとはいえ、まったく“廉価版”という雰囲気ではなさそうだ。

 一方、直列4気筒2.0ターボつながりで、FJ20エンジンを搭載した「RS」(こちらも6気筒エンジンではないという理由から「GT」の名称を避けたと記憶している)を彷彿とさせるクルマというわけでもない。日産自動車が「次世代ターボ車」と表現する、日本でもようやくちらほら見られるようになってきた、ダウンサイジングコンセプトに基づくものだ。

 しかもそのエンジンはすでに報じられているとおり、日産・ルノー連合と資本提携を含む戦略的提携関係にあるダイムラーが制作したもので、メルセデス・ベンツのいくつかのモデルにも同じエンジンが搭載されている。

ダイムラー製の直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジン。最高出力155kW(211PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1250-3500rpmを発生
エンジンのヘッドカバーを外してみるとタービンがよく見える。シール類などを見るとスリーポインテッドスターのマークがあるのに気付く

 ただしまったく同じエンジンではない。もともとダイムラーでは、この直列4気筒2.0リッター直噴ターボエンジンにおいて、成層燃焼リーンバーンと均質燃焼ストイキという燃焼方式の異なる2タイプを用意している。要するに、基本的には両者とも効率を追求している中で、かたや燃費重視、かたや性能重視という位置づけとなるわけだ。そして、日本に導入されるメルセデス車の燃焼方式が成層燃焼リーンバーンのみなのに対し、日産の開発陣はスカイラインに搭載するにあたって均質燃焼ストイキを求めた。さらにはスカイラインに相応しい走りを実現すべく、性能面でもかなりこだわったという。

200GT-tのボディーサイズは4790(写真のType SPは4800)×1820×1440mm(全長×全幅×全高)。価格は456万8400円
Type SPは切削光輝の19インチアルミホイール(タイヤサイズ:245/40 RF19)を標準装備
350GTとの違いは大きくリアのバッヂ程度
使用燃料は無鉛プレミアムガソリン。タンク容量は350GTが70Lなのに対し200GT-tは80L
Type SPのインテリア。黒を基調とし、上質さを感じられる仕上がり
ブラックの本革シートは前席シートヒーター付き
写真左が350GTのトランク、写真右が200GT-tのトランク。ハイブリッド車のリアシートとトランクの間に設置されていたハイブリッドシステム用のバッテリーが不要となり、荷室容量は400Lから500Lに拡大している
バッテリー不要の200GT-tではトランクスルー機構も備わる
視認性に優れるファインビジョンメーター。中央には5インチカラー液晶のアドバンスドドライブアシストディスプレイを配置
トランスミッションはダイムラー製の7速AT
設定などの操作に利用するダイヤル形状のマルチファンクションスイッチ。手前はドライブモードセレクターのスイッチ
上部に8インチワイド、下部に7インチワイドモニターを配置するツインディスプレイ
ハイブリッド車と同様ドライブモードセレクターを備え、「PERSONAL」「SPORT」「STANDARD」「SNOW」から選択可能。ちなみに200GT-tのPERSONALモードの設定パターンはハイブリッドモデルの96通りから12通りへと変更になった
下部の7インチワイドモニターの表示例

走る楽しさを意識した味付け

 前述のように、燃焼方式は異なるが同型式のエンジンを搭載するメルセデス・ベンツの「E 250」と比べると、スカイライン200GT-tとのカタログスペックは概ね同じだが、最大トルクの発生回転数のみ異なる。ところがドライブすると、とてもそうは思えないほど体感的には大きな違いがある。

 E 250は踏めばそれなりに加速するものの、全体的に大人しく、走る楽しさを追求した印象はあまりない。これに対しスカイライン200GT-tは、走りを大いに意識したことがうかがえる。踏み込めば即座にトルクが立ち上がり、リニアに加速するところがよい。あまりターボラグを感じさせることもなく、パーシャル領域からのピックアップも良好だ。

 さらには350GTと同じく、こちらもアクティブノイズコントロールによるサウンドチューンを行っている。むろん6気筒とは異質のものだが、プレミアムセダンとしての静粛性を確保しつつも、スポーティな4気筒サウンドをあえて聞かせる演出も見られる。このクルマを選ぶ層にとって、どんなドライブフィールが喜ばれるかをよく考えて味付けしたことがうかがえる。

 欲をいうと、試乗会場となった箱根の登り坂では、もう少し加速してくれるとうれしいというシチュエーションもなくはない。また、流れに乗ってしまえばあまり気にならないのだが、動き出しや急加速時には若干のタイムラグを感じるのは否めない。「世界最速のハイブリッド」をアピールする350GTと比べると、いうまでもなく高出力モーターによる出足の力強さは圧倒的で、そこには大きな差がある。

シャシーの印象もそれぞれ

 足まわりやステアリングの印象も350GTとの違いは小さくない。

 まずダイレクトアダプティブステアリング(DAS)の有無が違うわけだが、結果的にDASの価値をあらためて思い知ることとなった。DASを搭載した350GTは、操舵に対する応答遅れがなく、レシオがクイックで、物理的につながってないため不快な入力が排除されるなど多くのメリットを得ている。

 半面、全体的に違和感も残り、その点では電動油圧式の200GT-tの方が自然なフィーリングであることには違いないのだが、一方では応答遅れもあれば、揺り返しも起こりやすい。実は“素”の状態ではいろいろアラのあるところを、DASが余分な動きを起こさないように高度な修正舵の制御を行っているようだ。

 ただし、個人的にはDAS付きのほうが乗りやすく、クルマとのマッチングもよいと感じたのだが、電動油圧式の自然さを好む人も少なくないことに間違いはなく、ここは見解が分かれそうだ。また、機能面でもやはりDASがある方が、アクティブレーンコントロールなどできることの幅が広がるため、秋からは200GT-tでもDASを選べるようにするとのこと。価格がいくらになるのかとても気になるところだ。

 車両重量については、むろん200GT-tの方が100~120kg軽く、試乗したタイプSP同士で、車検証によると前軸重は50kg、後軸重は70kg、それぞれ350GTが重い。よって200GT-tは、前後重量配分としてはフロントヘビーの傾向は増すものの、軽量な4気筒エンジンがフロントミッド寄りに搭載されたことで、軽快な印象になっている。

 そのほか、350GTと200GT-tでは細かいところでいくつか違いがある。まず、350GTには4WDの設定はあるが200GT-tにはない。そして後輪駆動同士で比べると車高が10㎜違う。これは350GTの方がスポーティモデルと位置づけられているためだという。また、最小回転半径が350GTの4WDと同じ5.7mとなっている。これはエンジンの搭載に関連して4WD用のフロントメンバーを用いているためだ。

 また、350GTのタイプSPには対向ピストンを備えた「スポーツチューンドブレーキ」が標準装備されるのに対し、200GT-tではほかのモデルと同じ。むろん性能的には問題ないとはいえ、せっかくタイプSPを求める人のために、たとえ標準装備でなくても、せめてオプションで選べるようになっているとよいかなと思う。

 お伝えしたようにハイブリッドとはかなり性格が異なるわけだが、だからこそ選び甲斐があり、どちらを選んでもそれぞれが期待に応えるものを持っていることには違いない。ハイブリッドと次世代ターボ、どちらもスカイラインの“主役”である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一